煌めく氷のロマンシア

沖田弥子

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皇子ユーリイ 1

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 ルカとイサークの間に立った男は、その場に台座を置いた。台座の傍に屈んで頭を垂れる。
 あれ、と首を捻れば、男のコートに馴染んで見えなかった小さな影が台座に乗った。

「ボクは騎士団とくべつめいよたいちょう、ユーリイ・ロマンシアである!」

 金の巻き毛に青い眸で頬を紅潮させた特別名誉隊長は、先日会ったロマンシア皇子、ユーリイだった。まさかユーリイ皇子が登場するとは思わず、煌は唖然とする。
 まだ六歳の小さな体をオーダーメイドらしき濃紺の軍服に包んでいるが、幼児体型のため、お腹に巻かれた黄の腰紐の分量が大きい。履いているロングブーツは人形に履かせるような小型だ。制帽は大きすぎると顔全部が隠れてしまうせいか掌サイズに造られており、それがふわりとした巻き毛の頂点に乗せられている。

「しょくんらは、ロマンシア帝国の名にはじぬ、騎士のちゅうぎを……えっと、なんだっけ」

 実は従者だった年嵩の男が耳打ちしている。挨拶の台詞を忘れてしまったらしい。煌を含めた新人団員の顔が緩んでしまう。しかしルカが睨むと、皆は表情を引き締めた。

「ちゅうぎをおもんじれいせつをつくせ。以上」

 丸暗記なので棒読みだ。よくできました。微笑ましさに、煌は拍手をした。
 まるで天使のように愛らしい皇子が一生懸命胸を張り、隊長らしくしようと振る舞っているのだから、頑張ったねと褒めてあげたくなる。
 拍手をしたのは煌ひとりで、乾いた音が広場に響く。
 ユーリイはこちらに首を巡らせると、びしりと指を差した。

「こら、きさま! どうして手をたたく」

 皆の視線が煌に降り注ぐ。拍手をしてはいけなかったのだろうか。指名されては答えないわけにもいかない。

「ユーリイさまのご挨拶が素晴らしかったからです」
「なんだと⁉ ボクは特別名誉隊長だ。気安く名を呼ぶな!」
「失礼いたしました。ユーリイ皇子特別名誉隊長さま」
「きさま……。ばかにしてるのか? 前へ出ろ!」

 ユーリイは小さな体を怒りに震わせている。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。今は男の姿なのでまさか紗綾姫と同一人物だとは分からないだろう。煌は言いつけどおりユーリイの前へ進み出ると、深く頭を垂れた。

「ご無礼がありましたら、お許しください」
「ダメだ! ゆるさないぞ。名をなのれ」
「キラ・ハルアと申します」

 仕方なく名乗ってしまう。イサークとルカには知られているので、この名で通すしかない。
 ユーリイはピンクの唇を尖らせた。紗綾姫として対面したときは人見知りを発揮して部屋から飛び出していったのに、騎士団ではとんでもない暴君だ。

「キラはボクを子どもだと思ってるだろう」
「六歳ですから子どもですよね」

 思わず首肯してしまうと、顔を真っ赤にしたユーリイは声を張り上げた。

「ボクをぐろ……! ぐるう……えと、なんだっけ」
「愚弄ですか」
「そうそれ。愚弄するか!」

 ユーリイから見えない位置で、腕組みをしたルカがこちらに顎をしゃくっているのが目に映る。子どもの癇癪が面倒だから早く終わらせろと言いたいらしい。了解しました。
 煌は膝を付いて精一杯言葉を尽くした。

「ユーリイさまを愚弄する気は毛頭ございません。僕はロマンシア帝国の騎士として、またユーリイさまの臣下として身を尽くす所存にございます」

 少しの間があった。煌がそっと顔を上げると、天使の半眼という世にも不細工な顔で迎えられる。

「きさまのことばは嘘っぽいな。まるで心がこもってない」

 意外な鋭さで指摘され、狼狽えてしまう。ユーリイは革手袋を小さな手で外すと、ぽいと放ってきた。眼前に落ちたので思わず拾い上げる。

「ボクと勝負しろ。勝てば、きさまを騎士としてみとめてやる。負けたらその場で除隊だ」

 決闘の申し込みらしい。剣術の指南は受けたことがあるが、師範には程遠かった。そんな腕前の煌でも大人なので、ユーリイと比べたら力の差は歴然としている。
 驚いている煌が返答する前に、即座にイサークが割って入った。

「お待ちください、ユーリイさま。この勝負は賛同できかねます」
「理由をのべよ」
「帝位を継ぐ尊い御身に、もしものことがあってはいけません。どうしてもと仰るなら代役をお立てください」
「ダメだ! 大尉はボクが負けると思ってるんだな」
「とんでもございません。ですが歴戦の勇者でも必ず敗北を経験しているのです。敗北を積み上げた上に勝利がございます。ユーリイさまは次期皇帝ですから、勇者とは事情が違います。負けを積むわけにはいかないのです」
「つまり、ボクが負けると言いたいんだな!」
「いえ、あのですね……」
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