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【20】会いたくはなかった男

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 本当に会いたくない男が1人居た。ただこの世界の理をパミラから聞き、確信に変わった思いがあった。

 過去の人が転生しているのであれば、やはりあの男も転生しているだろう……それが俺の結論であった為、密かに探りを入れていたのだ。

 しかしその男は奴隷区に居らず、既に小規模ながらも軍を形成しているらしい。なんというか、流石だと思ってしまった自分もそこには居た。

 それであれば、尚の事あの男に会いこれからの行く末と世界の理を話さねばならぬと考えるに至ったが、これは時定や雷玄と共に会いに行く訳にはいかなかった。
 それは、自分たちを不利にする可能性があると判断した為だ。
 ゆえに俺1人で行く決意をしたのである。

 理由は万が一の場合、誰かを守りながら戦うより1人で暴れる方が立ち回りやすいからである。
 事情を2人に話をし何とか説得した。そして俺は1人の護衛も付けずに奴の元へ向かったのだ。

 向かう道中のテーマ曲は、まるでワ◯スピのような曲が俺を支配していた。
 ってなんでワ◯スピを俺が知っているんだよ!
 世界観も糞もねーわ!

 そうこうしている内に俺は奴のいる砦に到着した。 
 門兵が全力の警戒心を剥き出しにし刀を抜いてきたが、即座に刀を叩き落としてやった。

「お前たちの主に伝えろ。浮島時宗が会いに来たと」

「時宗だと!?」

「ああ。こちらは心中穏やかではないので、さっさとしろや」

「おい!至急、殿にお伝えしろ!」


 その場もそうだが、砦全体が慌ただしくなる。
 まぁそりゃそうだよな。今では奴からすれば脅威過ぎる勢力の筆頭部隊長が自ら来たのだから。

「殿がお会いするとの事だ」

「そうか。なら、通るぞ」

「待て。得物を預からせてもらう」

「好きにしろ」

 俺は上下左右を奴の配下に囲まれ連れていかれることになった。

「ここまで警備を固めるとは、お前らの主には驚かされるよ。ヘタレに磨きがかかったようだな」

「黙れ!殿を見下す物言いをすれば次は斬り伏せるぞ!」

「ふん、やってみるがいい」

「貴様っ!!」

「やめろ」

「はっ!」

「お前たちは下がれ。ここからは俺が引き継ぐ」

惣一郎そういちろうさま!承知いたしました。宜しくお願い致します」

「最近のお前たちの躍進は耳に入っていた。久しいな傾き者。あのとき以来か」

「……」

「ん?なぜ黙る?」

「俺がもっとも許せないのはアイツではない。確かにアイツには死んでも会いたくなかったが、最も許せない屑は別に居た……お前だよ。惣一郎」

「ん?まさかお前、俺が裏切ったとでも思ってるのか?おめでたい奴よ。俺は最初から、あのお方の配下だ。お前が母ちゃんの腹の中にいるときからな」

「それは別に構わん。血を分けた実の兄だとしても主君まで同じにする理由はない。だが主の元に帰るときに実の弟と実の母を殺さなければならないことか?違うだろ!
 お前は俺から全てを奪った。その付けだけは必ず払ってもらう」

「んーどう払えばいいのかね?首か?金か?何かね?」

「頼むから性根まで腐ってくれるな。浮島家の恥が上塗りされる」

「言っとくが恥はお前たちだぞ。敗者は全てが恥だ。あの日、晒し首になったお前たちの方が余程恥さらしだ」

「もういい。これ以上、口を開くな。お前には何を言っても響かないと言うことも分かっている」

「弟の分際で!まぁいい。どうせお前は殿に消される運命だ。1人で来たことを後悔しながら死ぬがいい。殿!浮島時宗を連れて参りました!」

「入れ。おお、懐かしい顔でちゅね」

「でちゅ?」

「むっ。時宗、余の喋り方をけなすとは覚悟は出来てるのでちゅね?」

「え?え!?えーーー!?何その成りと喋り方!?」

「うるさいでちゅよ!転生してここに来たら、この成りで語尾が可笑しな事になってたでちゅ!」

「ハッハッハッ!!ヒーヒー!腹痛い!いかん!笑い死ぬ!」

「おい!時宗!貴様斬り伏せられたいのか!?これ以上!殿を侮辱するな!」

「お前、前世の威厳も糞もないじゃねーか!おしゃぶりまで咥えてるとか、そんなもん明日死ぬとしても笑うて!」

「おい!構わぬ!全員時宗を殺せ!」

 惣一郎は周りの兵に号令をかけ時宗へ10人くらいの兵が斬りかかったが、一瞬で伸されてしまう。

「くっ。ならば俺がっ!」

「やめろ!相変わらず化け物じみた強さでちゅね」

「余興はこれくらいでいいだろう?それともお前ら家老連中と天下人自ら挑むか?
 久我義忠」

「いいや、やめておく。それよりもお前自ら1人で来たには何か重要な話でもあったのではないのでちゅか?」

「ああ。クックックックッ」

「笑うの止めるでちゅ!」

「むりむりむりー!キツいキツい。お前全員笑うて!寧ろお前の家臣たちが笑ってねーのが不思議だわ」

「ふん!最初は皆必死に堪えてるの分かったでちゅよ!慣れたんじゃないでちゅか?でもこんな成りと喋り方になって、も余を主として慕ってくれる家臣たちに制裁を加えるような真似は、流石の余も出来んかった」

「お前こっちに来てからの方が人間らしくなったんじゃねーか?」

「まぁそうかもしれないでちゅね」

 その後俺は笑いながらも事の顛末を全て話した。

「なるほどでちゅね。してお前はこの義忠に何を望むのでちゅか?」

「力を貸せ。この戦いは俺たちだけとか、お前たちだけとかでは絶対に勝てん。かといって、どちらかの勢力に取り込むために戦争をし、過去人の数を減らすのも大きな過ちに繋がる。ならば過去の因縁は一旦水に流し手を結ぶ必要があると、俺は考える」

「うむ。確かにな。あいわかった!ならば我らは岸島雷玄の勢力と同盟を結ぶ事を約束するでちゅよ!」

「すまん。恩に着る」

「して、我らは何をすればよいのじゃ?」

「あんたの支配してる地域、付随している地域の奴隷を全て解放し仲間に引き込んでくれ。奴等を攻めるには兵が足りん。二方向から挟み込む形で奴等を攻めたい」

「なるほどの。あいわかった!全て任せよ!」

「殿!こんな奴の言葉を信じるのですか?我らは我らのやり方で……」

「黙れよ。惣一郎」

「惣一郎、よいのじゃ。時宗も雷玄もそう悪い奴ではない。それにこやつらがやろうとしている事は我ら一派を助けることにもなる」

「その通りだ」

「悔しいが我らでは魔女には到底敵わぬだろう。だが時宗、我らを吸収しないのはなぜでちゅか?そうした方が早いのではないか?」

「それはお前が天下人だからだ。俺も雷玄も戦国の世で生きて死んでおる。言わば泰平の世を知らぬのだ。その点、お前たちは
 自らの手で泰平の世を築き生きておる。吸収とは従う事になる。お前たちに関しては従わせる理由がない。
 後の泰平の世に関して助言を乞いたいのは此方の方だからだ。ゆえに従属よりも手を取り合い生きていきたい」

「そうでちゅか。うむ。そうじゃの」

 時宗は天下人に対し屈辱ではあったが礼節を用い頭を下げた。

「宜しく頼む」

「頭を上げよ時宗。此度余は損得で話しておらぬ。お前の心意気、見事でちゅ。
 しかし1つ気になることがある」

「何だ?」

「惣一郎との因縁はどうするのだ?」

「こいつとのけじめは全てが終わって付けさせてもらう」

「うむ。よかろう」

「もう1つ聞いてよいか?」

「何だよ」

「あのとき主らは何故降伏をしなかったのでちゅか?余は降伏すれば全員を生かし悪いようにするつもりはなかったのじゃぞ」

「ふん。そんな事か。そんなもん決まってるだろうが。相手が強大であればあるほど燃えるだろうがよ」

「ふっ……この傾き者め」

「俺はそれだけが売りなんでな!」


 この時既に俺は昔の感情は消えていた。久我義忠を敵視していた先程の自分とは打って変わって、義忠との会話を楽しんでいたのだ。
 それ程までに義忠の器の大きさに尊敬を抱いていたのである。


「では、雷玄に宜しく頼むぞ」

「ああ……全く天下人がこんなに器かデカかったとはな!」

「当たり前でちゅ」


 その後、俺は本陣に戻り義忠の話をしたところ、やはり全員爆笑したのであった。
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