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革命編 八章:冒険譚の終幕

変わらないモノ

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 現世でアルトリア達の帰還を待っていたエリク達は、それが成功しゲルガルドが改めて消え失せた事を知る。
 しかし瘴気に汚染され傷付いた魂の変質から目覚めないリエスティアやウォーリス達が目覚めるのを待つ間、エリクとケイルの二人がマシラ共和国で済ませるべき小用をアルトリアに頼まれた。

 それを意外にも素直に聞き入れたエリクは、王宮を出て中層に在る傭兵ギルドへ向かい始める。
 その背中を追いかける形で追従するケイルは、微妙な面持ちを浮かべていた。

 すると彼女ケイルは、前を歩くエリクの横に近付きながら訝し気に尋ねる。

「――……で、どういうことだよ? あんな御嬢様の口車に乗っかってよ」

「……アリアは、輪廻むこうで新しい問題を見つけた」

「え?」

「さっきの笑顔かおで、それを俺達に隠しているのが分かった。だからケイルにも、伝えておきたかった」

「……そういう事かよ。……あの御嬢様やろう、また自分だけで何かやるつもりなんだな」

「多分な」

「今すぐ、それをやると思うか?」

「いや。ウォーリス達が目覚めるまで待つと言っていたのは、本当のことだ」

「……お前、アイツの嘘と本音を判別できるのかよ?」

「なんとなく」

「……まったく、コイツもコイツでよ……」

 小用を任された理由をエリクから聞いたケイルは、溜息を漏らしながらもアルトリアが隠している新たな問題を危惧する。
 そしてアルトリアの虚実を勘だけで判別できるようになったエリクに、渋い表情を強めてしまう。

 そうさせている張本人エリクは、歩きながら新たな話題を発する。

「それに、ちゃんと話したいと思っていた」

「なんだよ、また御嬢様の事でか?」

「いや、俺達のことだ」

「俺達?」

「俺と、ケイルだ」

「……!?」

 そう言いながら歩き続けるエリクに対して、ケイルは驚愕しながらその言葉が発せられた顔を見る。
 するとエリクもまた神妙な面持ちを浮かべ、それでも言葉を続けた。

「俺はずっと、生きる為に戦う事しか考えなかった。他の事を考えるのが、面倒だった。だからそういう事は、人任せばかりにしていた」

「……」

「だがアリアと会って、生きる為には戦う以外にも考える必要がある事が分かった。……それでも俺では、考え付かない事ばかりで。今回も俺は、戦う事でしか何も出来なかった。あの状況を潜り抜けられたのは、マギルスとアリアのおかげだ」

「……しょうがねぇだろ。どうしたって、向き不向きがあるんだからよ。それにそんなこと言ったら、アタシなんか何もしてねぇよ」

「いや、お前は何度も俺達を助けてくれた。……それにお前は、俺より強い」

「は? 冗談言うなよ。あんな化物ウォーリスと戦って勝ったお前が、アタシより弱いはずないだろ」

「アレは、アリア達が相手ウォーリスを弱らせる準備をしていたからだ。俺一人で戦っても、ウォーリスには勝てなかった」

「……それでも、お前はつえぇよ」

「俺は弱いんだ、ケイル。……一緒に戦ってくれる、仲間がいないと」

「!」

 そう告げながら話すエリクは、中層へ降りる大階段の途中で足を止める。
 そして隣に立つケイルに顔を向けながら、改めて尋ねた。

「ケイル。これが終わった後は、どうする?」

「え?」

「俺は、アリアと一緒に魔大陸に行く。そして『白』の七大聖人セブンスワンから頼まれた事を、果たすつもりだ」

「……お前なら、そうするよな」

「ああ。……だがきっと、俺やアリアだけでは果たせない」

「誰がどう見ても、無敵のコンビじゃねぇかよ」

「そうかもしれない。だが世界は広い。ウォーリスよりも強い魔族は、かなり多いはずだ」

「……アイツより強いって、どんな化物だよ……」

「ああ。だからそういう奴と敵対した時、ちからだけでは敵わないこともある。……その時に、きっと俺やアリアはあらがえない」

「……何が言いたいんだよ?」

「お前も一緒に、来て欲しい」

「!?」

「俺達に……いや、俺にはお前が必要だ。ケイル」

 頼むように話すエリクを見て、ケイルは再び驚愕で表情を固める。
 すると固まった表情を解くように瞳を見開かせた後、ケイルは気付くように舌打ちを鳴らしながら悪態を吐いた。

「……チッ。つまり、お前が大事にしてる御嬢様の為に一緒に付いて来いって言ってるわけだな!」

「いや、そうでは……」

「そうなんだろ! その方があの御嬢様を監視し易いし、お前等が突っ走る暴走も止め易いもんな!」

「それは、そうなんだが……」

「やっぱりな! ……アタシはもう、お前等の御守りをするのは御免だ」

「……」

「第一、そんな化物ばっかいる魔大陸にアタシが行ったら足を引っ張るだけだ。……前に言ったろ、アタシはお前等の御荷物なんかになりたくない」

「ケイル……」

「今回の事が終わったら、お前等と離れる。アタシは元々、そう決めてたんだ」

 今後の同行を改めて拒否する事を告げたケイルは、止めていた足を動かし大階段を再び降り始める。
 するとそれを止めるようにエリクの右手が動き、ケイルの左肩を掴み止めた。

 そして苛立つ顔と声色を浮かべて、ケイルが振り返る。

「なんだよ」

「……お前の事を、荷物だと思った事はない」

「!」

「それに、アリアだけじゃない。……お前も大事だ」

「……え?」

「お前が皇国で死んだ時。アリアが死んだと思った時と、同じように悲しかった。そして生き返った時は、嬉しくて涙が流れた」

「……!!」

「お前は……ケイルは足手纏いでも、荷物でもない。……俺の大事な人だ」

 そう言いながら真剣な表情を向けるエリクに、ケイルは再び表情を固めてしまう。
 するとエリクの言葉が本気である事を徐々に認識し、僅かに頬を赤らめ始めた。

 しかし彼女の奥底に残るわだかまりが、再び悪態をかせる。

「……だ、だって……お前……。……未来で、アタシのこと……フったじゃねぇかよ……っ!!」

「ふった?」

短杖つえの残骸を見つけた時だよ! お前が死ぬつもりで、アタシがそれを止めようとした時! アタシがアリアの代わりになるっつったのに、お前が『すまない』って拒否ったんじゃねぇかっ!!」

「……アレが、ふったという事なのか?」

「それ以外に考えられねぇだろっ!! 他にどんな意味があるってんだよっ!!」

「ケイルはケイルだ。だから、アリアの代わりにはならないと思って、言っただけなんだが……」

「……は?」

 互いに同じ言葉から別々の意味を認識していたことが明かされると、エリクもケイルも不可解な表情を浮かべる。
 するとケイルは、強張った表情で徐々に困惑を強めながら問い掛けた。。

「……すると、アレか? お前はアリアやアタシも、大事な人ってわけか?」

「ああ」

「……どういう意味で?」

「意味?」

「ほら、あの……仲間としてなのか。それとも、女としてなのか……どっちだよ?」

「……大事というのは、そういう風にけないといけないのか?」

「分け……? だから、そうじゃなくて。……その、好きとかどうかとか……そういう話で……っ!!」

「俺は、アリアもお前も大事だから、好きだと思うが」

「!?」

「俺は、おかしなことを言っているのか?」

「……頭が痛くなってきた……。……お前の大事って、全部がごちゃ混ぜじゃねぇかよ……」

「?」

 互いに向けている感情にも大きな齟齬がある事を改めて認識したケイルは、目の前にいる大男エリクが戦い以外の事に関して丸っきり駄目な人物であることを再確認する。
 そして大きな溜息を吐き出すと、改めてアリアが以前から言っていた言葉の意味をケイルは理解できた。

「……なるほどな。戦いは玄人プロでも、色恋こういうのに関しちゃガキのままなのかよ。……そりゃ押し倒しでもしねぇと、理解できねぇよな……」

「何の話だ?」

「何でもねぇよっ!! ……クソッ、なんか怒って損した。さっさと傭兵ギルドに行こうぜ」

「ケイル……」

「分かってるよ! 一緒にきゃいいんだろ。魔大陸によ」

「!」

「その前に色々と片付ける事もあるし、準備も必要になるんだ。それにお前の話が本当なら、またあの御嬢様も暴走しそうだしよ。まったく、コイツ等は本当に世話が焼けるな――……」

 魔大陸へ同行する事に応じたケイルは、そのまま大階段を降りていく。
 その姿を見るエリクは、文句を言う背中を見ながらも口元を微笑ませ安堵の息を零しながら付いて行った。

 こうして微妙なわだかまりを残しながらも、エリクとケイルは互いの認識を改めて理解しながら傭兵ギルドへ向かう。
 そして入り口を通り受付をしている職員に名前を教えてグラシウスへの面会を求めると、すぐにギルドマスターが居る部屋まで通された。

 すると数分後にグラシウスが訪れ、長椅子ソファーに座る二人に声を向ける。

「――……よぉ、もう用事は済んだのか? ……と思ったら、嬢ちゃんは居ないのか。マギルスも?」

「まだ王宮むこうにいるよ。それで、アタシ等に渡すもんって?」

「ああ。実は――……コレを、お前さん達に渡すように頼まれた」

 対面に座るグラシウスは、麻袋から取り出した四つの白金プラチナ色に輝く丸板が嵌められた装飾品ペンダントを置く。
 その丸板に書き込まれた文字の様式に覚えがある二人は、互いに訝し気な表情を浮かべながら問い掛けた。

「……これは、傭兵の認識票か?」

白金プラチナの認識票? おいっ、これってまさか……」

「そう。これは【特級】傭兵の認識票。お前等のだ」

「は?」

「各国からの推薦でな。ルクソード皇国……いや、今はアスラント同盟国か。そして魔導国ホルツヴァーグ宗教国家フラムブルグ。更にアズマ国。旧四大国家を含む大国の上層部連中が、お前等を【特級】傭兵に推薦したんだ」

「……何故だ?」

「何故って、お前等は世界を救ったんだろ? 【特級】にするには、十分な偉業じゃねぇか。……というわけで、この認識票をアルトリア嬢とマギルスにも渡しておいてくれ。……あっ、そうそう。【特級】になると更新の必要は無くなるから、安心していいぞ。あと、傭兵ギルドがある国には基本的に何処でも入国が可能になるし、傭兵ギルドと提携してる船や国なら通行料も無料タダになる。便利だぞ、【特級】はよ」

 そうして机に置いた認識票を再び麻袋に戻すと、グラシウスはそれをエリクに押し付けるように投げ渡す。
 するとグラシウスは、口頭ながらも他の報酬を伝えた。

「それと、お前等の傭兵口座に白金貨で一万枚ずつ振り込んでるから。好きに使っていいぞ」

「はぁっ!?」

「……な、何故だ?」

「だから、世界を救ったんだろ? これも各国からお前等に渡すよう、傭兵ギルドに依頼された報酬だ。勿論、共和国このくにも金を出してるぞ。全員で白金貨四万枚な。それを四等分だ」

「……」

「なんだよ、その顔は。もしかして不満なのか? 国は流石に無理だろうが、小国とかその辺の都市でも丸ごと買えちまう金だぜ。もうちっと喜べよな」

 喜ばずに微妙な面持ちを向ける二人に、グラシウスは腕を組みながら不可解そうに問い掛ける。
 そしてそんな心情を理解されない二人は、互いに顔を近付け小声で話を交わした。

「……特級傭兵だとか、大金だとか貰ってもよ……。……今更、使い道が……」

「返すか?」

「大国連中が渡して来たんだぞ。返すって言ったら、それはそれで問題が起こる」

「そうなのか」

「金の方は、魔大陸に行く為の準備金に出来るけどよ……。……絶対に、余るぞ」

「……後で、アリアに相談しよう」

「そうだな……」

 【特級】傭兵の認識票と膨大な報酬かねを渡されてしまったエリクとケイルは、使い道の無いそれ等のモノに困り果てる。
 そんな二人の内心など理解していないグラシウスはそれ以上の用事は無いことを教え、二人は傭兵ギルドを後にした。

 そして王宮に戻る前に、二人はゴズヴァールから聞いた中層にある老婆の墓に訪れる。
 するとその墓の隣には、『レミディア』と名付けられた墓がある事にケイルは気付いた。

「――……ここに、墓があったんだな……。……ばあさん。ねえさんと輪廻むこうで、仲良くやってろよ……」

 その言葉と共に僅かに悲し気な表情を浮かべるケイルは、二人の墓前で黙礼を向ける。
 エリクもまた修道士ファルネに教わっていた祈りを向け、それを終えた二人は王宮に戻ったのだった。
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