異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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異世界に連れていかれた。

二話・領主様の前に引っ張り出された。

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「えーっと、つまり」

 アンチェ姉さん、いつの間にか帰ってきていたジン兄さんとお母さん、お父さんが言うには。

 この世界には、お貴族様だけが使える特権の、「魔法」と呼ばれる特殊能力があり。

 僅かでも魔力があれば、魔法を暴発させないようにと、六歳になったら、魔法を扱うために国を超えて作られた学校の「ユグドラシル学院」というところに行かなければいけなくて。

 時々生まれる、平民の魔力持ちは、余程魔力が大きくない限り、自費でユグドラシル学院__めんどくさいからユグ学院でいいや、に行かなければいけない。

 で、平民の魔力持ちは、平民街と貴族街の丁度境目に存在する、北門……通称、貴族門に行き、その存在を知らせなければならないのだそうだ。

 うわファンタジーめんどくさい。
 そんなこんなで、「一張羅だから汚さないでね」と黒いワンピースを着せられて、髪の毛も梳かされて、としているうちに、いつの間にか両親兄姉も準備が終わっていた。
 すごく、可哀想なぐらいに、ガタガタと震えている。
 私には何故だかわからなかったから、とりあえず一緒になって震えておいた。
 そして、お父さんにおんぶされながら、私は家を後にした。
 まともに家にいたの、一時間もなかったな……と思いながら。


「は? こんな子供が魔法? ないね」
 なんだか偉そうな人が、頭ごなしに否定してくる。
「で、ですが……」
「口答えすんな、殺されたいのか、あぁん?」
 なんだか、前世の不良を思い出すなぁ。
「そうだな、嬢ちゃん」
 私を指さして、偉そうな人は、厭らしく笑う。
「本当だってんなら、ちょっと魔法使ってみなよ、無理なら一家全員牢獄行きな」
 ゲラゲラと品もなく笑う。
 それにちょっとむっとして、私は、とりあえず適当な魔法を使ってみようと思った。
 家族の視線が、助けを乞うようにこちらに向く。
 お父さんは、私をゆっくりと地面に下ろした。同時に、私はこう言い、指を上に掲げた。


「『ファイア』」


 空間が、ねじ曲がった。

 時間が止まったように、風は動きを止める。

 直後に、私の人差し指から天に向かい、一筋の炎が駆け上る。

 そのあまりの熱波は、一瞬で眼球を乾かせて、草木を燃やす。

 赤く燃え滾る炎は、一瞬、全ての音を奪ったのち、近くの雑草を灰に変えながら、紅色の光となり消えた。

 それを唖然とした様子で見守っていた父母兄姉。
 そして、あっけにとられたまま、門番は服の一部が焦げた事にも気付かずに卒倒した。


 がたがた、車輪が揺れる音がする。
 何故、私は馬車に乗っているのだろう。
 しかも、おそらくとんでもなく偉い人の馬車に。

 あの後、しばし茫然とした後、別の門番が出てきて、ものすごい速さで何かまくし立てると、そのまま中に入っていってしまった。
 置いてかれた私達家族は、三分程待った後、やっぱり帰ろうという話になったのだが、何故か門が開き、私と母と父は馬車に押し込まれた。
 馬車は白色で、青で薔薇の刻印がされている。
 揺れも全くなくて、椅子の素材はマットレスだろう、フカフカである。
 馬は二頭、どちらも白馬で、足も速い。御者は、金髪金目のイケメンさん。
 父はビクビクしながら、母は今にも泣きそうになりながら、気不味い時間を過ごしている。
 胃が痛い。キリキリする。喘息の薬と、あと胃腸薬プリーズ。
 そして、しばらくした後、私達が連れてこられたのは。

「ねぇ……これって……」
 明らかに他より一回り大きい、青色の屋根に白い壁の建物。
 個人の屋敷、というより、どちにかと言うと……。
「領主の、城、っぽく、ない……?」
 小刻みに震えるお父さんに抱きかかえられて、私達は、その大きな建物の中に案内された。



「領主様は、美しいもの以外目に入れたくないそうです」

 そういわれて連れてこられたのは、前世でも童話の中でしか見た事がないような、大量のドレスがおいてある……衣装部屋? であった。
 その中から、下に行くにつれ白っぽくなって行っていて、ところどころレースが施されていて、リ ボンで胸元を結んである、長袖のベビードールを取り出した。
 どことなくゴシックロリータ調になっていて可愛いが、丈が短い。
 しかし、筋力値1の私にあらがう事は出来ず、結局着替えさせられてしまった。
 髪の毛は、短いからか一部を編み込んで、鏡の前に放りだされる。

 そこにいたのは、物の道理もわからない幼女然ではあったが。

 肩で揺れる、光を反射して輝く黒い髪に。

 黒真珠のごとくつぶらな黒い瞳。

 労働感を感じさせない真っ白な肌に黒いベビードールをまとわせた。

 ___絶世の美幼女。


 えっ、なにこれ、コレが私?

 いや確かにアンチェ姉さんもジン兄さんもお父さんもお母さんも綺麗な顔立ちだなとは思ってたけど、すくなくとも私もブスではないと思ってたけど。

 だからって、ここまで?

 愛らしい顔を驚きで染めて、幼女は鏡ごしに私を見つめる。

「え、ナニコレ」
「領主様がお呼びです」
「えっ」
 軽々抱き上げられて、そのまま鏡の前から引きずり降ろされた。



「其方がエルノアか」

「はい」

 そこには、銀髪に青い目の美青年が。
 領主って言うからにはおじいちゃんだと思ってたんだけど、とても若々しい。
 多分、二十代後半ぐらいなのではないだろうか。

「よいか、エルノア。其方は魔法が行使出来るとか」

「はい、まぁ、そうみたいです」

 領主様は、どこからか紙をとりだした。きっと、これも魔法なのだろう。

「戸籍上、其方は貴族の庶子ではない事がわかっている。同時に、其方の母親も、身売りなどはしていないと言っていた」

 そこでだ、と紙を見せる。
 そこに書いてあった文字は、小さくて読めなかったけど。
「とりあえず其方の魔力量を調べたいので、この紙に手を置いてもらえないか」
「………はぁ」
 領主様の執事……なのかはわからないが、それっぽい人物が、領主様から紙を受け取り、こちらに寄越す。
 それには、なんだか複雑な紋様と赤緑青茶黄白の光がって、え?
 すごい勢いで光が伸び、あっという間に天井まで届く光の柱と化す。
「……そんな、バカな……」
 どうやら、この光の柱で、領主様は何かを察したらしく、信じられないものでも見るようにこちらを見る。
「……という事は、どこかに養女として迎え入れさせて……アイリアス侯爵家……いや駄目だ、リリデバリス伯爵家……違う、シャクシャーヌ子爵家……いや、ヴァシュニャコフ公爵家は……あぁもう、いっそ領主の家系にでも……」
 領主様は、ブツブツとつぶやいている。
 内容もしっかりばっちり聞こえているのだが、養女……養女ねぇ。
 将来、政治か戦争の駒として使われる未来しか見えない。
「と、とりあえず、護衛と部屋を与えるので、しばらく大人しくしているように!」
「はい」
 私は、おそらく二歳児らしからぬ動きで、領主に跪いて、その場を後にした。
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