虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 七章:黒を継ぎし者

師の一刀

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 創造神オリジンの計画を止める為に、循環機構システムが存在するマナの大樹の内外にいる者達で激しい戦闘が行われ始める。

 循環機構システムの内側ではリエスティアの身体とアルトリアの精神体たましいを鍵として制限されている機能を解除しながら、ウォーリスが循環機構システムの書き換えを行い創造神オリジンの世界破壊の計画を止めようとする。
 それを阻む循環機構システム防衛機能天使もどきを阻むのは、未来のユグナリスと鬼神フォウルの二人だった。

 一方で現実世界では、鬼神の力を駆使するエリクと復活したマギルスが中心となりマナの大樹から生み出され続ける『神兵』達を排除し続ける。
 それに加わるのは現代いまのユグナリスと『青』の七大聖人セブンスワン、そして特級傭兵であるスネイクとドルフが援護する形で聖域の戦いに加わる事になった。

 こうして内外の状況に変化が及ぶ中、世界破壊の計画が実行されるまでの時間は刻一刻と猶予を削られていく。
 その間にも循環機構システムの書き換えに集中するウォーリスに対して、傍に座り守るアルトリアが残されている時間を告げた。

「――……残り時間、八分はっぷんを切ってるわよっ!! まだ終わらないのっ!?」

「無茶を言う!」

「無理だって言うなら、私にも操作盤パネルを渡しなさいっ!!」

「出来るのかっ!?」

「アンタがやれてるのよ! すぐにやれるわっ!!」

「……なら、射出攻撃の停止を頼むっ!! 遅延でもいい!」

 そう叫ぶアルトリアに対してウォーリスは何か言いた気な口を敢えて閉じながら、自身の周囲に投影させた操作盤パネルの一つを流し渡す。
 アルトリアは目の前に流れてきた操作盤それを確認し、頼まれ事と映し出されている内容を照らし合わせながら自分の知恵を働かせながら循環機構システムの書き換えを始めた。

 しかしアルトリアがウォーリスと共に書き換えに加わったことで、防衛機構システムの攻撃に対して防御まもりが薄くなる。
 その隙を突くように迫る天使モドキ達に対して、未来のユグナリスとフォウルの二人は凄まじい速さで精神体からだを動かし、それぞれの攻撃によって侵攻を阻んだ。

「――……まだ終わんねぇのかっ!!」

「今やってるとこよっ!!」

「俺達だけじゃ、この数は難しいぞっ!!」

「そんなの分かってるわよっ!! だからアンタ達は、死ぬ気で私達を守りなさいっ!!」

「チッ、だから女ってのはなぁ!」

「お前のそういうところが、嫌いなんだよッ!!」

 未来のユグナリスは聖剣から繰り出す『生命の火』を用いた剣戟によって、天使モドキ達を両断しながら排除する。
 一方で鬼神フォウルは単純な殴打のみで対応しながらも、その破壊力は片腕と片足から放たれる膂力だけで天使モドキの姿を粉砕して見せていた。

 しかし圧倒的な強さを見せるその二人ですら徒労を感じる光景が、目の前に広がっている。
 それは黒い裂け目から次々と溢れ出て来る防衛機能システムの天使モドキ達によって四方八方は埋め尽くされた、まさに白き絶望の壁だった。

 それでも循環機構システムの中で奮闘する四名は、限られた時間の中で自分がやるべき事を続ける。
 むしろそうした状況の中で己が役割を見出せず混沌の渦中に身を置いていたのは、外側げんじつで戦っているエリク達だった。

「――……おじさんっ!! コイツ等、倒しても倒してもキリ無いよっ!!」

「あの樹をどうにかしないと、無限に沸き続けて来る……!!」

「マギルス! ユグナリス! マナの大樹を壊してはならぬぞっ!! アレを破壊してしまえば、それこそ世界の終わりだっ!!」

「……アリア、まだなのか……!?」

 マナの大樹から出現し続ける『神兵』達を相手にするマギルスとユグナリスは、その元凶を断つべきと考え始める。
 しかしマナの大樹が世界にとってどういう役割を担っているか理解している『青』は、二人を静止しながら魔法での援護を継続していた。

 そんな三人に対して、何かしらの変化が起こそうとしているアリア達の行動結果をエリクは待ち続けている。
 しかしウォーリスが書き換えに回った事で素早い生産量と高い個体能力の制御が外れてしまった『神兵』達は、確実にエリク達を追い詰め続けていた。

 そうして『神兵』達と戦う者達から離れた場所にて、青馬ファロスの背に乗せられているケイルが苦々しい面持ちを浮かべる。
 左手を失い自身の気力オーラを大幅にマナの大樹へ奪われてしまったケイルは、彼等を助けられない自身の状況に悔いるような心境を抱いていた。

「――……クソッ、せめて左手これさえ無事なら……っ」

 自分自身でも意図しない形で失った左手を見て、ケイルはそうした言葉を浮かべる。
 それでも自分が与えられた役目をやり終えた事を認識し、これ以上の参戦は他の者達の足を引っ張ってしまう事を自覚していた。

 だからこそ、ケイルは自ら青馬ファロスの背から降りながら伝える。

「お前は、マギルスを手伝って来てくれ」

「ブルルッ」

「アタシは大丈夫だ。自分のケツくらい、自分で持つ。……アイツ等を、頼んだぜ」

「……ブルッ」

 自身の両足で立ちながらそう促すケイルの言葉を聞き、青馬ファロスは頭の無い姿ながらも心配そうな声を漏らす。
 しかしそれを聞き終えると、マギルスの精神武装ぶきとしての役割を果たす為に青馬ファロスは主人の下へ駆け戻った。

 それを見送ったケイルは、青馬が去った場で堰を切るように息を吐き出す。
 更に大量の冷や汗と乱れた息を吐き出しながら、その場に尻餅を着く形で倒れた。

「はぁ、はぁ……。……チクショウ……ッ!!」

 ケイルは包帯越しに切断した左手から再び出血が激しくなっているのを感じながら、歯を食い縛らせて耐え凌ぐ。
 しかし消耗した体力は出血によって更に削られ、戻らない気力オーラでは傷口の治癒力を高める事も出来なくなっていた。

 このままだと自分の結果を見届けられないことを朦朧とする意識で察知したケイルは、唇を強く噛み締めながら意識を保とうとする。
 しかしそれもままならず意識と共に身体を右側へ傾けた時、ケイルは奇妙な浮遊感を味わいながら懐かしく思える声を傍で聞いた。

「……あ、れ……?」

「――……軽流けいるっ!!」

「……師匠……。……巴さん……」

 朦朧とする意識の中、ケイルは自身の耳に師匠である武玄ブゲンの声を聞く。
 更に自身を抱え纏う匂いがもう一人の師匠であるトモエである事に気付き、霞む視界の中で最後の意思を振り絞った。

「し、師匠……。……エリク達を、助けてやって……ください……」

「!」

「もうすぐ、アリア達が……創造神オリジンの計画を止める……。……だから――……」

 師匠である頼もしき師匠ふたりに託すべき事を伝えたケイルは、それから意識を完全に途絶えさせる。
 そんな愛弟子ケイルの言葉を聞いた武玄ブゲンは、静かに立ち上がりながら激しい戦いが繰り広げられている場所に視線を移した。

「……ともえ軽流そやつは任せたぞ」

「はい。処置を終えたら、わたくしも向かいます」

「うむ」

 武玄ブゲントモエは短くもそうした言葉を向け合い、互いにその場から離れる。

 ケイルを抱えたトモエは自身の腰部分に忍ばせていた丸薬をケイルの口に含ませ、水を流し込みながら飲み干させた。
 その効力か、血の気が薄かったケイルの表情が僅かながらも血色を戻す。
 更に枯渇していた気力オーラもケイルの肉体に宿るように幾分か戻り、息は荒くも危機的な状況を脱することに成功したように見えた。

 一方で地面を蹴るように走る武玄ブゲンは、鋭い眼光を向けながらマナの大樹へと向かう。
 その接近に真っ先に気付いたのは、樹木の上で魔銃イオルムの射撃をしていたスネイクと、影の魔法で援護していたドルフだった。

「――……うぉ、なんだっ!?」

「どうした!?」
 
「やべぇ殺気が近づいて来るっ!! コイツは――……!!」

「……ありゃ、人間かっ!?」

「あの服、確か寝っ転がってたアズマこくの……!!」

 走り迫る殺気の塊が後方から近づいて来る武玄ブゲンだと気付いた二人は、思わず攻撃しそうだった手を止める。
 すると武玄ブゲンもまたエリク達が居る場所まで赴くと、有無を言わずに飛び交いながら右手で握る左腰の刀の柄を引き抜き、自身のわざを放った。

「――……月の型、奥義。『月喰げつが』ッ!!」

 凄まじい殺気が込められた武玄ブゲン気力斬撃オーラブレードは、瞬く間に黒く染まりながら『神兵』達を一挙に襲う。
 その黒い斬撃に飲み込まれた瞬間、『神兵』達は反撃すら許されず肉体を崩壊させながら撃墜された。

 気力オーラの斬撃が肉体を侵食し逆に喰らうように滅ぼす光景に、エリクを始めとした者達は驚愕の面持ちを浮かべる。
 そして右足を地面へ着けながら身構えて着地した武玄ブゲンは、『神兵』達に対して凄まじい殺気と相反する静かな構えで対峙して呟いた。

「……よくも、大事な弟子の腕を切り落とした。――……貴様等、許さんぞ」

 愛弟子ケイルの左手が切り落とされていた事に凄まじい憤怒を抱く武玄ブゲンは、エリク達と敵対している『神兵』達をかたきだと認識する。
 その認識に大きな過ちこそ無かったが、ケイルが必要な理由で自分自身の左手を切り落とした事を理解しないまま、武玄ブゲンはその場に合流することになった。
 
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