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2話◆ノヂシャに愛を捧ぐ
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塔の螺旋階段はあちこちに明かり取りの穴が設けられており、夜闇とはいえ歩く分には困らない。しかし隙間風は尋常ではなく、石造りの段は塔を取り巻く風で一段と冷やされているように感じられる。塔の隠し部屋に押し込められているセレナが心配だった。精霊族は寒暖の影響をあまり受けないと言っていたが、それはどれくらいの気温のことをいうのだろう。ただ、その部屋は父であるオルワーズ伯爵も入り浸るから、そこだけは人間が長く過ごしても不便が無いように整えられているのかもしれない。そういう意味では彼女の住環境はあまり案じなくてもいいかもしれないが、伯爵が入り浸るというのは恐らくそういうことだから、セレナが心配なのは変わらなかった。彼女は自分には何も言わないが、それは何も出来なさそうな自分に言っても仕方が無いと思っているのか、それとも自分の身に降り掛かることを恥じて、異性である自分に話せないでいるのか。いずれにしても彼女が口を閉ざすなら、繊細な内容だから自分からは問い質せない。彼女を傷付けることは本意ではないのだから。とはいえ、いつまでも彼女をそのままにしてはおけないし、そのままにしてはおかない。螺旋階段を上る足は震え、息は疾うに上がっていたが、エンディは固い決意を胸に屋上へと上り詰める。壁に遮られない広場へと出れば、暗い空から真逆の色がふわふわと落ちてくる。寒い筈で、今まで降りそうで降らなかった雪が遂にちらついていた。とはいえまだ積もるまでには至っておらず、降り始めといったところか。いつもの場所を見遣れば、後ろ向きのベンチの背凭れには見慣れた卵色の髪。ほっとすると同時にエンディは口端を引き結ぶ。歩き出すと引き摺る足音で判るのか、セレナはすぐに振り向いた。
「いらっしゃい、エンディ!」
立ち上がった彼女の嬉しそうな笑みに眩しげに目を細め、エンディは彼女の元へと辿り着く。セレナは彼に手を貸しながらベンチに並んで腰掛ける。セレナは彼がいつも文句の一つも無く高い塔の吹き曝しの屋上に来るのが心配だった。長い長い石造りの螺旋階段は、上るのも下るのも少年の足に負担を掛けるだろうし、体力も削ぐだろう。それでもセレナはこの塔から出られなかった。自分が住まう隠し部屋は飼い主との色々な痕跡が有ってエンディを招き入れるわけにはいかない。彼が自分を天使だと形容してくれるなら、せめてそのイメージのままでいて欲しいと思う。
「ねぇ、今日は何を教えてくれるの」
「花の名前とか、どうかな」
エンディは懐から古びた一冊の冊子を取り出す。それも四隅が擦り切れて丸く、表紙は色褪せているが、掲載されている絵は精緻で美しく、情報も正確で、そうした内容が数多く収められている小さな植物辞典だった。精霊族の彼女にとって、植物など身近なもので今更知りたいと思わないかもしれないと案じていたが、セレナは今までと同じく心から嬉しそうに笑う。
「素敵ね!私、森に咲いていた花の色や形は覚えているけど、名前はよく分からないものが多いの。教えて、エンディ。あなたの好きな花も知りたいわ」
エンディは目を細めた。初めて会ったときからセレナは人懐こく、明るかった。彼女に出会って精霊族に興味を持ち、出来得る限りで調べて、彼女の置かれた境遇を察するに至っても、彼女はそんな状況に身を置いていることなど微塵も感じさせないほどに朗らかに見える。それが本当に何も感じていないのか、耐えているだけなのかは分からない。けれども彼女の言動が、いつしか辛く苦しい自分の人生に灯る光になったことは確かだった。彼女のように逆境に屈することなく生きたいと思う。セレナはエンディにとって、大切な友人であり、憧れであり、癒しであり、誇りであり、今やなにものにも代え難い特別な存在だった。
「これ、可愛いお花ね」
エンディが開く小さな辞典に載っている花の絵を見てセレナは顔を綻ばせた。勿忘草よりも尚白い、ほんのりと青みがかった小花は、まるで彼女のように愛らしく可憐な印象で、エンディは仄かに口角を持ち上げる。
「葉物野菜の花だから、蕾が付く前に収穫されてしまうし、実際の花も小さくて地味なんだけどね。でも、意識してじっと見ると本当に可愛い花だ」
咲くと葉が硬くなって食用に向かなくなるため、花は敬遠されがちで、目立たず、必要とされず、花としても尊重されない。それを知らずにこの小花に目を向けたセレナを、らしいな、と思う。自分もきっと、この花以上にみすぼらしく、誰にも顧みられない存在だった。出自も足もどうにもならず、路傍の石のように無為な日々を過ごしていたのが、彼女に受け入れて貰えたことでこんなにも前を見て生きていきたいと思えるようになった。
(……この恩に、報いたい)
伯爵に内緒で、偶にこっそりと勉強を見てくれる家令が、貿易の仲介を専門とする小さな会社で、会計見習いとしてエンディが住み込みで働けるように便宜を図ってくれていた。春になる前にエンディはこの家を出る。身一つで姿を消すつもりだから彼女を連れては行けない。けれども決意していた。彼女をこのままにしてはおけないし、このままにしてはおかないと。
(君は、僕が守ってあげる)
エンディは片手を伸べてセレナの手を取ると、そっと握り込む。きょとんとしたセレナの澄んだ瞳を見つめて、エンディはゆっくりと告げた。
「セレナ、よく聞いて」
いつもと同じ、柔らかく穏やかなエンディの声が、大いなる覚悟と少しの緊張で微かに震えている。セレナはただならぬ空気を感じながらも彼の言葉の続きを静かに待った。
「この国には、騎士団という組織が有る。警察機構でもある、この国の全てを守る為の組織だ。きっと君も保護してくれる。……ううん、きっとじゃない。必ず君を守ってくれる。近いうちに彼らが訪れるだろうから、君は聞かれたことに正直に答えながら彼らに保護してもらうんだ」
「……エンディは?……あなたは一緒に守ってもらわないの」
「僕は、大丈夫」
眉を寄せてエンディは笑む。自分はこれから実父であるオルワーズ伯爵を告発するのだ。父の腹心やきょうだい達も巻き込んでのいざこざは必至。家令の計らいで姿を消すとはいえ、今は自分と彼女が無関係ではないと周囲に思われるのは避けた方が無難だろう。だが、セレナを一人にしておくつもりは無かった。
「君は先に騎士団に身を寄せて待っていてくれないか。僕もすぐに色々と片付けて君を迎えに行くから」
「…………」
これまでに、エンディが間違いを口にしたことは一度も無かった。彼は争いを好まず、落ち着いており、頭が良い。こんな風に、いつに無いことを語るのも、何か考えが有ってのことなのだろう。彼がよくよく考えての言動なら、きっと大丈夫に違いない。だがセレナは言い様の無い不安がじんわりと体の内に広がっていくのを感じた。それでも、彼の言葉を信じたいと思った。他でもない、彼の言葉なのだから。
「分かったわ。……待ってる」
いつものように、にこりと笑う。それを見てエンディは微かに息をついた。セレナにはそれが安堵したように見えた。エンディの緊張が、彼の手を通して静かに伝わってくる。
「ごめんね、急にこんな話をして」
柔い苦笑を浮かべて、エンディは握っていた彼女の手を解放する。温かな小さい手を放してしまえば、途端に身を包む寒風を意識して震えてしまう。外気は等しく彼女も包むのに、寒暖の影響を受けないセレナは、相変わらずの薄いワンピース姿のまま平気な顔で笑みを見せた。
「ううん、いいのよ。少し驚いたけれど」
セレナの屈託のない笑顔に、漸くエンディはいつもの笑みを覗かせるようになって、少女は言葉無くほっとする。依然として不安は消えないけれど、彼が考えて決めたことなら信じられるし信じたい。大丈夫、上手くいく筈だ。そう自分に言い聞かせる。何も心配しなくていい筈なのに、何故だろうか。
(――――どうしてこんなに、不安なの)
自分は待っていればいいだけだし、彼も迎えに来てくれると言った。それの何処にこんなに憂える要素が有るだろう。
「そろそろ戻るよ。流石にもう寝ないとね」
寒さに耐えかねてふるりと小さく震えたエンディが、ベンチから立ち上がる。セレナも席を立って彼をじっと見つめた。いつもと変わりない逢瀬、いつもと変わりない見送り。拭いきれない不安だけが、いつもと違う。
「おやすみ。……またね」
「……おやすみなさい」
心の内の曇天は晴れないままでも、セレナはいつもと変わらない笑みで目を細める。それも、彼が振り向いて歩き始めてしまえば装ってはいられなかった。不安に眉根を寄せて、少女は遠ざかる少年の後ろ姿を見つめる。
(……行かないで)
その姿が小さくなり、石造りの螺旋階段を下りていく乾いた音が微かに聞こえては夜闇に溶けていく。見えなくなっていく横顔、髪の先。唐突に目頭が熱くなり、セレナの双眸から涙が零れ落ちる。
(行っちゃだめ)
とめどない涙と共に漏れる嗚咽。セレナは口を押えてその場に蹲る。胸が張り裂けそうだった。彼はただ、自分の思惑を告げておやすみの挨拶と共に部屋に戻っただけだ。なのにどうしてこんなにも悲しいのだろう。
(……行ってしまったら、あなたは、)
そう思ってしまった瞬間、視界がぐるりと回転する。ざわりと肌が粟立ち、嫌な汗が喉を伝った。視界は回転したまま明滅する。少女は抗えずに意識を手放した。
誰かが何度も名を呼んでいる気がする。切羽詰まった声をどこか他人事の気分で耳にしながらゆっくりと目を開けると、心配そうな様子を色濃く見せながらもカイが小さく安堵の息をつくのが視界いっぱいに広がる。セレナはぼんやりと彼の顔を眺めていたが、少しずつ意識がはっきりとしてくると、彼が床に膝をつきつつ自分を抱き抱えているのだと理解した。カイに支えられて少女はゆっくりとその場で立ち上がる。
「ごめんなさい、カイ。……私……」
「……隠し部屋を案内してもらったとき、倒れてしまったんだよ。……すまない、もう少し気を遣うべきだった」
沈痛な面持ちのカイに、セレナは首を振る。カイは最初から案じてくれたが、大丈夫だと言ったのは自分なのだ。少女を支えながらも、大丈夫かと声を掛けて心配するカイに、セレナは気丈に笑んでみせる。多少落ち着いてくると、ここが何処なのかも理解できた。
「……礼拝堂……?」
周囲に視線を巡らせると、塔内部の直径よりも一回り大きいが、教会にしては小ぢんまりとした空間だと分かった。セレナはこの場所をよく知っているわけではないが、初めて訪れたわけでもない。記憶の片隅に有る程度の見覚えだが、どこに何が配置されているかくらいは何となく覚えていた。ただ、記憶よりも随分と古めかしく、設置されている木製の長椅子や祭壇もあちこちが苔生して崩れ、床の一部も壊れて雑草が生えている。天井の片隅に経年を思わせる崩れや隙間が出来ていて、そこから幾つも細く差し込む陽光が雑草の糧となっているようだった。セレナの記憶に間違いが無ければ、ここは地下一階に位置する空間。地下に埋まっているからこそ、地上部分の直径よりも少し広く作られている。壁に据えられた、聖母が描かれた古めかしい絵をぼんやりと見つめるセレナの耳に、複数人の足音が聞こえた。そういえばここにはカイと自分しか居ないと気付く。
「目が覚めたんですね、良かった」
開け放たれたままだった扉から入ってきたのは二人の男性で、セレナは見たことが無い人間だったが、カイの受け答えと揃いの団服で、騎士団員であると知れた。男性の一人はドレッサーに据えられているような小振りの丸椅子を手にしており、セレナの傍に置いて促してくれる。どうやら苔生した壊れかけの長椅子に座らせるよりは、と彼女が目覚める前から探してきたらしい。遅れて、コップを手にした灰色のコート姿の見知らぬ男性と、イルが礼拝堂に入ってくる。男性は水の入ったコップをセレナに差し出した。
「飲みなさい。少しは落ち着くだろう」
差し出されたコップにセレナは戸惑い、隣のカイを見上げる。彼が小さく笑んで頷いたことに安堵して、セレナはコップを受け取って一口分傾けた。カイはともかく、この男性は恐らく精霊族が何も口にしないという生態であることを知らないのだろう。飲めないわけではないし、善意で差し出されたものを受け取らないのは悪い気がした。
「……ありがとう」
男性は、表情こそ硬いが気分を害しているというわけではなさそうで、セレナにとっては多少の人見知りはしても恐怖を感じる対象ではなかった。丸椅子に腰掛け、微かに柑橘の皮の香りがするコップの水をちびちびと飲むうちに、緊張も不安も僅かなりとも解れてくる。セレナは小さく息をついた。
「ごめんなさい……。大丈夫って言ったのに、迷惑をかけてしまって」
「気にしなくていい」
膝に置いたコップに視線を落とすセレナに、素っ気なくはあるが慰めの言葉をイルが投げ掛ける。視線を上げると、やはり初めて目にする三人の男性に目が行った。カイとイルが居て、二人が彼らに普通に接しているのを目にしていても、見知らぬ人間に対する緊張は拭えない。それを察したのかカイは揃いの団服を纏う二人を示してセレナに紹介した。
「君が倒れたすぐ後に到着したんだ。俺と同じ所属の騎士団員で、君の保護を手伝ってくれる」
赤毛の男と栗毛の男は順番に簡単な礼をする。セレナにとっては、略式とはいえ人間にこれだけ礼儀を尽くされたのはカイに次いで初めてのことだった。却って恐縮してしまう少女の背後に回り、その両肩に手を置いて、イルはそっとセレナに告げる。
「この人間に見覚えは」
その相手は先ほど彼女に水の入ったコップを渡した灰色のコートの男である。セレナはきょとんとした顔で彼を見上げた。騎士団から派遣されてきた二人もそうだが、この男性も全く覚えが無い。忘れていたり思い出さないようにしたりしているわけではなく、一度も会ったことが無い意味合いでの覚えの無さであった。セレナは首を振って否定を示す。
「……知らない人間よ。初めて会ったわ」
「そうか……」
何かを確認されたのは分かるが、意図が掴めずにセレナは振り向いて、困惑の視線を背後のイルに向ける。
「この人間は誰?エンディはどこにいるの」
「…………」
硬い表情で黙したままセレナを見下ろすイルに代わり、傍に立つカイが口を開く。
「セレナ。……彼はクロード・ダン・オルワーズ。当代のオルワーズ伯爵だ」
オルワーズの名を耳にした瞬間、セレナはびくっと肩を強張らせる。その名前は彼女にとっては恐怖の対象なのだろう。だが、目の前の男性は、セレナがいくら記憶を辿っても見覚えが無かった。
「違うわ……、この人じゃない。伯爵様はこの人じゃないわ!伯爵様はもっと背が低くて、鉤爪みたいな鼻をしていて……」
「分かってる」
訳が分からず取り乱す少女を宥めるべく、イルは立ち上がらんばかりの彼女の肩に置いた手に軽く力を籠める。セレナは何とか椅子に座ったままだったが、泣きそうな顔で、肩に置かれているイルの手指に触れる。
「……ねぇ、エンディは……?」
背後のイルを見遣るが、口を閉ざすというよりは語ることを躊躇っているように見える。その代わりというわけではないが、傍に立つカイが落ち着いた静かな声音でそっとセレナに告げた。
「騎士団本部で調べたことと、オルワーズ伯……当代の彼から聞いた話を君に伝えるよ。……まず、エンディ……エンディミオン・オルワーズという人物は、既にこの世に亡い。ジェラール・ウィレス・オルワーズ……君の知る伯爵も然りだ。色々と理由は有るけれど、そもそも君と彼らが初めて出会った頃から、随分と長い年月が経っているんだ」
「…………どういうこと……?」
自分の声じゃないような掠れ声が小さく震える。自分がこの塔に連れて来られてから半年ほどしか経っていない筈だ。雪が降り始めそうな寒い季節になってからエンディと出会ったので、彼と過ごした時間は更に短い筈。カイやイルと出会う少し前に少年と知り合い、昼間はカイとイル二人と言葉を交わしていても、夜中に抜け出しては塔の最上階に赴いて少年と会っていたのだ。エンディとの遣り取りが随分前だなんて、そんなことある訳が無い。
(……いいえ)
だが、そう思えば思うほど、自分の心の奥底が自分の認識を否定する。
(本当にエンディや伯爵様と、カイやイルと会っている時間が同じなら、何故私は騎士団を知らなかったの)
昨夜エンディから騎士団に保護してもらうように話をされたとき、その前の昼に、エンディも一緒に保護してもらうようにカイに頼んだと言えた筈だ。だが言えなかった。何故ならエンディから騎士団の話を振られるまで、セレナは騎士団の存在を知らなかったからだ。だが、そんなことが有るだろうか。
――――本当にそれは、昨日の出来事なのだろうか?
時系列がおかしい。くしゃりと卵色の髪を巻き込んで、セレナは頭を抱える。視界が揺らめいていた。水の中で叫んでいるような不明瞭な周囲の声がぼんやりと少女を取り巻いている。礼拝堂は記憶よりも古く、自分がずっと過ごしていた筈の隠し部屋の内装は少しも思い出せず、寒暖の影響を受けない身とはいえ今が冬なのか春なのかも分からない。エンディはずっと寒さに震えていた。今この場にいる彼等の格好は?冬枯れしている筈の雑草や苔が礼拝堂の床を覆っている今は一体何時なのだろうか。思い出さなければ。否、思い出してはいけない。セレナの心が軋み始める。エンディとの別れ際に何故「行ってしまったら」と思ったのだろう。零れる涙を止める術は今の少女には無い。
(……あなたは一体どこにいるの、エンディ)
「いらっしゃい、エンディ!」
立ち上がった彼女の嬉しそうな笑みに眩しげに目を細め、エンディは彼女の元へと辿り着く。セレナは彼に手を貸しながらベンチに並んで腰掛ける。セレナは彼がいつも文句の一つも無く高い塔の吹き曝しの屋上に来るのが心配だった。長い長い石造りの螺旋階段は、上るのも下るのも少年の足に負担を掛けるだろうし、体力も削ぐだろう。それでもセレナはこの塔から出られなかった。自分が住まう隠し部屋は飼い主との色々な痕跡が有ってエンディを招き入れるわけにはいかない。彼が自分を天使だと形容してくれるなら、せめてそのイメージのままでいて欲しいと思う。
「ねぇ、今日は何を教えてくれるの」
「花の名前とか、どうかな」
エンディは懐から古びた一冊の冊子を取り出す。それも四隅が擦り切れて丸く、表紙は色褪せているが、掲載されている絵は精緻で美しく、情報も正確で、そうした内容が数多く収められている小さな植物辞典だった。精霊族の彼女にとって、植物など身近なもので今更知りたいと思わないかもしれないと案じていたが、セレナは今までと同じく心から嬉しそうに笑う。
「素敵ね!私、森に咲いていた花の色や形は覚えているけど、名前はよく分からないものが多いの。教えて、エンディ。あなたの好きな花も知りたいわ」
エンディは目を細めた。初めて会ったときからセレナは人懐こく、明るかった。彼女に出会って精霊族に興味を持ち、出来得る限りで調べて、彼女の置かれた境遇を察するに至っても、彼女はそんな状況に身を置いていることなど微塵も感じさせないほどに朗らかに見える。それが本当に何も感じていないのか、耐えているだけなのかは分からない。けれども彼女の言動が、いつしか辛く苦しい自分の人生に灯る光になったことは確かだった。彼女のように逆境に屈することなく生きたいと思う。セレナはエンディにとって、大切な友人であり、憧れであり、癒しであり、誇りであり、今やなにものにも代え難い特別な存在だった。
「これ、可愛いお花ね」
エンディが開く小さな辞典に載っている花の絵を見てセレナは顔を綻ばせた。勿忘草よりも尚白い、ほんのりと青みがかった小花は、まるで彼女のように愛らしく可憐な印象で、エンディは仄かに口角を持ち上げる。
「葉物野菜の花だから、蕾が付く前に収穫されてしまうし、実際の花も小さくて地味なんだけどね。でも、意識してじっと見ると本当に可愛い花だ」
咲くと葉が硬くなって食用に向かなくなるため、花は敬遠されがちで、目立たず、必要とされず、花としても尊重されない。それを知らずにこの小花に目を向けたセレナを、らしいな、と思う。自分もきっと、この花以上にみすぼらしく、誰にも顧みられない存在だった。出自も足もどうにもならず、路傍の石のように無為な日々を過ごしていたのが、彼女に受け入れて貰えたことでこんなにも前を見て生きていきたいと思えるようになった。
(……この恩に、報いたい)
伯爵に内緒で、偶にこっそりと勉強を見てくれる家令が、貿易の仲介を専門とする小さな会社で、会計見習いとしてエンディが住み込みで働けるように便宜を図ってくれていた。春になる前にエンディはこの家を出る。身一つで姿を消すつもりだから彼女を連れては行けない。けれども決意していた。彼女をこのままにしてはおけないし、このままにしてはおかないと。
(君は、僕が守ってあげる)
エンディは片手を伸べてセレナの手を取ると、そっと握り込む。きょとんとしたセレナの澄んだ瞳を見つめて、エンディはゆっくりと告げた。
「セレナ、よく聞いて」
いつもと同じ、柔らかく穏やかなエンディの声が、大いなる覚悟と少しの緊張で微かに震えている。セレナはただならぬ空気を感じながらも彼の言葉の続きを静かに待った。
「この国には、騎士団という組織が有る。警察機構でもある、この国の全てを守る為の組織だ。きっと君も保護してくれる。……ううん、きっとじゃない。必ず君を守ってくれる。近いうちに彼らが訪れるだろうから、君は聞かれたことに正直に答えながら彼らに保護してもらうんだ」
「……エンディは?……あなたは一緒に守ってもらわないの」
「僕は、大丈夫」
眉を寄せてエンディは笑む。自分はこれから実父であるオルワーズ伯爵を告発するのだ。父の腹心やきょうだい達も巻き込んでのいざこざは必至。家令の計らいで姿を消すとはいえ、今は自分と彼女が無関係ではないと周囲に思われるのは避けた方が無難だろう。だが、セレナを一人にしておくつもりは無かった。
「君は先に騎士団に身を寄せて待っていてくれないか。僕もすぐに色々と片付けて君を迎えに行くから」
「…………」
これまでに、エンディが間違いを口にしたことは一度も無かった。彼は争いを好まず、落ち着いており、頭が良い。こんな風に、いつに無いことを語るのも、何か考えが有ってのことなのだろう。彼がよくよく考えての言動なら、きっと大丈夫に違いない。だがセレナは言い様の無い不安がじんわりと体の内に広がっていくのを感じた。それでも、彼の言葉を信じたいと思った。他でもない、彼の言葉なのだから。
「分かったわ。……待ってる」
いつものように、にこりと笑う。それを見てエンディは微かに息をついた。セレナにはそれが安堵したように見えた。エンディの緊張が、彼の手を通して静かに伝わってくる。
「ごめんね、急にこんな話をして」
柔い苦笑を浮かべて、エンディは握っていた彼女の手を解放する。温かな小さい手を放してしまえば、途端に身を包む寒風を意識して震えてしまう。外気は等しく彼女も包むのに、寒暖の影響を受けないセレナは、相変わらずの薄いワンピース姿のまま平気な顔で笑みを見せた。
「ううん、いいのよ。少し驚いたけれど」
セレナの屈託のない笑顔に、漸くエンディはいつもの笑みを覗かせるようになって、少女は言葉無くほっとする。依然として不安は消えないけれど、彼が考えて決めたことなら信じられるし信じたい。大丈夫、上手くいく筈だ。そう自分に言い聞かせる。何も心配しなくていい筈なのに、何故だろうか。
(――――どうしてこんなに、不安なの)
自分は待っていればいいだけだし、彼も迎えに来てくれると言った。それの何処にこんなに憂える要素が有るだろう。
「そろそろ戻るよ。流石にもう寝ないとね」
寒さに耐えかねてふるりと小さく震えたエンディが、ベンチから立ち上がる。セレナも席を立って彼をじっと見つめた。いつもと変わりない逢瀬、いつもと変わりない見送り。拭いきれない不安だけが、いつもと違う。
「おやすみ。……またね」
「……おやすみなさい」
心の内の曇天は晴れないままでも、セレナはいつもと変わらない笑みで目を細める。それも、彼が振り向いて歩き始めてしまえば装ってはいられなかった。不安に眉根を寄せて、少女は遠ざかる少年の後ろ姿を見つめる。
(……行かないで)
その姿が小さくなり、石造りの螺旋階段を下りていく乾いた音が微かに聞こえては夜闇に溶けていく。見えなくなっていく横顔、髪の先。唐突に目頭が熱くなり、セレナの双眸から涙が零れ落ちる。
(行っちゃだめ)
とめどない涙と共に漏れる嗚咽。セレナは口を押えてその場に蹲る。胸が張り裂けそうだった。彼はただ、自分の思惑を告げておやすみの挨拶と共に部屋に戻っただけだ。なのにどうしてこんなにも悲しいのだろう。
(……行ってしまったら、あなたは、)
そう思ってしまった瞬間、視界がぐるりと回転する。ざわりと肌が粟立ち、嫌な汗が喉を伝った。視界は回転したまま明滅する。少女は抗えずに意識を手放した。
誰かが何度も名を呼んでいる気がする。切羽詰まった声をどこか他人事の気分で耳にしながらゆっくりと目を開けると、心配そうな様子を色濃く見せながらもカイが小さく安堵の息をつくのが視界いっぱいに広がる。セレナはぼんやりと彼の顔を眺めていたが、少しずつ意識がはっきりとしてくると、彼が床に膝をつきつつ自分を抱き抱えているのだと理解した。カイに支えられて少女はゆっくりとその場で立ち上がる。
「ごめんなさい、カイ。……私……」
「……隠し部屋を案内してもらったとき、倒れてしまったんだよ。……すまない、もう少し気を遣うべきだった」
沈痛な面持ちのカイに、セレナは首を振る。カイは最初から案じてくれたが、大丈夫だと言ったのは自分なのだ。少女を支えながらも、大丈夫かと声を掛けて心配するカイに、セレナは気丈に笑んでみせる。多少落ち着いてくると、ここが何処なのかも理解できた。
「……礼拝堂……?」
周囲に視線を巡らせると、塔内部の直径よりも一回り大きいが、教会にしては小ぢんまりとした空間だと分かった。セレナはこの場所をよく知っているわけではないが、初めて訪れたわけでもない。記憶の片隅に有る程度の見覚えだが、どこに何が配置されているかくらいは何となく覚えていた。ただ、記憶よりも随分と古めかしく、設置されている木製の長椅子や祭壇もあちこちが苔生して崩れ、床の一部も壊れて雑草が生えている。天井の片隅に経年を思わせる崩れや隙間が出来ていて、そこから幾つも細く差し込む陽光が雑草の糧となっているようだった。セレナの記憶に間違いが無ければ、ここは地下一階に位置する空間。地下に埋まっているからこそ、地上部分の直径よりも少し広く作られている。壁に据えられた、聖母が描かれた古めかしい絵をぼんやりと見つめるセレナの耳に、複数人の足音が聞こえた。そういえばここにはカイと自分しか居ないと気付く。
「目が覚めたんですね、良かった」
開け放たれたままだった扉から入ってきたのは二人の男性で、セレナは見たことが無い人間だったが、カイの受け答えと揃いの団服で、騎士団員であると知れた。男性の一人はドレッサーに据えられているような小振りの丸椅子を手にしており、セレナの傍に置いて促してくれる。どうやら苔生した壊れかけの長椅子に座らせるよりは、と彼女が目覚める前から探してきたらしい。遅れて、コップを手にした灰色のコート姿の見知らぬ男性と、イルが礼拝堂に入ってくる。男性は水の入ったコップをセレナに差し出した。
「飲みなさい。少しは落ち着くだろう」
差し出されたコップにセレナは戸惑い、隣のカイを見上げる。彼が小さく笑んで頷いたことに安堵して、セレナはコップを受け取って一口分傾けた。カイはともかく、この男性は恐らく精霊族が何も口にしないという生態であることを知らないのだろう。飲めないわけではないし、善意で差し出されたものを受け取らないのは悪い気がした。
「……ありがとう」
男性は、表情こそ硬いが気分を害しているというわけではなさそうで、セレナにとっては多少の人見知りはしても恐怖を感じる対象ではなかった。丸椅子に腰掛け、微かに柑橘の皮の香りがするコップの水をちびちびと飲むうちに、緊張も不安も僅かなりとも解れてくる。セレナは小さく息をついた。
「ごめんなさい……。大丈夫って言ったのに、迷惑をかけてしまって」
「気にしなくていい」
膝に置いたコップに視線を落とすセレナに、素っ気なくはあるが慰めの言葉をイルが投げ掛ける。視線を上げると、やはり初めて目にする三人の男性に目が行った。カイとイルが居て、二人が彼らに普通に接しているのを目にしていても、見知らぬ人間に対する緊張は拭えない。それを察したのかカイは揃いの団服を纏う二人を示してセレナに紹介した。
「君が倒れたすぐ後に到着したんだ。俺と同じ所属の騎士団員で、君の保護を手伝ってくれる」
赤毛の男と栗毛の男は順番に簡単な礼をする。セレナにとっては、略式とはいえ人間にこれだけ礼儀を尽くされたのはカイに次いで初めてのことだった。却って恐縮してしまう少女の背後に回り、その両肩に手を置いて、イルはそっとセレナに告げる。
「この人間に見覚えは」
その相手は先ほど彼女に水の入ったコップを渡した灰色のコートの男である。セレナはきょとんとした顔で彼を見上げた。騎士団から派遣されてきた二人もそうだが、この男性も全く覚えが無い。忘れていたり思い出さないようにしたりしているわけではなく、一度も会ったことが無い意味合いでの覚えの無さであった。セレナは首を振って否定を示す。
「……知らない人間よ。初めて会ったわ」
「そうか……」
何かを確認されたのは分かるが、意図が掴めずにセレナは振り向いて、困惑の視線を背後のイルに向ける。
「この人間は誰?エンディはどこにいるの」
「…………」
硬い表情で黙したままセレナを見下ろすイルに代わり、傍に立つカイが口を開く。
「セレナ。……彼はクロード・ダン・オルワーズ。当代のオルワーズ伯爵だ」
オルワーズの名を耳にした瞬間、セレナはびくっと肩を強張らせる。その名前は彼女にとっては恐怖の対象なのだろう。だが、目の前の男性は、セレナがいくら記憶を辿っても見覚えが無かった。
「違うわ……、この人じゃない。伯爵様はこの人じゃないわ!伯爵様はもっと背が低くて、鉤爪みたいな鼻をしていて……」
「分かってる」
訳が分からず取り乱す少女を宥めるべく、イルは立ち上がらんばかりの彼女の肩に置いた手に軽く力を籠める。セレナは何とか椅子に座ったままだったが、泣きそうな顔で、肩に置かれているイルの手指に触れる。
「……ねぇ、エンディは……?」
背後のイルを見遣るが、口を閉ざすというよりは語ることを躊躇っているように見える。その代わりというわけではないが、傍に立つカイが落ち着いた静かな声音でそっとセレナに告げた。
「騎士団本部で調べたことと、オルワーズ伯……当代の彼から聞いた話を君に伝えるよ。……まず、エンディ……エンディミオン・オルワーズという人物は、既にこの世に亡い。ジェラール・ウィレス・オルワーズ……君の知る伯爵も然りだ。色々と理由は有るけれど、そもそも君と彼らが初めて出会った頃から、随分と長い年月が経っているんだ」
「…………どういうこと……?」
自分の声じゃないような掠れ声が小さく震える。自分がこの塔に連れて来られてから半年ほどしか経っていない筈だ。雪が降り始めそうな寒い季節になってからエンディと出会ったので、彼と過ごした時間は更に短い筈。カイやイルと出会う少し前に少年と知り合い、昼間はカイとイル二人と言葉を交わしていても、夜中に抜け出しては塔の最上階に赴いて少年と会っていたのだ。エンディとの遣り取りが随分前だなんて、そんなことある訳が無い。
(……いいえ)
だが、そう思えば思うほど、自分の心の奥底が自分の認識を否定する。
(本当にエンディや伯爵様と、カイやイルと会っている時間が同じなら、何故私は騎士団を知らなかったの)
昨夜エンディから騎士団に保護してもらうように話をされたとき、その前の昼に、エンディも一緒に保護してもらうようにカイに頼んだと言えた筈だ。だが言えなかった。何故ならエンディから騎士団の話を振られるまで、セレナは騎士団の存在を知らなかったからだ。だが、そんなことが有るだろうか。
――――本当にそれは、昨日の出来事なのだろうか?
時系列がおかしい。くしゃりと卵色の髪を巻き込んで、セレナは頭を抱える。視界が揺らめいていた。水の中で叫んでいるような不明瞭な周囲の声がぼんやりと少女を取り巻いている。礼拝堂は記憶よりも古く、自分がずっと過ごしていた筈の隠し部屋の内装は少しも思い出せず、寒暖の影響を受けない身とはいえ今が冬なのか春なのかも分からない。エンディはずっと寒さに震えていた。今この場にいる彼等の格好は?冬枯れしている筈の雑草や苔が礼拝堂の床を覆っている今は一体何時なのだろうか。思い出さなければ。否、思い出してはいけない。セレナの心が軋み始める。エンディとの別れ際に何故「行ってしまったら」と思ったのだろう。零れる涙を止める術は今の少女には無い。
(……あなたは一体どこにいるの、エンディ)
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