緋い棺

万雪 マリア

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ひとの棺

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「あぁ、お願いです!あの下賤で卑劣な死神から、私達を救ってください!」

 ギャアギャアカラスが喚く森を、ぎゃあぎゃあ喚く女が指さす。町長の娘だ。しかしせっかく崇高な生まれを抱いたとしても、どうやら知能はカラスの方が高いらしい。陰鬱でドス黒く、そこだけじっとり闇を孕むゆがんだ光景に、桜田杏樹は顔をしかめた。


 (ある男の話)


「俺からも頼む、あいつのせいで村は滅茶苦茶なんだ!」

「お願いします、貴方だけが頼りなんです!」

 わらわら周囲に人が集まる。杏樹の前に跪く。確かに杏樹は祓い屋だ、だが祓うのは悪魔であって、まがいなりにも「神」を冠するものではない。本音を言えばうまくいって立ち去りたいが、この村人には寝泊まりさせてもらった恩があるため、無下にはできなかった。__いや、面倒くさい、なぜ私がこんなこと。

「わかりました、私が必ず祓ってみせましょう」

 口元だけでにこりと笑うと、村人たちは歓声をあげ、泣き出す者もいた。しまった、期待させすぎたか。後悔先に立たずの典型的な例である。転ばぬ先の杖という諺があったが、それにのっとるなら杏樹はよほどはでにすっころんでいるのだろう。ため息をおさえて、期待のまなざしをあびて、何か薄気味悪いものを感じる森の中へと足を踏み入れた。
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