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四章
sideミリア〜ひとりぼっちの女の子〜
しおりを挟むセツカたちが最初に王城へとおもむき、スレイやクラスメイトたちとの久しぶりの対面を懐かしんでいるころ。
ミリアはギルドにやってきていた。
建物が変わっている。
コンクリートで建設されたギルドは幼いころミリアが過ごした木造のものとは違っていて。
詰めている人間も顔ぶれが知らないものばかりだ。
ミリアはまるで自分の人生を否定されたような気分になるのだった。
「ミリアちゃんか……懐かしいな。遅かったね」
「ひさしぶりねバードウェル。レッドアイは?」
「そんなもの、ずっと前に解散さ。何年経ったと思ってる? 他のメンバーは散ったよ。もうあのころのギルドじゃねえ。レッドアイが最強だったころが懐かしいさね」
「そんな……ほんとうに、こんなに変わってしまったの?」
「ミリアちゃん、残酷だけど時ってのはなにもかも一緒につれて、先に持ってくもんだ」
ミリアに声をかけたバードウェルは斧つかい。
ミリアの母ペニーワイズが団長をつとめるパーティ、レッドアイのメンバーだった男だ。
今ではギルドの入り口に腰掛け、昼間から酒をあおっている。
あのころの強靭な肉体はみる影もない。
みるに耐えない仲間の落ちぶれた姿だった。
「あんたと団長がいねえなら、レッドアイの意味がねえ。俺は早々に戦場を離れたから、こんな風に生き残っちまった。死に場所をなくしたよ」
「……そんな。お母さんは?」
「ギルドの裏をみてみな。俺はオススメしないがね……」
「わかった」
ミリアはギルドの裏手へと回る。
そこは、さみしい共同墓地になっていた。
墓石には散っていった仲間たちの名前が刻まれている。
ミリアはひときわ大きな墓石の中に、見知った名前をいくつか見つける。
「みんな……戦って死んでしまったのね。あたしがいない間に、神徒なんておかしな敵にやられて。あたしがいたら、絶対に守ったのに」
唇を噛み締めるミリアの瞳に、信じられない文字が飛び込んでくる。
○オリエンテールの偉大なるギルド長ペニーワイズここに眠る。
「え?」
ありえない。
冗談だと思っていた。壮大なフローラのドッキリだと考えていた。
だって、お母さんはあんなに強い魔法つかいだったじゃん。
ミリアはいつの間にか膝から崩れ落ちていた。
瞳から涙がつたうことすら、今のミリアにはどうでもいいこと。
頭が理解を拒んでいる。
どうして、いつ、なぜ。
「ミリアさま。ペニーワイズさまから預かりものがございます」
いつのまにかギルドの受け付けが背後に立っていた。
数少ないあのころと同じ顔ぶれ。
いつか獲物を換金してくれていた女の子だ。
つかれたように歳を取ったが、今も彼女はギルドで働いているようだ。
しかし今のミリアにとってそんなことはどうでもいい。
「お母さんは、どうして死んだの?」
「……わかりません。原因は誰も知らないのです」
「そんなことがあるはずない!! あのお母さんが簡単に死ぬわけないじゃん。ちゃんと調べたのか!?」
「はい。埋葬を済ませたのは、ミリアさまがお戻りになる2年も前になります」
「やだ。嘘だっ!!」
「嘘ではございません。手紙を預かっているのです」
受付嬢は手紙を差し出すと、その場を後にする。
まるでその手紙を読む資格があるのは、ミリアだけだと言うかのように。
受付嬢が離れたあと、さみしい墓地でひとりミリアは飾り気のない手紙を開く。
らしくない細かい文字で、ペニーワイズの思いの丈が書き記されていた。
『最愛の子、ミリアへ』
この手紙をみているということは、わたしはこの世にはもういないでしょう。
という書き出しを一度でもやってみたかったんですー。お久しぶりですねー。
きっとこの手紙をミリアが目にするのは、数年後になるかもしれません。数十年後かもしれません。
わたしはペニーワイズ。もう気づいているかもしれませんが、これは偽名です。
わたしには本当の名がありません。
なぜならば、わたしは本物の人間ではないからです。
以前、わたしはミリアに嘘をついてごめんなさいと謝りましたね?
ごめんなさいミリア。もっと嘘をついていました。
あなたの両親を殺した犯人を、わたしは知っていた。
わたしはアリエルの正体を知っています。彼女は悲しい少女のなれの果てでした。
聖女サリアナに能力を託された存在が彼女です。その重圧に押し潰され、アリエルは狂ってしまった。
でも、本当はその役目はわたしがするはずだったのです。
人造人間ホムンクルスの第一号で、サリアナの遺作であるわたしが。
でも、ダメだった。わたしでは能力が足りなかった。
聖女は人間にしかなれなかった。
わたしは人間になりたい。
わたしは化け物です。3000年も自動で動き続けていて、今は魔法つかいとしてギルド長をやっています。
アリエルを止めるチャンスはいくらでもあったのに、彼女を止めることが出来なかった。
サリアナの魔力で製作されたわたしは、サリアナの魔力を受け継いだアリエルには全く歯がたちません。
それでも、アリエルはわたしを壊そうとしなかった。
サリアナが作ったものを壊すのが嫌だったのか。単に気まぐれかはわかりません。
それでも、わたしは長い間、彼女や人間の色々な部分を観察してきました。
人間は醜く、美しい。
わたしはアリエルに何度も人を傷つけたり、支配したりすることをやめるように言ってきました。
しかしアリエルは王族を支配すると同時に、いにしえの勇者の血筋を復活させようとしていました。
そうして王族に据えられたのが、ミリア。あなたのお母様とお父様です。
しかしいにしえの勇者の復活は難しいとアリエルは悟り、彼らは残酷な運命を迎えてしまいました。
もちろんわたしは抗議に向かいましたが、アリエルの精神は限界を迎えていました。
彼女は孤独のなかで狂ってしまった。
そして生き残ったあなたも、赤子のまま孤独の運命のなかに放り出されそうになっていました。
わたしの身体は生殖ができません。
あたりまえです。人造人間ですから、色々と不完全でした。
それでも、わたしはお母さんになってみたかった。
だからアリエルと取引をしました。お互いに干渉しない代わりに、ミリアをわたしが育てると。
わたしはアリエルのせいで乱れる国や人が殺される現実よりも、たったひとりのあなたを育てたいという欲望を優先しました。
そういう存在です。わたしは人間ではありません。
アリエルが裏で悪いことをしているのは知っていました。
知っていて、わたしは……。
バチが当たったのかもしれません。
気づいたのは、ミリアが王女に返り咲いたときでした。
うれしかったなー。ミリア、女王似合わないですー。
でも、彼とならんで立つ姿はまるで恋人どうしでしたよー?
あのときふと感じたのです。わたしの身体のなかの魔力が、すこしずつ枯渇に向かっている。
それは化け物のわたしにも、死が訪れようとしているということでした。
わたしは寂しく感じつつも、嬉しくもあったのです。
わたしは人間と同じように死ぬことができるんだ。
わたしは人間になりたい。
もっとはやくに手紙を用意すればよかった。
会えるうちに伝えておけばよかった。
まるで油を差さない歯車が、すぐにキシキシいってしまうようにわたしの身体は言うことを聞かなくなってきています。
賢者の石の魔力が切れてしまったのですね。
もうすぐわたしは止まります。それは、でも、幸せなこと。
孫もいないのに、おばあちゃんになった気分。
一文字を書くのに指がとっても重く、たいせつにできる。
そんなにさみしくはありません。
ミリアには彼がついているから。
じゃあね、ミリア。この手紙はギルドのメンバーに託すから。
彼によろしく。元気ですごしてね。
こんなわたしを、愛してくれてありがとう。
ミリアが誰よりも強い子だと信じているから。
彼がいればきっと、この国も……わたしたちの世界も、すこしは笑った顔が増えるのかも。
ミリアのわらったかおがすき。
愛しているわミリア。
わらってミリア。
わらって。おねがい。
あいたい。
どうか、もういちどわたしをおかあさんとよんで。
「うぁああああっ!! おかさぁあああん!!」
大粒の雨が降ってきた。
ミリアの嗚咽は雨音にかきけされ、天をあおいだ少女は何度も、何十回も母親をもとめる。
彼女がいったいなにをしたというのか?
運命は愛しい人をひたすら奪い、過酷な道のりばかり用意するではないか。
あまりに痛ましい少女の姿に、ギルドの面々は何事かと窓からのぞく。
しかし彼女の知り合いなど、彼女の心情をおもんばかれる人間などとうにその場所には存在しないのだ。
天気雨だったのだろう。
空には虹がかかり、びしょ濡れになった少女はうつむいている。
「セツカ……」
彼女を助けられる者はこの世界にただひとり。
彼女の孤独を殺せるとしたら、本当に選ばれた存在であるたったひとりなのだ。
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