緋い棺

万雪 マリア

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森の棺

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 プロポーズは私からだったと思う。

 今思えば歯が浮くような台詞を言って、赤い薔薇を捧げるなんてクサイことをして、それで結婚した。
 ペアリングには、小さいながらも金剛石なんて使って、ずっと一緒にいよう、そう約束した。いつまでたっても新婚のようだと隣近所にからかわれたことだってある。家事はふたりで分担した。料理はあまり得意ではなかったが、お世辞にもおいしそうとは言えない料理を、とてもおいしい、と言って食べて笑ってくれたあの顔を、今でも鮮明に覚えている。あの幸せだった時を、あぁ、本当に、幸せ、幸せだった、とても、とても、とても。

「おはよう、よく眠れたか?」

 かつての住居ではなく、シンと冷えて小さな屋敷の奥、そこで私は、最愛の人とともに住んでいた。朝目がさめればすぐに挨拶して、二人で選んだお揃いのマグカップにコーヒーをいれる。彼女も私もあまり苦いのは得意ではないから、砂糖とミルクをたっぷりいれて。蜂蜜を塗ったトーストと、野菜をたっぷりいれたスープを彼女の前に並べた。ぽつぽつ話しながら、彼女に笑いかける。
 けれど、今日も最愛の人は目をさまさない。

「そうだ、庭の手入れをしていたら、君にピッタリの花を見つけたんだ」

 冷えてしまったコーヒーを捨てて、身の回りの支度をする。花瓶に一本ずつ花をいけていく、彼女は花が好きだったのだ。あまり派手な色は彼女には似合わないから、淡い色を中心に。花をいけおわったら、彼女の手を取って、そっと花を握らせてみた。

「綺麗だろう? せっかくだから、ドライフラワーにしてみようと思うんだ。私は君ほど器用ではないから、もしかしたら失敗してしまうかもしれないが、本に挟む栞にするにはいいと思うんだ」

 指の間から落ちそうになる花と一緒に手を握ると、ひんやり、冷たい。それと同時に、村人への憎悪が湧きあがった。彼女が流行病に伏せた瞬間、てのひらをかえして迫害した、悪魔よりずっと下劣な連中に顔がうかんではきえた。許さない、許さない、許せない、許されない。脳が一瞬で、真っ黒に染め上げられたように。

「待っててくれ……私が、必ず君を救ってみせるから」

 頭をなでてやると、コンコン、ひかえめなノックが聞こえた。棺の蓋を閉めてから、首をかしげる。こんな外れにいったいだれが? それなりの距離を歩きながら、少し考える。不思議に思いつつ扉を開けると、異国の者であろう20代前半ほどの青年が立っていた。

「すいません、町を目指していたら道に迷ってしまって……どうか一晩、泊めてはいただけないでしょうか」

 艶がかった、男にしては長い程度の黒髪に、アイスブルーの瞳。端正な顔立ちと、不可解なまでに真っ白な肌が目を引く不思議な男だった。かっちりと着こまれた瞳と同じ色の袴には、皺ひとつない。どこか異様な雰囲気をまとっていて、思わず目をそらした。だがある考えが脳に浮かび、すぐに笑みを作った。

「もちろん、さぞ大変だっただろう、すぐ食事を準備しよう」

 まだ、パンと野菜が残っていた。今となっては料理は得意になったのだ。こらえきれない笑いと一緒に、食事の準備に取り掛かった。
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