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ミッドガルド国からの出立
三十七話・金の瞳は××の証
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遠く澄み渡る歌声は、それはあまりにも心に染み込む声だった。
とくに、感受性の高い水瀬くん__もうなんか間違えそうだからミシェルくんでいいや__ミシェルくんは、呆然として、目は若干うるんでいた。
しかし、普段から聞きなれているのかなんなのかはわからないが、セラもレイも、地図を見てなんやかんや話している。もはやそっちの方がすごいとは思う。
ミシェルくんは、頬を桜色に染めて、「あ……」と、半音上がった声を上げる。
「相変わらずうまいな、ライ」
「他の曲は覚えないのか、ローレライとか……」
「これしかダメっすよ、シグルドリーヴァ様の加護を受けているんすから」
などと意味不明な事を供述しており。
個人的に、ライには、反社会というか、こう、今の在り方を否定するような感じの、力強い曲を歌ってほしい。ハイトーンも重低音も出せる上、感情的に歌うことも、機械のように淡々と歌う事もできるから、きっと素晴らしいものになると思う。
なんて脈絡のない事を思っていると、ふと何かに見られているような気がした。
ぞっと寒気がして見回すと、セラがじぃっとこっちを見ていた。
「……どうしたの?」
セラは何も言わず、ただただ、じぃっと。
薄い金色の瞳は、まるですべてを見透かしているようで、恐ろしささえ芽生える。
「お前は」
男にしてはかなり高い部類、声が低い女性と言っても通じるぐらいの、よく耳に残る声で、セラはこう続けた。
「似ているのに違う。違うのに似ている。じゃあお前はなんなんだ?」
氷のように冷たい、薄金の瞳だった。
色素を髪と反転させれば、よくいる救国の英雄にでも見えたかもしれない。しかし、白に近い水色の髪と、バターのような瞳は、魔王の側近の氷の精霊のような、よく斬れる刃物のような印象を与える。
鋭くとがったつり目、きゅっと真一文字に結ばれた、色素の薄い唇。肌も全体的に、美白というよりかは蒼白に近い、きのせいか薄く血管のようなものが見えるところもある。息の通わぬ無機物のような美貌。
こてん、と首をかしげると、首を覆い隠す程度の長さの髪が、重力に引っ張られて、顔を少しだけ隠した。
それ自体は異常なぐらいに可愛らしい動作なのに、瞳の奥に見える闇が、一切のハイライトの存在しない眼球が、ちょっと……いや、かなり怖い。
てん、てん、てん。三点リーダー。
頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
似ているのに違う。違うのに似ている。じゃあ私はなんなの?
似ているのに違う。違うのに似ている。じゃあ貴方はなんなの?
マーメイドメイクでもしたみたいに、濃い青色のまつ毛に縁取られた、金色の瞳を見て、そう問いかけようとした。
だけど口から出てきたのは、
「私は【エルノア】だよ。光。慈悲、慈愛。【エルノア】【スターライト】。それ以外ではない。そのはずよね?」
「……ああそうだな、お前は【エルノア】だ。光。慈悲、慈愛。【エルノア】【スターライト】であり、それ以外にはなれない。そのはずだよな?」
違う、嘘。私はエルノアだけどエルノアじゃない。関口幸恵だ。
……ん?
___なぜ、私は疑っていなかったのだろうか。
記憶がある。
感覚もある。
何もかもがあるからこそ。
疑う事もできなかった。
無意味だと思っていた。
そんなはずないと、思い込んでいた。
なのに。
なんで。
_____私が関口幸恵である保証など、どこにもないのに。
記憶だって、神様とやらの謎技術で、作られているかもしれない。
もしかしたら、私は関口幸恵ではなく別の人間で、関口幸恵の記憶を埋め込まれているのかもしれない。
無作為だった。
全く、思いつかなかった。
だって、そうでしょ?
時々見る幻覚に出てくる、黒髪金目の女の子とか____
自分が、自分でない何かに混ざり合う感覚とか_____
もう、何もかもわからない。
私は一体誰なんだろうか?
__ああ。
そうか。
私は、【エルノア】【スターライト】。
それ以上でも、それ以下でもないのだ。
『姉さんの、嘘つき!』
『ごめんね、藍奈ちゃん、ごめんね……』
『わたしは、ずっと、待ってたのに__!』
『次の約束は、守るから__』
『次って、いつの話なの!? 来年? 再来年? __姉さんが、治るまで?』
『……………』
『もう、姉さんなんて知らない!』
『___ッ! 藍奈ちゃん!』
金色の瞳は、きっと全知全能のかみさまのあかしなんだろう。
とくに、感受性の高い水瀬くん__もうなんか間違えそうだからミシェルくんでいいや__ミシェルくんは、呆然として、目は若干うるんでいた。
しかし、普段から聞きなれているのかなんなのかはわからないが、セラもレイも、地図を見てなんやかんや話している。もはやそっちの方がすごいとは思う。
ミシェルくんは、頬を桜色に染めて、「あ……」と、半音上がった声を上げる。
「相変わらずうまいな、ライ」
「他の曲は覚えないのか、ローレライとか……」
「これしかダメっすよ、シグルドリーヴァ様の加護を受けているんすから」
などと意味不明な事を供述しており。
個人的に、ライには、反社会というか、こう、今の在り方を否定するような感じの、力強い曲を歌ってほしい。ハイトーンも重低音も出せる上、感情的に歌うことも、機械のように淡々と歌う事もできるから、きっと素晴らしいものになると思う。
なんて脈絡のない事を思っていると、ふと何かに見られているような気がした。
ぞっと寒気がして見回すと、セラがじぃっとこっちを見ていた。
「……どうしたの?」
セラは何も言わず、ただただ、じぃっと。
薄い金色の瞳は、まるですべてを見透かしているようで、恐ろしささえ芽生える。
「お前は」
男にしてはかなり高い部類、声が低い女性と言っても通じるぐらいの、よく耳に残る声で、セラはこう続けた。
「似ているのに違う。違うのに似ている。じゃあお前はなんなんだ?」
氷のように冷たい、薄金の瞳だった。
色素を髪と反転させれば、よくいる救国の英雄にでも見えたかもしれない。しかし、白に近い水色の髪と、バターのような瞳は、魔王の側近の氷の精霊のような、よく斬れる刃物のような印象を与える。
鋭くとがったつり目、きゅっと真一文字に結ばれた、色素の薄い唇。肌も全体的に、美白というよりかは蒼白に近い、きのせいか薄く血管のようなものが見えるところもある。息の通わぬ無機物のような美貌。
こてん、と首をかしげると、首を覆い隠す程度の長さの髪が、重力に引っ張られて、顔を少しだけ隠した。
それ自体は異常なぐらいに可愛らしい動作なのに、瞳の奥に見える闇が、一切のハイライトの存在しない眼球が、ちょっと……いや、かなり怖い。
てん、てん、てん。三点リーダー。
頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
似ているのに違う。違うのに似ている。じゃあ私はなんなの?
似ているのに違う。違うのに似ている。じゃあ貴方はなんなの?
マーメイドメイクでもしたみたいに、濃い青色のまつ毛に縁取られた、金色の瞳を見て、そう問いかけようとした。
だけど口から出てきたのは、
「私は【エルノア】だよ。光。慈悲、慈愛。【エルノア】【スターライト】。それ以外ではない。そのはずよね?」
「……ああそうだな、お前は【エルノア】だ。光。慈悲、慈愛。【エルノア】【スターライト】であり、それ以外にはなれない。そのはずだよな?」
違う、嘘。私はエルノアだけどエルノアじゃない。関口幸恵だ。
……ん?
___なぜ、私は疑っていなかったのだろうか。
記憶がある。
感覚もある。
何もかもがあるからこそ。
疑う事もできなかった。
無意味だと思っていた。
そんなはずないと、思い込んでいた。
なのに。
なんで。
_____私が関口幸恵である保証など、どこにもないのに。
記憶だって、神様とやらの謎技術で、作られているかもしれない。
もしかしたら、私は関口幸恵ではなく別の人間で、関口幸恵の記憶を埋め込まれているのかもしれない。
無作為だった。
全く、思いつかなかった。
だって、そうでしょ?
時々見る幻覚に出てくる、黒髪金目の女の子とか____
自分が、自分でない何かに混ざり合う感覚とか_____
もう、何もかもわからない。
私は一体誰なんだろうか?
__ああ。
そうか。
私は、【エルノア】【スターライト】。
それ以上でも、それ以下でもないのだ。
『姉さんの、嘘つき!』
『ごめんね、藍奈ちゃん、ごめんね……』
『わたしは、ずっと、待ってたのに__!』
『次の約束は、守るから__』
『次って、いつの話なの!? 来年? 再来年? __姉さんが、治るまで?』
『……………』
『もう、姉さんなんて知らない!』
『___ッ! 藍奈ちゃん!』
金色の瞳は、きっと全知全能のかみさまのあかしなんだろう。
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