2 / 13
第一章『蝶の誕生』
『蝶の誕生』2
しおりを挟む
満月が果てしなく広がる砂漠を照らしている夜。
オルガナとマルコフとイスルは村の西門前で出発の準備をしていた。
その様子を緊張した様子で、村人一同が見守っていた。
オルガナは腰に直剣を携えて、黙々と装備を整えていく。
そして、荷物が入った肩掛けのショルダーバッグを持ち上げると、気合いを入れて顔を引き締める。
「よし。出発するか」
オルガナの声と共に三人は西門を出た。
「では、お気をつけて」
アルケ村長は三人を見つめて、胸の前で両手を組んで、お辞儀をした。
「コレを」
マルコフは懐から、四角い筒状のシグナル機を出すと、アルケ村長に手渡した。
「村に何か起こったら、これで知らせてください」
「分かりました」
月明りで薄暗い砂漠を、マルコフが槍から放つ、優しい太陽のような光で照らしていた。
その後ろをオルガナとイスルが黙々と歩いた。
「もうすぐ着くか?」
オルガナは辺りを見回しながらイスルに尋ねた。
「はい。あそこです!」
イスルが指さす方向に目を凝らすと、一キロ程先に広大なアトロスク荒野が見えた。
「やっと会える!」
オルガナは右手の義手を握りしめて、笑みをこぼす。
そんな姿をイスルは冷ややかな視線で見つめた。
——ピーッ! ピーッ! ピーッ!
突然、マルコフの懐にあるシグナルが鳴った。
マルコフとオルガナは顔が真っ青になって引き攣った。
胸元で振動するシグナルを恐る恐る取り出すと、恐怖で震えたアルケ村長の声が聞こえてきた。
『村が怪物たちに襲撃を受けています! 至急、救護を!』
オルガナは額から汗を流して、深刻な表情でシグナルを見つめる。
まさか……。俺らが村から離れたことを見張られていたのか! ここまで来たのに!
オルガナは漸く再会出来ると心躍っていたため、悔しそうに俯く。
「村に戻らないと……」
悲しそうなオルガナを、マルコフはじっと見つめていた。
「そうだな。一刻も早く!」
「ちょっと待って!」
イスルがいきなり大きな声を出すと、オルガナとマルコフは驚いて振り向いた。
「ゼノさんとの合流はどうするんです!?」
自分の故郷が怪物に襲われている中、イスルがゼノとの合流を優先する発言に、マルコフは心の底から耳を疑った。
「そんな場合じゃないだろ! 君の村が襲われているんだぞ!」
「では、ここで二手に分かれましょう!」
イスルの意外な発言で二人は呆気にとられた。
「えっ!」
「私とオルガナさんはゼノさんの所へ向かいます。マルコフさんは先に村に行ってください! 必ず私とオルガナさんがゼノさんたちを引き連れて村に戻ります!」
マルコフはオルガナを見つめると、イスルに視点を移した。
「分かった……オルガナを頼む!」
「おい! 本当に一人で戻るのかよ!?」
意外なマルコフの反応に、オルガナは大きな声を出して取り乱す。
マルコフは確かに強い。だが、村の正確な状況が分からない段階で、唯一の光の使いを一人で行かせてしまうのは危険だった。
何より、自分をここまで育ててくれたマルコフを失うのが、オルガナにとっては一番怖かった。
「お前ずっと会いたかったんだろ。たまには自分の気持ちを優先しろ! 俺はお前に心配されるほど落ちぶれちゃいない」
マルコフはオルガナに向かって、優しさに溢れた表情で微笑んだ。
「すまねぇ……」
オルガナはマルコフをじっと見つめると深く頭を下げる。
「兄貴に会ったら何て言うか決めとけよ」
そう言うと、マルコフはオルガナの肩をポンポンと叩いた。
そして、槍に向かって手をかざすと、槍の上に黄色の魔法陣が浮き出た。
「村まで導け!」
槍を強く握ると魔法陣が強く発光して、マルコフは物凄い速さで飛んでいった。 マルコフが村に向かって飛ぶ姿を確認すると、イスルはオルガナを見た。
「オルガナさん! 先を急ぎましょう」
「おう!」
二人は荒野までも道を、全力で走って向かった。
オルガナとイスルは月明かりに照らされた、足場の悪いアトロスク荒野を進んでいた。
二人は荒野を長い時間奥へ進んでいたが、イスルは足を止める気配が無かった。
「おい、ゼノはどこら辺に居るんだ?」
「……」
オルガナは警戒して、イスルの顔を見る。
「イスル!?」
イスルはまるで人形のように、生気の無い表情を浮かべていた。
「おい!」
オルガナが強く声を張ると、イスルは急に立ち止まって、空を見上げた。
「ウァァァァァァァィィヤァ!」
イスルがいきなり、不気味な雄叫びを上げた。その声はまるで獣のように野太かった。
「!?」
オルガナはイスルの顔を眺めると、予想外の事態に直剣を構えて警戒態勢に入る。
イスルの額は、ウニョウニョと動いていた。
その瞬間、嫌な予感がオルガナの脳内に流れる。
まさか……。罠か!
——ブァシャャャァン!
イスルの額を突き破り、触覚器官が何本もウニョウニョと蠢く、蠍の様な虫が出てきた。
血を噴き出しながらイスルは崩れるように倒れた。オルガナはイスルの死体を凝視する。
この虫が今までずっと操っていたのかよ!
≪クギュアァ≫
虫は不気味な鳴き声を上げながらオルガナに向かって跳んできた。
「畜生が!」
眉間に皺を寄せて、怒りを露わにすると、袈裟斬りで虫を真っ二つにする。
——ヴァァァァギィン!
後方から音が聞こえて、オルガナが咄嗟に振り向くと、そこには紫色に光る魔法陣が浮き出ていた。
この陣は……。
オルガナはグリップをしっかり握り、直剣を顔の横に持って構える。
風を切るような音と共に、魔法陣からは次々と不適な笑みを浮かべた、影のように漆黒で地を這う怪物が出てきた。
そして、後を追うように顔全体を包帯で覆い、漆黒のローブで身を包んだ、人型で紅い瞳のカタスト将軍が出て来た。
その後ろでは金棒を持ち、巨大な図体で頭に二角が生えた獣人のデュオゴと、大槌を持つ一角が額に生えたナルバが横に並んで、仁王立ちしていた。
カタスト将軍は、オルガナをまるで品定めするように首を傾げながら眺めた。
「これが光文明の生き残りか」
オルガナはカタスト将軍から漏れ出る禍々しい紫のオーラを見つめる。
「何だか簡単に捻り潰せそうだな!」
肩を揺らしながらデュオゴはオルガナを見て嘲笑した。
それに続き、ナルバもオルガナを見下して不敵な笑みを浮かべる。
「パンドラ様もこんな小娘に警戒していたのか?」
カタスト将軍はゆっくり振り返ると、鬼の様な形相で二人を睨みつけた。
「おい、言葉には気を付けろ。きっと何か、お考えがあるのだろう」
デュオゴとナルバはカタスト将軍の顔を見るなり恐怖に慄く。
「失礼いたしました……」
二人はカタスト将軍に頭を深々と下げた。
「何が目的だ?」
オルガナが睨みつけると、カタスト将軍は手首からイスルの額から出てきた虫を出した。
「その人間のようにお前を囮にして、あの男から鍵を奪う」
カタスト将軍はイスルの死体を、まるでゴミのように眺めた。
「鍵だと?」
「知らないのか?まぁここで人形になるお前にはもう関係無かろう」
深く息を吐くと、オルガナに向かってゆっくりと右手を伸ばした。
「ゼノは居ないのか……」
オルガナは悲しそうな表情を浮かべて俯く。
「やれ……」
カタスト将軍がそう言うと、影の怪物たちは地面から浮き上がって、オルガナに向かって一斉に飛んだ。
「鋼の光子」
そう呟くと、オルガナの体と直剣を白い光が包む。
≪キャイヤァ!≫
奇声を上げながら攻撃してくる影の怪物たちに対して、オルガナは息を吐くと、前傾姿勢になる。
——シャンッ!
風切音と共に、オルガナは先頭に居た影の怪物の首を、瞬く間に直剣で刎ねる。
そして、一瞬で残りの影の怪物たちを次々に切り裂く。
「テメェらは絶対許せねぇ」
オルガナは凄まじい形相を浮かべて、カタスト将軍たちを睨みつける。
影の怪物たちは一斉に黒い煙になって消滅した。
先程まで嘲笑っていたデュオゴとナルバの顔には、もう笑顔を作る余裕は無かった。
「なかなかやるな」
光の使いの力を初めて目にする三人は、興味深そうにじっと見つめていた。
オルガナは直剣をカタスト将軍に向ける。
「次はお前たちだ」
すると、デュオゴが前に出てきて、オルガナに向かって仁王立ちをした。
「俺が相手してやるよ。お嬢ちゃん」
足を肩幅に広げて、金棒を振り上げた。
カタスト将軍は腕組みをして、オルガナとデュオゴをじっと見つめた。
「殺すなよ。あの男が戻ってくるまではそいつが必要だ」
「任せてください」
デュオゴは天高く上げた金棒を、思いっきり振り下ろした。
「フンッ!」
目にも止まらぬ速さの金棒を、オルガナはバックステップで最も簡単に避ける。
——ドガァッ!
オルガナが視線を落とすと、地面には大きな罅が入っていた。
「ぬう!」
続け様にデュオゴは金棒で、激しい連撃を繰り出した。
金棒はあまりの速さで、何本もあるように見えた。
オルガナは金棒を、仰け反るように状態を逸らしながら、難なく避けていく。
そして、全ての攻撃が避けられると、デュオゴは顔を引き攣らせた。
「バ、バカな……」
デュオゴの額には、滝のように汗が流れていた。
——ブシャアァァァァ!
腹部に強烈な痛みが走って、デュオゴが腹部に視点を落とすと、直剣が深々と刺さっていた。
「グハゥ……」
直剣を抜くと吐血して、痛みから体を大きく仰反らせた。
「このっクソアマッ!」
デュオゴは怒りを露わにすると、金棒を大きく振りかぶった。
頭に血が上った一瞬の隙で、オルガナは金棒を待っているデュオゴの右手首を切り落とす。
「ぎゃあああ!」
オルガナは地面を大きく蹴って、悶え苦しむデュオゴの肩に飛び乗る。
デュオゴは暴れながら、がむしゃらで必死に攻撃をした。
しかし、最後の抵抗も虚しく、オルガナは攻撃をスルリと避けて喉を裂いた。
——シュタッ。
肩から飛び降りると、デュオゴは首から血を噴き出しながら膝から崩れた。
「よくもォォッ!」
ナルバは無惨に転がるデュオゴの死体を見ると、顔から紫色の太い血管を浮き出した。
——ビュンッ!
ナルバは手に持っていた大槌をオルガナに向かって投げた。
オルガナが大槌を避けると、目の前には前傾姿勢で角を突き立てたナルバの姿があった。
「!?」
「串刺しにしてやる!」
オルガナは豪速の突進を辛うじて避けるが、角が右脇腹を掠ると服が裂けて、傷口からは出血している。
何だ、このスピードは……。
ナルバが不敵な笑みを浮かべると、オルガナの額には焦りから冷や汗が流れていた。
「次は外さねぇ!」
脇腹の傷を左手で確認すると、血がべっとりと付く。
当たったらひとたまりもないな。
オルガナは呼吸を整えて、ナルバに向かって再び直剣を構える。
To Be Continued…
オルガナとマルコフとイスルは村の西門前で出発の準備をしていた。
その様子を緊張した様子で、村人一同が見守っていた。
オルガナは腰に直剣を携えて、黙々と装備を整えていく。
そして、荷物が入った肩掛けのショルダーバッグを持ち上げると、気合いを入れて顔を引き締める。
「よし。出発するか」
オルガナの声と共に三人は西門を出た。
「では、お気をつけて」
アルケ村長は三人を見つめて、胸の前で両手を組んで、お辞儀をした。
「コレを」
マルコフは懐から、四角い筒状のシグナル機を出すと、アルケ村長に手渡した。
「村に何か起こったら、これで知らせてください」
「分かりました」
月明りで薄暗い砂漠を、マルコフが槍から放つ、優しい太陽のような光で照らしていた。
その後ろをオルガナとイスルが黙々と歩いた。
「もうすぐ着くか?」
オルガナは辺りを見回しながらイスルに尋ねた。
「はい。あそこです!」
イスルが指さす方向に目を凝らすと、一キロ程先に広大なアトロスク荒野が見えた。
「やっと会える!」
オルガナは右手の義手を握りしめて、笑みをこぼす。
そんな姿をイスルは冷ややかな視線で見つめた。
——ピーッ! ピーッ! ピーッ!
突然、マルコフの懐にあるシグナルが鳴った。
マルコフとオルガナは顔が真っ青になって引き攣った。
胸元で振動するシグナルを恐る恐る取り出すと、恐怖で震えたアルケ村長の声が聞こえてきた。
『村が怪物たちに襲撃を受けています! 至急、救護を!』
オルガナは額から汗を流して、深刻な表情でシグナルを見つめる。
まさか……。俺らが村から離れたことを見張られていたのか! ここまで来たのに!
オルガナは漸く再会出来ると心躍っていたため、悔しそうに俯く。
「村に戻らないと……」
悲しそうなオルガナを、マルコフはじっと見つめていた。
「そうだな。一刻も早く!」
「ちょっと待って!」
イスルがいきなり大きな声を出すと、オルガナとマルコフは驚いて振り向いた。
「ゼノさんとの合流はどうするんです!?」
自分の故郷が怪物に襲われている中、イスルがゼノとの合流を優先する発言に、マルコフは心の底から耳を疑った。
「そんな場合じゃないだろ! 君の村が襲われているんだぞ!」
「では、ここで二手に分かれましょう!」
イスルの意外な発言で二人は呆気にとられた。
「えっ!」
「私とオルガナさんはゼノさんの所へ向かいます。マルコフさんは先に村に行ってください! 必ず私とオルガナさんがゼノさんたちを引き連れて村に戻ります!」
マルコフはオルガナを見つめると、イスルに視点を移した。
「分かった……オルガナを頼む!」
「おい! 本当に一人で戻るのかよ!?」
意外なマルコフの反応に、オルガナは大きな声を出して取り乱す。
マルコフは確かに強い。だが、村の正確な状況が分からない段階で、唯一の光の使いを一人で行かせてしまうのは危険だった。
何より、自分をここまで育ててくれたマルコフを失うのが、オルガナにとっては一番怖かった。
「お前ずっと会いたかったんだろ。たまには自分の気持ちを優先しろ! 俺はお前に心配されるほど落ちぶれちゃいない」
マルコフはオルガナに向かって、優しさに溢れた表情で微笑んだ。
「すまねぇ……」
オルガナはマルコフをじっと見つめると深く頭を下げる。
「兄貴に会ったら何て言うか決めとけよ」
そう言うと、マルコフはオルガナの肩をポンポンと叩いた。
そして、槍に向かって手をかざすと、槍の上に黄色の魔法陣が浮き出た。
「村まで導け!」
槍を強く握ると魔法陣が強く発光して、マルコフは物凄い速さで飛んでいった。 マルコフが村に向かって飛ぶ姿を確認すると、イスルはオルガナを見た。
「オルガナさん! 先を急ぎましょう」
「おう!」
二人は荒野までも道を、全力で走って向かった。
オルガナとイスルは月明かりに照らされた、足場の悪いアトロスク荒野を進んでいた。
二人は荒野を長い時間奥へ進んでいたが、イスルは足を止める気配が無かった。
「おい、ゼノはどこら辺に居るんだ?」
「……」
オルガナは警戒して、イスルの顔を見る。
「イスル!?」
イスルはまるで人形のように、生気の無い表情を浮かべていた。
「おい!」
オルガナが強く声を張ると、イスルは急に立ち止まって、空を見上げた。
「ウァァァァァァァィィヤァ!」
イスルがいきなり、不気味な雄叫びを上げた。その声はまるで獣のように野太かった。
「!?」
オルガナはイスルの顔を眺めると、予想外の事態に直剣を構えて警戒態勢に入る。
イスルの額は、ウニョウニョと動いていた。
その瞬間、嫌な予感がオルガナの脳内に流れる。
まさか……。罠か!
——ブァシャャャァン!
イスルの額を突き破り、触覚器官が何本もウニョウニョと蠢く、蠍の様な虫が出てきた。
血を噴き出しながらイスルは崩れるように倒れた。オルガナはイスルの死体を凝視する。
この虫が今までずっと操っていたのかよ!
≪クギュアァ≫
虫は不気味な鳴き声を上げながらオルガナに向かって跳んできた。
「畜生が!」
眉間に皺を寄せて、怒りを露わにすると、袈裟斬りで虫を真っ二つにする。
——ヴァァァァギィン!
後方から音が聞こえて、オルガナが咄嗟に振り向くと、そこには紫色に光る魔法陣が浮き出ていた。
この陣は……。
オルガナはグリップをしっかり握り、直剣を顔の横に持って構える。
風を切るような音と共に、魔法陣からは次々と不適な笑みを浮かべた、影のように漆黒で地を這う怪物が出てきた。
そして、後を追うように顔全体を包帯で覆い、漆黒のローブで身を包んだ、人型で紅い瞳のカタスト将軍が出て来た。
その後ろでは金棒を持ち、巨大な図体で頭に二角が生えた獣人のデュオゴと、大槌を持つ一角が額に生えたナルバが横に並んで、仁王立ちしていた。
カタスト将軍は、オルガナをまるで品定めするように首を傾げながら眺めた。
「これが光文明の生き残りか」
オルガナはカタスト将軍から漏れ出る禍々しい紫のオーラを見つめる。
「何だか簡単に捻り潰せそうだな!」
肩を揺らしながらデュオゴはオルガナを見て嘲笑した。
それに続き、ナルバもオルガナを見下して不敵な笑みを浮かべる。
「パンドラ様もこんな小娘に警戒していたのか?」
カタスト将軍はゆっくり振り返ると、鬼の様な形相で二人を睨みつけた。
「おい、言葉には気を付けろ。きっと何か、お考えがあるのだろう」
デュオゴとナルバはカタスト将軍の顔を見るなり恐怖に慄く。
「失礼いたしました……」
二人はカタスト将軍に頭を深々と下げた。
「何が目的だ?」
オルガナが睨みつけると、カタスト将軍は手首からイスルの額から出てきた虫を出した。
「その人間のようにお前を囮にして、あの男から鍵を奪う」
カタスト将軍はイスルの死体を、まるでゴミのように眺めた。
「鍵だと?」
「知らないのか?まぁここで人形になるお前にはもう関係無かろう」
深く息を吐くと、オルガナに向かってゆっくりと右手を伸ばした。
「ゼノは居ないのか……」
オルガナは悲しそうな表情を浮かべて俯く。
「やれ……」
カタスト将軍がそう言うと、影の怪物たちは地面から浮き上がって、オルガナに向かって一斉に飛んだ。
「鋼の光子」
そう呟くと、オルガナの体と直剣を白い光が包む。
≪キャイヤァ!≫
奇声を上げながら攻撃してくる影の怪物たちに対して、オルガナは息を吐くと、前傾姿勢になる。
——シャンッ!
風切音と共に、オルガナは先頭に居た影の怪物の首を、瞬く間に直剣で刎ねる。
そして、一瞬で残りの影の怪物たちを次々に切り裂く。
「テメェらは絶対許せねぇ」
オルガナは凄まじい形相を浮かべて、カタスト将軍たちを睨みつける。
影の怪物たちは一斉に黒い煙になって消滅した。
先程まで嘲笑っていたデュオゴとナルバの顔には、もう笑顔を作る余裕は無かった。
「なかなかやるな」
光の使いの力を初めて目にする三人は、興味深そうにじっと見つめていた。
オルガナは直剣をカタスト将軍に向ける。
「次はお前たちだ」
すると、デュオゴが前に出てきて、オルガナに向かって仁王立ちをした。
「俺が相手してやるよ。お嬢ちゃん」
足を肩幅に広げて、金棒を振り上げた。
カタスト将軍は腕組みをして、オルガナとデュオゴをじっと見つめた。
「殺すなよ。あの男が戻ってくるまではそいつが必要だ」
「任せてください」
デュオゴは天高く上げた金棒を、思いっきり振り下ろした。
「フンッ!」
目にも止まらぬ速さの金棒を、オルガナはバックステップで最も簡単に避ける。
——ドガァッ!
オルガナが視線を落とすと、地面には大きな罅が入っていた。
「ぬう!」
続け様にデュオゴは金棒で、激しい連撃を繰り出した。
金棒はあまりの速さで、何本もあるように見えた。
オルガナは金棒を、仰け反るように状態を逸らしながら、難なく避けていく。
そして、全ての攻撃が避けられると、デュオゴは顔を引き攣らせた。
「バ、バカな……」
デュオゴの額には、滝のように汗が流れていた。
——ブシャアァァァァ!
腹部に強烈な痛みが走って、デュオゴが腹部に視点を落とすと、直剣が深々と刺さっていた。
「グハゥ……」
直剣を抜くと吐血して、痛みから体を大きく仰反らせた。
「このっクソアマッ!」
デュオゴは怒りを露わにすると、金棒を大きく振りかぶった。
頭に血が上った一瞬の隙で、オルガナは金棒を待っているデュオゴの右手首を切り落とす。
「ぎゃあああ!」
オルガナは地面を大きく蹴って、悶え苦しむデュオゴの肩に飛び乗る。
デュオゴは暴れながら、がむしゃらで必死に攻撃をした。
しかし、最後の抵抗も虚しく、オルガナは攻撃をスルリと避けて喉を裂いた。
——シュタッ。
肩から飛び降りると、デュオゴは首から血を噴き出しながら膝から崩れた。
「よくもォォッ!」
ナルバは無惨に転がるデュオゴの死体を見ると、顔から紫色の太い血管を浮き出した。
——ビュンッ!
ナルバは手に持っていた大槌をオルガナに向かって投げた。
オルガナが大槌を避けると、目の前には前傾姿勢で角を突き立てたナルバの姿があった。
「!?」
「串刺しにしてやる!」
オルガナは豪速の突進を辛うじて避けるが、角が右脇腹を掠ると服が裂けて、傷口からは出血している。
何だ、このスピードは……。
ナルバが不敵な笑みを浮かべると、オルガナの額には焦りから冷や汗が流れていた。
「次は外さねぇ!」
脇腹の傷を左手で確認すると、血がべっとりと付く。
当たったらひとたまりもないな。
オルガナは呼吸を整えて、ナルバに向かって再び直剣を構える。
To Be Continued…
0
あなたにおすすめの小説
『ラーメン屋の店主が異世界転生して最高の出汁探すってよ』
髙橋彼方
児童書・童話
一ノ瀬龍拓は新宿で行列の出来るラーメン屋『龍昇』を経営していた。
新たなラーメンを求めているある日、従業員に夢が叶うと有名な神社を教えてもらう。
龍拓は神頼みでもするかと神社に行くと、御祭神に異世界にある王国ロイアルワへ飛ばされてしまう。
果たして、ここには龍拓が求めるラーメンの食材はあるのだろうか……。
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる