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幼少期編

51 嵐のような

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「カ、カミール殿下……如何されました?」

勢いよく入ってきてそのままの王子に声を掛けた。

「うーん、やっぱり自分の気持ちは早く伝えた方がいいと思って!」

「きもち、ですか?」

王子の意味がわからず僕はただただ困惑するばかり。そんな僕をお構い無しで王子はどんどん話を進めていく。

「そうだよ。僕は君が好きなのに他の公爵令嬢と婚約させられそうになってね。ほら、僕たちもうすぐ成人の儀だろう?だから父上が早く婚約者を決めようとしてるんだよ……全く、ケイレブ兄上みたいにリランを僕の婚約者にしたらいいのに」

王家の血を途絶えさせないように王子も王女もだいたい7歳で婚約させられるらしいね。ケイレブ殿下の場合、王様が姉と婚約させたかったからでそういう事はたまにある事みたいだけど。って違う!
僕も王子も男同士だよ?この国では同性婚は認められてるけど、王族は血筋の関係で無理だよ。そもそも、僕は王子の事苦手なんだけど。こんな人と一生一緒とか無理…。

「…えーっと、カミール殿下?王族の方々は同性婚出来ませんよ??」

「ん?ああ、そうだったね。でも、僕は王子だよ?父上に言えば許可してくれるよ!心配しないで!」

そういう事じゃない!というか、いくら王子だからって許可されるわけないから!!
この国はティスデイル王家を五大公家って呼ばれる公爵家が監視役として存在してるんだよ。宰相、上法官、外交官、財務官、将官の職に代々就いてきた公爵家がそう呼ばれてる。もし、王族が同性婚をする場合この五大公家全てに許可を貰わないといけない。王太子になれば可能性が無いわけじゃないけど、今のカミール殿下では間違いなく無理。

なんで?って?
王太子が決まってないからだよ。この国は一夫一妻制を採用してる。王様は世継ぎを必ず産まないといけないから側妃を娶る事が出来るんだけど、将来王族から大公になる王子達は一夫一妻制厳守。ハーレムは王様だけって事だね。

「ねぇ、聞いてるの?リラン」

「ひゃっ!」

考え事してたら立っていたはずの王子がいつのまにか僕の隣に座って、僕の首筋をツーっとなぞった。おかげで変な声出てしまった。すごい恥ずかしい。だからすぐに王子から距離をとった。けど、

(なんで追いかけてくるの…?怖いよ……)

距離を取った分以上に王子が詰め寄って来る。

「可愛い声だね、リラン」

小声で囁くように呟いてきた。なんの意図があるのか知らないけど、鳥肌が身体全身に立ったのがわかった。

(近い近い近い…誰か、兄様…)

すぐにソファーの隅に追い詰められた。なのに僕にかぶさる勢いで王子が迫ってくる。意味がわからなくて怖い。ギュッと目を瞑って固まっているとドアの方から咳払いが聞こえてきた。
王子がハッと息を呑んだのがわかった。恐る恐る目を開けると、カミール殿下の悔しそうな顔が目に入ってきた。僕は意味がわからず “?” でいっぱい。

「失礼ながら、カミール殿下。リュサリネラ様が怖がっておられるので少々距離をお取りください」

そう苦言してくれたのはウィチタだ。隣に王子を止めようとしてくれていた侍女もコクコクと頷いている。

「人払いしておけばよかったな…。まあ、すぐに婚約者になるから我慢してあげるよ」

前半は小声であまり聞こえなかったけど、王子の黒い影ははっきりと見えた。というか、さらっと婚約宣言してるけど、無理だって!

(……あ、カミール殿下って僕が男装してるって思い込んでるんだっけ?……見せるのが1番早いよね。でもカミール殿下に裸見せなくないよ………無理、絶対無理)

僕が男だってどう証明しようか頭を抱えて悩んでいると王子の従者らしき人が慌てて部屋に入ってきた。

「あーあ、時間切れみたい。でも、必ず僕の婚約者にするから!君みたいな可愛い子なかなか居ないからね。じゃあまた来るね!」

従者が口を開く前に王子はそう言うと従者と共に帰って行った。
嵐が去った後、僕は気が抜けてソファーに倒れ込んだ。午前中の疲れも重なって、ウィチタにお昼寝すると伝えて深い眠りについた。

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