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Gドラゴン討伐

矜持

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謎の女の子の正体は伝説の鍛冶屋イチモンジハジメであった。
紆余曲折、荒波小波あったりもしたが、ようやく俺は最高の刀を打ってもらえることになる。
屋敷に案内された俺たちはそれなりにもてなされ、刀が出来上がるまでの時間を過ごした。
ラナはここまで来るのに疲れて眠ってしまったらしい。
可愛らしく横になり目をつむっている。
ラナの健康的で白い肌をいろりの火が照らし美しい。珍しく無防備に、暖かそうに眠る。
変わったものだ。
この子は、初めて会ったあのとき俺と同じ目をしていた。
だが、本当はこういう顔をするただの子供なのだと実感する。

「隠すの上手なんだね」

イチモンジが顔を覗き込んできた。
不機嫌に答える。

「なにが?」
「怒り? それとも殺意? キミ、いったい何があってこのボクに刀を打たせようって気になったわけ?」
「……隠してなどいない。その時まで取ってあるだけさ」
「こわいねえ、おしっこ漏れちゃうよ。あは、あはははっ。神様に一番近いボクにも教えてくれないほど、大切な感情なんだね、ふふっ」


イチモンジの奴はふざけたようにケラケラ笑う。
そういうお前だってどんな闇を抱えているのか。
まあ、そんなことはどうでもいい。

刀ができた。
魔力を通さず、刃こぼれしない逸品。
銘は月光。刃紋は月の光のように研ぎ澄まされている。

「こんなもの、いったい何を倒すために使うんだい?」
「ドラゴンさ」
「……キミはほんとうにおもしろい。生きていたら、もう一度会いたいな」
「いや、これきりだろう。ラナを頼む。無事に街まで返してくれるだけでいい」

そう。
この険しい山テンポウザンまでラナを連れてきたのには理由がある。
ひとつはこの先の戦闘に巻き込まれないように、避難させとくため。
俺がどこかへ行くと必ずついてくるからな。
もう一つは、ここからならロザリーナのいる街までさほど遠くないからだ。
すべてが終わった後、もし俺が戻らなかったとしても……自力でこの子なら生きていけるだろう。
頼めた義理ではなかったが、イチモンジはそのあたりは察してくれたみたいで助かった。
「そんなことして、この子悲しむんじゃないの?」
「……」
「やめてもいいんじゃない? だってみんな見てみぬふりなんでしょう?」
「そうだ」
悲しむ……か。
いや、これでいい。
娘を失った俺が、この子と暮らすのは無理だ。顔向けできない。
死んだ家族の名誉を取り戻すには、たった一つの選択肢しか存在しない。
あのドラゴンを殺す。
振り返らなかった。
刀を受け取り、ギルドで稼いだ金をすべて置いた俺は旅立つ。
居場所はわかっている。
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