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革命編 八章:冒険譚の終幕
強まる焦燥
しおりを挟むエリクが『聖剣』を回収し、妖狐族クビアの転移魔術でマギルスを人間大陸へ送り届けた次の日の朝。
アルトリアとケイルは共にマシラ王ウルクルスを創造神の欠片を持つ者と思い、転移魔法でマシラ共和国に向かう。
すると彼女達が転移したのは共和国の首都を覆う外壁の門ではなく、大胆にも王宮の敷地内へ直に赴いていた。
そして再び腕を掴まれて転移させられたケイルは、周囲を見ながら呆れるような声を零す。
「――……おい、なんで王宮に直跳びしてるんだよ……」
「だって、わざわざまた外から王宮まで歩くのも面倒じゃない」
「はぁ……」
「そんな事より、ウルクルス王に会いましょう。私達の顔を見れば、警備してる連中も大体は察するでしょ」
「……普通なら前みたいに、侵入者として捕まっちまうってのによ……」
自身の目的を最優先とするアルトリアは、共和国の事も特に考えずにウルクルス王と会う為に謁見の間へ向かう。
そんなアルトリアの行動に呆れ果てるケイルだったが、それでもその無謀さを補う為に警備する兵士や闘士部隊との衝突を免れるよう覚悟を決めて付いて行った。
そうして平然とした様子で王宮内の廊下を歩く二人を、警備している衛士や闘士部隊の服を着た者達が発見し始める。
するとその報告が届いたのか、闘士長メルクが複数の闘士達と共に素早く駆け付け、二人に怒鳴りを向けた。
「――……おいっ、お前達っ!! なんでまた王宮に居るっ!?」
「あら、メルクさんだっけ。この間はどうも」
「どうもじゃない! お前達、どうやって王宮に入ったっ!?」
「普通に、転移魔法で来ただけよ」
「転移……。……今すぐ、侵入者として捕らえてもいいんだぞ?」
「出来るものならやりなさいよ。でもそんな事しても無駄し、貴方が恥を掻くだけだから止めときなさい」
「ッ!!」
腕を組みながらそうした声を向けるアルトリアに、激昂するメルクは腰に備えた光剣の柄を握ろうとする。
しかしそれを止めるように間に入ったケイルが、二人に仲裁の声を向けた。
「アリア、言い過ぎだぞ!」
「ふんっ」
「メルク、いきなり来た事は謝る。だがアタシ達も火急の要件でな。ウルクルス王に会いたい」
「……また王に?」
「事は世界の滅亡に関わる。詳しい詳細は王やゴズヴァールにも伝えるから、アンタに取り成しを頼みたい」
「……いいだろう。だが王やゴズヴァール殿は現在、各国との通信会議に出席中だ。客間に案内するから、そこで待ってもらう。いいな?」
「ああ、それでいい。……お前もいいよな? アリア」
「……分かったわよ」
ケイルが上手く仲介し、事情をある程度まで理解したメルクがそれに応じる。
そしてウルクルス王とゴズヴァールが会議を終えるのを待つ形で、二人は王宮内の客間へと案内された。
しかし理由はともかく無断で王宮に侵入した二人に対して、二十名以上の闘士達が客間を包囲しながら監視する事となる。
そして幽霊するように押し込められた客間で、長椅子に座る二人にメルクは強い口調で命じた。
「――……王やゴズヴァール殿達に、お前達が来たことは伝えてやる。だからそこで、大人しく待ってろ。いいな?」
「はいはい、分かったわよ。でも早めにしてね。急いでるから」
「クッ、コイツ……!!」
「本当に悪いな。ただコイツの言う通り、出来るだけ早く伝えてくれ。もしかしたら、時間はあまり残されてないかもしれないんだ」
「……分かった」
態度の悪いアルトリアに代わるように、ケイルが改めて面会を急ぐよう頼む。
するとある程度まで怒りを抑えたメルクは、鼻息を荒くしながらも客間から出て行った。
そして残されたケイルは、隣に座るアルトリアを叱るように声を向ける。
「……お前なぁ、幾らなんでもあの態度は無いだろ」
「そう? 普通にしてただけだけど」
「アレが普通だって? ……お前、なんか変だぞ。どうした?」
「別に、どうもしないわ」
「……お前、焦ってんのか?」
「!」
「樹海に数日も居たのに、結局は空振りだったもんな。……お前の性格を考えりゃ、焦りもするか」
「……ッ」
「だけどな、焦れば見つかるってモンじゃないだろ。……それともまさか、そんなに時間が残ってないのか?」
アルトリアの悪態が焦りに因るモノだと気付いたケイルは、改めて残された時間について問い掛ける。
すると渋い表情を強める彼女は、大きな溜息を一つ吐き出しながら答えた。
「……はぁ……。……私達が探さなきゃいけない相手には、『白』が言っていた『彼女』も含まれてるわ。恐らくその彼女は、魔大陸の何処かに居るはずよ」
「確かに、そういう話だったな。でも、場所はヴェルズ村ってとこなんだろ?」
「魔大陸は人間大陸の数十倍の規模があるのよ。しかも強力な魔獣だけじゃなくて、強力な魔族達も棲んでる。そんな場所に探しに行って、どのぐらいの時間が掛かると思う?」
「……そりゃ……」
「最悪、魔大陸に行ったら魔族達や到達者と遭遇して死ぬ可能性もあるし。仮に無事だったとしても、彼女を見つけ出すのに数十年なんかでは利かないくらいの時間が必要になるかもしれない。……そう考えたら、時間なんて残されてないようなモノだわ」
「……そうだがな」
「せめて魔大陸に行く前に、人間大陸に居る欠片を持つ候補者を何人か見つけておかないと。……でないと、いざという時に何も出来ない」
「……だからこそ、焦ってるわけか。……だからって、周りの連中に当たるなよ」
「……」
「お前の悪い部分は、変わってねぇな。……ちゃんと周りの連中に説明すれば、こうやって納得して対応してくれるんだ。でもお前みたいな態度だと、協力してくれる事も協力してくれねぇぞ」
「そうなったら、この世界が滅ぶだけよ。そういう決断をした連中の自業自得だわ」
「おいっ」
「私はね、今も昔もこんな世界なんか滅んだっていいと思ってるのよ。……貴方達さえ無事なら、それでいいわ」
「!」
「いざとなったら、貴方達だけでも別の手段で避難させる。その手段だって、私なりに考えてるのよ」
「アタシ達だけで避難って……何を言って……」
「箱舟を改造して亜光速航行も可能にすれば、この銀河系から離れて別の銀河にまで行く事も出来る。……いえ、いっそそうした方が良いのかもしれない」
「!!」
「貴方達と一緒にお兄様やパール達も箱舟に乗せて、別の銀河系まで逃げて……。……本当にもう、そうした方が――……っ!?」
循環機構の自爆を停止させる為の手段が確立されていない中、アルトリアは思考していた別案を呟き始める。
そうして自身の思考へ追い詰められているアルトリアを、ケイルは胸倉を掴みながら顔を上げさせた。
「……お前、何様のつもりだよ?」
「え?」
「昔からそういう部分はあったがな、今のお前は特に酷いぞ。……お前が自分だけで抱え込んでやろうとした事が、どれもコレも失敗してんのも都合よく忘れたのか?」
「……ッ!!」
「お前がどんだけ万能な権能と知識を持ってるか知らないがな。お前が自分だけでやる方法はどれもこれも失敗するって分かってる以上、そんなのに付き合ってやる気はアタシ等にはねぇんだよ」
「……でも、このままだと本当に……」
「そういうのはな、周りの連中が決めるもんだ。お前が勝手に決めて、勝手に進めるんじゃねぇ。……いいな?」
「……」
自分の思考に陥り決断しようとするアルトリアを、ケイルはそうして叱る。
それを聞きながらも渋い表情を更に深めてしまうアルトリアだったが、無言のまま頷きを見せた。
ケイルはそれを確認し、掴んでいた胸倉から右手を離してアルトリアを解放する。
するとそうした話を終えた直後、客間の扉を叩く音がした。
「!」
「――……失礼するぞ」
「アンタは……」
「……テクラノス」
叩かれた扉を開いたのは、黄色い魔法師の法衣を身に纏った白髪の老人テクラノス。
そして客間に入りその右手に握られる錫杖を床に着けると、二人に対して声を向けた。
こうして創造神の欠片を持つ者を見つけられずに焦燥感を強めるアルトリアは、ケイルに諫められながらマシラ共和国に訪れる。
そして待つ事になった客間にて、かつて二人が対峙したテクラノスと向かい合うこととなった。
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