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第二章『忘れられない過去』
『忘れられない過去』5
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空は晴れて、鳥が囀る喉かな昼前。
オルガナとゼノは布団干しなどの家事を、アマティスや動物たちと協力してこなしていた。
「よし、私は村に行って買い物をしてくるわ。留守番はよろしくね」
オルガナとゼノは明るかった顔から暗い表情に一変して、アマティスをじっと見つめた。
「帰ってくる?」
オルガナは今にも泣き出しそうになっていた。
二人にはアマティスがどこかに行ってしまうことは必要とされていない。
つまり、捨てられるという感覚だったのだ。
「バカね! ただ買い物に行くだけよ! 自分の家に帰ってこないわけないでしょ」
「村人たちは俺たちのことを嫌ってる。アマティスにアイツら何かしてくるんじゃないか?」
ゼノは心配そうにアマティスを見た。
「大丈夫。彼らのことを私は信じてるわ」
アマティスは二人の前に立つとギュッと抱擁した。
「私は必ず帰ってくる。だから、その間家のことは任せたよ」
「分かった」
アマティスは買い物袋を持って、村の門を通った。
すると、いつもの様に暖かな雰囲気ではなく、それとは真逆の冷たい視線を感じた。
「こんにちは」
門番にアマティスは明るく挨拶した。
「……」
門番は急いで顔を逸らして、アマティスを無視した。
やはり、あの村長は心が狭い……。
アマティスは門を潜ると、スタスタと商店街に向かって歩いた。
すれ違う村人全てが、アマティスから視線を逸らした。
アマティスは辺りを見回すと、失望感からの深いため息を吐いた。
そんな状況をマーブは、木の影からこっそりと見つめていた。
そして、悲しそうに俯くと家に向かって飛び立った。
商店街に着いても村人の無視は続いた。
アマティスは居心地の悪い雰囲気を物ともせず、目的地まで突き進んだ。
すると、八百屋の前で立ち止まり店員に笑顔を向けた。
「あの、いつもの食材を頂けますか?」
「……」
店員は気まずそうに顔を逸らすと黙りこんだ。
「村長になんて言われたの?」
店員は重い口を開いた。
「貴方に何も品物を売るなと。また、子供を手放すまで口もきくなと。私たちは貴方に感謝しています。
でも、村長に逆らえば私たちの生活は……なんで、あんな子供のために自らを危険に晒すんです! 今からでも遅くはありません。早く手放してください! 村長から次は何をされるか分かりませんよ」
店員とその周りに居る村人全員が、アマティスを心配そうに見つめた。
辺りをゆっくり見回すと、アマティスは店員に対して優しく微笑んだ。
「私は神の道に準ずる者。私にとって皆は救われるべき者なのです。同じく、あの子たちも貴方たちと同じく救われるべき存在です」
そう言い残すと、アマティスは村の出口に向かって静かに歩き始めた。
店員と村人たちは自身の保身のために、アマティスに酷いことをしてしまったことに深く心を痛めて俯いた。
アマティスは暗い顔をしながら帰路を歩いていた。
これからどうしてこうか……。
アマティスは食べ盛りである二人の食料を、どう調達するか悩んでいた。
「おかえり!」
オルガナの声が聞こえて、アマティスは急いで明るい顔を作った。
顔を上げると、目の前に広がる光景に心を奪われた。
動物たちが果物などを集めて家の前に置いて待っていたのだ。
「みんな……」
マーブはアマティスに向かってコクリと頷いた。
「みんなが食べ物持って来てくれたの!」
「ありがとね。皆んな」
アマティスは深く動物たちに向かってお辞儀をした。
すると、ゼノがアマティスの前に立った。
「さっきシカたちが果物や食べれる野草を教えてくれた。だから、俺らにも食料は集められる。心配しなくて良いぞ」
アマティスは自身の考えの浅さを恥じた。
この子たちは私が思うよりずっと大人であり、動物たちもずっと頼りになる存在だった。
アマティスはゼノの頭を優しく撫でた。
「皆んな! これからもよろしく!」
アマティスの言葉に合わせて動物たちは一斉に鳴いて返事をした。
その後、アマティスたちは、クルスから毎日様々な嫌がらせを受けた。
オルガナとゼノに対しては、クルスの息子のアラゾが村の子供たちを引き連れて物理的なイジメを行った。
だが、三人はそんなものには全く屈せず、物理ではなく心で立ち向かった。
その結果、次第にクルスからの嫌がらせ、アラゾからのイジメは止んで、平穏な日常が訪れた。
そして、三人は森の動物と平穏で慎ましく幸せな暮らしをしていた。
暮らしは決して楽ではなかったが、ゼノとオルガナは新たな家族と居る事が何より嬉しくて、人生で最も安らぎを感じる生活だった。
しかし、そんな生活は長くは続かなかった……。
パンドラは更なる力を得るために、少数だけ生き残った光文明と闇文明の能力者を捕らえ始めた。
そして、パンドラは人類にある提示をしたのだった。
『人類の者どもよ。我に光文明と闇文明の能力者を差し出した者たちには我の力の叡智を分けてやる。そして、協力した村には平和を提供しよう』
夏の湿気でジメジメする、鳥たちが逃げ惑う宵の空。
オルガナたちは燃え盛る家の中にいた。外では武装した捜索隊が松明を持って家を取り囲んでいた。
そして、捜索隊の先頭にはアラゾの姿があった。
「アマティス! ガキ共を差し出すのだ! そうすれば我らはパンドラ様から叡智を与えられる!」
アマティスは血走った目のアラゾたちを呆れた目で見た。
アラゾは不敵に勝ち誇った顔を浮かべていた。
「早く脱出魔法で外に出てこないと燃え死ぬぞ!」
アマティスはゼノとオルガナを見つめると、優しく微笑んだ。
「裏口を使って逃げるよ」
二人はアマティスに向かって頷いた。
アマティスが床をいじると地下に続く階段が出てきた。
「行くよ!」
三人は裏口に向かって階段を駆け降りた。
そして、アマティスは階段の途中で、振り返ると右手を入り口に向けた。
「エビスキート!」
あっという間に地下の入り口には木が生えて、完全に入り口は塞がってしまった。
「真っ直ぐに進めば教会に出るわ。そのまま進んで!」
アマティスたちはひたすら走った。
「アイツら出てきませんぞ」
捜索隊の一人がアラゾに問いかけると、アラゾは顔を引き攣らせた。
まさか!?
「おい、お前確認して来い」
アラゾは捜索隊にドアを蹴破らせたが、そこには三人の姿がなかった。
「畜生! やられた!」
額からブワッと汗をかいて、目を泳がせた。
父上に何て報告をすれば……。
——プープープー!
アラゾの腰にあるポケットから、電子音が鳴り響いた。
恐る恐るポケットから四角い無線のようなデバイスを取り出して、ボタンを押して耳に当てた。
すると、デバイスからクルスの声が聞こえた。
『ガキ共は確保したか?』
「いっ、いえ。まだ……」
アラゾの一言でクルスは声を荒げた。
『この出来損ないめ! 何でそんなことも出来んのだ!』
アラゾは歯を食いしばり、下を向いた。
「すみません」
『早く広場まで戻って来い! 計画を変更する』
「わかりました」
『このグズが!』
交信はブチっと音を立てて切れた。
アラゾは地面に、思いっきりデバイスを投げつけた。
「あのクソアマ!」
一同は燃え盛る家を悔しそうに睨みつけた。
「退却だ!」
アマティスとゼノとオルガナは地下の行き止まりに着いた。
壁に赤く書かれた五芒星にアマティスが手を当てると、何かを静かに唱えた。
すると、五芒星は消滅して、頭上からゆっくりと梯子が降りてきた。
「さぁ登って! まずはオルガナからよ」
オルガナは急いで梯子を登る。それに続くようにゼノも登った。
「!?」
オルガナは梯子の先端で、登るのを止めて硬直する。
「おい! 止まるなよ!」
ゼノは叱ったが、オルガナは動かない。
「ったく。どうしたってんだよ」
オルガナは唖然としながらゼノに口を開く。
「アイツが居るんだよ」
「アイツ?」
ゼノはオルガナが立つ梯子の隙間を登って、後ろから覗き見た。
「お前は!」
二人の目の前には武装をして、長い曲剣を背負ったブーワンの姿があった。
「チッ」
ゼノは腰のダガーに手を掛けた。
「二人とも! 彼は味方です!」
梯子の下から聞こえたアマティスの一言に、二人は咄嗟に下を見た。
「でもコイツは俺らのことを殺そうとした張本人だぞ!」
ブーワンは二人にゆっくりと近寄った。
ゼノはオルガナを差し押さえて梯子を登るとダガーを構えた。
「それ以上近寄ったら殺す!」
ブーワンは立ち止まると、背負った武器を外し始めた。
「何の真似だ!」
ゼノは意味が分からず、ダガーを突き立てた。
そして、ブーワンは持っていた曲剣をその場に落とすと、ゼノに深く頭を下げた。
「本当にすまなかった」
二人はブーワンの姿に目を丸くした。
これがこの前、自分たちを殺そうとした男の姿とは到底信じ難かった。
アマティスは頭上から聞こえた謝罪に、安堵して微笑んだ。
「いきなり謝って何の真似だ!」
ゼノはダガーを構えたまま動揺から後退りをした。オルガナは梯子を登りゼノの後ろへ隠れる。
ブーワンは二人の顔をじっと見つめた。
「いきなり信じてくれとは言わない。だか、この先の未来にはお前たちが必要なんだ」
ブーワンは二人に向かって手を差し伸べた。
ゼノは出された手に歯を剥き出しにして、じっと睨め付けた。
「!?」
ゼノは自分の目を疑った。
自分の後ろに隠れていたオルガナが、なんとブーワンに歩み寄って行ったのだ。
オルガナはブーワンの手を取ると優しく微笑む。
なんで、お前はそんなことが出来るんだよ……。
ゼノはオルガナの相手を許す力を心の底から羨んだ。
「私たちを助けて」
ブーワンはオルガナの笑顔を見ると、自分がしてしまったことに対する気持ちで押しつぶされそうになった。
俺はこんな心が清い子供を殺そうとしていたのか……。
ブーワンは自身の唇を血が出るほどの力で噛み締めた。
——タンタンタン。
アマティスは梯子を登ると、ダガーを突き立てるゼノの肩に優しく触れた。
「武器を下ろしなさい」
ゼノがゆっくりとダガーを下すと、アマティスはブーワンに向かって頷いた。
ブーワンは確認すると、地面に落とした装備と曲剣を拾い上げた。
「先を急ごう。時間があまり無い」
「ええ。頼みます」
ブーワンは静かに振り向くと、駆け足で先を目指して進んだ。
「二人とも行くよ!」
アマティスは二人に、笑顔を振り撒くと背中を押した。
ゼノはやるせない表情を浮かべるも、前を向いてオルガナと一緒に走り始めた。
アマティスはそんな二人を、目に焼き付ける様に見つめると、走り出した。
To Be Continued…
オルガナとゼノは布団干しなどの家事を、アマティスや動物たちと協力してこなしていた。
「よし、私は村に行って買い物をしてくるわ。留守番はよろしくね」
オルガナとゼノは明るかった顔から暗い表情に一変して、アマティスをじっと見つめた。
「帰ってくる?」
オルガナは今にも泣き出しそうになっていた。
二人にはアマティスがどこかに行ってしまうことは必要とされていない。
つまり、捨てられるという感覚だったのだ。
「バカね! ただ買い物に行くだけよ! 自分の家に帰ってこないわけないでしょ」
「村人たちは俺たちのことを嫌ってる。アマティスにアイツら何かしてくるんじゃないか?」
ゼノは心配そうにアマティスを見た。
「大丈夫。彼らのことを私は信じてるわ」
アマティスは二人の前に立つとギュッと抱擁した。
「私は必ず帰ってくる。だから、その間家のことは任せたよ」
「分かった」
アマティスは買い物袋を持って、村の門を通った。
すると、いつもの様に暖かな雰囲気ではなく、それとは真逆の冷たい視線を感じた。
「こんにちは」
門番にアマティスは明るく挨拶した。
「……」
門番は急いで顔を逸らして、アマティスを無視した。
やはり、あの村長は心が狭い……。
アマティスは門を潜ると、スタスタと商店街に向かって歩いた。
すれ違う村人全てが、アマティスから視線を逸らした。
アマティスは辺りを見回すと、失望感からの深いため息を吐いた。
そんな状況をマーブは、木の影からこっそりと見つめていた。
そして、悲しそうに俯くと家に向かって飛び立った。
商店街に着いても村人の無視は続いた。
アマティスは居心地の悪い雰囲気を物ともせず、目的地まで突き進んだ。
すると、八百屋の前で立ち止まり店員に笑顔を向けた。
「あの、いつもの食材を頂けますか?」
「……」
店員は気まずそうに顔を逸らすと黙りこんだ。
「村長になんて言われたの?」
店員は重い口を開いた。
「貴方に何も品物を売るなと。また、子供を手放すまで口もきくなと。私たちは貴方に感謝しています。
でも、村長に逆らえば私たちの生活は……なんで、あんな子供のために自らを危険に晒すんです! 今からでも遅くはありません。早く手放してください! 村長から次は何をされるか分かりませんよ」
店員とその周りに居る村人全員が、アマティスを心配そうに見つめた。
辺りをゆっくり見回すと、アマティスは店員に対して優しく微笑んだ。
「私は神の道に準ずる者。私にとって皆は救われるべき者なのです。同じく、あの子たちも貴方たちと同じく救われるべき存在です」
そう言い残すと、アマティスは村の出口に向かって静かに歩き始めた。
店員と村人たちは自身の保身のために、アマティスに酷いことをしてしまったことに深く心を痛めて俯いた。
アマティスは暗い顔をしながら帰路を歩いていた。
これからどうしてこうか……。
アマティスは食べ盛りである二人の食料を、どう調達するか悩んでいた。
「おかえり!」
オルガナの声が聞こえて、アマティスは急いで明るい顔を作った。
顔を上げると、目の前に広がる光景に心を奪われた。
動物たちが果物などを集めて家の前に置いて待っていたのだ。
「みんな……」
マーブはアマティスに向かってコクリと頷いた。
「みんなが食べ物持って来てくれたの!」
「ありがとね。皆んな」
アマティスは深く動物たちに向かってお辞儀をした。
すると、ゼノがアマティスの前に立った。
「さっきシカたちが果物や食べれる野草を教えてくれた。だから、俺らにも食料は集められる。心配しなくて良いぞ」
アマティスは自身の考えの浅さを恥じた。
この子たちは私が思うよりずっと大人であり、動物たちもずっと頼りになる存在だった。
アマティスはゼノの頭を優しく撫でた。
「皆んな! これからもよろしく!」
アマティスの言葉に合わせて動物たちは一斉に鳴いて返事をした。
その後、アマティスたちは、クルスから毎日様々な嫌がらせを受けた。
オルガナとゼノに対しては、クルスの息子のアラゾが村の子供たちを引き連れて物理的なイジメを行った。
だが、三人はそんなものには全く屈せず、物理ではなく心で立ち向かった。
その結果、次第にクルスからの嫌がらせ、アラゾからのイジメは止んで、平穏な日常が訪れた。
そして、三人は森の動物と平穏で慎ましく幸せな暮らしをしていた。
暮らしは決して楽ではなかったが、ゼノとオルガナは新たな家族と居る事が何より嬉しくて、人生で最も安らぎを感じる生活だった。
しかし、そんな生活は長くは続かなかった……。
パンドラは更なる力を得るために、少数だけ生き残った光文明と闇文明の能力者を捕らえ始めた。
そして、パンドラは人類にある提示をしたのだった。
『人類の者どもよ。我に光文明と闇文明の能力者を差し出した者たちには我の力の叡智を分けてやる。そして、協力した村には平和を提供しよう』
夏の湿気でジメジメする、鳥たちが逃げ惑う宵の空。
オルガナたちは燃え盛る家の中にいた。外では武装した捜索隊が松明を持って家を取り囲んでいた。
そして、捜索隊の先頭にはアラゾの姿があった。
「アマティス! ガキ共を差し出すのだ! そうすれば我らはパンドラ様から叡智を与えられる!」
アマティスは血走った目のアラゾたちを呆れた目で見た。
アラゾは不敵に勝ち誇った顔を浮かべていた。
「早く脱出魔法で外に出てこないと燃え死ぬぞ!」
アマティスはゼノとオルガナを見つめると、優しく微笑んだ。
「裏口を使って逃げるよ」
二人はアマティスに向かって頷いた。
アマティスが床をいじると地下に続く階段が出てきた。
「行くよ!」
三人は裏口に向かって階段を駆け降りた。
そして、アマティスは階段の途中で、振り返ると右手を入り口に向けた。
「エビスキート!」
あっという間に地下の入り口には木が生えて、完全に入り口は塞がってしまった。
「真っ直ぐに進めば教会に出るわ。そのまま進んで!」
アマティスたちはひたすら走った。
「アイツら出てきませんぞ」
捜索隊の一人がアラゾに問いかけると、アラゾは顔を引き攣らせた。
まさか!?
「おい、お前確認して来い」
アラゾは捜索隊にドアを蹴破らせたが、そこには三人の姿がなかった。
「畜生! やられた!」
額からブワッと汗をかいて、目を泳がせた。
父上に何て報告をすれば……。
——プープープー!
アラゾの腰にあるポケットから、電子音が鳴り響いた。
恐る恐るポケットから四角い無線のようなデバイスを取り出して、ボタンを押して耳に当てた。
すると、デバイスからクルスの声が聞こえた。
『ガキ共は確保したか?』
「いっ、いえ。まだ……」
アラゾの一言でクルスは声を荒げた。
『この出来損ないめ! 何でそんなことも出来んのだ!』
アラゾは歯を食いしばり、下を向いた。
「すみません」
『早く広場まで戻って来い! 計画を変更する』
「わかりました」
『このグズが!』
交信はブチっと音を立てて切れた。
アラゾは地面に、思いっきりデバイスを投げつけた。
「あのクソアマ!」
一同は燃え盛る家を悔しそうに睨みつけた。
「退却だ!」
アマティスとゼノとオルガナは地下の行き止まりに着いた。
壁に赤く書かれた五芒星にアマティスが手を当てると、何かを静かに唱えた。
すると、五芒星は消滅して、頭上からゆっくりと梯子が降りてきた。
「さぁ登って! まずはオルガナからよ」
オルガナは急いで梯子を登る。それに続くようにゼノも登った。
「!?」
オルガナは梯子の先端で、登るのを止めて硬直する。
「おい! 止まるなよ!」
ゼノは叱ったが、オルガナは動かない。
「ったく。どうしたってんだよ」
オルガナは唖然としながらゼノに口を開く。
「アイツが居るんだよ」
「アイツ?」
ゼノはオルガナが立つ梯子の隙間を登って、後ろから覗き見た。
「お前は!」
二人の目の前には武装をして、長い曲剣を背負ったブーワンの姿があった。
「チッ」
ゼノは腰のダガーに手を掛けた。
「二人とも! 彼は味方です!」
梯子の下から聞こえたアマティスの一言に、二人は咄嗟に下を見た。
「でもコイツは俺らのことを殺そうとした張本人だぞ!」
ブーワンは二人にゆっくりと近寄った。
ゼノはオルガナを差し押さえて梯子を登るとダガーを構えた。
「それ以上近寄ったら殺す!」
ブーワンは立ち止まると、背負った武器を外し始めた。
「何の真似だ!」
ゼノは意味が分からず、ダガーを突き立てた。
そして、ブーワンは持っていた曲剣をその場に落とすと、ゼノに深く頭を下げた。
「本当にすまなかった」
二人はブーワンの姿に目を丸くした。
これがこの前、自分たちを殺そうとした男の姿とは到底信じ難かった。
アマティスは頭上から聞こえた謝罪に、安堵して微笑んだ。
「いきなり謝って何の真似だ!」
ゼノはダガーを構えたまま動揺から後退りをした。オルガナは梯子を登りゼノの後ろへ隠れる。
ブーワンは二人の顔をじっと見つめた。
「いきなり信じてくれとは言わない。だか、この先の未来にはお前たちが必要なんだ」
ブーワンは二人に向かって手を差し伸べた。
ゼノは出された手に歯を剥き出しにして、じっと睨め付けた。
「!?」
ゼノは自分の目を疑った。
自分の後ろに隠れていたオルガナが、なんとブーワンに歩み寄って行ったのだ。
オルガナはブーワンの手を取ると優しく微笑む。
なんで、お前はそんなことが出来るんだよ……。
ゼノはオルガナの相手を許す力を心の底から羨んだ。
「私たちを助けて」
ブーワンはオルガナの笑顔を見ると、自分がしてしまったことに対する気持ちで押しつぶされそうになった。
俺はこんな心が清い子供を殺そうとしていたのか……。
ブーワンは自身の唇を血が出るほどの力で噛み締めた。
——タンタンタン。
アマティスは梯子を登ると、ダガーを突き立てるゼノの肩に優しく触れた。
「武器を下ろしなさい」
ゼノがゆっくりとダガーを下すと、アマティスはブーワンに向かって頷いた。
ブーワンは確認すると、地面に落とした装備と曲剣を拾い上げた。
「先を急ごう。時間があまり無い」
「ええ。頼みます」
ブーワンは静かに振り向くと、駆け足で先を目指して進んだ。
「二人とも行くよ!」
アマティスは二人に、笑顔を振り撒くと背中を押した。
ゼノはやるせない表情を浮かべるも、前を向いてオルガナと一緒に走り始めた。
アマティスはそんな二人を、目に焼き付ける様に見つめると、走り出した。
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