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革命編 八章:冒険譚の終幕
過去の遺物
しおりを挟むフォウル国の里に鎮座する鬼の巫女姫レイと面会したエリクとマギルスは、そこでメディアの正体を聞く。
それはエリク達の出会った『白』と同じように、マナの樹に宿る『マナの実』が意思を持ち人間の姿をしているという正体だった。
それだけに留まらず、第一次人魔大戦の時代にも破壊されたマナの樹から同じように【始祖の魔王】や【勇者】と呼ばれる者達も生み出された事態が明かされる。
エリク達は『白』の存在を知るが故に、その話が事実であることを理解する。
しかし腑に落ちぬ部分もあり、最初にその疑問をマギルスが口にした。
「――……でも、その話っておかしくない? 確か現世にある七本のマナの樹って、大昔に【大帝】って人に全部壊されちゃったんでしょ?」
「はい、そうですね」
「でもメディアって人は、おじさんの話だと三十年とか四十年前とかに現れたんだよね? だったら、現世にもマナの樹が残ってる事になっちゃうよ」
「いいえ、現世に残っているマナの樹は確かに全て破壊されました。……しかし一本だけ、この世界には残されていたマナの樹が在った。それは貴方達も御存知のはずです」
「……まさか、天界の?」
「それしか考えられません。彼女は天界に存在していたマナの大樹から生まれた『マナの実』。そして自我を持った実が、彼女となったのでしょう」
「!!」
マギルスの疑問について自身の推察を伝えた巫女姫は、メディアが生んだマナの樹が天界に存在していた大樹であると語る。
しかしその推察は、同時に新たな疑問をエリクに吐き出させた。
「……だが、もしそれが本当なら。メディアは天界から現世へ来たことになる。その時期、今回と同じように天界までの道が開いたのか?」
「数十年前に、同じ事象が起きたとは確認できていません」
「なら……」
「ただ本来、天界へ行ける手段は他にもあるのです」
「なに?」
「前回と今回の天変地異は、創造神の権能に反応し天界と現世の星同士を繋ぐ通路が開かれたに過ぎません。他の手段を用いれば、通路を開かずとも行き来自体は可能です」
「……メディアは、その別の手段で現世に来た?」
「或いは、別の手段を知る何者かが天界に渡り、彼女を見つけて連れてきた。そういう可能性もあります」
「!!」
更に続く巫女姫の推察は、エリクの思考を刺激し彼が持つ情報を更に深追いさせる。
そしてクラウスから聞いていた話から、メディアを拾い現世へ連れて来たであろう人物の名を呟かせた。
「……ログウェル。あの老騎士が、メディアを現世に連れて来た……?」
「天界の施設は七大聖人の聖紋に反応する機構をしています。『緑』の七大聖人である彼ならば、その最奥に在るマナの大樹に辿り着けるでしょう」
「……そっか。そういえば『赤』のお兄さんも、聖紋で扉を開けてたっけ? 後から来た『青』のおじさんも、聖紋で来れたんだし」
七大聖人であるログウェルならば、単独でも天界に在るマナの大樹に辿り着ける可能性がある。
それに納得を浮かべるマギルスだったが、逆にエリクは更に不可解さを深めて疑問を呟いた。
「だが、何故だ? どうしてあの老騎士は、天界に……それに、メディアという者を連れて来た?」
「それは私にも分かりません。けれどもし、そこに『緑』を天界まで行かせるよう導いた存在がいるとすれば……それは『黒』しか在り得ないでしょう」
「!!」
「今回の事態において、『黒』は根深く事態の推移を予知していました。そしてあらゆる者達の行動を操作し、今現在の未来まで導いた。メディアという者の存在もまた、『黒』の予知によって現世に招かれた可能性はあります」
「『黒』が……」
「どのような意図で彼女が現世へ来たのかは、私にも分かりません。……ただ貴方達が訪ねて来た理由を『青』から聞き、ある可能性を私は考えました」
「?」
「貴方達は、七つに分けられた創造神の魂を持つ者を探しているのでしたね。……どうして創造神の魂が七つに分けられたか、理由を御存知ですか?」
「……いや」
「それは、現世に存在した七つのマナの樹と関係があります」
「!」
「創造神の死後、その魂は世界の循環機構に取り込まれた。そして当時、現存していた七つの樹が創造神の魂を七つに砕き、その樹に宿したと伝えられています。……彼等にとっての創造神を、生き返らせる為に」
「!?」
「そして誕生したのが、『マナの実』を種として創造神に近しい性質を持って生まれた者達。【始祖の魔王】や【勇者】、そして私の御爺様でもある【鬼神】。更に創造神のマナの大樹から生まれた『白』。そういった者達に分けられた創造神の欠片が宿ったのも当然の経緯だったのでしょうね」
「……知っていたのか? フォウルも同じ存在だと」
「はい。そこに居るバルディオスの祖先は、御爺様を拾い育てた人物ですから。その方から御爺様の出生を聞いていました」
「!」
「人間である貴方が鬼神の姿になれるのも、『マナの実』だった御爺様の魂を持つからでしょう。貴方自身の肉体もまた、また『マナの実』の……創造神の性質に近付いているのかもしれません」
「……」
祖父であるフォウルもマナの実から生まれた生命である事を知っていた巫女姫は、【鬼神】を育てたドワーフ族について話す。
するとエリクは、別未来で一度だけ死んだ際にフォウルが自分を拾い育てた人物の話をしていた事を思い出した。
彼もまたマナの樹から生み落とされた実が自我を持って小鬼の姿となり、そのドワーフ族の男に拾われたのだろう。
だからこそ創造神の欠片を宿し【鬼神】と呼ばれる存在となったことに、エリクは奇妙な納得を浮かべた。
すると巫女姫は、そんなエリクに改めて伝える。
「五百年前、そうした創造神の欠片を集めた者がいます。そして七つに分けられた創造神の魂は一つとなり、世界は滅び掛けた。……そして貴方達もまた、創造神の欠片を集めようとしていると聞きます」
「……俺達が、同じ事をして世界を滅ぼすと思っているのか?」
「いいえ。けれど貴方達が意図しない形で、そうなってしまう可能性を捨てきれません」
「だがアリアは欠片が必要だと考えて、それを持つ者達を探している。恐らくそうしなければ、マナの大樹が世界を破壊しようとするのを防げないからだ」
「……」
「俺とアリア、そしてケイル。既に創造神の欠片を持つ者が三人は揃っている。そして世界に忘れられたという彼女に、アリアの母親のメディア。他の欠片を持つ者達も分かって来た。だから――……」
「だから危険なのです」
「!」
「『マナの実』から人の姿となったメディア。そしてその者から生まれたアルトリアなる少女。そんな彼女達が創造神の欠片を有し、創造神に近い性質の肉体を有している。……言わば彼女達は、肉体も魂も創造神の複製体と言うべき存在です。だから強い創造神の権能を、生まれた頃から扱えているのでしょう」
「……だが、アリアはそれを制御できている。それにもう、別未来と同じことは起こさない」
「そういう話ではないのです。……私が恐れているのは、メディアの目的です」
「え?」
「私達は昔、『黒』から創造神の欠片の一つを『忘却の彼女』が持っている事を明かされています。そんな彼女を、メディアは魔大陸に渡り探している。……それがどういうことか、分かりませんか?」
「……まさか……」
「恐らく彼女も、貴方達と同じように創造神の欠片を持つ者を探している。……そして、その欠片を奪おうとしている。そう思えるのです」
「!!」
「私は彼女と会った時、その気質や雰囲気が【始祖の魔王】と酷似しているように思えました。……【始祖の魔王】もまた第一次人魔大戦において数多の欠片を持つ者を屠り、創造神に最も近い権能を持っていたのです」
「……っ!!」
「そして百年以上前、『黒』は私にこう伝えた。『五百年前に死んだ到達者達の生まれ変わりが転生して来る』と。……ならばメディアという者は、あるいは……」
「……【始祖の魔王】の、生まれ変わり?」
「貴方が鬼神の生まれ変わりであるように、メディアもまた【始祖の魔王】の生まれ変わりだとしたら。しかも欠片を持つ者達と遭遇すれば……。……自分の権能を強める為に、強まった権能を持つ貴方や自分の娘を殺すかもしれません」
「!?」
「もしそうした事態になった時、今の貴方達では彼女に勝てない。……あの時の彼女は、既に私すらも凌駕するだろう実力を備えていたのですから」
「……!!」
巫女姫は膝に置く両手を僅かに震わせ、その額から一筋の冷や汗を流す。
それは実際に向き合った【始祖の魔王】を彷彿とさせる存在にメディアに対して、怯えているようにも見えた。
そうした巫女姫の様子と言葉を見ていたエリクは、落ち着きを戻しながら冷静な表情と言葉を向ける。
「……お前の言いたいことは分かった。それでも俺は、欠片を持つ者を集めるべきだと思う」
「!」
「どちらにしても、このままでは世界を破壊されてしまう。だったら、やるしかない」
「本気、なのですね」
「……この世界には、苦しくとも生きようとする者達もいる。俺自身もそうだ。だから俺は、俺の為に世界を生かす。……その為なら、俺はもっと強くなる。そして必要なら、俺がメディアを倒す」
生き残る為に戦う覚悟を見せるエリクは、その脳裏に今まで出会った者達の姿を思い浮かべる。
彼等はこの世界で生きる為に、自分がやれる事を精一杯にやり続けていた。
そんな彼等の生き方こそが、自分が望む姿なのだとエリクは考え至る。
するとその覚悟を聞いた巫女姫は、僅かに表情を曇らせながらも口を開いた。
「……貴方の覚悟は、良く分かりました。……貴方達の目的。創造神の欠片を持つ者ですが、それを正確に判別できる方法があります」
「!」
「えっ、そんな方法あるの?」
「はい。しかしそれは危険でもある為、この山脈の奥深くに隠しています」
「危険?」
「それは創造神の欠片を持つ者に反応するモノ。しかしそれ自体が危険物である為、五百年ほど前から封印しているのです」
「五百年前から、封印している?」
「危険物って、何なの?」
巫女姫の話を聞いていたエリクとマギルスは、封印されているという危険物について要領を得ずに首を傾げる。
そんな彼等に対して、率直な答えを巫女姫は伝えた。
「封印されているのは、一本の剣です」
「剣?」
「【鬼神】を育てた名匠バファルガスによって作り上げた剣。しかもその素材は、『マナの樹』を使用しています」
「マナの樹で作られた剣……!?」
「その剣で斬られた者は、例え到達者でも傷を癒すことすら出来ません。しかもあらゆる魔力を含んだ物質を破壊することに長けており、正式な名称は『|星断ちの剣』とも呼ばれています。ただ人間大陸では、別の名が一般的に伝えられているかもしれませんね」
「別の名?」
「過去の人間達は、アレをこう呼んでいました。『聖剣』と」
「!?」
「第一次人魔大戦の時代に【大帝】が奪い、【勇者】に持たせた『聖剣』。あの剣を扱えるのは、素材となったマナの樹の所有者だけ。……つまり、創造神の欠片を持つ者達だけなのです」
「……!!」
巫女姫が語る『聖剣』の話を聞いたマギルスは、到達者すら倒し得る武器の存在に驚愕を浮かべる。
しかしエリクは、別未来で精神内に居たアリアの制約から『聖剣』の話を聞いており、巫女姫がそれを隠していた事実の方に驚きを浮かべていた。
こうして創造神の欠片を持つ者を探す為に、有力な手段が明かされる。
それは過去の遺物とも言うべき、伝説上で語られる【勇者】の『聖剣』だった。
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