彼女は事件を欲す

NK作家団

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第2件 京都出張

第6話 残党

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 10月16日 14時頃

 僕と茜さんは、山科にある倉庫跡に向かっていた。
 「それにしても、京都府警の方は話が通じましたね」
 茜さんに部屋の中での事ややり取りを聞いた僕は茜さんにそんなことを言うと、
 「それは修が居たからだろうな」
 「でも公安零課は一般人は知らないはずでは?」
 「警察組織。それも刑事にでもなれば、その存在は聞かされるだろう。そして、警察手帳をちゃんと見せて、そこにご丁寧に『警視庁 公安零課』と書かれてたら、それは協力したがるだろうさ。 うまくいけば公安に協力したとして、出世できるかもしれないからな」
 「なるほど」


 そして、僕達が倉庫跡に近づいてくると、
 「人気がないただの山道ですね」
 僕が言うと、
 「あぁ、犯人が隠れるにはぴったりの場所だ。着いたぞ…」
 茜さんが車を止め、僕達が車から降りると道路の横には茶色の老朽化した倉庫があったが、フェンスなどはなかった。
 「うん? 電話だ」
 茜さんは電話に出る前に、
 「智也君。トランクに黒いクラッチバッグが入っている。それを取っといてくれ」
 そう言うと茜さんは電話に出て。僕は車のトランクを開け、そこに置かれていたクラッチバッグを手に取ると、かなり重たかった。
 「なにが入ってるんだ?」
 と思いつつ僕はトランクのドアを閉めた。 そして、しばらくして電話を終えた茜さんが、
 「ありがとう。そのバッグは私が持っておこう」
 と僕からクラッチバッグを受けとる。
 「そのなかになにが入ってるんですか?」
 「あまり、使いたくはない…物だな。それじゃあ、行くとしようか」
 僕と茜さんは、倉庫の古錆びたドアから中に入ると、かろうじて日光が入っているなにも置かれてない倉庫の真ん中に、椅子にロープ縛り付けられ、ガムテープで口を塞がれた女性が居り。僕と茜さんはその女性に近寄り、僕がロープを外しガムテープを取ると茜さんは、
 「貴女は松島 結衣さんだね? 私達は私立探偵の者だ。もうすぐ、警察も来る安心したまえ」
 女性は数日間飲まず食わずだったのか、ガラガラの声で、
 「私立探偵…? 誰か私を探すように依頼したんですか?」
 「貴女の弟が依頼に来たんだよ。智也君、水をあげるといい」
 「分かりました。どうぞ」
 僕は自分の持っていた鞄から茜さんに念のためと言われて買っといた、ミネラルウォーターを女性…松島 結衣に渡すと、
 「ありがとうございます」
 と言い彼女はミネラルウォーターを数口飲むと、
 「弟って、裕樹がですか!?」
 女性は茜さんに聞くと、
 「あぁ。昨日の話だ」
 「それは…ありえないです。 私の弟は、少し前に私の前で亡くなりましたから…」
 「…やはりそうでしたか。すべてを話してくれますか! 犯人さん!」
 茜さんは、そう叫び僕達が入ってきたドアのほうを振り返ると。しばらくして、ドアから中に1人の男性が入ってきた。
 「あ、あなたは、松島 裕樹さん! なぜここに!?」
 僕が驚くと彼は、
 「警察から聞きましてね。 姉を見つけたと、結衣姉。心配したよ」
 と裕樹さんが結衣さんに近づこうとするが、
 「来ないで!卓也!」
 「えっ? 卓也…? その人は貴女の弟さん。松島 裕樹さんでは?」
 僕が結衣さんに聞くと、彼女は椅子から立ち上がり彼女より後ろに居た僕の後ろに隠れて、
 「いえ。彼は、私のストーカーの金田 卓也(かねだ たくや)です!」
 「えっ!」
 僕は結衣さんをかばうように、少しずつ後退りをする。 でも茜さんはクラッチバッグを肩にかけ卓也さんに少しずつ近寄っていきながら、
 「私達はあなたが昨日、事務所に来た時からあなたの手のひらで踊らされてたんですね。しかも、少し考えれば分かったんですよ。真犯人さん!」
 卓也さんは、
 「いつから俺を疑っていた?」
 「昨日、私が『結衣さんに男の気配はあるか?』と聞いたとき『彼女に限って男が居たということは…』と言った。『彼女』その言葉を実の姉に使うとは考えにくい。その段階で、少しは怪しかったんですよ。そして、決定打となったのは京都市内での遺体発見現場ですよ。 そのビルの管理人や住人は1か月前からその部屋の持ち主の松島 裕樹と会っていない。そして、それはあなたと結衣さんがあの部屋を訪れた日から!」
 「なるほど。しかし、俺じゃなくて結衣が犯人の可能性もあるんじゃないのか?」
 「あきれた、愛した人を犯人扱いしますか?」
 「はいぃ?」
 「結衣さんは先ほど、あなたのことを『ストーカー』と呼んだんですよ!  つまり、あなたはかつてから彼女のことを好きになっていた。しかし、松島 裕樹が邪魔だった。だから殺して、松島 結衣を無理矢理 自分の物にしようした! 違いますか?」
 「茜さん、ちょっと待ってください。 じゃあ、なんでその男は松島 裕樹を名乗ったんですか?」
 僕が聞くと茜さんは、
 「それは松島 結衣も殺して。その責任を松島 裕樹にかけさせようとしたんだ。だから、あなたは松島 裕樹の遺体発見現場に自分の財布と、血で汚した免許証を置いた。しかし、あなたは松島 裕樹殺しでミスを犯している」
 「なに?」
 「それはあなたが殺して、結衣さんとあなたがあの部屋を出た後も裕樹さんは微かに意識があったんですよ。 その証拠に裕樹さんが発見されたリビングより寝室のほうが血液量が多かった。それに、裕樹さんは最後にこの場所を記すためにリビングへ向かいここの住所を意識朦朧としながら記した」
 「なるほど。どおりであんたらがここに居るわけだ」
 「金田 卓也さん。それは違いますよね? あなたは最初から私を殺そうとしていた。でないと、警察に依頼しないでわざわざ和歌山市まで来て私に依頼しませんよね?」
 「ふん。なにもかもお見通しってかよ!」
 卓也さんはズボンの後ろポケットから拳銃を取り出し茜さんに向けたが、それとほぼ同時に茜さんもクラッチバッグから拳銃を取り出していた。
 「おいおい。私立探偵がなんで拳銃なんか持ってるんだ!」
 卓也さんが聞くと、茜さんもそれに返すように、
 「それを言うのなら。なぜ、一般人のあなたがそんなものを…いえ。答えなくて結構です。 私はあなたに過去にあなたに会いましたからね。  金田 卓也副長」 
 「ふっ、副長って呼ばれたの久しぶりだなぁ。でも俺はもうあの組織をやめたんでな」
 「組織? 副長? それに茜さん、その拳銃は!?」
 僕が茜さんに聞くと卓也が、
 「坊や。良いことを教えてやろう。この日本には裏組織『黒蜥蜴(くろとかげ)』っていう組織があってな、その黒蜥蜴の旧関西方面軍 旧副隊長が俺さ。そして、黒蜥蜴の旧関西方面軍、なぜ旧がつくか? それはこの女が壊滅させたからさ! でもよ、田原 茜。黒蜥蜴はまさしくトカゲの如くいくらでも復活するぜ!」
 「なんだと!? 詳しく教えろ!」
 茜さんが聞くと、
 「いいぜ。お縄につく前にすべてを話してやる。黒蜥蜴はな・・」
 その瞬間、パンッ!という発砲音が倉庫内に響き、卓也は眉間を貫かれその場に倒れた…。というか、今の音僕の背後から…?
 「智也君!」
 茜さんが僕に拳銃を向けている…いや、僕の少し左後方? 僕は後ろを振り向こうとすると、背中に拳銃のような物が当たっている気配がした。
 「結衣さん…まさか…!」
 僕は背後に居る人に聞くと、
 「えぇ。私が黒蜥蜴 新関西方面軍の隊員よ。 田原 茜! この子を助けたいなら拳銃を床に置いて、両手を挙げろ!」
 茜さんは迷いつつも言うとおりにして結衣に、
 「1つ聞いて良いかしら」
 「なに?」
 「松島 裕樹を殺したのは貴女なの?」
 「いえ。私の夫を殺したのはそこに寝ている男よ」
 「夫? 書類上の? 別居していても?」
 「えぇ。彼は、私の孤独を唯一無くしてくれた。だから、私にとって夫は私にとっての恩人なのよ。 私はそこにいる男を消えたら平和に同居して暮らそうと思っていた。でもそれを黒蜥蜴が見逃さなかった、そこに伸びている男はあなた 田原 茜と裏切りの心配があった私を殺そうと来たのよ」
 「じゃあ。なんで、こんなこと。あとちょっとで、この男は警察に捕まるところだった」
 「それは私の敵討ちよ。 そして、私がその男を殺したのは…警察に私を守ってもらうため。そのためなら、私は刑務所にでも入るわ」
 そう言うと、結衣さんは拳銃を落とし僕の頭を撫ではじめ。
 「ごめんなさい…」
 と呟くと、そのままその場に座り込んだ。


 その後、やって来た警察に彼女は逮捕され。護送されていくのを見送りながら、茜さんは岡崎さんに先程の彼女の話をすると、
 「そうか。 そういうことなら、公安でなんとかしよう。 そして、その拳銃は使わなくて済んだようだな」
 「あぁ。なんとかな、しかしこれからはそうもいかんだろ…」
 茜さんはそう言うと、車に向かい。それを追いながら僕は岡崎さんに、
 「茜さんとあなたの過去を聞くつもりはありません。でも、茜さんのあの拳銃について聞いてもいいですか?」
 「あれは。我々、公安零課及び内閣総理大臣公認の特例の拳銃で、致命傷や死に至るほどではないが。一時的に足を不自由にさすことぐらいは容易に出来る特製の拳銃さ。そして、彼女の助手をしているといつか君も持つことになるだろう…」
 「なるほど…」
 そして僕と岡崎さんは少し遅れて、車に乗りそのまま帰路につき。岡崎さんは大阪で降ろし、僕達は和歌山に帰った。
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