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革命編 八章:冒険譚の終幕
希望の道へ
しおりを挟む『虚無』の世界を通じて惑星エデンの管理施設と呼ばれる場所に辿り着いたアルトリアとエリク達は、そこの管理人を務めている『白』の七大聖人と出会う。
彼は飄々とした様子や読み切れぬ性格を明かしながらも彼等の来訪を受け入れ、自身の依頼を条件に現世へ戻すことを約束した。
すると『白』から、更に驚くべき情報が飛び出て来る。
それは今まで『創造神』と呼ぶべき存在が、自分の母親であるというとんでもない爆弾発言だった。
その事実を聞かされた一行は思考を硬直させながらも、ケイルが視線を横に向けながらアルトリアに尋ねる。
「お、おい。創造神が子持ちだったって、マジなのか?」
「……いいえ。子供がいたなんて記憶、無かったはずよ……」
『それはそうだ。何せ私は、創造神が死んだ後に生まれた子供なのだから』
「死んだ後……!?」
創造神の記憶を知るアルトリアの言葉で、全員が訝し気な視線を『白』に向ける。
すると彼は自らが出生した状況を明かし、再び全員が眉を顰めながら信じ難い表情を浮かべた。
そこで『白』は、改めて自分が生まれた経緯を説明する。
『ふむ。創造神が自らの命を絶ったというのは、知っているかな?』
「え、ええ」
『実はその後、創造神はマナの大樹になってな。その大樹に実が宿り、成熟して大樹から落ちた。それが私が生まれた切っ掛けでもある』
「!?」
「……まさか貴方、マナの実なのっ!?」
『そう。私は元々、マナの実だったのさ。しかし何万年と経つと、マナの実は自我を持ち人格を得て、自らの意思によって身体を成して動くようになった。それが私という事さ』
「!!」
『創造神の大樹から生まれた私を、その子供と言っても差し支えはないだろう。黒も現世で私の存在を知った際には、創造神の息子だと認めてくれたからな』
そう話しながら自分の出生を明かした『白』に、全員が唖然とした面持ちを浮かべる。
しかし今の会話でまたしても知らない情報が出た為に、ケイルが動揺を浮かべながら問い掛けた。
「……ま、待てよ。自殺した創造神がマナの大樹になったって、どういう事だ? それに、なんで果実が人間になるんだよ……!?」
『どういう事だと言われてもな。まぁ、創造神はマナの実を食べていたと聞く。それが種となり死んだ肉体を糧として大樹へ成長する事も不思議ではない』
「……!!」
『マナの実も同じ。あれほど膨大なエネルギーが蓄えられた実が、ただの実で在り続けるというのも逆に不自然だ。それに私以外にも、そうして現世のマナの大樹から生まれた者達はいるからな。そうだろう、フォウル=ザ=ダカン』
『……チッ、お喋りな野郎だ』
腕を組みながら顔を向けて念話を送る『白』は、エリクの魂に居る鬼神フォウルを真名で呼び掛ける。
すると舌打ちと悪態を漏らすフォウルの声がエリクにも聞こえ、鬼神もまた『白』と同じように生まれた事を理解した。
そうした会話を外部から聞いていた他の三人もまた、エリクの前世である鬼神フォウルが同様の生まれ方をしていたことを察する。
するとアルトリアが今までの話に納得を浮かべ、『白』という不可解な存在をようやく理解し始める。
「……そっか。貴方が輪廻やこの管理施設で管理できるのも、大樹になった創造神から知識と技術を継承したからなのね。『黒』が創造神の肉体を継承したように」
『その通り』
「それで納得できたわ。『白』と『黒』が七大聖人の中でも特別視されてる理由が。……創造神も流石に、自分が死んだ後に起きた出来事までは知らないってことね」
『創造神の欠片を宿すと言っても、万能の知識と権能を得られるわけではない。それを見誤れば、過去に愚行を犯した欠片達と同様に悲惨な末路を辿るだけだ』
「愚行……。……確かにそうね。今後も気を付けるわ」
『そうするといい』
改めて『白』の存在と創造神の不完全さを理解したアルトリアは、自分が持つ権能が完璧なモノではないと悟る。
それを教え促した『白』は、再び向かい合う彼等に言葉を向けた。
『さて、久し振りに色々と話せて楽しかったぞ。だがそろそろ、君達を管理施設から現世へ戻した方がいいだろう』
「え?」
『しばらく虚無に居たのだろう? なら現世の時間と、大きなズレが生じているはずだ』
「えっ、嘘……。現世では、どのぐらい経ってるの……!?」
『君達が虚無にいた正確な時間が分からないからな。ただ虚無に一日もいると、軽く数ヶ月は経ってると思うぞ?』
「えぇ、またなのっ!?」
「おいおい、また三十年後なんてのは勘弁してくれよ……」
改めて『白』から現世との時間に差異が生じていると教えられた一行は、それぞれに過去の出来事を思い出しながら愚痴を零す。
すると落ち着いた様子のエリクは、椅子から立ち上がりながら机に立て掛けてある大剣を背負い直し、仲間達に告げた。
「何年後でもいい。今度は、皆が一緒だ」
「……まぁ、今度はコイツも一緒だし。あんな滅茶苦茶な未来にはなってないだろ」
「なってたらなってたで、どうにかすればいいし!」
そうした言葉を向けるエリクに呼応するように、ケイルやマギルスも微笑みを見せながら立ち上がる。
更に意識の無い創造神の肉体を手荷物が無いケイルが抱えると、彼等は座ったままのアルトリアに視線を向けた。
するとアルトリアは僅かに思考した後、彼等に遅れる形で立ち上がる。
「……そうね。戻りましょうか、現世へ」
「ああ」
戻る意思を見せたアルトリアに、三人は口元を微笑えませながら応じる。
それを見ていた『白』は微かに微笑む声を漏らし、椅子から立ち上がりながら目の前にある食べ物や机と椅子を消す。
すると虚空に向けて両手を広げ、光の粒子を集めながら新たな物体を形成し始めた。
『では、現世の入り口を作ろうか――……ほいっ』
「!」
『さぁ、出来たよ。現世の行先は、何処がいい?』
そう教える『白』の言葉と同時に、彼の目の前で巨大な白い門が形成される。
すると『白』は振り返りながら、現世へ繋がる行先を問い掛けた。
そこで全員が顔を見合わせ、互いの意思を無言で確認する。
更に三人の視線は動き、一人の人物に重なるように合わせられた。
三人の視線が重ねられたのは、アルトリアに対して。
行先を決める権利を彼女に委ねた三人は改めて頷くと、アルトリアは頷きながら『白』に告げた。
「私達の行先は――……」
『――……分かった。……さぁ、行くといい! 同じ創造神の下で生まれた、我が子孫達よ!』
行先を指定したアルトリアの言葉に従い、『白』は扉に手を置く。
すると内側に向けて巨大な門の扉が開き始め、そこから漏れ出す極光が彼等に降り注いだ。
しかし眩い程の極光が、彼等には眩しく感じず優しく包み込むような温かさを感じる。
そして全員が歩き出し、門の先へと歩き始めた。
彼等は扉の向こうへ去った後、それを見送った『白』が呟く。
『愉快な子達だった。……君の救った世界が、彼等のような希望を生んだぞ。良かったな――……アイリ』
『白』は懐かしむように名前を呼んだ後、閉められた扉と共に柔らかな光に包まれながら姿を消す。
こうして四人は、創造神の肉体を伴い現世へと戻る。
それは新たな道へと繋がる『希望』へ、彼等が歩み出す光景でもあった。
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