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革命編 八章:冒険譚の終幕
厄介者の集い
しおりを挟むエリクが創造神の欠片を持つ者を探している事を知ったアルトリアとケイルは、その帰還を待ち合流する事を改めて決める。
そして各国から支払われたという多額の報酬がある事を教えられたアルトリアは、それを返却する為に傭兵ギルドまで赴くことを決めた。
一方その頃、マシラ共和国の傭兵ギルドに場面は移る。
するとそこには目立つ青髪の青年とアズマ国の和服を身に着けた金髪の女性が訪れ、傭兵ギルドの受付をしている女性の前に並んでいた。
「次の方、どうぞ」
「――……お金の振り込みと受け取りをしたいんだけどぉ、いいかしらぁ?」
「振込と受取と申しますと、傭兵間での手続きでしょうか?」
「そうよぉ。この子が持ってる認識票の預金からぁ、私の認識票の預金にお金を振り込んでくれなぁい?」
「それでは、認識票を受け取らせて頂きます」
「はぁい。じゃ、渡してねぇ」
「うん!」
受付の女性は用件を聞くと、目の前に居る青年と女性から傭兵の認識票を受け取る。
するとその認識票の色合いと刻まれた文字を見て、瞳を大きく見開きながら驚きの浮かべながら呟いた。
「と……【特級】傭兵の方でしたか、失礼しました。登録情報を確認させて頂きますので、少々お待ちください。――……【特級】傭兵のクビア様。そしてエリク様。確認させて頂きますが、御越しになられているのは御本人様でよろしいでしょうか?」
「あっ、僕が渡したのはおじさんのなんだ。おじさんが代わりに払っておいてねって言われてさ」
「……代理での預金引き出しとなりますと、その方に依頼された書類と証明が必要になりますが。それは御持ちでしょうか?」
「ううん、傭兵認識票だけしか貰ってないよ」
「申し訳ありません。それですと預金に関わる手続きは行えない規則となっております」
「えー、駄目なの? ……あっ、そうだ。傭兵ギルドのマスターに会えばやってくれるっておじさんが言ってたけど、それでどう?」
「ギルドマスターにですか? 申し訳ありませんが、ギルドマスターとの面会を御予約している方でしょうか?」
「ううん、そんなのしてないよ」
「それは……御予約の無い方との急な御面会は御断りさせて頂いております。申し訳ありませんが、向こうの受付にて面会の御予約を御取りになってから御越し頂けると」
「えー、駄目なの? んー、僕の傭兵認識票はどっかに行っちゃったからなぁ。……んー、どうしよっか。狐のお姉さん」
受付にエリクが持つ預金の振り込みやギルドマスターとの面会を拒否された青髪の青年は、隣に居るクビアにそう尋ねる。
するとクビアは自身の懐から何かを取り出すと、それを受付の机に置きながら口を開いた。
「この子の身元についてはぁ、私が保証するわぁ。これがその証明にならないかしらぁ?」
「え? ――……こ、これは……リックハルト商会の商号……その印鑑ですか……!?」
「それとぉ、これが帝国貴族家の付印よぉ。必要ならぁ、帝国に問い合わせてくれても良いけれどぉ。それでもギルドマスターに取次ぎはダメかしらぁ?」
「しょ、少々お待ちください!」
リックハルト商会の印鑑と帝国貴族の証明となる付印を見せたクビアに、受付の女性は驚きを強めながら慌てて取次ぎを行うべく席から離れる。
それを見ていた青髪の青年は、不思議そうにクビアへ問い掛けた。
「あれ、お姉さんが帝国貴族だっていうのは聞いてたけど。そっちの印鑑は?」
「私が経営してた孤児院で育った子がやってる商会がぁ、帝国産の魔石の輸出運搬を担当しててねぇ。その子に久し振りに会ったらぁ、私の貴族家で公爵家との取引交渉を御願いされたのよぉ。それでぇ、帝国に建てられた支店の支配人を任されてるわけぇ」
「ふーん、そうなんだ」
クビアが鼻を高くしながら話す自慢を、青髪の青年はそれ以上は言及せず納得を見せる。
それから受付の女性が戻って来るのを待っていると、二人を先頭とした列の後ろからある女性の怒声が聞こえ始めた。
「――……ちょっと、なんでこんなに渋滞してるのよ!」
「馬鹿っ、声がデケェっての!」
「?」
「あらぁ、何かしらぁ?」
後ろで騒ぐ声を聞いた二人は首を傾けながら、自分の後ろに並ぶ者達の先に居る騒動の主達を見る。
そして周囲の騒がしさを圧倒するような口の悪さを見せる二人の女性が、言い争う声が聞こえて来た。
「……だいたい、なんで傭兵用の受付が一つしかないのよ! 二つか三つは作りなさいよね!」
「だからウルセェっての! 少しは静かに待ってられねぇのかよ!」
「いいじゃない、この際だから文句ぐらい言わせなさいよ! 依頼の受付は向こうにいっぱいあるってのに。何? 傭兵なら少しは待たせても良いだろとか思ってるってわけ?」
「暴れるかもしれねぇ傭兵相手に、何個も窓口なんか作れるかっての。お前みたいな奴がいるからな!」
「何よそれ! 私がいつ暴れたってのよ!」
「何度も暴れただろうがよっ!? 共和国で一回、皇国のギルドで二回! 忘れたとは言わせねぇぞっ!!」
「あーあー、何のことか分からないわね! そんな記憶なんかすぐ忘れたわ!」
「お前なぁ……!!」
凄まじい怒声を向け合う女性らしき二人の声に、それを聞いている周囲は引き気味の表情を浮かべている。
しかしそうした二人の声を聞いている青髪の青年とクビアは、奇妙な程に強い既視感を感じながら呟いた。
「この声ぇ、なんか久し振りに聞いたようなぁ……」
「……んー、もしかしてお姉さん達かな?」
「え?」
「ちょっと見て来るね!」
女性二人の声を聞いたマギルスは、それが誰なのかを理解するようにクビアを置いて受付から離れる。
すると列を素早くすり抜けながら後方に出ると、そこで言い争う二人の姿を目撃した。
それを見たマギルスは、口元を微笑ませながら笑顔で呼び掛ける。
「やっぱりね。アリアお姉さん! ケイルお姉さんも!」
「えっ」
「マギルスか!」
「お姉さん達、共和国に来てたの?」
「え、ええ。……あれ、アンタ……エリクとフォウル国に行ったんじゃないの?」
「あれ、知ってるんだ。でも、僕とクビアお姉さんだけ戻って来たんだ! おじさんは『聖剣』を持ってるから、転移で一緒に来れなかったんだよね」
「!?」
「聖剣っ!? ……アンタ達、いったい何しに行ってたのよ……!?」
エリクと共にフォウル国に向かったはずのマギルスが傭兵ギルドに居り、しかもエリクが『聖剣』を手に入れたという話に、合流したアルトリアとケイルは不可解な驚愕を浮かべる。
そんな三人が話す場に、騒ぎを聞きつけた警備を担当する傭兵達が歩み寄りながら声を掛けて来た。
「――……おいっ、騒ぐなら他所でやれ! それともつまみ出されたいのか?」
「は? こっちは急いでんのよ、邪魔しないでもらえる?」
「何が邪魔だよ。ったく、こういう騒がしい奴がいるから傭兵の肩身が狭くなるんだ。……おいっ、コイツ等つまみ出すぞ!」
警備の傭兵は悪態を吐くアルトリアとその傍に居るケイルやマギルスを見ながら、建物から追い出そうとする。
そして苛立ちの表情を見せるアルトリアが腕を組んだままの指を微かに動かそうとした瞬間、その場を仲裁するようにある傭兵が介入して来た。
「――……待て待てっ!! コイツ等は手を出すな!」
「あ? ――……ジョ、ジョニーさん……!?」
「……あら、確かあの人って……」
警備の傭兵達を止めて三人との間に割って入った四十代半ばの男性を見て、アルトリアは記憶にある顔だと考える。
するとジョニーと呼ばれるその男は、アルトリア達にも顔を向けながら話し掛けた。
「お前等、共和国から帝国に戻ったって聞いてたのに。なんでまだいるんだ?」
「……この間、出迎えに来てた……なんとかって傭兵団の……」
「おいおい、【赤い稲妻】のジョニーだよ。忘れたのか?」
「ああ、確か一等級傭兵で、共和国のギルドで看板になってる」
「そうそう。それで、またなんでアンタ等が揃ってここに?」
「グラシウスに文句を言いに。私達を勝手に【特級】にしたり、無駄に多額の報酬を渡したことにね」
「……昇級はともかく、報酬を多く貰って文句を言う奴も珍しいな。なんでまた?」
「使い道の無い金なんか貰ってもしょうがないでしょ。だから各国に報酬を返すように言いに来たの」
「それは……ギルマスは渋るだろうなぁ。アンタ等への報酬の受け渡し自体が依頼みたいなモンだから、報酬を返すとなるとギルドに入った手数料はどうするとか、ややこしい話になるぞ」
「知らないわよ、そんなの。そもそも高い地位や多額の金を渡せば私達を懐柔できるなんて考えてるようなら、傭兵ギルドなんか辞めてやるわ」
「お、おいおい……」
過去にマシラ共和国で出会った一等級傭兵団【赤い稲妻】の団長ジョニーと再会したアルトリアは、今回の訪問理由についてそう話す。
すると苦笑を浮かべるジョニーが諭そうとする中で、受付の最前列に居たクビアが歩み寄りながらその光景を見て扇子越しに溜息を漏らした。
「やっぱりあの声、御嬢様だったのねぇ。……あらぁ、ケイティルもいるじゃなぁい?」
「え? ……クビア。やっぱお前だったのかよ。マギルス達と一緒に居たって魔人は」
「お久し振りぃ、皇国に話した以来かしらぁ」
二人の姿を見たクビアは、近くに歩み寄るケイルに気軽な様子で挨拶をする。
するとジョニーを相手にしていたアルトリアもまた、クビアに気付きながら顰めた表情のまま現れた二人に声を振り向けた。
「クビア。それにマギルスも、どうしてここに居るのよ?」
「私は仕事料を貰いに来たのよぉ、白金貨五千枚の仕事よぉ」
「はぁ?」
「エリクおじさんがさ、狐のお姉さんに転移魔術の報酬を預金から払ってくれってさ」
「……それで白金貨五千枚って、ぼったくりでしょ」
「私が言ったらそうだけどぉ、依頼人が提示した額だものぉ。それなら問題は無いでしょぉ?」
「はぁ……」
「それよりもぉ、そっちこそなんでここにぃ?」
「文句を言いに来たのよ。私達を勝手に【特級】傭兵にして、しかも膨大な報酬まで渡してたって聞いてね」
「あらぁ、お金をいっぱい貰えるのは良いことじゃなぁい。要らないならぁ、頂戴ぃ」
「アンタに渡したら余計な事に使うからダメよ。全部、各国に返すわ」
「えぇー」
そうした会話を交える五名に対して、周囲に居る者達の視線は奇異を見るモノとなっている。
しかし改めて彼等の容姿を見ると、その姿に覚えがある者達は口々にこうした声を漏らしていた。
「……あの青髪、もしかしてマギルスじゃないか?」
「元闘士の? 随分前に辞めたんじゃなかったのか」
「前は可愛かったけど、今は格好良い感じね」
「……あっちの金髪も、随分前に闘士部隊に居た魔人じゃなかったっけ?」
「あぁ、そうだ。どっかで見覚えがあると思った」
「じゃあ、あっちの二人も元闘士かな? ジョニーさんと親しいようだけど……」
「……さっき、向こうの金髪をアリアって言ってたけど……。もしかしてゴズヴァール殿を倒したっていう、あの?」
「えっ、まさか……」
彼等が周囲を気にせず話す言葉は、奇しくもその素性を明らかにさせていく。
そうしてジョニーを除く者達が周囲を囲む中、それを掻き分けるように現れた大男がその五名に怒鳴り声を向けた。
「――……お前等! また騒ぎ起こしてるのかよっ!?」
「あら、やっとギルドマスターの登場ね」
「来るなら来るって前もって連絡しろ! 忙しくても、英雄にはちゃんと対応してやるから!」
突如として来訪した危険人物達に、グラシウスはそう怒鳴る。
そして騒然とした傭兵ギルド内はグラシウスによって治められ、合流した者達は建物の奥にある客室まで纏めて案内された。
こうしてエリクを除く一行は、共和国の傭兵ギルド内で合流する。
それは互いの状況と知るべき情報を共有する為に、絶好の機会となったのだった。
応援ありがとうございます!
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