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二章
戦う前の約束を×そう!
しおりを挟む人骨を緻密に組み合わせた悪趣味な椅子に座るのは、金髪オールバックの壮年男性。
アンデッドの主、魔王スリザリであった。
整った黒の燕尾服は、まるでダンスの会場へと向かう高貴なる貴族。
スリザリの座る椅子は10体ほどのスケルトンウォーリアが抱えており、まるで大名を乗せるかごのように大事に自らの主を運ぶのであった。
落ち窪んだ眼窩で遠くを見つめながら、スリザリは呟いた。
「いいのかねニイミ。あそこには君のセイトとやらがいるのだろう?」
スリザリに声を掛けられたのは中肉中背、30代は後半だろうか。日本人男性だ。
お世辞にも冴える見た目ではない。
サイズの合わないくたびれた茶スーツを着用し、ネクタイは外している。
ニイミと呼ばれた彼はトボトボと地面を歩きながらも、スケルトンの足並みに揃えて行軍できている。
こちらの世界にやってきてからというもの、体力、気力共に充実している。
レベルという概念もあり、年齢や単純な経験では能力を測れないのがこの世界の怖いところだ。
ニイミは、うすら笑みを浮かべながらスリザリの問いに答えた。
「いいんですよスリザリ様。あっちでは教師でしたが、こっちでまで真面目に教師をする必要はないんだ。だったら、俺は従うべき人に従うと決めたんです。スリザリ様に協力したら、一緒に召喚されたやつらは自由にしてもいいんですよね?」
「かまわん。我にセツカという男を差し出すなら、他の者はなんとでも自由にするがよい」
「……逆に好都合ですよ。セツカなんか興味ないです。セツカは空気の読めない最悪な生徒でした。あいつのおかげで俺は甘い汁を吸えなかった。でも今なら、俺には『能力』がありますから。生徒どもを屈服させて、俺の奴隷にしてやるんですよ。くくくっ」
「聖女の加護、か。こちらの世界で女や下僕どもはいくらでも作れるというのに、貴様はねちねちとそのセイトとやらにこだわりをもつらしいな。それほどまでに貴様にとってセイトとやらは魅力をもつ対象なのか?」
「ええ。俺の生き甲斐ですよ。女子高生と仲良くなれると思って教師になったんだ。なのに、なのにセツカは邪魔をした……あいつは許せない。その分、これからねっとり楽しませてもらう予定ですね」
「フン。歪んでいるな。我は貴様の目的になど一切興味はない。目下の目的はこの国の蹂躙さ。そのためにニイミ。貴様の能力が役に立つからな」
「わかっています。仰せつかった仕事をするまで、俺の欲望はしまっておきますよ。ひひっ」
「フン……」
スリザリは、頬杖をついてため息をついた。
まるで感情のうかがい知れない眼は暗黒に染まり、破壊とは無縁の牧歌的なオリエンテールの国を見据えている。
今ごろ王城へと篭っているだろう『殺す』スキルの少年に対し呟いた。
「セツカ。貴様の大事にしているものは、だいたい理解した。大事なものを奪われる覚悟は出来ているかね?」
□
「セツカは城に残るの~!? うそぉ」
ミリアのすっとんきょうな声が、広間に響く。
とても残念そうな顔をしているな。まるで一緒に戦場へと出たかったとでも言いたげだな。
しかし、俺は王城へと残らなければいけない。
簡単な配置を表にして、皆に共有する。
○王城
セツカ
ハヤサカ
○国境中央・スケルトンアンデッド主軍10万
レーネ
ミリア・ギルド連合
キシ・アマネ・元奴隷獣人女の子たち
サエキ・オオバヤシ・ミワ
○街道、牧草地帯・ヘルゴブリン&ウルフ騎乗兵2万
スレイ
オニズカ・サカモトグループ
女子運動部・女子進学組、残りのやつら
オリエンテール兵2万
○森林地帯・ゾンビ・グール混成軍5万
フローラ
イシイ組
ナカジマ以下秀才グループ
「お、おかしいじゃないかっ!!」
配置を見たナカジマは声を荒らげる。
「僕たちの戦力が明らかに少ないっ!! こんなの死ねと言われているようなものだっ!! セツカ君は、さっき僕たちが反抗したからわざと危ない目に合わせて見殺しにする気なんだっ!!」
「馬鹿をいうな」
俺はその意見を否定する。
「ゾンビとグールの混成軍は、人里のある街から離れて進軍をしている。つまりこちらにとって撤退を許される戦だ。だが、お前たちに期待している。一番つらい位置だが、お前らが勝てばこの戦は勝ったも同然なんだ」
すると、イシイ組の女どもは呆けたような顔で尋ねてきた。
柴犬のような顔の女、ミズハラと言ったか。
「どうして私たちが勝つと、たたかいに勝てるの?」
「お前馬鹿だな?」
「ばかじゃないし! ばかっていうほうがばかだし」
「説明してやろう。スケルトンは地形を気にせず王城へと向けまっすぐ進撃。騎乗兵は街道を利用して国内に浸透しようとしてくる。つまり絶対に止めなければいけないのは、足の速い騎乗兵だ」
俺が説明していると、パンダのごときメイクのコイケが口を挟む。
「ほえ? なんでなんで?」
「愚か者。騎乗兵を取り逃がしたら国民に被害が出るだろう。大方、国内へと侵入したらヘルゴブリン&ウルフは散るように部隊を分け撹乱行為をするに決まっている。逃がした分だけ、人が死ぬ」
「おろかものって、どういういみ?」
もういいやこいつは。
つまりは、何をしてでも。絶対に騎乗兵は止めなければいけないってことだ。
だから国の兵士2万もここに配置し、強力な拘束魔法を使えるスレイ。そしてクラスメイトの大半をここに向けた。
主軍のスケルトンは王城へ到達する前、辺境の街を呑み込むようにして進むだろう。
そうさせないためにレーネとミリアの二人と、ギルドの面々、オタク三人娘にキシ・アマネたちを差し向けた。こいつらは戦いに慣れているので、スケルトンに殺される心配が少ない。
スレイの軍が即座に騎乗兵を撃破したら、迅速にレーネ・ミリアの軍に合流。スケルトンを合流した戦力で撃破していく。それまでゾンビ・グールの混成軍が変な動きをしないように釘付けするのがフローラたちの役目だ。
噛み砕くように丁寧に説明を繰り返してやると、ウーパールーパーのような髪型のエンドウはやっと納得した様子で頷いた。
「そっか。うちらが頑張らないと、ヤバいってことか」
だいたいあってるからもうそれでいいや。
ゾンビ・グールは『後詰め』の軍だ。
ふらふらと動くのはミリアの言う通り戦力を分散させる思惑があるのかもしれないが……あえて大きな戦力であるフローラを振り向ける。
範囲攻撃を使えるフローラをこいつらのお守りにつけたが、正直戦力は不足すぎる。
フローラは頑張るだろうが、他の奴にはさほど期待していない。
「なんか……うちらセツカに期待されてね?」
「ちょっとやるきでた」
「セツカってよく見たらイシイ様よりちょっとかっこいいかも」
「バカ。イシイ様がもし生きてたらなにされるかわかんないよコイケっち」
「えー。うちセツカもいいかなって思ってきたかも。デートしてやってもいいかも」
「は? うける」
「それな」
俺は嫌だぞパンダ。いやコイケ。
とにかく、一番の問題であったビッチギャルグループ、イシイ組も何らかのスイッチが入ったようで、少しだけやる気を出した様子であった。
一方の秀才グループナカジマは、膝がガクガクと震えて止まらない様子であった。
「ぼ、僕にできると思えない。モンスターを殺すの、今だって怖いんだよ!! ここに来るまで生き物なんて殺すと思ってなかった。ゾンビとかグールとか授業で習ってないよっ。嫌だよ死ぬのっ!!」
取り乱し、泣き叫んでいる。
まあ、5万のゾンビはさすがに戦力差があるからな。
一緒に行くフローラの実力を知っていれば少しはナカジマの恐怖も消えるだろうが。
すると、俺のとなりにいたフローラがゆっくりとナカジマの元へと向かったのだった。
「大丈夫ですか?」
「ううぅ……あ。き、君は?」
「エルフの精霊神。フローラと申します。あなたの名前を教えてくださぃ」
「えっと、僕ナカジマです」
「ナカジマさん。ふふっ。いいお名前ですねぇ。ところで、ふーちゃんと一緒にゾンビ退治に行ってくれるお方って、ナカジマさんでお間違いないでしょうか?」
「は、はい。なんて胸が大きい……いや、美しいお方なんだ……」
「ふふっ。お上手ですねぇ」
ナカジマの目の前で、精霊神のおっぱいが揺れる。
ナカジマの奴、フローラのおっぱいをまじまじと凝視してやがる。なんて気持ちの悪い奴だ。
しかしそうやってフローラがナカジマといくつか会話を交わし、大きな胸をたおやかに揺らしてみせたところ。
「セツカ君。敵はどこだい? このナカジマ。精霊神フローラ様の剣となって孤軍奮闘たたかいましょう!!」
ものすごいやる気と共に立ち上がったのであった。
なんてわかりやすい童貞なんだナカジマ。
フローラはあきらかな営業スマイルでナカジマに微笑みかける。
「期待しておりますぅ。がんばろうね、ナカジマさん?」
大きな胸が、跳ねる。
「イエス。ユア、マジェスティ!!」
騎士が完成したみたいだな。
よかった……のだろうか?
問題は他にもあった。
主軍、スケルトンに差し向ける兵の方である。
レーネは強いので心配していないのだが。
ミリアは仮にも一国の王だ。間違っても何かがあってはいけない。
「大丈夫よ。私が最前線で全部の敵をセツカのために撃破するわ」
それが駄目だと言っているのだミリアよ。
しかし、ミリアの戦力もかなりのものなので必要だ。
ギルドからは冒険者の荒くれものたちと、ペニーワイズも出る。
そいつらにミリアが無理をしないように見てくれと念をおしておいた。
キシ・オオバヤシ・ミワの三人はこれまでのダンジョン攻略の成果をみて信頼している。
そう三人に伝えたところ、「フラグたったんじゃ?」と顔を赤くしてもじもじと三人で抱き合っていた。
そういう文化なのだろうか? 最近のオタクのコミュニケーションはよくわからん。
やがて出撃の時間が来て、レーネ、スレイ、フローラは俺の元へやってきて抱きついてくる。
ちょっと恥ずかしいが、みんなの元気をもらえるようで嬉しい。
これでは戦場に行く夫を抱く妻みたいじゃないか。小さな美しい妻たちに抱き締められてとてもくすぐったい。
戦場に行くのは彼女たちなんだけどね。
「ご主人さま。すこしの間、がんばってきます! さみしいです~」
「私が早く騎乗兵を片付けないと、二人とも苦労しそうですね……セツカ様、みていてくださいね!!」
「ふ~ちゃんの役目は理解していますぅ。セツカちゃん、信頼してくださってありがとうございますぅ」
「みんな気を付けて。作戦があって俺はここから動けないから、君たちにこの国がかかっている」
「わかりました。いってきます!」
「しばしのお別れですね!」
「すぐに戻ってくるですぅ!」
三人は戦場へと向かう。
そして、はにかみながら俺のもとへ寄ってくる真っ赤な髪のお姫様。
まったく、髪の色と変わらないぐらい顔を赤くして何を企んでいるんだか。
「あの、セツカ。そろそろ出撃だけど。わたしね、がんばるよ」
「ああ」
「だからそのね? わたしがスケルトンたくさん倒したら、その、一個だけなんでも願い事を聞いて欲しいんだけど、駄目だよね?」
「いいぞ」
ありえない物でも見たような顔で固まったミリア。
おいおい。俺はお化けじゃないぞ?
「ええっ。なんでも、一個だけなんでも言うこと聞くんだよ? 絶対なんだよ?」
「構わない」
俺は、当たり前のようにいい放つ。
するとミリアはボンと顔を爆発させうつむいてしまった。
なにを頼む気だ? 恥ずかしいなら最初からすな。
「だが、こちらからも条件がある」
俺は続けた。
ミリアは真剣なまなざしでこちらを見ている。
「必ず無傷で帰ってこい。無傷で、誰よりも活躍してみせろ。そうしたらミリアの願い事をひとつ聞いてやろう」
「……うんっ!!」
弾けるような笑顔で、ミリアは頷いた。
まるで薔薇の花のように美しく、たぶんミリアと知り合って一番可愛らしい表情をしていると思った。
絶対本人には言わないけどね。
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