彼女は事件を欲す

NK作家団

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第2件 京都出張

第4話 姉を探してほしんです‥

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 2019年 10月15日

 僕は去年の紀州北方高校女子生徒殺人事件がきっかけで犯人をつきとめてくれた田原 茜の事務所…田原探偵事務所にて茜さんの助手として今年の4月から正式に居候をしながら働いているが…。

 「茜さん。探偵って意外と暇なんですね…」
 僕が聞くと茜さんは事務室兼応接室のデスクでなにかの資料に目を通しながら、
 「探偵が暇なのはいいことだ。事件がないのだからな」
 「もしかして…事件関係以外の依頼を断ったりしてます?」
 「・・そんなこと…あるわけないじゃないか」
 「なんか怪しいですね…」
 「そう思うのなら今日の依頼の内容によるんじゃないか?」
 今日は珍しく…といってはなんだが、1つ人探しの依頼が来ていた。
 そして、その依頼者はその日の昼前に現れた。
 「失礼します」
 と頭を下げて入ってきたのは、1人の男性だった。
 「ようこそお越しくださいました。 どうぞお掛けください。 智也君、飲み物を…」
 「あっ、はい」 
 茜さんは依頼者を応接用のソファーに座らせ。 茜さん自身は依頼者からテーブルを挟んだソファーに座り、僕は事務室内のキッチンでお茶を淹れて、依頼者の男性。茜さん。自分用のお茶を持っていき茜さんの隣に座ると、依頼者は胸ポケットから名刺を取り出し、テーブルに置きながら。
 「私。作家をしている松島 裕樹(まつしま ゆうき)32歳です」
 「ほぅ…作家はこのご時世ですと、そこまで儲けはないのでは?」
 茜さんが聞くと男性は頭をかきながら。
 「いや~。お恥ずかしいことながら、その通りでして私は数年前に親にその事が原因で追い出されまして。それ以来はアパートを借り、バイトをしながら執筆をしていたのです…」
 「それで依頼というのは? 小説に関する取材は受けておりませんのであしからず」
 「いえいえ、私は作家としてではなく。1人の女性の弟として来たのです」
 依頼者…松島さんは持っていた鞄から1枚の写真を取り出しテーブルに置くとそこには1人の女性が写し出されていた。
 「私の姉で、松島 結衣(まつしま ゆい)私より2つ歳上で私の作家人生を陰から支えており、よくメールのやり取りをしていたのですが…。1通のメールをかわきりに姉と連絡がとれなくなってしまいまして…」
 「なるほど…そのメールの内容とは?」
 松島さんは自分のスマホのメールを開き、僕達に見せるとそこには、
 「『平安の4羽の烏が上がり、 錦鯉を左に曲がり・・』なんですかこれは?」
 僕が聞くと松島さんは首をかしげながら、
 「平安…つまり京都というのまでは分かりましたが…。 4羽の鳥というのがわからなくて」
 「なるほど。ちなみに、警察に相談は?」
 「しましたが…事件性がない以上、そこまでは動けないと…」
 「まったく日本の警察は…。松島さん、このメールの文面の写真を撮らせていただいても?」
 「かまいません」
 茜さんは自分のスマホで松島さんのスマホの最後の姉…松島 結衣との文面を写真を撮ると、
 「ちなみに、お姉さんはなんの仕事を?」
 「それが…私もよく分からないのです…」
 「勤務先とかよく行っていた場所は?」
 「あっ!勤務先かどうかは分かりませんが、親に内緒で私のアパートに来るときはいつも京土産を買ってきてくれました」
 「なるほど…。あと最後に、男性の気配とかはありましたか?」
 それを聞いた松島さんは少し言葉に詰まったが、
 「いえ、彼女に限って男が居たということは…」
 「そうですか…。とりあえず、詳細やなにかありましたらこちらから連絡させていただきます。それとこのお姉さんの写真は?」
 「コピーしてきたので、差し上げます」 
 「分かりました」
 茜さんが自分の名刺を松島さんに渡すと、松島さんは再び頭を下げて帰っていった。


 「智也君。この写真をプリントアウトしてくれないか?」
 「分かりました」
 茜さんにそう言われ、僕は先程の茜さんが撮った松島さんのお姉さんからの最後の文面の写真をプリントアウトして茜さんに渡した。
 「『平安の4羽の烏が上がり、 錦鯉を左に曲がり・・』なんだと思います?」
 僕が茜さんは、
 「私は京都に行ったことがないからね…君は?」
 「僕も小学校の修学旅行でしか行ったことが…」
 「なら行ってみるかい?」
 「どこにです?」
 「京都さ」
 「は…?」
 そんなこんなで飛ばしぎみではあるが、僕達は茜さんの運転で京都に向かう…。


 地元の和歌山県 和歌山市から京都へは車で高速に乗れば3時間もあれば着く…。 僕達はとりあえず、観光客で混雑している京都市内を避けて京都市の南側のビジネスホテルに1部屋取り、荷物を室内に運びこび茜さんは早速持ってきたパソコンを開きなにか作業をしはじめた…しかし、
 「茜さん。なんで1部屋だけなんですか?」
 僕が聞くと、
 「1部屋しか空いてなかったからね、それにいくらの探偵業とはいえ2つの部屋を取るのは経済的に無理があるさ」
 「なるほど…」
 半年近く同居している…歳が分からないとはいえ他人(でもないのか?すら分からない)女性とは同室なのはどうかと思いつつも僕はフロントに置いてあった京都市内の地図を開いた。
 「4羽の鳥が北に上がり…4羽の鳥ってなんでしょう?」
 「今は何時?」
 「午後5時前ですけど?」
 「そうか…とりあえず捜査は明日からにして晩ごはんでも食べに行こう」
 「分かりました」
 そして僕達は再び車で町にくり出し、衣笠丼(きぬがさどん)を味わえる店に向かった。

 衣笠丼とは甘辛く炊いた油揚げと青ねぎを卵で綴じ、飯に乗せた丼物である。 京都発祥のご当地丼となっいる…が、大阪などで食べられる『きつね丼』と同じであり、正確には京都のみでの名称ともいわれている(wikipedia参照)。


 そして夕食を終えた僕達はホテルに戻り、一夜を明かし…。 


 翌朝。僕は目を覚まし、周りを見渡すと茜さんがソファーに座りホテルに備えている緑茶を飲んでいた。
 「おはよう。君も飲みかい?」
 茜さんが僕に気付き聞いてきた。
 「大丈夫です」
 僕は起き上がるとそのままベッドに座った。
 「まだ6時前だ、もう少し寝ててもいいぞ?」
 「ちょっと、朝の雰囲気を楽しみますよ」
 そう言いながら僕は例のメールのコピーを鞄から出し。
 「茜さん。この『錦鯉を左に曲がり』って左折するということでは?」
 「おそらくそうだろうな。しかし、その信号がどこかわからん」
 「そうですよね。4羽の鳥(とり)…なぜ鳥(とり)なんでしょう? カラスとかカモメとかじゃなくて…」
 「智也君、そのコピーを…」
 「はい」
 僕は茜さんにメールのコピーを渡すと、
 「智也君! あの依頼者にはめられてたぞ!」
 「どういうことです?」
 「このメール、『4羽の鳥(とり)』じゃなくて『4羽の烏(カラス)』だ!」
 「えぇ? 本当だ…でも言い間違えじゃないんですか? それに、それぐらいで僕達が依頼者のお姉さんを探すのが難航するほどのでもないし…」
 「念のため…」
 茜さんはそう呟くと、自分のスマホで誰かに電話をかけはじめた。
 「私だ。あぁ。今、京都に居るんだが…分かった。それじゃあ、午前10時に京都駅で。あぁ、それとさっきメールで送った男女のことを調べておいてくれ…あぁ頼む」
 茜が電話を切り、
 「茜さん。誰にかけたんですか?」
 「強力な協力者だよ。 まぁ、その協力者と合流するのは10時だ。あと2時間ぐらいは寝ようか」
 そういうと茜さんは再び自分のベッドに横になり寝はじめたので、僕も再び横になり目を閉じた。
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