緋い棺

万雪 マリア

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過去の病巣

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 ほわほわ、すこしずつかすんでいく脳の中で、あの時の事がフラッシュバックする。

「う、あ……」

 どうして、こうなったんだ。

「……あ゛……ひ、ぐ」

 なぜ、こんなことになったのだろうか?

「あ゛あ゛ぁ゛……」

 ただ、妻と安らかな日々を、幸福な一生を過ごせればよかったのに。

「見ないで……う゛、ぁ゛……」

 それ以上に何も望まないのに、それすら、罪だというのか?

 病に伏せた彼女を、誰も診てくれなかった。金は用意するといっても、疫病神と罵られ、門前払いを食らう日々にたえて。子どもたちは、親に何を教わったのか、大きな石を投げつけてきた。そのせいもあって、私自身も、生傷が絶えなくなってしまった。しかし、私が痛みを感じることは別に良かった。本当に嫌だったのは、傷を見て、どうみても自分の方が容態が悪いのに、私の心配をする妻を、見る事しかできない自分だ。愛する人の体に巣食う病魔を癒すどころか、逆に心配されるなど、と情けなく思った。彼女は決まって、「あまり無理をしては駄目よ」と、細くなった腕に抱きしめた。必ず治すから、安心しろ、と約束した。
 なのに、私は、彼女は、

「う、ぁ゛……」

「ほら、泣き止んでくださいよ、いいこ、いいこ。貴方は本当にいい人間です、こんなにも、こんなにも美しいのですから。人間の理論ではかるのならば、美しいものに罪はありませんよ、えぇ」

「……ちがう、ちが、う……わ、たしは、わるくな……い……」

 痛い。もう何が痛いのかもわからないが、痛い。全部目の前の怪物のせいにして、とっくに弾切れを起こした銃を撃つ。もう銃火器としての役目を御免していると知っていても、安心するために撃ち続ける。
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