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1.異世界から飛ばされてきたのでいす
いせとば、ミエちゃんと出会う(2)
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あたしが伊勢くんと知り合ったのは、高校に入ってからだ。
伊勢くんは、ちょっと変わっている……と思う。男の子にしては長めの髪は、前髪は横一直線。後ろも切りそろえられていて、おかっぱみたいに見える。
漫画やアニメが好きで、自分でも、小説を書いてるらしい。あたしには、まだ読ませてはくれないけれど。ネットで発表してると教えてくれた。
「リュックの中は、なにが入っとるん?」
「ノートパソコン。あと、あれや。ガイドブックとか」
「パソコンを持ってきたん?」
「ちっちゃくて、軽いやつな。バイト代で買うた」
「すごいなあ」
二人でバスに乗って、伊勢神宮に向かった。かなり時間はかかるけれど、それでも、電車よりもバスの方が早い。
家を出てから二時間くらいで、内宮に続く宇治橋までたどりついた。
大きな鳥居の前で一礼してから、ふくらんだような形の橋を渡る。足をすべらせないように、気をつけて歩いた。
伊勢くんについていくと、小さな橋があった。渡ったところに、手を清める場所があった。すごく混んでいて、列ができている。
「伊勢くん、知っとる? 五十鈴川で、お清めできるところがあるって」
「あー、御手洗場な。ここをまっすぐ行って、右やな」
「ありがとー」
「なんも」
「あっ。ここやね」
あたしが思っていたよりも、ずっと広いところだった。五十鈴川を挟んで、向こう側に森が広がっている。
石畳は、川に向かって下がっている。低いけれど大きい、三段の階段になっていた。
下の段まで下りて、川の水で手を清める。水は冷たかった。あたしが出したハンドタオルを、伊勢くんと二人で使った。
「ありがとうな」
「ううん」
すぐ近くに、門のようなものがあった。お社はないけれど、木の板でぐるっと囲われている。
「これは、なんやろね。『瀧祭神』やって」
「五十鈴川の神さんやな。地元の人は『お取次ぎさん』て、呼ぶんやて」
「へー。お参りしてこ」
あたしとお参りをしてから、伊勢くんが歩きだした。
「このまま行こか。はじめに『しょうぐう』をお参りしたい」
「しょうぐう?」
「正しい宮と書いて、しょうぐう。天照大御神の神さんが祀られとる」
「日本で、いちばん有名な……有名っていったら、おかしい? メインの神様よね」
「うん。合っとるよ」
五十鈴川から離れて、せまい道を進んでいく。
緑の葉っぱの間から、金色の光が見えた。
「待って」
「鳥羽ちゃん?」
砂利道から外れた、木がたくさん生えているところに、誰かがいる。
小さなこどもだ。隠れたがってるみたいに、小さな体をもっと小さくして、木と木の間にしゃがみこんでいる。
「伊勢くん。あそこ……」
「んー?」
「ちっちゃい子が……。あたし、ちょっと行ってくる」
「待ってーな。おれも行くわ」
「立ち入り禁止やんね? ここ」
「しゃーない」
足もとに散らばってる落ち葉を踏んで、こどもに近づいていった。
あたしが光だと思ったものは、こどもの髪の毛だった。ゆたかな、としか言いようのない、長くて多い金髪が、腰のあたりまでのびている。
「泣いとるん? どうしたん?」
話しかけてから、日本語わかるんかな?と思った。
濃い紫のワンピースから、真っ白な、細い手足が出ている。血管がすけて見えるんじゃないかと思うくらいの白さは、日本人の肌には見えなかった。
ポシェットみたいな、小ぶりの布のかばんを肩からさげている。
こどもが顔を上げた。
「えっ……」
ものすごい美少女だった。ぱっちりした二重の、大きな目。小さめの鼻と、つんととがった、形のいい唇。まるで、お人形みたいだった。
「かわいい!」
「おー。かわいい子やな」
「すみれ色の目やね。外国の映画に、出てきそうやね……」
「はあーっ! やっと、言葉わかる方に会えたでいす!」
「えっ? え、なに?」
「うわーん!」
声を上げて泣きながら、あたしに抱きついてくる。
頭がくらっとした。こんな小さなこどもに抱きつかれたりするのは、あたし自身も小さかった、こどものころ以来だった。
「え、どうしよ……。大丈夫。大丈夫よ。
落ちついたら、あなたの名前を教えてくれる?」
しくしく泣いていた女の子は、しばらくすると、だんだん冷静になってきたみたいだった。
あたしにしがみついていた手から、力が抜けていく。
白い手が、ほっぺをぬらした涙をごしごしと拭いた。
女の子が立ち上がる。小さな足は、動物の皮で作られたような靴をはいていた。
「わたしは、ミエーラ・テレマカシ・なんちゃらかんちゃら・サンキュー・グラシアス・アサンテでいす」
なんちゃらかんちゃらの部分は、さらっと耳から流れていって、聞きとれなかった。
「な、長いなー……」
伊勢くんが、しぼりだすような声で感想を言った。
「縮めよか。うーん。『ミエちゃん』って呼んでも、ええかな?」
「いいですよいー」
「ねえ。今、『サンキュー』入っとったよね?」
「あったな」
「テレマカシとグラシアスも、聞いたことがあるような……。『ありがとう』って意味やなかった?」
「そやったかな」
「お父さんとお母さんは、どこかな? 誰かと、一緒に来たんよね?」
「ちがいます」
「……ほんまに?」
「ホンマ?」
「えっとね。『本当ですか?』って、きいたの」
「ああ! あい」
「そしたら、年は? 今、いくつ?」
「わかりません……」
「えぇー? ほんまに?」
「あい……」
「あたしの名前は、鳥羽っていうの」
「トバ?」
「うん」
「おれは、伊勢です」
「イセ。どうもでいす」
「もっと教えて? ミエちゃんのこと」
伊勢くんは、ちょっと変わっている……と思う。男の子にしては長めの髪は、前髪は横一直線。後ろも切りそろえられていて、おかっぱみたいに見える。
漫画やアニメが好きで、自分でも、小説を書いてるらしい。あたしには、まだ読ませてはくれないけれど。ネットで発表してると教えてくれた。
「リュックの中は、なにが入っとるん?」
「ノートパソコン。あと、あれや。ガイドブックとか」
「パソコンを持ってきたん?」
「ちっちゃくて、軽いやつな。バイト代で買うた」
「すごいなあ」
二人でバスに乗って、伊勢神宮に向かった。かなり時間はかかるけれど、それでも、電車よりもバスの方が早い。
家を出てから二時間くらいで、内宮に続く宇治橋までたどりついた。
大きな鳥居の前で一礼してから、ふくらんだような形の橋を渡る。足をすべらせないように、気をつけて歩いた。
伊勢くんについていくと、小さな橋があった。渡ったところに、手を清める場所があった。すごく混んでいて、列ができている。
「伊勢くん、知っとる? 五十鈴川で、お清めできるところがあるって」
「あー、御手洗場な。ここをまっすぐ行って、右やな」
「ありがとー」
「なんも」
「あっ。ここやね」
あたしが思っていたよりも、ずっと広いところだった。五十鈴川を挟んで、向こう側に森が広がっている。
石畳は、川に向かって下がっている。低いけれど大きい、三段の階段になっていた。
下の段まで下りて、川の水で手を清める。水は冷たかった。あたしが出したハンドタオルを、伊勢くんと二人で使った。
「ありがとうな」
「ううん」
すぐ近くに、門のようなものがあった。お社はないけれど、木の板でぐるっと囲われている。
「これは、なんやろね。『瀧祭神』やって」
「五十鈴川の神さんやな。地元の人は『お取次ぎさん』て、呼ぶんやて」
「へー。お参りしてこ」
あたしとお参りをしてから、伊勢くんが歩きだした。
「このまま行こか。はじめに『しょうぐう』をお参りしたい」
「しょうぐう?」
「正しい宮と書いて、しょうぐう。天照大御神の神さんが祀られとる」
「日本で、いちばん有名な……有名っていったら、おかしい? メインの神様よね」
「うん。合っとるよ」
五十鈴川から離れて、せまい道を進んでいく。
緑の葉っぱの間から、金色の光が見えた。
「待って」
「鳥羽ちゃん?」
砂利道から外れた、木がたくさん生えているところに、誰かがいる。
小さなこどもだ。隠れたがってるみたいに、小さな体をもっと小さくして、木と木の間にしゃがみこんでいる。
「伊勢くん。あそこ……」
「んー?」
「ちっちゃい子が……。あたし、ちょっと行ってくる」
「待ってーな。おれも行くわ」
「立ち入り禁止やんね? ここ」
「しゃーない」
足もとに散らばってる落ち葉を踏んで、こどもに近づいていった。
あたしが光だと思ったものは、こどもの髪の毛だった。ゆたかな、としか言いようのない、長くて多い金髪が、腰のあたりまでのびている。
「泣いとるん? どうしたん?」
話しかけてから、日本語わかるんかな?と思った。
濃い紫のワンピースから、真っ白な、細い手足が出ている。血管がすけて見えるんじゃないかと思うくらいの白さは、日本人の肌には見えなかった。
ポシェットみたいな、小ぶりの布のかばんを肩からさげている。
こどもが顔を上げた。
「えっ……」
ものすごい美少女だった。ぱっちりした二重の、大きな目。小さめの鼻と、つんととがった、形のいい唇。まるで、お人形みたいだった。
「かわいい!」
「おー。かわいい子やな」
「すみれ色の目やね。外国の映画に、出てきそうやね……」
「はあーっ! やっと、言葉わかる方に会えたでいす!」
「えっ? え、なに?」
「うわーん!」
声を上げて泣きながら、あたしに抱きついてくる。
頭がくらっとした。こんな小さなこどもに抱きつかれたりするのは、あたし自身も小さかった、こどものころ以来だった。
「え、どうしよ……。大丈夫。大丈夫よ。
落ちついたら、あなたの名前を教えてくれる?」
しくしく泣いていた女の子は、しばらくすると、だんだん冷静になってきたみたいだった。
あたしにしがみついていた手から、力が抜けていく。
白い手が、ほっぺをぬらした涙をごしごしと拭いた。
女の子が立ち上がる。小さな足は、動物の皮で作られたような靴をはいていた。
「わたしは、ミエーラ・テレマカシ・なんちゃらかんちゃら・サンキュー・グラシアス・アサンテでいす」
なんちゃらかんちゃらの部分は、さらっと耳から流れていって、聞きとれなかった。
「な、長いなー……」
伊勢くんが、しぼりだすような声で感想を言った。
「縮めよか。うーん。『ミエちゃん』って呼んでも、ええかな?」
「いいですよいー」
「ねえ。今、『サンキュー』入っとったよね?」
「あったな」
「テレマカシとグラシアスも、聞いたことがあるような……。『ありがとう』って意味やなかった?」
「そやったかな」
「お父さんとお母さんは、どこかな? 誰かと、一緒に来たんよね?」
「ちがいます」
「……ほんまに?」
「ホンマ?」
「えっとね。『本当ですか?』って、きいたの」
「ああ! あい」
「そしたら、年は? 今、いくつ?」
「わかりません……」
「えぇー? ほんまに?」
「あい……」
「あたしの名前は、鳥羽っていうの」
「トバ?」
「うん」
「おれは、伊勢です」
「イセ。どうもでいす」
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