異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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勇者になるための準備

二十四話・ライドール天才疑惑浮上

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 淡いソーダブルーの髪の毛はサラサラロングで、朝の海のようなエメラルドグリーンの瞳は、性別を感じさせない。
 砂糖か何かでできたのではないかと思うほど、醸し出す雰囲気が甘い。
 美しい、というより可愛らしい、という表現が似合うような少女が、そこにいた。


「って……え? え!? これ、どうしたの!?」
 どう見ても精霊である。水の精霊。だいぶん前に見た事がある。だからわかる。でも、なぜこんな所に?
「いやあ、実は最近、精霊を口寄せできるようになって」
「え、は………はぁ!?」
『こにちはぁ、みしゅだよぉ……ひさしぶり、える』
 しかも、水の精霊王を呼び出してる。呼び出した当の本人は、ふふんと得意げに胸を張ってる。
 久しぶりに見たミシュは、若干……そう、若干背が伸びているように見えた。しかし、ふわふわした雰囲気のせいで、「こいつ本当に精霊王なの?」というイメージが強い。
 しかし、先入観とぱっと見……どこか、前のふわふわ感というか、柔らかさというか、雲のような危うさがないというか、なんというか……気のせいで流せる程度の、気配の違いがある。
「なぜかはわからないんだけど……使えるかな?」
「いや普通にすごいと思うけど」
『ねええる』
 ミシュは、わたしにぴたりとくっついてきた。
 感覚はない。ただ冷たい。まるで、そこだけ気温が10℃ぐらいさがったようにも感じる。
『きっと、もう、みしゅたちとあうことはないから………』
「エルちゃんー? あっけに取られて声も出ないでしょ? にしても、その精霊、エルちゃんが好きなのかな? 飲み込まれてるけど」


「………え? 飲み込まれてる?」
 どう見てもただくっついているようにしか見えないけど?
 というか。
 ということは。
 もしかして。
「……ねえ、ライには精霊はどう見えてる?」
「ただの青い光にしか見えないけど」
「ちっさい女の子は?」
「見えない」
 あやっぱり。
 でも、一抹の望みをかけてステータスを開いてみよう。
 


エルノア=ユグド=サテライト(旧姓 エルノア・スターライト) 五歳 女 レベル12
HP:100/100
MP:10000000000000000/10000000000000000
筋力:5
魔法攻撃力:1600000000
敏捷性:20
耐久力:6
魔法対抗力:∞
運:-56
状態異常:喘息 魔法飽和 MPオートリジェネ
使用可能魔法

【魔法全皆伝しました! おめでとう! すべての基礎魔法を使えるよ!】

使用可能特技
妄想狂の世界「パラノイア・ワールド」 ポーション醸造 魔法飽和 MP消費削減【基礎魔法】 聖域【星月日ノ聖域】
称号 異世界からの来訪者
説明
異世界から転生してきた者。喘息のせいでいつも死にそう。
黒い髪と目をしており、父母には似ていない。
備考:神様の加護を賜っている。




 んー?
 とくに、かわったところはないけど……?
 じゃあ、なんでだろ?
 単純に、魔法攻撃力がいくつか以上だったら見えるようになるとか?
 というか、そもそも「精霊」ってなんなんだろう?
 ……考えたら負け、だよね。



「エルちゃん?」
 青い光に包まれた状態で思考するエルは、水の女神のようにも見えた。
 ……いや、ダメだ。
 神話に疑問を抱いてはいけない。
 神話について考えてもいけない。
 全ては、「無意識」に刻み込まなければならない。
 そうやって、教えられてきたじゃないか。
 だから、「水の女神」なんて思ってはいけない。
 それが、村のルールじゃないか。



「エルちゃん?」
 と、心配そうにこちらを見る。
 同時に、
『エルノア・スターライト。関口幸恵。そして___我が主よ』
 驚くほど饒舌にしゃべったのち、
『破滅はすぐそこに迫っている。止める事はできない。__もうダメ』
 それだけ言うと、私に額に自らの手を当てた。
『せめてもの、ていこー……みしゅの、きおく』
「ちょっ……完全に飲み込まれてるけど、大丈夫なのこれ?」
 冷えピタを当てられたみたいにすうっと体温が奪われた。
 手がすっとどいた瞬間、全身から力が抜けた。



 __たん。
 重力に従って、エルの体が倒れる。

「……え?」

 卒倒したわけではない。かすかに、すすり泣く声が聞こえた。
 あまりにも急すぎる展開だ。
 その、黒曜石のような瞳から、一粒、二粒、水滴が零れ落ちた。
 絨毯を濡らし、シミをつくる。
「あ………う」
 嗚咽に混じって、聞こえた。
 ソーダブルーに変わった瞳で、しかし声音は普段通りに。
「はじま………た」
 と。
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