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革命編 六章:創造神の権能
破滅の協奏曲
しおりを挟む未来のユグナリスが憑依していたケイルは意識を戻しながらも、前後の事情も分からずに聖域で困惑する。
そして傍で気絶していた創造神を背負い、エリクとマギルスを探しながら目印になりそうな巨大な大樹へと近付いた。
しかしその大樹が周囲から無尽蔵に生命力を吸収する『マナの樹』だと知らぬまま近付き、大きく疲弊した状況へ陥る。
更に満身創痍のゲルガルドに奇襲を受け、やむなくケイルは創造神を背負いながら逃走を始めた。
そこにエリクとマギルスが現れ、現状を簡略に伝えながらアルトリアの亡骸と創造神をケイルに託す。
そんな一行に対して到達者の肉体に己が魂から瘴気を身に纏わせたゲルガルドは、悪魔の姿となって襲い掛かった。
ゲルガルドは武器を持ちながら向かって来るマギルスとエリクに対して、瞬時に蓄えた瘴気を砲撃として両腕から放つ。
それを魔力と生命力を合わせた武器で弾き飛ばしたエリクとマギルスは、一気に間合いを詰めながらゲルガルドに迫った。
「アイツ、さっきのおじさんより弱いよっ!!」
「ああ!」
マギルスは弾き返した瘴気の威力から、上位悪魔となったザルツヘルムとゲルガルドの力量差を明確化する。
その声に同意するエリクは一気にゲルガルドまで詰め寄り、互いに武器を振り向けながら魔力と生命力の混合斬撃を放とうとした。
しかし肉体を纏い形成したゲルガルドの瘴気は、その表情を醜くも憎悪に塗れさせながら叫ぶ。
「調子に乗るな、ゴミがァアアアッ!!」
「ッ!!」
ゲルガルドは両拳に瘴気を集中させ、それを真下へ振り向けながら地面を砕く。
それによって二人が足場にしようとしていた地面が大きく揺れ、更に割れ砕けながら巨大な亀裂と土埃を生んだ。
マギルスとエリクは互いにその亀裂に巻き込まれぬように飛び退いたが、その僅かな後退によって土埃の中からゲルガルドが飛び出す。
すると金色の瞳を一閃させながら跳び向かうゲルガルドは、マギルスに奇襲を仕掛けて来た。
「うわっ!?」
「死ねぇええッ!!」
凄まじい殺気と表情を放ちながら土埃の中から現れたゲルガルドは、瘴気で形成した槍をマギルスに突き込む。
すると槍の打突を紙一重で右側に回避したマギルスは、槍を大鎌の刃で巻き込みながら渾身の腕力でゲルガルドから絡め抑えた。
しかしその動きが、マギルスの両腕は大鎌を掴んだまま固定された姿勢にさせる。
そのコンマ数秒にも満たない隙を待っていたかのように、ゲルガルドは憤怒の表情を一瞬で冷徹に戻しながら口元を微笑ませた。
「フッ」
「ッ!!」
ゲルガルドは素早く瘴気の槍から左手だけを離し、凄まじい握力と速度でマギルスの右腹部を強打する。
その辛うじて魔鋼の装備によって貫通は免れながらも、その衝撃と威力はマギルスの肉体を大きく吹き飛ばした。
しかし殴り吹き飛ぶマギルスを見ながら、ゲルガルドは僅かに眉を顰める。
それは殴打したマギルスの胴部分に見える青い魔力であり、それが鎧の形となって形成されながら割れ砕ける様子が窺えた。
「チッ、魔力の鎧か」
「……いってぇ……っ!!」
咄嗟に自身の肉体を魔力で形成した鎧で覆ったマギルスは、致命的な一撃を防いで見せる。
しかし衝撃を完全に防げたわけではなく、直撃されるよりマシ程度の痛みを感じながら森の木々を踏み台にして着地した。
冷静さを欠いたように見せながら相手の油断を誘ったゲルガルドの戦法と、それを辛うじて上回ったマギルスの勘と魔力操作の速度。
特にマギルスの見せた瞬時の判断能力は、まさに戦闘の天才と呼ぶに相応しかっただろう。
しかしその天才が、土埃の中を見ながら大きく怒鳴る。
「下だよ、おじさんっ!!」
「!」
「チッ」
マギルスに意識を向けていたゲルガルドを狙うように、土埃の中に潜んでいたエリクが膨大な生命力を蓄えた黒い大剣を振るおうとする。
しかしそれを止めたマギルスの声に気付き、エリクは地面の中に隠れ潜んだ殺気が在ることに気付いた。
するとエリクは大きく跳び退くと、割れ砕けた地面の内部から凄まじい勢いで黒い棘状の瘴気が百以上も飛び出す。
それを大剣の腹で受け止めながら大きく突き飛ばされたエリクは、土埃の無い地面へ辿り着きながら身構えた。
そして左腕を薙ぎながら土埃を一瞬で晴らしたゲルガルドは、先程まで見せていた憤怒の感情が無い冷静さな面持ちで二人を見据える。
エリクとマギルスは互いに冷静さを戻しているゲルガルドに警戒心を高めながら、各々に武器を構えて自身の冷静さを戻した。
「怒っていたのは、僕達を油断させる為の演技……」
「怒り任せに見せながら、冷静に俺達を殺そうとしていた……ッ」
憤怒によって冷静な判断が出来ないと油断させていたゲルガルドの戦術に気付いた二人は、互いに滲み寄りながら間合いを詰める。
そんな二人に対して意識だけを向けていたゲルガルドは、視線を逸らしてケイルが居る方角を見つめた。
冷静な面持ちと金色の瞳で見据えるゲルガルドに、ケイルは寒気を感じる。
そして託されたアルトリアの亡骸と左腕に抱え持ち、創造神を右腕で持ち抱えながら、その場から離れ始めた。
「今は、こうするしかない……ッ!! 奴の狙いが、この創造神って野郎だとしたら。今はコイツ等を、安全な場所に……ッ!!」
ケイルはこの状況で最善の手段として、この場をエリクとマギルスの二人に任せてアルトリアと創造神の安全を確保しようと考える。
そして去っていくケイルを守るようにエリクとマギルスも動き、自身を障壁としながらゲルガルドの視線を遮った。
それを見据えたゲルガルドは、まるで呆れるような鼻息を漏らして二人に声を向ける。
「……最後に、お前達に提案しておく」
「!」
「創造神を引き渡し、大人しく去るのなら、この場だけは見逃してやる。……どうする?」
冷静な表情ながらもそうした提案を向けるゲルガルドの言葉に、凄まじい重圧《プレッシャー》が込められている事を二人は感じる。
そんなゲルガルドの問いに関して、マギルスは微笑みを浮かべながら、そしてエリクは厳かな表情で答えを返した。
「へっ、嫌だね!」
「断る」
「そうか。……ならば、この世から消えてなくなれ」
「……ッ!!」
ゲルガルドは黒く染まった瘴気の左腕を上空に掲げると、そこに一つの瘴気弾を生み出す。
それが僅かな時間で巨大に膨れ上がる様子が窺えた瞬間、エリクとマギルスは同時に飛び出しながらゲルガルドに襲い掛かった。
二人は共闘しながら悪魔ゲルガルドと激しい攻防戦を繰り広げ、聖域の森を破壊しながら接戦を行う。
エリクもマギルスも互いに細かく攻撃を浴びせながら致命傷となるゲルガルドの攻撃を掻い潜り、最大の一撃を放ち浴びせる瞬間を待ち続けた。
特にエリクは、既に制約によって自分の寿命がほとんど残されていない。
その最後の一撃となる気力斬撃をゲルガルドに浴びせられる機会を、エリクは待ち続けていた。
そんなエリクの脳裏に、ある記憶が思い出される。
それは創造神を抱えたケイルを発見する直前、前で青馬を操るマギルスに向けた自分自身の言葉だった。
『――……マギルス。頼みがある』
『なに?』
『もし、俺の寿命が尽きたら。……アリアとケイルを、頼む』
『!』
『そしてもし、アリアが生き返ったら。……あの旅をした時間が、俺への報酬になったと二人に伝えてくれ』
そうして自身の死期が近い事を悟るエリクは、マギルスに遺言を伝える。
するとマギルスは少し考えた後、僅かに頭を頷かせながら答えた。
『分かった、いいよ』
『ありがとう、マギルス』
『でも、僕からも条件ね!』
『?』
『おじさんの最後の一撃は、僕が撃たせてあげる。それまでは、僕が良いって言うまで撃っちゃ駄目だよ。約束だからね?』
『……分かった』
二人はそうした会話を青馬の背中で交わし、口元を微笑ませる。
今まで数々の強敵達と肩を並べて戦い合ったエリクとマギルスは、互いにその存在を認める戦友として約束を結んだ。
そしてその約束は、早くも果たされる事になる。
しかしそれは、エリクが予想もしない形で起こった。
「――……マギルスッ!?」
「グァ……ッ!!」
「フッ」
激しい攻防を繰り広げていた三名の戦況は、ゲルガルドの放った鎖状の瘴気によって決まる。
殺気の無い瘴気の鎖が着地したマギルスの足を掴み取った瞬間、それを左腕ごと引いて引き寄せたゲルガルドが右手の突き放った。
しかもその手には時空間に収納されていた魔鋼の剣が握られ、同じ素材である魔鋼の装備ごとマギルスの胸部分を貫く。
それによってマギルスは心臓を穿たれ、赤い血をその場で吐き出した。
ゲルガルドはそれによって勝利を確信し、口元を微笑ませる。
しかし戦意の衰えないマギルスは、装備で高めた身体能力を駆使してゲルガルドの手足を封じるように身体を抱き締めると、心臓を貫かれたままエリクに言い放った。
「今だよっ、おじさんっ!!」
「……ォオオオオオッ!!」
「ッ!!」
マギルスは吐血しながら叫ぶと、全身を青い魔力で覆い身を呈してゲルガルドを拘束し、その場に踏み止まらせる。
その数秒にも満たぬ隙をエリクに与え、最後の一撃を放たせる機会を作り出した。
エリクはそれを見ながら目元を俯かせた表情で、自身の寿命を絞り尽くした生命力を黒い大剣に全て纏わせる。
そしてゲルガルドに向けて大きく踏み出し、直接その黒い刃をゲルガルドに差し向けた。
ゲルガルドはそれに抗う為に瘴気を全開にして拘束するマギルスを振り払おうとしたが、それに耐えながら笑みを浮かべる彼を引き剥がせない。
死力を尽くしてでもゲルガルドを仕留めるマギルスの執念が、エリクの黒い刃を届かせた。
「オオオォオオ――……ッ!!」
「――……ッァアッ!!」
エリクの大剣はゲルガルドの肉体を覆う瘴気を貫き、マギルスの諸共にその黒い刃を胴体へ突き立てる。
そして生命力と共に大剣に備わる魔玉から膨大な赤い魔力も放たれ、それがゲルガルドの瘴気と共に魂にも甚大な損害を与えた。
肉体とは別に魂そのものが損傷していく状態に、ゲルガルドは激痛を堪えながら強張らせた表情をエリク側に向ける。
「ガ、ァ……ば、馬鹿な……!! 肉体だけではなく、何故……私の魂にも……グァアアッ!!」
「……この大剣は、到達者の魔力で直した。魔玉にも、その魔力が多く込められている」
「到達者の、魔力だと……ッ!?」
「到達者の貴様を殺すには、到達者の力が必要だ。――……だから、用意していたっ!!」
「グァアアアッ!!」
黒い大剣から更に赤い魔力を解き放つエリク、ゲルガルドの魂と肉体に確かな損害を与え続ける。
エリクの持つ魔鋼の黒い大剣は、未来の戦いによって半分程に砕け折れていた。
それを修復させたのはフォウル国に居るドワーフ族の鍛冶職人だったが、その復元方法は巫女姫の魔力に頼っている。
到達者である巫女姫の魔力で復元し、更に鍛冶職人の改良によって備えられた魔玉の内部には、対到達者用に込めた到達者の魔力も蓄えられていたのだ。
それが今まさに、ゲルガルドの全てを破壊してようとしている。
しかしそれでも抗おうとするゲルガルドは、僅かにマギルスの拘束する腕力が緩んだ事を察し、それを強引に引き剥がして自身の背後に立つエリクを引き離そうと頭を右手で掴むと、万力を込めて突き放そうとした。
「離れろぉおおっ!! この、ゴミめがあぁあああっ!!」
「――……俺は、エリクだっ!!」
頭に食い込む指が白髪を血に染めて流させながらも、エリクは自分の意思で大剣を握り続ける。
そして精神内部でゲルガルドの魂が赤い魔力によって焼き焦がされ、それを見るウォーリスの精神は口元を微笑ませながら告げた。
『――……王手だ。父上』
「……クソどもガァアアアアアアア――……」
ゲルガルドは絶叫を上げながら肉体と精神で叫び、その魂を全て消え失せる。
そしてこの世から『ゲルガルド』の存在は滅せられ、同時に彼の目論見であった創造神化計画を失敗させるに至った。
こうしてエリクとマギルスの決死の攻撃により、悪魔ゲルガルドは消滅する。
しかしその代償は大きく、戦い抜いた二人の戦士は瞼を閉じ、その場で息を絶やしながら倒れたのだった。
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