虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 七章:黒を継ぎし者

計画の始まり

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 悪魔ヴェルフェゴールと契約したジェイクは、兄ウォーリスの窮地を救いながら野放しに出来ないゲルガルドの魂を彼の肉体に封じ込める。
 その願いを果たし終えた後、ジェイクは対価として魂を渡し、自らの肉体を譲った。

 そうして事が治められた深夜、ジェイクに気絶させられていたウォーリスが実験室ちかの牢にて目覚める。

『――……ぅ……っ』

『ウォーリス様!』

『……アルフレッド……? ……私は……くっ』

 腹部と治癒されていない左頬部分の痛みを抱くウォーリスは、朦朧とした意識を徐々に覚醒させる。
 そして拘束されていない薄暗い牢の中で、徐々にこうした状況に陥る前後の記憶を思い出していた。

 するとジェイクによって気絶させられた事を思い出したウォーリスは、青い瞳を大きく見開きながら跳び起きる。

『アルフレッド! ジェイクはっ!?』

『どうやら、ゲルガルドと戦闘を行ったようです』

『なにっ!?』

『しかも、信じ難い事に……ジェイク様が、ゲルガルドに勝利したようです』

『……なんだと?』

 アルフレッドは実験室ちかに設けられた監視装置で地上の状況を確認し、庭園付近に戻って来たゲルガルドとジェイクが戦闘した事を伝える。
 しかもそれがジェイクの勝利で終わったという言葉は、ウォーリスに呆然とさせる程の衝撃を与えた。

 そうした情報に続き、アルフレッドは今現在の状況を伝える。

『現在、ジェイク様の姿が庭園ここの外で確認できております。詳しい事情は、本人に直接お伺いした方が早いかと』

『……そうか……。……アルフレッド、一緒に来てくれ』

うけたまわりました』

 庭園うえに居るジェイクに事態を確認する為に、ウォーリスは傷付いた肉体を治癒魔法で癒しながら起き上がる。
 そして求められたアルフレッドは脳髄ほんたいから義体に切り替え、ウォーリスに同行した。

 二人は実験室ちかから庭園うえへ出ると、アルフレッドがジェイクの姿を確認していた場所に向かう。
 それに付いて行くウォーリスは、困惑させた思考を何とか纏めながら落ち着きを取り戻そうとしていた。

 すると二人は庭園の出入り口に辿り着き、そこで佇みながら待っているジェイクにウォーリスは呼び掛ける。

『ジェイク!』

『――……これはこれは、お早い御目覚めのようですね』

『……ウォーリス様、御待ちを』

 ウォーリスは歩み寄りながらジェイクに近付くと、その声色がジェイクらしく無い口調である事をアルフレッドが気付く。
 そしてウォーリスの肩を掴み止めながら、アルフレッドはジェイクと似通った姿で黒髪と金色の瞳に変えている人物に尋ねた。

『貴方は、ジェイク様ではありませんね?』

『……どういうことだ。アレが、ジェイクではない……?』

 アルフレッドの推察を聞いたウォーリスは、再び困惑を見せながら目の前に立っているジェイクを見る。
 それに反応するように、ジェイクの姿をしている悪魔あいては微笑みを浮かべながら答えた。

『そうですねぇ。私は貴方の知る、ジェイク様はありません』

『!』

『……何を言っている……!?』

『おや、貴方ウォーリスには自己紹介をさせて頂いたつもりでしたが。……仕方ありませんねぇ。ではもう一度、挨拶をさせて頂きましょう』

 そう語りながらウォーリスを見るジェイクは、古めかしくも丁寧な御辞儀を見せる。
 その後に顔を上げながら闇夜で輝く金色の瞳を二人に向け、ジェイクらしき人物は改めて自己紹介を行った。

『私、貴方の弟君であるジェイク様と契約させて頂きました。名を、ヴェルフェゴール。俗に人間達からは、悪魔と呼ばれております』

『悪魔……!?』

 自己紹介した悪魔ヴェルフェゴールの言葉によって、二人は表情を強張らせながら驚愕を浮かべる。
 そして変貌したジェイクに気絶させられた前後の記憶が蘇り、自身の思考に語り掛けて来た声と同じ存在がヴェルフェゴールだった事を思い出した。

 しかし悪魔の存在以上に驚愕すべき言葉を、ウォーリスは動揺しながら問い掛ける。

『ジェイクと悪魔が、契約しただと……!?』

『はい』

『……なら、あの時のジェイクから感じた異常な気配と強さは……悪魔おまえと契約した影響だったのか?』

『そうですねぇ。ジェイク様の願いを叶える為に、わたくし能力ちからで肉体を補助サポートさせて頂きました』

『……だが、何故だ……。どうして悪魔のお前が、ジェイクの身体を使い話し掛けて来る……? ……ジェイクはどうしたっ!?』

 ジェイクが悪魔と契約していた事を聞き、ウォーリスは改めて今現在の肉体ジェイクが自分で話していない様子を疑問に思う。
 それに対して恍惚とした表情を浮かべたヴェルフェゴールは、両手を中空まえに翳しながらジェイクの顛末を伝えた。

『ジェイク様は願いを成就され、その対価を御支払いになりました』

『……願いだと?』

『兄君である貴方ウォーリスを御救いする。そういう願いです』

『!?』

『彼は自らの魂と肉体を代価にし、願いを成就されました。……彼の魂は我等が魔神王様かみに収め、肉体の所有権はわたくしに移されたという状況です』

『……何を、言ってるんだ……?』

『おや、これでも理解して頂けない。では、更に端的に述べましょう。――……ジェイク様は、既にこの肉体からだにはられないのです』

『……!!』

 ヴェルフェゴールはそう語り、契約主ジェイクが魂と肉体を代価として願いを成就し、既にこの世に居ない事を伝える。
 それを聞いた二人は驚愕を浮かべながら唖然とし、言葉を失いながらヴェルフェゴールを見ていた。

 そうして僅かな沈黙が生まれた後、ウォーリスが震える口を動かし言葉を吐き出す。

『……ジェイクが、私を助ける為に……自分の全てを捨てたのか……』

『捨てた言うと語弊がありますが、人間的に言えばそういう事になりますかねぇ』

『……何故だ、何故そんな……!?』

『それについても、既に御本人ジェイクからそれらしい言葉ことを聞いているのでは?』

『!?』

『改めて理由それを問われるのなら、貴方を殴りながら向けた彼の言葉こそが理由でしょうね』

『……ッ!!』

 悪魔と契約してまで自分を救おうとしたジェイクの理由に、ウォーリスは気絶する前の出来事を思い出す。
 激昂いかりを向けながら殴りつけたジェイクの言葉は、彼が悪魔と契約してまで叶えたい願いだったのだとウォーリスは改めて理解し始めた。

 そうして困惑し動揺するウォーリスを横目に、隣に立つアルフレッドがヴェルフェゴールに改めて問い掛ける。

『そのジェイク様の願いがどのようにして叶えられたのか、詳細を御聞きしてもよろしいですか?』

『はい。それを御聞かせする為に、ここで待っていましたから』

『え?』

『この願いについては、残る貴方達にもそれなりの代償が伴うと思われますので。何も伝えずに去るのは、少々無責任かと思った次第です』

『代償……?』

 そう明かすヴェルフェゴールは、アルフレッドの問い掛けに素直に答える。
 そして悪魔と契約したジェイクがゲルガルドと対峙し、そこで行った数々の出来事を暴露していった。

『まず、貴方ウォーリスを御救いするという願いについてですが。まだそれは完全な形では成就されておりません』

『!?』

『実は貴方ウォーリスの中には、貴方達を支配していた到達者ゲルガルドの魂を封じてあります。そしてそれは、時間が経過すれば解ける可能性がある封印です』

『なに……!?』

『残念ながら到達者エンドレスであるゲルガルドの殺害は、悪魔の私でも不可能です。なのでゲルガルドの肉体を敢えて壊し、自由に出来ないよう貴方の肉体に封じさせて頂いたのです。事後承諾という形になってしまいますが、申し訳ありません』

『……ゲルガルドの魂が、私の肉体からだに封じられている……!?』

『故に貴方達は、到達者エンドレスであるゲルガルドの魂を滅する方法を探さねばならない。そうしなければ結局、貴方を完全に御救いしたという形にはならないということです』

『……ッ!!』

『ジェイク様は、それ等の事を貴方達に託して願いが果たされた事に満足してかれました。その点はどうぞ、御理解頂けますよう御願いします』 

 契約によってジェイクの魂が正当に支払われた事を伝えたヴェルフェゴールは、そう言いながら一礼を向ける。
 すると姿勢を戻しながら二人に顔を向けると、ジェイクが残した最後の言葉を伝えた。。

『ジェイク様は貴方ウォーリスに、こうおっしゃってかれました。彼女達と幸せにと』

『……ジェイク……ッ』

『これ等の事を御伝えする為に、この場で待たせて頂きました。――……では、わたくしはこれにて失礼を』

『!』

 遺言を伝えた後、ヴェルフェゴールは振り向きながらその場から去る様子を見せる。
 事情を把握しながらも押し寄せる感情に追い付かない二人の中で、弟の背中ジェイクと重ねたウォーリスは思わずヴェルフェゴールを呼び止めた。

『ま、待てっ!!』

『……はい、何か?』

『……ジェイクは、もう二度と……その身体には戻れないのか……?』

『出来ませんねぇ。彼の魂は既に、魔神王様かみに献上させて頂きましたので』

『神……悪魔の到達者エンドレスか……!?』

『はい。私は男爵バロンくらいを頂いている悪魔ものでして、契約により得た美しい魂は魔神王様に献上しているのですよ』

『……仮に私がお前と契約し、その魂を戻すよう願えば。どうなる?』

『ウォーリス様っ!?』

 思わぬ問い掛けを向けたウォーリスに、アルフレッドは不意打ち染みた驚愕を浮かべる。
 それに対してヴェルフェゴールは考える様子も無く、ただ当然ように答えた。

『その願いを叶える事は、不可能ですねぇ』

『……仕える魔神王かみには逆らえない。そういう事か?』

『そういう事です。残念ながら、ジェイク様の魂については諦めて頂けると幸いです』

『嫌だと言ったら、私を殺すか?』

『どうもしません。どのような手段を用いても、今の貴方ではジェイク様の魂を取り戻す事も不可能だと思われますので』

『……そうか。……だがお前は、私とも契約できる事を否定しないんだな』

『!』

 先程までの問い掛けで理解できた情報を元に、ウォーリスは悪魔が自分とも契約できる事を察する。
 それを聞いたアルフレッドが声を発する前に、ヴェルフェゴールが口元を微笑ませながら答えた。

『はい、可能です』

『ならば、私とも契約しろ。悪魔ヴェルフェゴール』

『ウォーリス様、何故そのような……!?』

『アルフレッド。私の肉体からだには、ゲルガルドの魂が封じられているんだ。これに対処する為には、生半可な手段では駄目だ。ジェイクのように、悪魔の手すら借りる必要があるだろう』

『し、しかし……それでは……』

『お前の言いたい事は、分かっているつもりだ。……だが犠牲になってくれたジェイクに報いる為にも、私は引けない』

『……ッ』

 諭そうとしたアルフレッドに対して、ウォーリスは酷く冷静な面持ちを見せながら悪魔と契約する必要性を説く。

 普通の人間だったジェイクが悪魔と契約しただけで、到達者エンドレスであるゲルガルドを倒し封じる事が出来た。
 その異常な事態を叶えたのが目の前に立つ悪魔である事を理解できたウォーリスは、ゲルガルドを殺し切る為にヴェルフェゴールとの契約が必要になるという結論へ至る。

 こうして契約を結ぶ意思を見せたウォーリスに対して、ヴェルフェゴールは深い微笑みを浮かべながら問い掛けた。

『よろしいのですか? 悪魔わたくしと契約した場合、願いが叶えられた時には魂を必ず頂く事になりますが』

『ああ、構わない』

『そうですか。では、貴方の願いを御聞きしましょう』

『……私の願いは――……』

 ウォーリスは悪魔の問い掛けに、自らの答えを伝える。
 それを傍で聞いていたアルフレッドは目を見開き、ヴェルフェゴールは含み笑いを浮かべながら頷きを見せた。

 こうした経緯を経て、ゲルガルドを討ち滅ぼす為にウォーリス達の計画が始まる。
 それこそが今まで彼等が関与し続けた各国の事件であり、またそれ等に遭遇し深く関わったアリアやエリク達の旅もまた、彼等の計画に繋がる存在モノとなっていた。
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