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宰相の懐妊指導 1
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なんだか、距離がとても近い。
いつものファルゼフは宰相として常に一歩離れたところに立ち、冷静な意見を述べているイメージがあるのだが、今夜はまるで別人のように妖艶な笑みを湛えていた。
眼鏡を外しているせいだろうか。セナは、ぱちぱちと目を瞬かせてファルゼフの精悍な相貌を見やった。
キスしそうなほどに近づいた雄々しい唇は、低い声音を紡ぐ。
「神馬の儀を成功させるために、今宵は懐妊指導を行います。よろしいですね、セナ様」
「あ……はい。あの、でも、僕は懐妊した経験はありますし……それにどうしたら懐妊するかということはわかっているので、指導してもらうことがあるのかなと思うのですけど……」
きらりと目の奥を光らせたファルゼフは、軽々とセナの体を抱き上げた。
横抱きにされたまま、天蓋付きの寝台へ向かう。
勉強ばかりしている人は腕力に欠けるのかと思いきや、そんなことはなく、ファルゼフは優男の見た目に反して、かなり力があるようだ。
紗のカーテンを捲ると、柔らかな寝台にそっと下ろされた。
室内には長椅子もあるのだが、ここに座って話すということだろうか。
セナが寝台から足を下ろして腰かけると、ファルゼフもその隣に腰を下ろす。
「懐妊の経験がおありとはいえ、過信はいけません。それに四年間懐妊していないのですから、方法が間違っているという可能性も存在するわけです。わたくしは宰相として、セナ様の体の隅々まで知らなければならない。そうではありませんか?」
もう懐妊指導は始まっているのだ。ファルゼフの講師らしい適切な説明を聞いたセナは、素直に頷いた。
「はい、そのとおりです」
「わたくしは医学も習得いたしましたので、オメガの体の造りを熟知しておりますが、人間の体というものはひとつとして同一のものはないのです。たとえば子宮口は、すべてのオメガが完全に同じ位置に付いているわけではない。比較的前のほうのオメガもいれば、やや後ろのオメガもいます。それが妊娠率の変化する要因のひとつになります。あまりにも位置が後ろですと、精液が届かないということがありますからね」
「なるほど……」
「それから、子宮口の柔軟性も重要です。オメガの子宮口は発情が頂点に達すると開きますので、亀頭を直接咥えて精液を呑み込むことが可能です。その状態に至れば、大幅に妊娠率が上昇します。発情したオメガが妊娠しやすいと言われるのは、こういった理由からです」
「とても勉強になります……」
セナは無意識に手を動かし、ペンで書き込むような仕草をしてしまう。今の講釈は書き留めておかなくてよいのだろうか。
ファルゼフは講義中にそうするのか、指先で眉間をなぞる。眼鏡のブリッジを押し上げる仕草らしい。今は眼鏡を装着していないのだが。
「ふふっ」
思わず、セナは笑ってしまった。ファルゼフが咳払いをしたので、慌てて口元を掌で塞ぐ。講義中なのに笑うなんて不謹慎だった。
「これらのことを踏まえまして、セナ様は身に覚えのある事柄がございますか?」
「……ええと、身に覚えのあることといいますと……」
「セックスの最中に、子宮口を男根の先端が突く感覚はありますか?」
あまりにも直裁に述べられた台詞に、セナは顔を赤らめる。
けれど、これは指導のうちの質問なのだ。
決してファルゼフが、セナと淫らな会話を繰り広げたいからという理由などではない。
真面目に、正直に答えなくてはいけない。頬を染めながらも、セナは小さな声で返答した。
「あります……。深く挿入されたとき、すごく感じるところがあるんです。たぶん、そこが子宮口なのかなと……」
「子宮口で男根を咥えたことはありますか?」
「えっ? ええと……わからないです。体の中は見えないので……」
「見えなくても感じることはできるでしょう。すごく感じる、とは、どの程度ですか?」
「ええと……視界が白くなって、体が浮き上がってしまうような感じがします」
「オーガズムに達する一種の特徴ですね。そのとき、子宮口は柔らかくなりますか?」
「ええ? どうでしょう……夢中になっているので、そこまで意識してないです」
「ほう。夢中になるほど感じているのですね」
「はい……」
淫乱だと認定されたようで、なんだか恥ずかしい。
朱に染まった頬を俯かせるセナに対する質問は続けられた。
「子宮口についてのセナ様の自覚は承知しました。他に、ご自身で気になることはありますか? セックスの最中でも、そこに至る前戯でも、疑問や否定的に考えていることなどございますか」
「疑問や否定的なこと……ですか」
「そうです。精神的なことをお伺いしたい。たとえばですが、無理やり口淫させられるので気分が乗らないだとか」
「あ……! あの、そのことなんですけど……」
提示された例とは逆なのだが、ラシードとハリルに口淫をさせてもらえないことが、疑問ではある。不満のような感情を抱いているのも確かだ。折角の機会なので、ここでファルゼフに真相を訊ねてみたい。
いつものファルゼフは宰相として常に一歩離れたところに立ち、冷静な意見を述べているイメージがあるのだが、今夜はまるで別人のように妖艶な笑みを湛えていた。
眼鏡を外しているせいだろうか。セナは、ぱちぱちと目を瞬かせてファルゼフの精悍な相貌を見やった。
キスしそうなほどに近づいた雄々しい唇は、低い声音を紡ぐ。
「神馬の儀を成功させるために、今宵は懐妊指導を行います。よろしいですね、セナ様」
「あ……はい。あの、でも、僕は懐妊した経験はありますし……それにどうしたら懐妊するかということはわかっているので、指導してもらうことがあるのかなと思うのですけど……」
きらりと目の奥を光らせたファルゼフは、軽々とセナの体を抱き上げた。
横抱きにされたまま、天蓋付きの寝台へ向かう。
勉強ばかりしている人は腕力に欠けるのかと思いきや、そんなことはなく、ファルゼフは優男の見た目に反して、かなり力があるようだ。
紗のカーテンを捲ると、柔らかな寝台にそっと下ろされた。
室内には長椅子もあるのだが、ここに座って話すということだろうか。
セナが寝台から足を下ろして腰かけると、ファルゼフもその隣に腰を下ろす。
「懐妊の経験がおありとはいえ、過信はいけません。それに四年間懐妊していないのですから、方法が間違っているという可能性も存在するわけです。わたくしは宰相として、セナ様の体の隅々まで知らなければならない。そうではありませんか?」
もう懐妊指導は始まっているのだ。ファルゼフの講師らしい適切な説明を聞いたセナは、素直に頷いた。
「はい、そのとおりです」
「わたくしは医学も習得いたしましたので、オメガの体の造りを熟知しておりますが、人間の体というものはひとつとして同一のものはないのです。たとえば子宮口は、すべてのオメガが完全に同じ位置に付いているわけではない。比較的前のほうのオメガもいれば、やや後ろのオメガもいます。それが妊娠率の変化する要因のひとつになります。あまりにも位置が後ろですと、精液が届かないということがありますからね」
「なるほど……」
「それから、子宮口の柔軟性も重要です。オメガの子宮口は発情が頂点に達すると開きますので、亀頭を直接咥えて精液を呑み込むことが可能です。その状態に至れば、大幅に妊娠率が上昇します。発情したオメガが妊娠しやすいと言われるのは、こういった理由からです」
「とても勉強になります……」
セナは無意識に手を動かし、ペンで書き込むような仕草をしてしまう。今の講釈は書き留めておかなくてよいのだろうか。
ファルゼフは講義中にそうするのか、指先で眉間をなぞる。眼鏡のブリッジを押し上げる仕草らしい。今は眼鏡を装着していないのだが。
「ふふっ」
思わず、セナは笑ってしまった。ファルゼフが咳払いをしたので、慌てて口元を掌で塞ぐ。講義中なのに笑うなんて不謹慎だった。
「これらのことを踏まえまして、セナ様は身に覚えのある事柄がございますか?」
「……ええと、身に覚えのあることといいますと……」
「セックスの最中に、子宮口を男根の先端が突く感覚はありますか?」
あまりにも直裁に述べられた台詞に、セナは顔を赤らめる。
けれど、これは指導のうちの質問なのだ。
決してファルゼフが、セナと淫らな会話を繰り広げたいからという理由などではない。
真面目に、正直に答えなくてはいけない。頬を染めながらも、セナは小さな声で返答した。
「あります……。深く挿入されたとき、すごく感じるところがあるんです。たぶん、そこが子宮口なのかなと……」
「子宮口で男根を咥えたことはありますか?」
「えっ? ええと……わからないです。体の中は見えないので……」
「見えなくても感じることはできるでしょう。すごく感じる、とは、どの程度ですか?」
「ええと……視界が白くなって、体が浮き上がってしまうような感じがします」
「オーガズムに達する一種の特徴ですね。そのとき、子宮口は柔らかくなりますか?」
「ええ? どうでしょう……夢中になっているので、そこまで意識してないです」
「ほう。夢中になるほど感じているのですね」
「はい……」
淫乱だと認定されたようで、なんだか恥ずかしい。
朱に染まった頬を俯かせるセナに対する質問は続けられた。
「子宮口についてのセナ様の自覚は承知しました。他に、ご自身で気になることはありますか? セックスの最中でも、そこに至る前戯でも、疑問や否定的に考えていることなどございますか」
「疑問や否定的なこと……ですか」
「そうです。精神的なことをお伺いしたい。たとえばですが、無理やり口淫させられるので気分が乗らないだとか」
「あ……! あの、そのことなんですけど……」
提示された例とは逆なのだが、ラシードとハリルに口淫をさせてもらえないことが、疑問ではある。不満のような感情を抱いているのも確かだ。折角の機会なので、ここでファルゼフに真相を訊ねてみたい。
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