いせとば -伊勢くんと鳥羽ちゃんの、ちょっと不思議な話- ※現代版「異世界から飛ばされてきたのでいす」と古代版「ダークムーンを救え!」

福守りん

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1.異世界から飛ばされてきたのでいす

ミエちゃん、対峙する(4)

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「……おらんね」
 『渡し守』は、いつのまにか消えていた。
「あれって、妖怪? それとも、神様?」
「どっちでもええんちゃうかな。伊勢は、富士山と並ぶパワースポットや。
 ここであれだけ堂々としとるやつは、悪いもんやない……と思うで」
「たしかに」
「鳥羽ちゃん。これ」
 藍色の、松阪木綿のハンカチを渡された。
「なーに?」
「めっちゃ、涙でとるで」
「やだ……。ありがとー」
 涙を拭いてから、伊勢くんに返した。ミエちゃんは鼻水が出ていたので、ジャンパーのポケットからティッシュを出して、拭いてあげた。
「ずびばぜんねい」
「ええのよ。ミエちゃん、帰ろうか」
「あい。……トバ、イセ。これからも、よろしくでいす」
「もちろんよー」
「帰ろう、帰ろう。赤福買うてってええ?」
「ええよ。ねえ、お参りしてへんね。せっかく来といて」
「せやな」
「明日は土曜日やね。近くで泊まれるところを探して……。また、赤福を食べてから帰る?」
「それもええな」
「いいですねい」
「美夏ちゃんに電話するわ」

 美夏ちゃんがため息まじりに許してくれたので、スマホからビジネスホテルの予約をした。二部屋とって、伊勢くんは一人で、あたしとミエちゃんは二人で泊まることにした。
 ホテルがある五十鈴川駅の向こうまで、歩いて移動することにした。
 歩いている途中で、小さなハンバーガー屋さんを見つけた。なぜか全員テンションが上がって、そこで夕ごはんを食べることになった。

「おいしい? ミエちゃん」
「あいー。なんというか、元気がでる味ですねい」
「な。うまいな。……ハンバーガーを食べながら、言うことやないとは思うんやけど。おれ、松阪牛を本場で食べてみたいんよなー」
「あー。あたしも」
「肉だけなら、いただきもので食べたことあるんやけどな。めっちゃ、うまかったわー」
「ええなー。あたし、ない」
「鳥羽ちゃんにも、いつか食べさしたるわ」
「ふふっ。期待しとく」
「あ、ミエちゃんにもな」
「ありがとうでいす」
「なあ。鳥羽ちゃんは、もし旅行するとしたら、どこへ行きたい?」
「東京の明治神宮やね。あと、島根の出雲大社。日光もええね」
「多いなー。バイト増やさなあかんなー」
「無理せんといてね。あたしも、バイト探そうかなー。
 伊勢くんはないん? 行きたいところ」
「恐山やな」
「へー」
「わたしも、行きたいですねい……。迷惑でなければ、でいすけど」
「ぜんぜん! 一緒に行こうね」
「あい……」
「あと、あれやな。二見の夫婦岩も見たかってん」
「それは、明日行ったらええんやない?」
「せやな」

 それから、三人でもくもくとハンバーガーを食べた。ふとミエちゃんを見ると、小さな手でつまんだポテトをかじりながら、うるうるしていた。
「どしたん?」
「わたしは、しあわせ者ですねい」
「これからよ。ミエちゃん。
 まだまだ、いーっぱいあるからね。楽しいこと」
「せやせや」
「うれしいですねい」

 駅の近くにあった洋服屋さんで、三人分の下着と、明日の分の服を買った。買おうと言ったのは、あたしだった。伊勢くんとミエちゃんにも選んでもらった。
 鳥羽で遊んでから、伊勢くんにおごってもらってばかりいたので、あたしのお金で買おうと思っていた。二人がお店の中をふらふらっとしている間に、レジまでかごを持っていって、伊勢くんになにか言われる前に払ってしまった。

 ホテルに着いたのは、午後八時を少し過ぎたころだった。大人二人と子供一人の宿泊料金を払って、三人で部屋に向かった。
 ミエちゃんは、あたしたちのこどもにしては大きすぎるはずだけれど、フロントの人になにか言われたりはしなかった。そもそも、あたしたちが本当に夫婦だったとしても、ミエちゃんみたいな容姿のこどもが生まれるわけがなかった。
 泊まる部屋の前で伊勢くんと別れて、ミエちゃんと中に入った。
 ユニットバスを順番に使って、ホテルのパジャマに着がえた。
 伊勢くんと話したかった。でも、ミエちゃんが眠るまでは、そばにいてあげたいとも思った。
「ねむたいでいす」
「疲れてもうたんやね……。おやすみ」
 うつぶせになったミエちゃんが、枕に顔をうめる。すぐに眠ってしまった。
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