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革命編 七章:黒を継ぎし者
繋がる可能性
しおりを挟むゲルガルドと数百年に渡り繋がりを持ち続けていたフラムブルグ宗教国家の上層部、そしてそれ等を影で支配し続けた聖人である現教皇は、その秘密を知ったクラウス達やファルネを処分しようとする。
しかしそれを阻むように現れたのは、魔導人形に自分の魂を入れていた未来の記憶を知るアリアだった。
それを排除しようとする教皇と枢機卿は、卓越した連携魔法を使って攻撃を仕掛けて来る。
それを防ぐように強固な障壁を展開した魔導人形は、後ろに立つクラウスやファルネ達に声を向けた。
『――……アンタ達、邪魔だからさっさと逃げなさい』
『貴方は……!?』
『私は、アイツ等を殺す為に来たのよ。……アイツ等を生かしておくと、碌な事にならないから!』
『!』
前に歩み出ようとした彼等に対して、魔導人形は襲い来る教皇達の攻撃魔法を展開した結界で全て受け止めながら、自身がこの場に赴いた目的を告げる。
しかしそれを聞いたクラウスは一瞬だけ思考した後、魔導人形にある事を頼んだ。
『奴等を殺すと言ったな、その後はどうする気だ?』
『さぁね、殺す以外に予定なんてなかったし』
『ならば頼みがある。奴等の数人は、生かして捕えられないか?』
『はぁ? なんでよ』
『奴等を全て殺せば、宗教国家は大きな混乱に陥る。そうなると、我々の目的も果たされない』
『……アンタ達、この国で何かする気?』
『それは――……この国を、信頼できる者に委ねたい』
『……!』
クラウスはそう言いながら視線を動かし、隣に立つ修道士ファルネを見る。
その言葉と目的を聞いて驚きを浮かべるファルネに対して、同じく聞いていたワーグナーが苦笑いを浮かべながら声を発した。
『おいおい、アンタ……この国まで乗っ取るつもりかよ』
『人聞きが悪い事を言う。だが少なくとも、奴等よりはマシだとは思わないか?』
『そりゃ言えてる。……アンタが誰か知らないが、助けてくれたついでにこの人の頼みを聞いちゃくれねぇか? 頼む』
クラウスの提案にワーグナーは賛同し、魔導人形に頼みを向ける。
互いに魔導人形の中に居る人物がアリアだと察せられないままだったが、それでも自分達の未来を切り開く為に頭を下げた。
そうして教皇達が放つ魔法を防ぎながら、魔導人形は僅かに考えて返答する。
『――……分かったわよ。でも教皇だけは殺すわ。アイツの実力はミネルヴァ並に厄介よ、生かして捕らえるのは難し過ぎる』
『それでいい、頼む』
『そう、だったら話は終わり。さっさと逃げなさい、邪魔よ!』
『分かった。――……行くぞ、二人共!』
『ああ!』
『……貴方は、もしや……。……頼みます!』
頼み事を受け入れた魔導人形に対して、クラウスは頷きながらその場から離れる。
それに従うワーグナーも聞き入れるように走り出すが、ファルネは背中を見せたままの魔導人形とある人物の姿を重ねながら二人を追うように走り出した。
そうして逃走する三人は、大聖堂の中を駆けながら出入り口を目指す。
しかしその内部には床や壁に伏して倒れる僧兵や神官達が見え、改めて魔導人形の実力が予想を超えるだろう事を認識した。
『これ、全部あの人形がやったのか? 何者だよ、アイツ』
『恐らく魔導国に属する者だろうが、これ程の実力者を七大聖人以外には聞いたことが無い』
『……あの方は、きっと……』
『シスター、なんか知ってるのかよ?』
クラウスとワーグナーが魔導人形の正体を勘繰る中で、シスターは何かを思いながらそうした言葉を呟く。
それを聞いたワーグナーが問い掛けると、微笑みを浮かべたファルネは前を向きながら話した。
『……あの方もまた、神が遣わした者なのでしょう』
『え?』
『神は今も、私達の行いを見守ってくれている。……ミネルヴァ様の行いを、無駄にしない為に』
『……もしかしたら、そうかもしれんな』
『へっ。もしそうなら、神様ってのも感謝しねぇとな!』
そう言いながら涙を浮かべるファルネに対して、クラウスは微笑みを浮かべながら否定しない言葉を零す。
同じようにワーグナーもそれを否定せず、三人はそのまま大聖堂の出口へと走り続けた。
すると凄まじい衝撃音と共に、教皇達の居た大部屋を中心として大聖堂が崩壊を始める。
外に脱出できたクラウス達はそれを遠目から隠れ見ながら、その崩落が教皇達と激突している魔導人形によって起きている事態だと理解できた。
そしてクラウス達が外に出てから五分ほど続いた後、大きく瓦解した大聖堂から振動が止まる。
すると大聖堂の天井を突き破るように光球が飛び出ると、それが大聖堂の出入り口に降りる光景が見えた。
クラウス達はそれを隠れ見ながら、光球の中に誰が居るかを確認する。
すると光球が解けた後、そこには自分達を助けた魔導人形と、両腕に掴み持たれているボロボロの枢機卿を二名まで確認できた。
それを見た三名は、視線を重ねて頷いて隠れていた身を晒す。
魔導人形はそれを見つけると、互いに歩み寄りながら言葉を向けた。
『――……ほら、これ。御望みの枢機卿よ』
『生きているのか?』
『注文通り、生かしておいたわよ。文句でもある?』
『他の枢機卿達と、教皇は?』
『殺したわ。特に教皇は、肉体の欠片も残さずにね』
『他の信徒達は?』
『さぁね。教皇達の精神系魔法で洗脳状態だったから、乗り込むついでに解除しておいたけど。他に掛けられてる奴がいたとしても、大元の教皇達を殺したからすぐ解けるんじゃないかしら』
魔導人形は二人の枢機卿を投げて地面に置きながら、教皇と他の枢機卿達の結末を教える。
すると改めて、クラウスは目の前にいる魔導人形の正体とその目的を尋ねた。
『君はどうして、教皇達を?』
『私達の計画を邪魔しそうな要素だったから、面倒になる前に潰しただけよ』
『計画……。それはもしや、ゲルガルドやウォーリスに関わる事か?』
『……だとしたら?』
『話を聞く限り、君は少なくともゲルガルドの一族と手を組んでいた教皇達とは敵対関係である事は理解できる。私達もまた、ウォーリスゲルガルドとは敵対している立場だからな』
『……それで、何が言いたいのよ?』
『私達もまた、奴等に操られ扇動されているだろう民まで害そうとは考えていない。逆に奴等から引き離したいと考えている。……君達の計画には、そうした事も含まれてはいないか?』
『……まぁ、考えてはいるわね。ただ面倒臭くて、実行する気は失せてるけど』
『だったら、我々と君達で協力は出来ないだろうか?』
『協力?』
『我々は現在、旧ベルグリンド王国の王子を一人匿っている。奴に現オラクル共和王国の民をウォーリスから切り離す為の新たな旗印として立たせようと考えていた』
『……』
『そうして切り離す事が出来れば、少なくともウォーリスに扇動されて共和王国の民が兵士と化すような状況は免れる。……どうだ? 我々をその計画の駒として、組み込めないだろうか?』
クラウスはそうして自分達の計画を明かし、魔導人形が述べる計画と共同戦線を張れないかと尋ねる。
すると少し考えた様子を見せた魔導人形は、溜息と共にこうした言葉を向けた。
『で、その為にアンタ達は宗教国家まで来てたってわけ。……それで捕まってれば、世話はないわね』
『それについては、返す言葉も無い』
『第一、素性も分からない私に対してそんな事を頼むなんて。アンタ達、思考が甘過ぎるんじゃないの?』
厳しい言葉を向ける魔導人形に対して、後ろに立つワーグナーやファルネは苦々しい表情を浮かべる。
しかし真剣な表情を浮かべたままのクラウスは、淀みの無い態度でこう返した。
『我々は、様々な者達に助けられてここまで希望を繋げて来た』
『!』
『そんな我々がここへ辿り着き、そして君という同じ目的を持つ者に出会えたのだ。これもまた、ミネルヴァや彼女達の言う神の導きというモノなのだろう』
『……』
『だから私は、ここまで我々を繋げてくれた命と、目の前にいる希望の可能性を信じたい。……それが君を信じる理由では、不足かな?』
そうした言葉で魔導人形へ理由を伝えたクラウスは、ここに辿り着くまでに散っていった人々の姿を思い出す。
自分と共に戦場を駆けた兵士達や大樹海の部族達、そして共和王国へ共に来た黒獣傭兵団の団員達や村の人々、それ等の命によって繋げられた自分の命がここにある意味を、自分自身で見出す事が出来ていた。
その真剣な目を見ながら、魔導人形は再び溜息を零す。
『……相変わらずね。貴方は』
『?』
『良いわ、アンタ達の計画にも協力してあげる。――……でも、協力だけよ。自分の計画なら、自分でちゃんと果たしなさい』
『元より、そのつもりだ』
そう言いながら計画の協力を交わしたクラウスと魔導人形は、互いの顔を向きながら見る。
すると大聖堂まで訪れる為の山道から響く声が聞こえ、ワーグナーとファルネがそれを聞き付けながら二人に伝えた。
『やべぇぞ、麓の連中が来てる!』
『この惨状を見られれば、私達が大聖堂を襲った犯人だと思われますね……』
『それは、一人は事実だけどよ……』
互いに焦りの表情を向けながら伝える言葉に、クラウスと魔導人形も反応しながら山道側へ視線を向ける。
すると再び機械的な声で溜息を漏らした魔導人形は、三人に声を向けた。
『とりあえず、一旦は逃がしてあげる。その枢機卿、アンタ達が抱えて』
『何か逃げる算段が?』
『無かったらこんな事しないわよ。――……よし。ならそいつ等を手放さずに、私に触れてなさい』
『え、えぇ』
クラウスとワーグナーが倒れている枢機卿を片腕で抱え持ち、三人に魔導人形へ触れるよう伝える。
それに従う三人は希少金属の甲殻にそれぞれの手を触れさせると、その場から転移魔法で全員が消え去った。
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