つがいの薔薇 オメガは傲慢伯爵の溺愛に濡れる

沖田弥子

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謀略の男爵 5

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 浩一郎はワインセラーにずらりと収められているボトルの中から一本を選び出した。

「特別に改装したんだ。趣味に没頭していると他のことが煩わしくなってしまってね。誰にも邪魔されないように、地下に籠もって過ごすことも多いから」

 そういえば邸宅には使用人の姿が見えない。雇ってはいるのだろうが、浩一郎は仕事や趣味の邪魔をしないようにと言い含めているのかもしれない。

「そこに座りなさい。乾杯しよう」
「いえ、僕は、お酒は飲めないので……」

 ほとんど飲んだことがないので断ったが、こちらに背を向けている浩一郎はワインを開けているようだ。コルクの小気味良い音が鳴り、ふたつのワイングラスにとくりと液体が注がれる。

「デザートワインだから、とても飲みやすいよ。チョコレートも用意しよう。どうぞ」

 振り返った浩一郎から差し出されたワイングラスは琥珀色に輝いていた。匂いを嗅いでみたが、アルコールの香りは強くない。
 背凭れの高い木椅子に、浩一郎と向かい合わせに腰掛ける。澪の前にはチョコレートの入った透明の器も置かれた。

「では少しだけ、いただきます」
「澪君の美しさに、乾杯」

 共にワイングラスを掲げる。
 恥ずかしい台詞を臆面もなく口にする浩一郎に困惑しながら、澪はグラスの縁を唇に寄せた。
 ふと、妊娠しているかもしれないことが脳裏を過ぎる。
 お腹に子がいたら、アルコールは控えなければいけないのではないか。
 澪はグラスに口を付けて、唇に液体を触れさせるだけに留めた。

「ごちそうさまでした。とても美味しいです」

 グラスを下ろすと、双眸を眇めてこちらを凝視している浩一郎と目が合う。
 飲んでいないことを咎められるかと思ったが、浩一郎はにこりと笑みを浮かべてチョコレートの入った器を差し出した。

「チョコレートと一緒に含むと美味しいんだよ。甘いものは好きかい?」
「はい。いただきます」

 銀色の紙にひとつずつ包まれたチョコレートを摘まむ。洋酒が含まれていない種類のようで、美味しくいただいた。
 ふいに、晃久は心配しているだろうかと気になった。
 彼に何も言わないまま出てきてしまったのだ。そうすることが互いのためなのだと信じたが、婚約披露のときとは事情が異なることに思い当たる。
 澪は、そっと下腹を撫でた。
 お腹の子はどうしよう。
 この子は晃久の子であり、澪の子だ。晃久の渇望したであろう大須賀家の血を引いている。
 晃久が産んでほしいと望んだのも、血筋が欲しいからということなのだと思う。
 他家の令嬢と結婚しても、この子は養子にもらうと言い出すだろうか。
 傍にいてほしかった。
 子どもに傍にいてほしい。自分の手で育てたい。
 晃久が他の人と結婚して、澪の隣にいてくれないならなおさら、晃久の子どもだけでも抱きしめて共に過ごしたい。
 そう思うのは澪の傲慢なのだろうか。

「澪君、どうしたんだい?」

 俯いて物思いに耽っていた澪は声をかけられて、はっとお腹から手を離す。

「いえ、何でもありません」

 まだ妊娠しているかも分からないのだ。浩一郎に相談することではないだろう。
 何気ない調子で、浩一郎は微笑みながら問いかけた。

「もしかして、妊娠してるのかい?」
「……えっ!? どうしてそのことをご存じなんですか」

 澪は驚いて身を引いた。
 そういえば浩一郎は自身がアルファであると語っていた。三種の性について認知している。

「まあ、今の澪君の仕草を見ればわかるよ。とても美しくて惹かれるからオメガかと思ったけれど、やはりそうなんだね。しかし晃久に先に手を出されていたとはね。出遅れてしまったな」

 かまをかけられたようだ。澪の言動が分かりやすいのだろう。
 惹かれるだとか出遅れただとか、浩一郎は澪に好意を持っているようなことを口にするが、どう捉えれば良いのか困ってしまう。

「まだはっきりと妊娠したとわかったわけじゃないんです。可能性があるという、お医者さまの話です」
「なるほど」

 頷いた浩一郎の姿がぼやける。澪は目を擦ろうとして手を持ち上げたが、急な目眩を覚えてテーブルに手を付いた。

「う……」

 なぜか視界がぐらつく。一体どうしたというのだろう。
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