人形姫の住む館

万雪 マリア

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第一章

第四話【リュミエール】

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 白昼夢だろうか。
 恐怖心か何かが、深層心理か何かに働きかけたのか、見えるはずのない景色が見えた。



 上等な炭を塗りつけたかのような、一面の闇の中に、きらきらと咲き誇る花があった。
 気高く美しい、真っ赤なカンナの花だ。光なんてないはずなのにそこだけにポツンと悲しそうに咲いている。
 その花は、やがて、そんなはずもないのに、私の背丈と同じぐらいに成長する。
 そして、ふわり、と根ごと浮いた。
 闇の中に、根の付いたカンナだけが、ぼやりと光を帯びて輝いている。
 甘い香りがする。
 その香りに惹かれてか、ひらひらと青い蝶が飛んできた。
 その蝶が花にとまった瞬間、ふわり、と植物は形を変える。

 妙に長いな、と思った葉は、すべて、金色の髪の毛に。

 赤い花は、生まれるように顔に変化する。落ちた花びらが、輝きを失って霧散した。

 閉じた瞳は、ふさふさのまつ毛が覆っている。


 間違えるわけがない。

 だって、あの姿は__。


___?」




 気が付いたら、ふかふかのベッドの上に寝かされていた。
 柔らかく体を包む毛布は、精神的な安寧をもたらす。
「気が付きましたか?」
「ましたかー?」
 もともと私が座っていたイスには、人形姫ことミアと、さっきここに来た人形が座っていた。正確には、ミアの膝の上に人形が座っている。その様はまさに人形である。
 いつの間に日が暮れていたのか、窓の外は暗く染まっている。しかし、嵐の気配は感じない。
「お食事の準備が出来ましたので……一階北廊下にある、赤い扉の部屋が食堂ですので、きてくださいまし」
 そういうと、わずかな残り香さえも残さず消えた。人形は残ったが、力を失って倒れこんだ。無機質な瞳が私を見つめている。
 その時、ぱっと頭が冴えた。
 まるで、頭の中の電球が光ったように。
 そして、目の前に、記憶が蘇ったのだ。

 ……これは、攻略サイトの……?

 確か、ミア__人形姫の館の、間取り図だ。
 ここから、どこに行くかを選ぶのだが……。
 今は、二階西廊下、二番目の客室にいる。
 向かいの部屋にアレン、右隣の部屋には、イルミナティと言う名前の宰相候補、左隣の部屋には、プルスと言う名前の護衛騎士、はす向かいにはコーサという名前の、表向き侯爵裏向き盗賊ギルドの元締めの息子がいる……みたいかな?
 三階の中央にある大部屋がミアの部屋で、一階の給湯室や厨房では、人形メイドの噂話が聞けたりもする。ほかには、一階には風呂場やトイレ、メイド部屋なんかもあり、二階には人形用連絡通路や、図書室なんかがある。
 そして、クローズド系……閉じ込められる系ではなく、初日から(嵐の中だけど)帰る事が出来る。また、ミアの話にあった「嵐がうんぬん」は、館から出た時に本物となる。
 また、移動には、廊下を移動するのに、短いと30秒、長いと5分かかる。部屋を捜索するには、客室で二分、特殊部屋で3分、大部屋で10分となる。本は、基本一時間、長いと半日で読み切る事が出来る。さらに、朝8時、昼12時、夜20時に食堂で食事をとるため、三十分時間がかかる。お風呂に入らなくても、水属性の「浄化」の魔法を使えばいいっぽい。お風呂に入ると1時間ロスするから、基本的に「浄化」の魔法で済ませようと思う。
 食事の時間、という事は、今は20時だ。貴重な探索時間を無駄にした。
 出鼻をくじかれた、と思いながらも、夕飯を食べに食堂に行った。




 食堂には、私一人しかいなかった。
 確か、攻略対象が集まって食べるはずなのだけど……。
 時間を確認すると、現在は20時30分。ちょうど皆がごはんを食べ終えた時間だ。
 まだ湯気が立っているハンバーグや、ちょっとしんなりしたサラダ、柔らかいパン、コンソメスープを順に口に入れる。
 「ごちそうさまでした」の代わりに「浄化」と唱えると、体がさっぱりした。汗などはかいていないだろうが、それこそ「お風呂に入ったあと」みたいだ。
 「浄化」の魔法、すごい。
 なんて思いながら、食堂をあとにした。




 …………がちゃん。

 …………がちゃん。

 …………がちゃん。

 …………がちゃん。

 …………がちゃん。

 …………がちゃん。


 静かになった館の中に、金属質な音が響く。
 ミアは、館のマスターキーを持って、館の戸締りをしていた。

「ふふ……全く、皆さま揃いに揃って危機管理能力が薄い……それとも、事を期待していたのでしょうか………?」

 言葉の内容とは裏腹に、彼女の顔には柔らかい微笑が浮かんでいる。

「……あぁ、それとも、こんど人形でもけしかけてやりましょうか……しませんけど」

 リュミエールの部屋の鍵を閉める前に、一瞬無表情になり、また微笑みを浮かべる。

 …………がちゃん。

 軽く伸びをすると、三階に向かって歩いていく。ミアは、その途中で、ゆっくりとつぶやいた。

「独り言が多くなりましたねぇ………直さなくては。ところで」

 ミアは自身の部屋に入り内側から鍵をかけると、ベッドに横になった。
 目を閉じる事もなく、何となしに部屋をぐるりと見まわす。
 シミ一つない天蓋は、真夜中であれ白いことがわかる。それに向かって手を伸ばそうとして、半ばまで来て、糸の切れたマリオネットのように力なく落とす。
 ネクリジェに身を包んだ彼女は、まるで絵画に出てくる夢魔のように美しい。もしくは天使のようだ。
 気のせいか、ぼんやりと淡く発光しているようにも見える。
 静かになった部屋の中で、彼女の甲高い、しかし無機質で単調な声が、いやによく響いた。



 __あの方々とって、会った事がありましたっけ?
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