私がしっている異世界トリップとだいぶ違うのだが誰かマニュアルを持ってきてくれないか

万雪 マリア

文字の大きさ
21 / 33

新入社員は波乱を運ぶ

しおりを挟む
「面接の受け答えもしっかりしてるし、学歴にも問題ない。採用一択でショ」
「いやいやいや、すでに前例っぽいなにかがいる気もするけど、貴族を雇うって刺されかねないですからね!?」
「うっさいなぁエルメス。ボクがいいっていったからいいノ。それとも、逆らって……」
 減給されたい? その言葉を言外に告げられたエルメスは固まる。現代日本ならパワハラで訴える事すらできそうだが、そんな制度がないこの世界。不条理がはびこる中で、ラフィエールは鼻歌混じりで判子を押した。マジレセオ最高責任者の印をなぜリエージュではなくラフィエールが持っているかは察してほしい。とにかく、エルメスの目の前で朱肉により消える事のない印が押された。
 現実逃避のために履歴書をちらりと見てみる。

 旧王立イケメン学園卒業__

 見る人が見れば吹き出して「なんだよこの名前!」と指さして爆笑するような、ふざけた名前ではあるが、これは貴族の中でも天才的なマジバトの才能を持つ令嬢子息が通う学園であり、イケメン学園という名前にも、一応「学園の創立者である旧王朝の家名が『イケメン』であったから」という立派な(?)理由があるのだが、それはどうでもいいとしよう。つまるところ、『王立イケメン学園卒業=エリート貴族』というふざけた等式が成り立つわけである。文面だけ見ると小学生低学年向けの少女漫画と現実をムリヤリ結び付けたようなものであるが、とにかくそうなのだ。
 しかしずっとにらんでもその文字が変わることもなく、採用の判子がゆがむこともなければ、証明写真の麗しい(?)少女はにこにこと微笑んでいた。






「おはようございます! 今日からこの職場でお世話になります、です! よろしくお願いします!」
「げぇっ!?」
 朝いちばんに「げぇっ!?」と叫んだのはミアット。その目の前には、長いみつあみを振り回す、自らと色違いの制服をしっかり着用した美少女。ちなみに色違いというのは、ミアットはバトル職員の制服である紺色だが、目の前で笑う少女は景品交換所職員の制服である深緑色の制服を着ている。ちなみに茜は、非常勤であるため深い紅である。まぁ、基本的にカフェにいるが。
 その声に引き寄せられたように、その場にいた全員の職員が群がってくる。その9割9分9里が紺色である。
「よろしく、マリーさん!」「若いね、年いくつ?」「好きな食べ物何?」「彼氏いますか?」「方向音痴ミアットさんとはどんな関係があるの?」「スリーサイズは?」「今日の下着の色は?」
 と全員が一斉にまくしたてる。
 マリーと名乗った少女は、笑みを崩さないまま、
「よろしくお願いします。年は15歳で、飛び級して卒業したので、姉が働いてるこの職場にお世話になることになりました。好きな食べ物はとくにありませんね。彼氏は……いる、と思いたいです。彼氏いない歴=年齢なんで。ミアットさん……は、姉ですね。いつもお姉さまがお世話になっています。スリーサイズは上から63、60、65です。今日の下着の色は……何色だと思います?」
 と言った。
 それを見ていたミアットは、マリー聖徳太子かよ、と思ったとかどうとか。とにかく目の前にいる「マリー」と自分の妹の「マリーア」が同一人物であることは確実である。
「えっと、マリーア? 学校飛び級したの? できたの? というか家はどうしたの?」
「飛び級なんて私の成績+家名の威力の前じゃ簡単でしたよ? 家は、アホ長男の相続と、アホ長女の嫁入りがきまったんで安泰ですね。で私は飛び出してきました。いやぁ、ほんとに採用してくれるとは思いませんでしたよ。バトル職員じゃなくて景品所職員になったのが謎ですが」
「とうぜんでしょ、貴族のお嬢様にバトルさせるなんて……」
「ブーメランですよお姉さま」
 その会話のさなか、職員たちの中では、マリーの立ち位置が決定しつつあった。そう、次の瞬間まで。

「いや帰ってくれない? これ以上実家のやっかみって面倒なんだけど」

 とミアットが発した瞬間、マリーのその双眸から涙がこぼれだした。

「どうしたのマリーア」
「うえ……う、わたし、おねーさまといっしょ、だめですか? じっか、めんどくさい? わたしも、めんどくさいですか?」
「いやね、会話してこマリーアちゃん?」
「ごめんなさい、おねーさま……おねーさまのおやくにたちたくて、にゅーしゃしたのは、ほんとなんです」
「……あぁいつものやつか。大丈夫だよ、変な事考えないで。私はマリーアの事好きだから」
「やだ!」
「え」
「チェシャ猫さんでやってください! 昔やってくれたやつ!」
「あぁ、10年前くらいにやりましたね!いやでも今職場で人の目があるしあとで」
「じゃあいまここでポルポトの毒を飲んで死にます!」
「職場を盛大な自殺の現場にしないで!」

 この間、職員たちはポカーンとしている。一部は目玉と耳にゴミでもついたかと目をしきりにこすり耳をかっぽじっている。
 しかし目の前の姉妹喧嘩(?)は続いている。どうやらこれは現実らしい。
 やがてミアットは意を決したように、すっと息を吸った。
 そして__言った。


「……………………ちぇしゃねこ、まりーのことすきにゃ~♪」


 一部は盛大に吹き出した。一部は新たな扉を開いた。大半はゴミ、いやゴミでも人様の役にはたっているな、こいつより価値のないものを探す方が難しいなんてある意味すごいな、とでもいいたいような瞳でミアットを見ていた。ちょっとあのゴミ以下のものをみる目は忘れられそうにありません。心の黒歴史ノートにまた新たな一ページが刻まれたミアットであった。

「……えへ、お姉さま可愛いです」
「泣き止んでよかったよ、マリーア……」



 マリーアははかなげで、目を離せば壊れそうなか弱さを持ちながら、時に誰よりも強い。暖かいのに貴族らしい冷酷さをもち、弱き者に対する慈悲の心を忘れていないが、時に横暴。しっかり者かと思いきや、年相応の無邪気さを持つ。強がりのいじっぱりなのに急に気弱になったり、暴虐かと思いきや情に厚く親切。孤高の気高さを持ちながら、みなに平等に手を差し伸べる。
 __言い換えると、めちゃくちゃ情緒不安定なのである。



「なぜ採用したのですカ」
「だって学歴大丈夫だし面接もクリアしたよ」
「だからとはいえ貴族とかいう地雷を抱え込む必要はないでしょう」
「逆に落としてうちに貴族からの問い合わせきたらどうするの?」
「……ッチ……」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

処理中です...