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【19】パミラから聞く真実

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 本当に毎日毎日イチャイチャイチャイチャ……飽きませんなぁ!この勢いは毎年子供が産まれるレベルだ……糞が。

「利光さまぁー利光さまぁー」

「パミラ、うい奴よ」

「糞が……おい!利光!」

「ん?ああ、すまん。パミラ、少し大事な話をしよう」

「ま、まさか?け、結婚??」

「んーいや、それは俺とパミラの間に大切な神様からの贈り物が産まれたら話をしようね」

「は、はい!喜んで!」

「糞が!」

「す、すまん……時宗。パミラ話したくはないかもしれんが、お前の娘について知ってる限り教えて欲しい。奴は何者で何を企んでいる?」


 顔色が変わり酷く怯えるパミラ。


「大丈夫だパミラ。何があっても俺がいる。時宗もいる。何も心配するな」


 利光が空かさずフォローに入り、徐々に落ち着きを取り戻したパミラは少しずつ真実を語りだした。


「あの子はもういない……アレはルーヴェルの姿をした別の何かです。幼少期にルーヴェルは死の危険がある大怪我をしてしまいました。助かる見込みがない状況にも関わらず、アレは翌日には元気になり傷も完治しておりました。私たち夫婦は喜びよりも、とてつもなく恐ろしく感じたのを今でも鮮明に覚えています」


 雷玄が問う。


「そういった魔力持ちだったとかではないのか?」

「いいえ、ありえません。ルーヴェルの生まれ持った能力は回復ではありませんので」


 その言葉に時宗が驚く。


「いや、待て。アイツは確かに回復魔法を使っていたし、得意としていたぞ」

「それはルーヴェルではありません。ルーヴェルはアレを倒さないと取り返せないでしょう……いえ、もしかしたら、もう手遅れかもしれません」

「乗っ取られてるというのか?」

「正確には違いますが似たような物です。正確には分離体です。奴隷区に連れられるときに本人が真実を述べてきました。生まれつき精神体が2つあり、今は私が支配者であり、お前の娘には永久に眠ってもらうことにしたと」

「二重人格というものか?」

「それも少し違うようです。アレの話では全くの別物だそうです。本来双子で生まれてくる予定だったけど、アレの能力により精神体を移したようです。更にアレは生まれる前に魔女として覚醒しタイミングを見計らい入れ替わったと」


 あまりにもパミラには辛い内容の話で、恐怖で震えながら話している目の前の女に対し、俺たち武士は黙って聞くことにした。

 理由?そんなもん早く話し終わって恐怖から解放してあげたかっただけだよ。それにもう1つやることがあるしな。


「続きを聞こうか」

「魔女の名前はルミエラといいます。私が奴隷になった理由、夫が言いなりになった理由はルーヴェルを人質に取られているからです。解放なんてしてくれないと分かっていても、歯向かえば娘は確実に居なくなる。従うしかなかったのです。ルミエラの狙いは裏の排除。そしてこの世界の頂点に立つことです。貴殿方には信じがたいことかも知れませんが、この世界は過去と未来が両立した世界になっています。私たちの言い方をすれば表、つまり光は未来人である私たち。裏は貴殿方過去の人たち、つまりは闇と言われています」

「つまり、俺たちは召喚されたとか転生したとかではないのか?すまん、よく分からぬ」

「時宗さま、転生で間違いはないですよ。なぜ転生したのかは流石に分かりませんが、1つだけ確かなことが言えます。昔からこの世界の伝承で伝えられている言葉があります」

 《魔女現れしとき武人により討伐されし》

「この伝承があるゆえに、ルミエラは過去の人である武士を警戒し希望を持てない奴隷として使役したと考えられます。ルミエラが現れた以上、本当の光は貴殿方武士で闇であるルミエラを討伐する為に転生されたと考えれば話のつじつまが合います。どうかお願いです!世界をルーヴェルを救って下さい!それと……」

「待て。そこまででいい」


 俺はパミラの話を遮った。これはなんとなく嫌な予感がしたからである。
 恐怖しながらも語ってくれた女に対して、俺たち武士と忍は迷うことなく立ち上がり雷玄の命を待った。


「あいわかった!皆の者、言うまでもないが、世界とルーヴェルを救うぞ!よいな!」

「はっ!!」


 久しぶりに雷玄のガチ号令を聞いた。やはり良いものだ。ここには元々雷玄の配下以外の者もいる。それでも全員が雷玄の指示に従った。理由は単純。来てしまった以上は責務を全うしなければならない。伝承通りならば武士である自分たちが立ち上がらなければならない。何より目の前で精一杯頑張った女に敬意を払わなければならない。その思いに全員が心を打たれたのだ。


 俺は先程も述べたように、やらなければならない事を進めた。それはパミラの体内に魔法で自爆する宝珠が入っていたからだ。これはパミラ自身はどうやら知っているようだ。だから怯えていたのだろう。
 全ての情報を話せば自爆するとでも言われていたのかもしれない。だから俺は話を遮った。何となく、そうしないといけない気がしたからだ。
 皆も知っているように俺は魔法が使えない。というか全てが無効化するようだ。だったら解除も出きるんじゃねーか?って考えに至っただけだ。


「パミラ、こっちに来てくれ。少しだけ手を握るぞ」

「時宗てめえ、俺の女を!」

「何もねぇわ!黙ってみてろ!」


 時宗が手を握り念じるとパミラは少し苦しみだしたが、その後直ぐに血色が良くなり先程まで怯えて震えていた女が穏やかな表情に変わった。


「よし、上手くいった」

「何をしたんだ?時宗」

「ん?パミラの体内に埋め込んであった自爆する宝珠を取り除いたんだよ。パミラ、これで貴方は安全だ。ルミエラはあなたに何もできない。さぁ最後の情報を教えておくれ」

「気付いてらっしゃったのですね。ありがとうございます……ありがとうございます。ルミエラの能力をお伝えしなければ全滅してしまいます。能力は魅了・服従・心酔です。直接目を見ると魔術にかかります。現在ホラン国の人々は全員が魔術にかけられている状態です。耐性がないと……」

「安心しろパミラよ。ここにいる時宗こそがルミエラに対し真の天敵になり得るだろう。こやつは魔法が使えない代わりに、どうやら魔法無効化の能力があるようだ。それは最近になって分かった能力でもあるがな。時宗を先陣に置き戦えば誰も死なん。更にこやつは武士の中で最強じゃ」

「とにかく、パミラは何も心配するな。全て上手くいく!俺たちに任しとけよ」

「利光さま……」

「利光、一応パミラに護衛を付けたいと思う。必ずルミエラはパミラに接触するために、兵を差し向けるだろう。念のために俺が作ったお守りをパミラに渡しておくが護衛はお前が選定しろ」

「分かった。色々と恩に着る」

「気にするな。だが隠たちが言っていたルーヴェルの恐ろしい発言と顔も、これで全て合点がいった。隠、時雨!忍の情報仕入れ部隊と情報操作部隊で分けろ。お前たちは各部隊の隊長として、これから立ち回れ!」

「御意のままに」

「利光はパミラと御館さまと共に本陣の護衛。時定は本陣で奴隷解放の作戦とホラン国との国境防衛を固める人員配置を頼む」

「承知」

「俺はこの前仕入れた情報の男に会いに行くか。あんまり会いたくはねーがな」




 ホラン国

「何?パミラが解放されただと?この無能共が!!」

「も、申し訳ございません女王陛下!」

「謝罪などいらぬ。死ね」

 ルミエラがそう言うと " ボンッ " と音をたてて兵士が粉微塵に爆発した。
 周りの兵士は恐怖でおののいている。

 1人の騎士が声をあげる。

「ルーヴェルさま!」

「ああ、ヒューズか。そち、まだ妾の事をルーヴェルだと思っていたのか。哀れな奴よ。アレはもう妾の一部だ。妾の名はルミエラ。魔女ルミエラじゃ!」

「パミラの奴どうやったかは知らんが自爆を解除しておるのぉ。まぁよいわ、あのようなゴミ。妾を産み落とした事に免じて許してやるわ。のう、そちもそう思うだろ?ルーヴェルや」

「はい、ルミエラさま」


 この時ヒューズは決意した。
 不本意ではあるが、奴に助けを願わなければと。なぜなら主であり幼馴染みであり想い人でもある、ルーヴェルはまだ生きているのだからと。
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