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革命編 八章:冒険譚の終幕
交差する仲間達
しおりを挟む樹海において大族長パールの出産を介助したアルトリアは、産まれた彼女の子供に父親と同じ皇族名という名を付ける。
しかしその子供が創造神の欠片を持つかは定かではなく、その成長を待つことも出来ずに手詰まりな状況となっていた。
それから二日ほどが経過し、アルトリアは出産後のパールと子供の状態を診察している。
同時に子供に権能の片鱗が見えないかを探りながら、悩ましい様子を見せていた。
「――……状態は良し。でも、やっぱり権能を持ってるような様子は見えないわ……」
「すまないな。当てが外れたようで」
「なんで貴方が謝るのよ。こっちも不確定な情報で来ただけなんだがら、気にしなくていいわ」
「そうか? なら気にしない」
甥であるラインの様子を診てながらも渋い表情を浮かべるアルトリアに、パールがそうした言葉を向けて話す。
そうして話す二人を傍で見ていたケイル、パールに顔を向けながら尋ねた。
「樹海では、他に出産しそうな妊婦とかいないのか? あるいは、もう産んじまってる奴とか」
「私も全て把握しているわけではないが、探せば他の部族に居るとは思うぞ」
「なら結局、虱潰しにやるしかないか。……いや。あるいは子供は当たりでも、未来が変わっちまった弊害が出たと考えてもいいかもな」
樹海の部族で生まれた子供が権能を持っているかもしれないという不鮮明な情報で訪れたことで、ケイルは他の子供にその可能性があると考える。
しかしその一方でもう一つの可能性を呟くと、アルトリアが反応しながら問い掛けた。
「どういうこと?」
「権能を持った子供が生まれなかったって可能性だよ。あの別未来では権能を持った奴が死んでて、だからこの子供が欠片を持って生まれたとかな」
「……その可能性は、あり得るわね。でもこの子が生まれた時期と別未来を考えると、私が帝国や王国を滅ぼしてる最中だから……」
「二国の中に欠片を持った奴がいて、別未来で既に死んでなきゃいけない奴がいるってことかもな」
「そうなるわね。……でもそれらしい権能を持った人間が、馬鹿皇子や私達以外に居たかしら……。……ケイル、貴方は王国の方で心当たりはある?」
「……エリク以外には思い当たらないな。もっと王国に詳しい奴なら、心当たりがあるかもしれないけどよ」
「ならまた、アルフレッドに聞くしかないかしら。一応、国王をやってたわけだし」
「どうだろうな。前に聞いて心当たりがないなら、結局はまた空回りってことになるぜ」
「んー……別未来に死んで、今は生きてる特殊な能力を持った人……。……あっ!!」
「どうした?」
二人は話しながら悩む様子を浮かべていると、そこで別未来の自分の記憶を持つ今の自分が思い出すように短い声を発する。
それに視線を向けるケイルに、アルトリアは自信に満ちた表情を向けて答えた。
「一人だけ、心当たりがあるわ」
「へぇ、誰だよ」
「マシラ王ウルクルスよ」
「え?」
「あの別未来《みらい》だと、ウルクルス王は同盟都市の襲撃で死んでるのよ。『青』も言ってたでしょ?」
「……そういえば、言ってたな」
「元『黄』の七大聖人だったマシラ一族で、その秘術の継承もしているわけだし。現代は彼が欠片を持ってるのかも」
「……どっちにしても、確かめなきゃ分からないか」
「そういうことね」
別未来で死にながらも現代では生きているマシラ王ウルクルスを調べるべきだと思い至る二人は、互いに共通した認識を持つ。
そんな二人の話を聞いていたパールは、アルトリアに向けて話し掛けた。
「もう行ってしまうのか?」
「ごめんなさいね、ちゃんと責任を持って診ててあげたいんだけど……」
「いや、お前のおかげでまた助かった。感謝している」
「私が出来る、当たり前の事をしただけよ」
「そうか、お前らしいな。……またいつでも樹海に来い。歓迎する」
「ありがと。色々と用事を片付けたら、また来るわ」
そう言いながら二人は以前のような握手を交わし、互いに友情の挨拶を向ける
しかし二人の握手が離れた瞬間、それを見ていたケイルが建物の外に意識を向けながら驚愕の声を漏らした。
「……なんだ、この気配っ!?」
「ケイル?」
「かなり大きな気配が向かって来る! ……こりゃ、魔獣か? しかもこの位置、飛んでやがるぞ!」
「えっ!? ――……パールはここに居て、私達で見て来るから!」
「あっ、それは――……」
ケイルは外に大きな気配が向かって来ることを感じ取り、急ぐように建物の中から出て行く。
それを追うようにアルトリアも走り出し、何かを言い掛けたパールの言葉を全て聞かなかった。
そして建物から外に出たケイルとアルトリアは、日が昇っている中央集落の空を見上げる。
するとそこには、二人が今まで見た事の無い魔獣が飛んでいた。
「――……おいおい、なんだありゃ……!?」
「あの姿、もしかして飛竜……!?」
「飛竜って、アレがかよっ!?」
「『青』の話は本当だったのね。まさか飛竜が人間大陸に現存してたなんて……!!」
二人は中央集落の上空を飛びながら来る赤い鱗と巨大な二つの翼を持つ飛竜を目撃し、様々な意味で驚愕を浮かべる。
すると飛竜が集落の中央に位置する場所へ降下するのを見ると、急ぐように走りながら声を向け合った。
「あっちは確か……決闘場がある場所だわ!」
「どうするっ!?」
「貴重な飛竜だし、出来る限り殺したくないけど。もし中央集落に被害を与えるようだったら……!」
「チッ、武器は師匠達に返しちまったな」
「私が何とかするわ。もしもの場合は、貴方はパール達を連れて避難を」
「分かったよ」
二人は飛竜への対処を決め、共に凄まじい速さで掛けながら集落の中を抜けていく。
そして飛竜が降り立った決闘場へ入り、観客席となる場所から決闘場の中央にある舞台へ視線を向けた。
するとそこで、二人は驚くべき光景を目にする。
「――……えっ!?」
「……こりゃ、もしかして……巣なのか……!?」
二人が見たのは、決闘場の中央に数多くの草や藁で敷き詰められた、更に幾つもの大木で囲まれた巣のようなモノ。
そこに降りながら四本の脚で着地した飛竜は、その中央に歩み寄っていた。
するとそこには、鳥の卵の数十倍はあるであろう巨大な卵が三つも存在している。
それを見た二人は、決闘場が飛竜が産卵している巣になっている事に気付かされた。
そうして驚きを見せる二人に、降り立った飛竜は気付く。
そこで鋭い眼光と唸り声を向けながら、二人に対して威嚇を向け始めた。
「ガァルル……ッ!!」
「お、おい。なんでここに、飛竜の巣なんか……!?」
「そんなの、私も知らないわよ。……集落の人達、決闘場には近付かないようにしてたみたいだけど……これが理由だったの?」
「……これじゃあ、追い払うのは無理だろ」
「そうよね。でも、どうしたものかしら……」
飛竜が産卵し巣を作っている為に、決闘場から追い出すのは難しい。
かと言って自分の卵を守る飛竜を害する行動は、アルトリアの気性を考えるとやり難い行為でもある。
そうして対処に困る状況に陥った二人だったが、その背後から声が掛かった。
「――……二人とも、ちょっと待て!」
「パールッ!? 貴方、追ってきちゃったのっ!?」
「おいおい、まだ動いたら……!!」
「それより、今ここに近付いたら駄目だ。アイツもピリピリしてる」
「アイツって、飛竜のこと?」
「ああ。――……すまなかったな! 私の友と客なんだ、許せっ!!」
「……ガゥ……ッ」
「!?」
出産を終えたばかりにも関わらず追いかけてきたパールに、二人は慌てる様子を見せる。
しかしそんなパールは二人より更に前に歩み出て、飛竜にそうした言葉を向けた。
すると威嚇していた飛竜はパールの姿と声を認識し、唸り声を止めて長い首を下げる。
そして自分の卵を囲むように座り、眠るように瞳を閉じた。
まるで飛竜と意思疎通が出来ているようなパールの言動に、二人は驚きの声を向ける。
「パ、パール……貴方……」
「もうすぐ、アイツも子供が生まれる。それまでは決闘場には近付くなと、皆に伝えているんだ。しばらく巣に帰っていなかったようだから、お前達には言い忘れていた」
「そ、そうなの。……でも、なんで飛竜がここに巣を……」
「私が手懐けて、巣も決闘場に作らせた。どうせほとんど使わない場所だし、何より広いからな」
「えっ」
「……飛竜を、手懐けた?」
「前に樹海で襲って来た群れを倒した中で、生き残った一匹が私に従うようになってな。だからあの時の事件でも、飛竜のおかげでかなり助けられた」
「……じゃあ、危険は無いの?」
「今は私以外が近付くと、ああして威嚇するんだ。もっと近付くと火も吐くから、決闘場から出て行くほうがいい」
「え、ええ」
「……どうなってんだよ、ここの部族はよ……」
そうして決闘場から出るよう伝えるパールに、二人は従いながら歩み出る。
そして改めて子供がいる建物まで戻りながら、集落の者達が何事も無かったかのように平気そうな顔をしている様子に二人は気付いた。
「……慣れてるのね。ここの人達も」
「最初は驚いていたが、もう慣れたものだ」
「そ、そう。……パールは、やっぱり凄いわね」
「そうか?」
「でも出産後なんだから、一ヶ月は安静にするのよ。走ったり跳んだりは勿論、鍛錬も狩猟もダメ。いい?」
「ああ、分かったよ」
釘を刺すように安静にするよう伝えるアルトリアに、パールは微笑みを向ける。
すると大族長の家に辿り着くと、パールはケイルに視線を向けながら歩み寄り、握手を求めるように右手を差し出した。
「……なんだよ?」
「アリスとエリオを頼む」
「!」
「二人は私にとって、大事な親友《とも》だ。本当は私も助けになりたいが、今は無理だからな。……だからこそ、我々と同じ流れを持つ部族に頼みたい。ケイル」
「……お前に言われなくて、そのつもりだよ」
「そうか」
パールの差し出した右手に応じるように、ケイルも右手を差し出して握手を交わす。
互いに暮らした場所や部族こそ別ながらも、同じ族長家系に生まれた二人には奇妙な感覚で繋がりが生まれていた。
そうして二人が握手を離して別れの挨拶を終えたのを確認したアルトリアは、改めてケイルに近付きながらパールに声を向ける。
「じゃあ、私達は行くわ。子供や皆と一緒に、元気でね」
「ああ、お前達もな。エリオにはよろしく言っておいてくれ」
「伝えるわ。じゃあね――……」
ケイルの右腕に触れたアルトリアは別れの挨拶を見せた次の瞬間に、その場から二人で姿を消す
それを見送るパールは僅かに寂し気な微笑みを浮かべた後、自分の子供が待つ建物の中へ戻っていった。
こうしてパールと再会しその子供の出産に立ち合った二人は、次の可能性となるマシラ王ウルクルスが居るマシラ共和国へ転移する。
しかし彼女達が赴く二日前には、エリクとマギルスも共和国に赴き去っていたことを知らなかった。
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