『光の蝶』

髙橋彼方

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第二章『忘れられない過去』

『忘れられない過去』6

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 ファラガティ村では、捜索隊と民衆が村の中央広場に集結していた。
 そして中央にある朝礼台でクルス村長が佇んでいた。

「皆の者! これからパンドラ様と交信が行われる。この土地の栄光のためにも早くあのガキどもを連れてくるのだ!」
「「「「「「オォォォォオ!」」」」」」

 捜索隊が一斉に掛け声と共に拳を突き上げた。

——ヴォンッ!

 朝礼台に刻まれた六芒星に紫色の円柱光が浮き上がった。
 すると、重苦しい空気の中、皆が一斉に円柱へ注目した。

「パンドラ様、ご機嫌麗しゅうございますか?」

 クルスは円柱に向かってひざまずいて、深く頭を下げた。

『ええ。とても機嫌がいいですよ』

 円柱の光はどんどんと変形して、ホログラムの様に一人の顔を布で覆い隠した女が映し出された。

ようやく私の計画成就が見えてきましたからね。この村にいる闇文明の生き残りは特別な力があります。何としても生け取りにして下さい』
「かしこまりました。光の力を使う娘はどうしますか?」
『もう必要・・なく・・なった・・・ので、そちらはさっさと処分して良いです』
「分かりました。では、お約束通り私に更なる叡智をお授け下さい」

 パンドラはクルスの一言で布越しからニヤリと笑みを溢した。

『ええ、勿論です。貴方たちも覚醒化アフィニシーさせて更なる力をお与えしましょう』

 パンドラの一言でクルスは額から汗をかいて、民衆が一斉にざわついた。

「それはどういう意味ですか?」

 パンドラはクルスをじっと見下ろした。

『私の目標はこの世から争いを無くすことです。そして、その目標には人間の自我は邪魔なのですよ』

 クルスは立ち上がって、鬼のような形相でパンドラを睨みつけた。

「おい、パンドラ! 話が違うじゃないか! 協力すれば平和と更なる権力を提供すると」
『ええ。人類を皆、私の意のままに従う者に変えれば、争いはなくなり平和が訪れるでしょう。権力については安心して下さい。覚醒者シーブルスの中でも貴方を重役にさせますから』
「畜生!」

 クルスは悔しそうに、力いっぱい拳を握りしめた。

『私が今からそちらに伺うまでに選びなさい。私と共にこの世を収めるか、それとも惨殺されるか』

 民衆は息を呑んで、クルスをじっと見つめた。
 それは、クルスの一言で自分たちの運命を決められてしまうからだった。

「分かりました。従います……」

 クルスは恐怖に屈して、再び跪くと深く頭を下げた。
 そのあまりにも情けない姿には、村長としての威厳は何処にも無かった。
 大衆たちは自分たちの身を案じて、恐怖から小刻みに震えだした。

『よろしい。では、一時間後にそちらへ伺います。それまでに子供を用意しておいて下さい』

 そう言うと、パンドラのホログラムはプツリと朝礼台から消えた。

 畜生! 畜生! 畜生!

 クルスはじっと俯いたまま、自分の力の無さを悔しがった。
 そして、民衆の方を見ると、自分のことを蔑む視線を感じた。

 何だ、その目は!

 クルスは眉を寄せて、目を見開くと声を張り上げた。

「皆の者! 何としても一時間以内にあのガキを捕らえよ!」


 四人は暗くて狭い通路を、ブーワンが手から炎を出して、照らしながらひたすら進んだ。

「もう少しで教会に着くわ。二人とも頑張って」 

 アマティスはオルガナとゼノに向かって言葉を投げかけた。
 しばらく進むと、一同の先に古びて錆びた鉄製の梯子が見えた。
 ブーワンは梯子を登ると、天井の木の板を外し始めた。
 そして、上半身を乗り出して、静寂とした教会をキョロキョロと見回した。

「誰も居ないみたいだな」

 ブーワンは登り上がると、梯子の下に居る三人に手招きをして合図した。

「さあ、二人とも登って」

 アマティスが二人の肩をポンポンと叩くと、ゼノが梯子を登り始めた。
 それに続いてオルガナも登る。
 アマティスは梯子を登ると、再びエビスキートを唱えて、出口を塞いだ。

「ここからどうする?」

 ゼノはアマティスに不安な表情を向けた。
 すると、アマティスはゼノに優しく微笑みかけた。

「貴方たちはブーワンと一緒にポータルツリーへ向かって。私は此処でやる事がある」

 ゼノとオルガナはアマティスの一言に目を見開いた。

「おい、もしかして此処で別れるって事かよ?」

 ブーワンは気まずい空気の中、静かに俯いた。

「アマティスと離れたくないよ! 一緒に行こう!」

 オルガナはアマティスの顔を見なが、らボロボロと泣き出してしまう。
 堪らずアマティスは、オルガナをギュッと抱きしめた。

「大丈夫! 用が済んだら皆んなと合流するから」

 ゼノはアマティスを睨んだ。

「そのやる事ってのは俺らより重要な事なのかよ……」

 ゼノは悔しそうに歯を食いしばった。

「俺らのことを捨てるのか?」

 アマティスはゼノの目をしっかり見た。

「貴方たちは私の家族です! 捨てる筈ないでしょ!」

 ゼノはアマティスの顔を見ながら、何とか感情を探ろうとした。
 しかし、その表情に嘘は感じられなかった。

「私にとって貴方たち二人は本当に大切よ。だから、ブーワンを護衛に呼んだの。私じゃとても追っ手から貴方たちを守りきれないわ」

 アマティスは悲しそうに俯いた。

「私も貴方たちと行きたいわ。でも、それと同時に私は神の道に沿うと心に決めた聖女なのです。一人でも多くの人を救うために、この教会で行わなければいけない事があります」

 アマティスは二人の顔を優しく見つめた。
 それに対して、ゼノとオルガナは自分の感情を押し殺して、ゆっくりと頷いた。
 そんな二人にアマティスは近寄ると、名残惜しそうに頭を撫でた。

「絶対に後で合流してくれよ」

 ゼノの言葉に返すように、アマティスは二人を抱きしめた。

「ええ」

 アマティスは決意に満ちた表情を、ブーワンに向けて頷いた。
 それに答えるようにブーワンも頷き返すと、二人の肩に優しく触れた。

「二人ともポータルツリーまで護衛する。俺について来い」

 ブーワンは教会の礼拝堂裏にある裏口を指差した。

「さぁ行って!」

 アマティスが二人の肩を押すと、ブーワンたちは裏口に向かって走っていった。
 そして、二人は振り向くと、アマティスに向かって笑顔で手を振った。

「絶対に後で会おうな!」
「先に行って待ってるよ!」

 二人に応えるようにアマティスは、笑顔で手を振り返して送り出した。
 ブーワンたちは先を急いで、教会を後にした。
 アマティスは悲壮感漂う顔で二人の無事を祈った。

「どうか二人をお導きください」


 ブーワンとゼノとオルガナは、広大に広がる暗い森に向かって走っていた。
 森は風が吹いて、木々がゆらゆらと不気味に揺れていた。
 三人が森に入ると、ブーワンが腕を上げて合図し止まった。

「ここから道が険しくなるが、見つからないためにも明かりは着けられない。足場に注意しろよ」

 そう言うと、ブーワンは体勢を低くして慎重に森を進み始めた。
 それに続くように、ゼノとオルガナも慎重に森を進んだ。

「おい、何で俺らを助ける気になったんだ?」

 ブーワンは黙々と進みながら、様々な感情で重くなる口を開いた。

「お前ら以外であのバケモノに対抗できる奴が居ないからだ」
「バケモノだと!? まさか……」

 ゼノはブーワンに向かって目を見開いた。
 オルガナはそんな兄の姿を不思議そうに見つめる。

「すまない。だが、あのパンドラにいずれ立ち向かえるのは、お前たちだけなんだ」

 ブーワンは自分より二十以上も年が離れた子供にしか頼めない、自分の無力さと情けなさを恥じながら俯いた。

「チッ……ふざけんな。俺らには選択肢が無ぇってことかよ」

 この瞬間、ゼノは心の底から人類を恨んだ。
 大人が勝手に始めた戦争の皺寄しわよせを受けている状況と、それを理解していない大人たちに、身柄を狙われている不条理で頭の中は憎悪で満ちていた。

「ゼノ兄ちゃん……」
「!?」

 ゼノはオルガナを咄嗟に見た。
 そして、不安で小刻みに震える姿を見たら憎悪は一瞬で消えて、何とか励まさねばと体が動いていた。
 オルガナの頭を撫でながらゼノは無理やり笑みを作った。

「大丈夫! バケモノは俺が倒すから」

 ブーワンはそんな悲痛な光景を、只々見ているしかなかった。


To Be Continued…
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