ことみとライ

雨宮大智

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父さんと母さんとスパゲッティ

 物語を書き終えると、ライの声が心の中に聞こえてきた。
「ありがとう、コトミ。君のおかげで、天空の城は救われたよ。本当にありがとう。今晩の夢で、君を正式に天空の城に招待しようと思う。是非来てほしい」
 ありがとう、楽しみにしているわ、そう琴美は心の中で答えた。


 「おーい、琴美、いつまで寝ているんだ。もうお昼だぞ」父さんの大きな声が一階から聞こえてきた。琴美は、一気に現実に戻された。ノートを秘密の場所にしまい、ゆっくりと階段を下りていく。それはまるで、天空の城から地上に戻るような、不思議な感覚だった。ゆっくりと階段の床を踏みしめる。一歩一歩が現実へと戻っていく過程に感じられた。

「お昼まで寝ているなんて、よっぽど遠足が疲れたのね、琴美。それとも、夜更かししたのかしら」
 ちょっとした気づかいに似せて、母さんがお小言をつぶやいた。
 琴美はそれに対して何も言わずに、ふたりに葉を差し出した。
「はい、どうぞ。長寿のご利益のある葉なんだって。遅くなってゴメンナサイ」
「昨日の遠足で取ってきたのか、まさか生えている木から取ったんじゃ無いだろうね」いぶかしみながらも、父さんは受け取った。
「ご心配なく、落ち葉ですよ」琴美はにっこりとした。
「あら、美容にいいのかしら」母さんは素直に受け取った。
「お昼はスパゲティよ。たくさん食べてね」

 キッチンのテーブルには、出来たばかりのスパゲッティが三つ置かれていた。ナポリタンだ。食べながら話す。
「母さんは子どもの頃、何になりたかったの?」
「私はね、保母さんになりたかったのよ。今の仕事とは全然違うけどね。今は薬局勤めだけど……。あなた位の時に、急にお腹が痛くなったの。そしたら、田舎のおばあちゃんが、薬草を煎じてくれてね、それを飲んだらピタリと治っちゃったの。今でも不思議ね。それがなかったら、母さん、今の仕事に就いて無かったわ」
 スパゲッティをフォークで器用に巻きながら、母さんは早口で言った。
「あなたも、そういう年頃なのかしら」
「昨日も変な事言っていたな。進路か?」
「そんなんじゃないけど、ちょっとね」
「まぁ、人生いろいろあるけど、ちょっとしたきっかけで、決まっていくんだよな。岐路をひとつひとつ、決めていくというか……」

 家族でこんな話をしたのは初めてだった。父さんと母さんが大人のような扱いをしてくれたので、琴美は嬉しかった。人生の岐路か……、きっとこの二日は、琴美にとって岐路に違いなかった。ものを書く事がこんなに楽しく、不思議なことに満ちているという経験は初めてだった。生涯の仕事にしたいというのは無理な望みかもしれないけれども、関係する様な仕事に就きたいと、琴美は思った。
 その晩、いつもより早く、琴美はベッドに入って、眠りとそして夢がやってくるのを待った。
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