カトレアの香る時3【星の見えない夜に】

八千代 サラ

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ハスラー

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下町

住宅街

立派な門構えだが暫く手入れのされていない庭

木造2階建て一軒家

「田島」表札

-居間-

雑然とした部屋

テーブルの前に蘭子と仲村が座っている

テーブルの上に通帳が無造作に置いてある

【城南銀行】の文字

家主の田島幸太郎(65歳)が杖を付きながら蘭子と仲村の前に座る

「こんな所に通帳を置きっぱなしにしていたら物騒ですよ」

蘭子が言う

「あっ、これはこれは。ついうっかりしました。ありがとうございます」

幸太郎、そそくさと棚の引き出しにしまう

「こちらにはお一人でお住まいですか?」

と蘭子が聞く

「ええ、去年家内を亡くしまして。私も脳梗塞やってしまってこんな身体に。お陰ですっかり加奈ちゃんの世話になっております。すみません。何のお構いもできませんで」

「いえいえ、お気遣いなく」

蘭子が恐縮して言う

「その加奈子さんなんですが昨夜の8時から10時の間も、こちらにいらっしゃいましたか?」

「ああ、加奈ちゃんなら来てくれていましたよ。いつもの様に買い物頼んで10時に夜の薬を飲ませてくれてから帰りました」

「加奈子さんはご結婚して湯浅に?」

「そうです」

蘭子、仏壇の中の写真に目をやる

若い青年が写っている

「失礼ですけど?」

蘭子が聞く

「あー、息子の慎介です。4年前の夏に事故で亡くしまして」

「そうですか。と言う事は慎介さんは加奈子さんとはご姉弟ですか?」

「はい。慎介は加奈ちゃんの弟に当たります」

「そうでしたか。お気持ちお察しします。ありがとうございました」


蘭子と仲村、田島家を後にする


帰り道

「田島、何か隠してますかね?」

「さぁ......コホン、コホン」

「蘭子さん、調子出ないッスね」


都心

ネオンが煌めく繁華街

-ハスラー ルパン-
看板

黒を基調とした間接照明だけの薄暗い店内

ビリヤード台が2台とカウンター席があるプールBar

星野真央(44歳)がプレイしている

蘭子と仲村入って来る

「星野真央さんですね?」

真央、プレイの手を止めて面倒臭そうに髪をかき上げる

「誰?」

メンソールのタバコにジッポで火を付ける真央

「警視庁の小白川蘭子」

「同じく仲村です」

仲村、警察手帳をみせる

「旦那の事?」

カウンターの上のブランデーの入ったグラスに口を付けながら真央が言う

「お話、お伺いできますか?」

「あの人が殺されたなんてね。口は悪いけど案外良い人だったのに。でも殺されて当然か」

「当然とおっしゃいますと?」

「優しいけど女好きだったからどこで何やってたんだか。アイツ、女には恨まれる性格だよ」

「なるほど。失礼ですけど離婚調停中だったとか」

「そうよ」

「星野さんの女関係の事で?」

「違うわよ。私が子供の面倒見ないネグレクトだって言い張ってて。離婚してくれって言うから拒否したら、勝手に佑樹を連れて家を出てったのよ。半年位前だったかしら。それであのマンションに佑樹と一緒に住んでたって訳」

「ネグレクトですか」

「違うわよ!私には全く身に覚えの無い事だわ。それなのに一方的に決め付けて離婚してくれなんて!」

真央、タバコを吹かす
フィルターに真っ赤な口紅
真っ赤なマニキュア


「佑樹君、今のお時間はどちらに?」

「一人で留守番させてるわよ」

「一人でですか?」

仲村が驚く

「そうよ。有料チャンネルでも観せとけば大人しくしてるわよ。私はこの仕事があるもの。何か問題でも?」

「いいえ。ご結婚前からハスラーで?」

「そうだけど?何か今回の事に関係でもある?」

真央、不機嫌そうに言う

「いいえ。後、星野さんに手切れ金2億円請求されてたみたいですけど」

「当然でしょ。佑樹まで取られちゃったんだもの。私のこれからの生活費よ。勝手に別れたいって言ってんだし、それ位の額は妥当でしょ。資産家なんだから」

「そうでしたか。因みに昨日の夜の20時から22時の間はこちらに?」

「なぁに?私を疑ってるの?下手したら私の方がアイツに殺されてたかも」

真央、高笑いしながら言う

「いえいえ。皆様にお聞きしているもので」

「ここに居たわよ。スタッフに聞いてくれれば分かるわ」

「そうですよね。ありがとうございました」


帰り道

「怪しく無いッスか。真央。旦那が殺されたってのにあの態度」

「そうね」

「やっぱり、星野が死んで一番得をするのは真央ッスよ。ネグレクトじゃ無いって言ってたけど4歳の子供をこの時間に一人で留守番させるなんて......」

「そうね、星野さんの女関係も当たってみましょ。コホン、コホン」


警視庁

捜査一課

蘭子、デスクでホットレモンを飲んでいる

「コホン、コホン」

咳が止まらない

「何か調子悪いわー」

独り言を言う蘭子

仲村が入って来る

「蘭子さん、気になったので田島幸太郎の息子の事故の件、調べてみたッス」

「何か分かった?」

「名前は田島慎介。奥さんは田島美穂」

「田島美穂?」

「4年前、勤務先のスポーツジムの非常階段から転落死してます。当時27歳。そのスポーツジムのオーナーが星野浩一ッス。星野さんは飲食店やスポーツジム等、手広く経営してます。奥さんの真央が働いてる『ハスラー ルパン』も星野さんの店ッス。殺人の疑いがあって一課も動いてたみたいッスね。その容疑者が星野浩一ッス!でも、証拠不十分で釈放されてて結局事故で処理されてるッス」

「星野さんが容疑者!って事は星野さん殺しは田島慎介の身内の犯行って可能性も有るわね。同じ様に非常階段からの転落死か......。もう少し、田島慎介の事故死の件も調べた方が良さそうね。コホン、コホン。何だか咳のお陰で調子狂うわ」

「そうッスね。いつもなら『匂うわね』って胸をパチンと弾くとこッスけど。今日の所は早く帰って休んだ方が良いッスよ」

「そうするわ」


-スターリースカイ-

蘭子、帰って来る

マンションのエントランスの壁掛けの時計が8時半を指している

ゴミを持った中年の男と蘭子がすれ違う

蘭子、その男を呼び止めて警察手帳を見せる

「すみません。警視庁の者ですが昨夜もこの時間にゴミ捨てに?」

「はい」

「誰か不審な人物見かけませんでしたか?コホン、コホン」

「ええ見ましたよ」

「見た?!男性でしたか?女性でしたか?」

「自分は傘をさしてたんで顔は良くわかんなかったですけど。背の高さは自分と同じ位だったから多分男じゃないかな。あの雨の中傘もささずに非常階段の方から出て来て駅前の方に駆けて行ったので変だなと思いました......」

「駅前の方に?......ありがとうございました」


次の日

警視庁

捜査一課

「コホン、コホン」

「蘭子さん、ダイジョブッスか?熱有るんスか?」

蘭子、体温計で熱を計って

「熱は無いみたい。やっぱり転勤と引っ越しが重なって無理し過ぎちゃったかしら?」

「そうッスよ」

「流星くぅ~ん、薬買ってきて」

「また始まった。何で俺が?病院行ったらどうッスか」

「そんな暇なぁ~い。少しは病人をいたわりなさいよ」

「十分いたわってますけど」

「おねが~い」

「ったく、そう言う時だけ甘えるんだからズルいッスよね。ヘイヘイ分かりましたよ。行ってくりゃ良いんでしょ。行ってくりゃ」

「頼りになるわ~、流星くんっ」


都心

高層ビル1階

-霞ヶ関 薬局-
看板

白が基調の小ぢんまりとした調剤薬局

仲村入って来る

「いらっしゃいませ」

レジに矢口美穂が白衣を着て立っている

「矢口さんっ!」

「あら、小白川さんの旦那さん」

「あっ、イヤ、正確には旦那ではなく部下の仲村と申します」

「部下?ご夫婦じゃなかったんですか?」

「はい。それより矢口さんはこちらでお勤めを?」

「はい。私、薬剤師の免許持ってるのでこちらでパートさせてもらってるんです。まだ新人ですけど」

美穂が肩をすぼめて笑いながら言う

「そうでしたか。実は上司の小白川が風邪気味でして。薬買って来るようにって。完全にパシリッスよ」

「優しい部下さんですね」

美穂がニコッと笑う

「そう言われると照れるな」

仲村、頭をポリポリと掻く

「せっかく来て頂いて何ですけど、ここは調剤薬局なので市販の風邪薬は置いてないんです」

美穂が申し訳なさそうに言う

「えー、やっと見つけた薬局なのに」

仲村が肩を落とす

「風邪薬ならレジの隣の棚にあるよ」

棚の整理をしていた店長が来て言う

仲村、店長のネームプレートをチラッと見る

「ごめんなさい。まだ新人なので良く把握してなくて」

美穂、恥ずかしそうにレジの隣の棚から風邪薬を取る

「はい。風邪薬です」

「良かったぁ。おいくらですか?」

「1980円です」

仲村、金を払って店を出ようとするが戻って来て

「あっ、すみません。昨日、美穂さんのお住まいのマンションで事件が有ったのご存知ですか?」

「ええ、知っています。丁度ひなたを保育園に送って行く時にパトカーが来ていましたから。どんな事件なんですか?」

「401号室の星野浩一さんが何者かに殺害されまして。あっ、この事はご内密に」

仲村、口を押さえながら慌てる

「エッ?!星野さんが!」

「ご存知だったんですか?星野さんを?」

「知ってるも何も星野さんの息子さんの佑樹君とウチの娘のひなたが同じ保育園でして」

「そうでしたか」

「もしかして、小白川さんと仲村さんは刑事さんなんですか?」

「申し遅れましたが2人とも警視庁の者です」

「ドスンッ」

店長が箱を落とす

「す、すみません」

店長、謝る

「そうでしたか」

美穂、少し驚く

「あっ、これ、ありがとうございました!」

仲村、薬の入ったビニール袋をちょっと上に上げて薬局を後にする


警視庁

捜査一課

蘭子、デスクに突っ伏している

「遅いわね。流星のヤツ」

仲村、部屋に駆け込んで来る

「蘭子さんっ!」

「遅~い!死ぬかと思ったじゃない」

「ったく、おおげさなんだから。それより、誰に会ったと思います?!」

「誰よ」

「矢口さんですよ。昨日の朝、エレベーターに乗り合わせた」

「あら?奇遇ね。どこで?」

「今、薬買いに行った薬局で働いてたッス」

「あら?薬局で?......コホン、コホン」

「何か調子狂うな」

蘭子、薬を取り出して

「流星っ!水持って来て!水っ!」

「ヘイヘイ」

蘭子、薬を飲む

「もう帰った方が良いッスよ」

「そうするわ」


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