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終章:エピローグ
白馬と青馬
しおりを挟むアルトリアとエリクは、十年前の初めて出会った森に赴き思い出を話し合う。
そして当時のアリアが帝国領を出ようとした際、暗殺者達の襲撃を受けて死んでしまった彼女の白馬が埋められていた墓前に祈りを向けた。
そんな二人の前に、マギルスがいつも伴っている青馬が頭部の無い精神体のまま現れる。
すると白馬の墓標としていた枝木に近付くと、纏っていた魔力が変化し頭部を形成した白馬となった。
それを見たアルトリアは、自身の元相棒である白馬の名を呼ぶ。
それに応えるように鳴く白馬の姿に、二人は驚愕を浮かべながら状況を理解できずに困惑を深めた。
白馬はその顔を近付け、つぶらな瞳を静かに向ける。
すると見られているアルトリアは困惑しながらも、何かを確信するように呟いた。
「――……貴方は、まさか……ファロスなの?」
『ヒヒィン』
「え……で、でも。だって……なんで……?」
アルトリアは目の前に見える白馬が、幼少時から共に居た相棒だと悟る。
しかし青馬が白馬となった理由が分からず、困惑を深めるしかなかった。
そうした様子を見ていたエリクも近付くと、白馬に向けて問い掛ける。
「お前が、アリアが言っていた白馬なのか?」
『ブルッ』
「……本当に、そうなのか?」
尋ねられた白馬は、それに応えるようにエリクへ顔を向けて首を前へ傾ける。
それが頷きであると察した二人は、その白馬がアリアの元相棒である『ファロス』だと断定した。
しかしその答えが、二人を更に困惑させる。
「……どういうこと? なんで、マギルスの青馬が……私の白馬なのよ……!?」
「俺も分からない。……マギルスが、何か知っているかもしれないが」
「……アイツ、周りに居ないわよね……。……白馬だけ、付いて来たの?」
「多分。……どうする? 戻ってマギルスに話を聞くか」
「ええ、そうね――……」
『――……話すよ』
「!!」
「な……っ!?」
状況が分からず青馬と契約していたマギルスに話を聞く為に戻ろうとした際、二人の頭に直接その声が聞こえる。
それに驚愕しながら振り返った二人は、自然と白馬の方へ視線を注いだ。
すると微かに口部分を動かす白馬と連動し、二人の頭に『念話』が届く。
『話す、自分で出来る』
「これは、『念話』……!?」
『契約者以外にすると、疲れる。だから、普段はしない』
「……!!」
改めて目の前の白馬が『念話』を介して自分達と話そうとしている状況に、二人は唖然とした様子を浮かべる。
そんな二人の顔を見ている白馬は、アルトリアに顔を向けながら話し始めた。
『……十年前に、ここで死んだ。この場所に、来る為に。約束だった』
「!」
「約束……?」
『黒、約束した』
「!?」
「な……!?」
『会わなかった別未来から、来た』
「……!!」
白馬はそう話し始め、二人の表情は強張りを強める。
するとその言葉から何かに気付いたエリクは、白馬に問い掛けた。
「……まさか、お前も『黒』の能力で……未来から戻って来たのかっ!?」
『うん。でも、違う』
「違う?」
『君達が会わない未来。別未来から来た』
「俺達が、会わない未来……?」
『君達が会わなかったから、私の別未来は無くなった』
「!」
『黒が言ってた、ここに来いと。そうすれば、大丈夫だって言った』
「……そ、それは……おかしいわよっ!?」
白馬が語る話を聞いていた中、アルトリアは困惑を強めながらその言葉を否定する。
すると不思議そうな瞳を向ける白馬は、逆に問い掛けた。
『なにが?』
「だ、だって……私の白馬が死んだのは十年前! でも貴方は、その前からマギルスと契約してた精神生命体のはずでしょっ!? それじゃあ、肉体を持った貴方と、精神体の貴方が二匹いたことになる! それはおかしいわっ!!」
『どうして?』
「ど、どうしてって……!」
『君がしていた事を、真似ただけ』
「え……!?」
不思議そうな声を向ける白馬の言葉に、アルトリアは動揺を深める。
それを聞いていたエリクは何かを思い出すと、改めて白馬がどういう存在になっていたのかを理解した。
「……そうか。君は自分の魂を、身体と短杖に別けていた」
「え……。……まさか、貴方も私と同じように……自分の魂を、肉体と精神体に別けていたの……!?」
『そう』
「!!」
『でも、精神体は頭部が無くなった。君達のこと忘れて、精神体も消えそうになった。でも契約者に会って、魔力を貰った』
「……!」
『肉体は、ちゃんと約束を守った。……ここに在った私の精神が、戻った』
「……死んだ肉体から離れた魂が、ずっとここに留まっていたの……? それを今、貴方に戻ったから……その白馬に……?」
『うん』
拙くも事情を伝える白馬の言葉を理解しながら、改めて二人は今までマギルスの傍に居た青馬の正体に驚く。
それは二人が出会わずに滅びた世界を回避する為に、別未来の『黒』が遣わせた使者でもあった。
すると白馬は、改めてアルトリアにある事を伝える。
『ありがとう』
「え……」
『いつも撫でてくれた、嬉しい』
「……!!」
『ありがとう』
「……ぅ……う……ッ」
微笑むような声色で感謝を伝える白馬に、アルトリアは涙を零し始める。
そして両手で顔を覆いながら泣き始めると、今度はその後ろに立つエリクに向けて言葉を続けた。
『エリク』
「!」
『お願いね』
「……ああ。――……!!」
「!」
そう頼んだ後、再び白馬の精神体は白い輝きを放ち始める。
しかし今度は白い魔力が精神体から抜け始め、天に昇りながら光の粒子となって消え始めた。
するとその精神体も変化し、再び青い毛並みに戻りながら頭部分が消失していく。
そして数秒後には、抜け落ちた白い魔力は消え失せ、その場には頭部の無い青馬しか残っていなかった。
そうした様子を見ていると、青馬は不思議そうに周囲を見ながら鳴き声を発し始める。
『――……ブルル?』
「これは……」
「……肉体に留まっていた白馬の魂が、輪廻に行ったのね……」
「!」
「肉体に入っていた魂は、死んでいたから。……だから、残ったのは……生きているけど、白馬の記憶か無い精神体だけ……。……記憶は、渡さなかったのね……」
『ブル?』
アルトリアは消えた白馬と残る青馬の違いを理解し、改めてそう述べる。
そして消えた白馬の去った空を森の中から見上げながら、小さく呟いた。
「……私も、ありがとう。……輪廻で幸せにね、ファロス……」
改めて白馬との別れを告げたアルトリアは、頭の無い青馬に視線を戻す。
そしてその青い魔力で形成された精神体に右手を触れさせながら、青い毛並みを優しく撫でた。
それを特に嫌がる様子も無く、青馬は自らの足を進めて森の外へ歩き出す。
二人はそれを見ながら、涙を拭ったアルトリアが話した。
「……戻りましょうか、私達も」
「ああ」
二人はそう述べ、青馬を追うように歩き始める。
その二人を見送るように、白馬の墓標に日の光が射し込んでいた。
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