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ルワーネ王国 王都にて

親衛隊もお供します!(1)

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女神からの願いを聞いたあと、俺と王子は最初の目的地を知るべく、城の書庫で女神の雫の文献を読み漁った。二日後、王子がやっとそれらしい文献を探し当てた。
おい、きてみろという弾んだ声に俺は反応し、急いで王子の元へ向かう。王子が取り出したその本は幾分か日に焼けてはいたが、なんとか読めそうだった。王子がその本をテーブルに置いたそのとき、後ろから聞き馴染みのある声が俺たちの名を呼んだ。

「ルアン、ロイス二人とも俺たちに内緒でこそこそ何してるのかな?」

明らかにその声は怒気を孕んでいて、案の定笑顔を貼り付かせたカサンと怒った顔をしたエルバルド、ケンが立っていた。

「いや、えっと……」

なんとか俺と王子はごまかそうと頭を巡らすが、いい言い訳が思い付かない。黙りこくった俺たちの方にカサンが歩み寄り、王子の手からその本を奪い取った。

「へぇー。女神の雫に関する神話かぁ。ルアンってそういうの興味あったっけ?」

「ないわけではないが……」

カサンはなおもごまかそうとする王子を見て、少し悲しそうな顔をすると、大きく息をはいて、

「ルアンの中で俺たちってそんなに頼りないかな?」

と言った。

「違うんです、これは…」

俺も弁解しようと思い口を開くと、

「何が違うの?」

そう言ってカサンは俺の頭を小突くとまっすぐ王子の目を見た。

「もういい、全部話すぜ」

王子は降参だと言うように両手を挙げて事の次第を彼らに説明した。

「……というわけだ。俺たちはすぐにここを出発する。留守はお前らに任せ……」

王子が全て言い終わる前にケンが立ち上がって王子に詰め寄った。

「僕たちは連れてってくれないんですか?僕たちは王子の親衛隊ですよ?」

「そうだよ、僕らも連れていった方がいい。少なくとも足手まといにはならないと思うよ?」

とカサンがそれに続いた。二人とも全く引き下がるような様子はない。王子はくしゃくしゃと髪をかき、

「お前らを危ない目にはあわせたくないんだよ」

と困ったように言うと、

「今更何をおっしゃっているんですか?私たちは王子に命を捧げた身。どこまでもお供します。」

とエルバルドが有無を言わせぬ様子で詰め寄る。王子は大きくため息をつき、彼らを見回しながら告げた。

「…本当にいいのか?この旅は今まで以上に危険なものとなるだろう。それでもついてきてくれるのか?」

その声は困ったような、でもどこか嬉しそうにも聞こえた。

「もちろん‼」

3人が勢いよく答えると、王子は泣き笑いみたいな顔をしながらありがとう、と頭を下げた。それを見たカサンはおもしろいオモチャを見つけた子供のように目を光らせ、エルバルドを見る。

「あのルアンが頭を下げましたわよ、どうしましょうエルバルド」

「あまりからかうな。王子がお怒りになるぞ。」

「いや、でも珍し過ぎて。明日は剣でも降りますでしょうか?」

と尚もからかい続けるカサンに王子は、

「人がせっかく頭を下げたのに…何なんだお前は!!」

と襲いかかる。エルバルドは言わんこっちゃないというように俺に目配せし、俺も呆れたようにため息をついた。ケンは嬉しそうに二人がじゃれつく様子をながめている。ひとしきり騒いだあと、気を取り直して王子が俺たちにこれからしなくてはならないことの説明を始めた。
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