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怪奇! 世界一怖いお宅訪問!(前編)
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__という言葉が、今の茜の状況を説明するのに一番ふさわしいだろう。
赤褐色、というほど暗くもないが、茜色、というほど明るいわけではない深い赤色のジャケットに、こっちは赤色と胸を張っていい鮮やかな色合いのネクタイ。膝上ギリギリのプリーツスカートとガウチョパンツの二種類から選べるが、茜は普段スカートの方を選択している。ガウチョパンツの方を選んだ場合一部潜ってしまうほど長い、キャベリエブーツと呼ばれる、履き口に折り返しを持つ靴は、ヒールがなく実は結構歩きやすい。背筋は意識せずともしゃんとのびているのが簡単にわかる。高校入試以来、いやそれ以上に緊張する事ってきっとないだろう。
とにかく上から下までこの世界の茜の正装でがっちりとかためた茜は、なぜか首都キャッスルヴィーの駅前とかいう、日本で例えるなら吉祥寺駅から徒歩三分あたりに近いだろう、最高立地に建った高級マンションに来ていた。
運転手に紙幣を渡してからドアを開けて、部屋番号を受け付けの端末に入力すると、ふわりとホログラムが浮き上がり、対面して話すことができる。びくびくしながら教えてもらった番号を汗ばむ指で入力して、到着した旨を説明すると、ドアが自動で開く。ここまではまだ理解できた。しかし扉を通り越した次の瞬間、茜は目的地の扉の前にいた。茜は知らない事だが、扉に魔術が仕込まれており、簡易的で行先が指定されているど●でもド●とでもいえばいいだろうか、そのようになっていたのだ。そんなことに気付かない茜は、混乱しつつ目の前を見つめた。黒と白のシックなドアであった。すぐにその扉は開き、中から薄い金色の髪の青年が現れた。満面の笑みで。
どうしてこうなった__と、茜は昼過ぎの事を思い出した。
今日はカフェに行く許可が下りず、茜はほかの社員の仕事を手伝っていた。とはいえ、茜がやったのはエクセルなどで作られる書類に不備がないかの確認の一人ぐらいである。というかパソコンがあったことが驚きである。収支決算書だと思われるそれには、月額会員と年額会員から徴収した会費、観戦するためのチケット代やそこで売るジャンクフードの食材費と売り上げの差など、割と普通のレジャー施設と変わらない事が書かれていた。どうやらゲームの世界では描写されなかったようだが、バトルしたり観戦するためには会員になる必要があるそうだ。そして茜にとってはとんでもない売り上げを出しているその事業にめまいがした。ひと月で茜の借金額の5割をかせいでいらっしゃる、この人たち。それはつまり、リエージュは、月何十万ドルも稼いでいるわけで。
__貴族怖い。
と思っていると、ガブリールさんがやってきた。そして、茜に何やらメモを押し付けて、「今夜来なさい」とつぶやいた。え? 衝撃的すぎて、というか物理的に衝撃がきて、事態は茜を置き去りにして続いていく。聞き返す暇はなくて、反射的にメモを見る。中には何やら紙幣と横文字。なになに? キャッスルヴィー駅前ヴェネツィア806号室? ナニコレ? そう思ってガブリールを見ると、「うちの住所です。ここからうちまでのタクシー代ですので」とだけ言って、去ってしまった。
呆然と立ち尽くす茜。事態は基本的に常に最悪を想像してしまう茜の中で、光も青く変わるような速さで組み立てられるストーリー。
「やだやだやだやだ! 無理ですよ死んじゃう!」
「強く生きて!」
「どういう事ですかラフィエールさん!」
がっと右肩をつかまれた茜は、涙目になってラフィエールをにらんだ。
どくどくと心臓が警鐘を鳴らし、恐怖からくる荒い呼吸を整えようと必死になる。
いったい何が「死んじゃう」のか、「強く生きて」なのか、絶賛混乱か発狂中の二人にはわからなかった。
一方ガブリールの気持ちに薄々気付きつつある職場の面々は、空気を読んで何も言わずに書類を処理した。もういっそ青ボス堂々とアイラブアカネ運動でもしてくれないかな、と思ったほどだ。いや決して面倒ごとをこうむりたくなかったとかではなく。
そして茜と別れたガブリールが、他国語で何やら叫んでいるのを見た絶賛迷子中のミアット。フイ? だかチョルト? だかよくわからないが、とりあえずよくない事を叫んでいるのは理解したミアットは、その場から逃走した。
そんなこんなでこのマンションにやってきた茜。いくら立てばジーザス座れば詐欺師歩く姿は唯我独尊と叫びたくなるような悪徳商人も真っ青な人物とはいえ顔は極上である。にっこりと微笑む彼は(その黒さを抜きにすれば)乙女ゲームの攻略対象と言われて納得できるような容姿をしていた。
赤褐色、というほど暗くもないが、茜色、というほど明るいわけではない深い赤色のジャケットに、こっちは赤色と胸を張っていい鮮やかな色合いのネクタイ。膝上ギリギリのプリーツスカートとガウチョパンツの二種類から選べるが、茜は普段スカートの方を選択している。ガウチョパンツの方を選んだ場合一部潜ってしまうほど長い、キャベリエブーツと呼ばれる、履き口に折り返しを持つ靴は、ヒールがなく実は結構歩きやすい。背筋は意識せずともしゃんとのびているのが簡単にわかる。高校入試以来、いやそれ以上に緊張する事ってきっとないだろう。
とにかく上から下までこの世界の茜の正装でがっちりとかためた茜は、なぜか首都キャッスルヴィーの駅前とかいう、日本で例えるなら吉祥寺駅から徒歩三分あたりに近いだろう、最高立地に建った高級マンションに来ていた。
運転手に紙幣を渡してからドアを開けて、部屋番号を受け付けの端末に入力すると、ふわりとホログラムが浮き上がり、対面して話すことができる。びくびくしながら教えてもらった番号を汗ばむ指で入力して、到着した旨を説明すると、ドアが自動で開く。ここまではまだ理解できた。しかし扉を通り越した次の瞬間、茜は目的地の扉の前にいた。茜は知らない事だが、扉に魔術が仕込まれており、簡易的で行先が指定されているど●でもド●とでもいえばいいだろうか、そのようになっていたのだ。そんなことに気付かない茜は、混乱しつつ目の前を見つめた。黒と白のシックなドアであった。すぐにその扉は開き、中から薄い金色の髪の青年が現れた。満面の笑みで。
どうしてこうなった__と、茜は昼過ぎの事を思い出した。
今日はカフェに行く許可が下りず、茜はほかの社員の仕事を手伝っていた。とはいえ、茜がやったのはエクセルなどで作られる書類に不備がないかの確認の一人ぐらいである。というかパソコンがあったことが驚きである。収支決算書だと思われるそれには、月額会員と年額会員から徴収した会費、観戦するためのチケット代やそこで売るジャンクフードの食材費と売り上げの差など、割と普通のレジャー施設と変わらない事が書かれていた。どうやらゲームの世界では描写されなかったようだが、バトルしたり観戦するためには会員になる必要があるそうだ。そして茜にとってはとんでもない売り上げを出しているその事業にめまいがした。ひと月で茜の借金額の5割をかせいでいらっしゃる、この人たち。それはつまり、リエージュは、月何十万ドルも稼いでいるわけで。
__貴族怖い。
と思っていると、ガブリールさんがやってきた。そして、茜に何やらメモを押し付けて、「今夜来なさい」とつぶやいた。え? 衝撃的すぎて、というか物理的に衝撃がきて、事態は茜を置き去りにして続いていく。聞き返す暇はなくて、反射的にメモを見る。中には何やら紙幣と横文字。なになに? キャッスルヴィー駅前ヴェネツィア806号室? ナニコレ? そう思ってガブリールを見ると、「うちの住所です。ここからうちまでのタクシー代ですので」とだけ言って、去ってしまった。
呆然と立ち尽くす茜。事態は基本的に常に最悪を想像してしまう茜の中で、光も青く変わるような速さで組み立てられるストーリー。
「やだやだやだやだ! 無理ですよ死んじゃう!」
「強く生きて!」
「どういう事ですかラフィエールさん!」
がっと右肩をつかまれた茜は、涙目になってラフィエールをにらんだ。
どくどくと心臓が警鐘を鳴らし、恐怖からくる荒い呼吸を整えようと必死になる。
いったい何が「死んじゃう」のか、「強く生きて」なのか、絶賛混乱か発狂中の二人にはわからなかった。
一方ガブリールの気持ちに薄々気付きつつある職場の面々は、空気を読んで何も言わずに書類を処理した。もういっそ青ボス堂々とアイラブアカネ運動でもしてくれないかな、と思ったほどだ。いや決して面倒ごとをこうむりたくなかったとかではなく。
そして茜と別れたガブリールが、他国語で何やら叫んでいるのを見た絶賛迷子中のミアット。フイ? だかチョルト? だかよくわからないが、とりあえずよくない事を叫んでいるのは理解したミアットは、その場から逃走した。
そんなこんなでこのマンションにやってきた茜。いくら立てばジーザス座れば詐欺師歩く姿は唯我独尊と叫びたくなるような悪徳商人も真っ青な人物とはいえ顔は極上である。にっこりと微笑む彼は(その黒さを抜きにすれば)乙女ゲームの攻略対象と言われて納得できるような容姿をしていた。
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