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古城の闘い 3
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そのとき、室外から怒声と複数の靴音が鳴り響いてきた。次第に大きくなる音の洪水は、石造りの部屋に傾れ込む。
「キラ! 無事か」
燦然と現れたロマンシア皇帝の姿に驚嘆する。騎士団を率いたアレクは剣を掲げて先頭を切り、傭兵をなぎ倒しながら駆けつけてきた。
「アレク⁉ どうしてここに」
騎士団と傭兵が入り乱れ、混戦になる。
交差する剣と怒号。剛力から繰り出される一撃を放ったのはイサークだ。背中合わせにしたルカの華麗な剣が弧を描く。
「イサーク、ルカ!」
ふたりも来てくれたことに感激して、煌の声が輝く。
「キラだけじゃ心配だからな。偵察ご苦労」
「勘違いしないでよ。助けに来たわけじゃないんだから。これが私の仕事なんでね」
騎士団の剣が傭兵たちの剣を弾き飛ばしていく。地に伏せ、降参した傭兵は次々に引き立てられていった。
煌の眼前に、真紅のマントが翻る。煌を背に庇うようにして剣を構えたアレクは、襲いかかる剣先を薙いだ。
「君をひとりにはしておけない。我々は騎士団を纏めて、キラの後から駆けつけたのだ」
「アレク……」
ひとりじゃなかった。アレクは煌を信頼し、援護するつもりでいてくれたのだ。自分ひとりで解決しようなんて思っていたことを、煌は恥じた。
やがて大勢いた傭兵は掃討された。残るは部屋の隅に避難していたカザロフ大公と侍従のみになる。丸腰の大公は侍従を前に押し出すようにして喚いた。
「私は唆されただけだ! 手紙は此奴が書いたのだ。私は何も知らぬ」
悠然とした足取りで剣を携えたアレクが近づく。悪党たちの足は震えていた。
「皇帝として命じる。ヨセフ・カザロフは蟄居とする。大公の地位を剥奪されたくなければ、生涯大人しくしていてもらおうか」
厳しい皇帝の眼差しに敗北を悟ったカザロフ大公は、悄然として肩を落とした。侍従と共に騎士団に連行されていく。
勝敗は決した。
煌はユーリイと志音の元に駆けつけた。ふたりが縛られていた縄を解く。
「キラ! きっと助けにきてくれるってボクは信じてたんだぞ」
気丈なことを言いながらも、涙を零してしがみついてくるユーリイは恐怖と戦っていたのだろう。煌は小さな体を思いきり抱きしめる。
「わたくしはもはや諦めていました。煌さまの侍従として最期までお勤めを果たそうと念じておりました」
眸に涙を浮かべる志音はしゃくり上げている。煌は志音の肩も抱いた。
「無事で良かった。ふたりに怖い思いをさせたのは僕のせいだ。もう紗綾姫の身代わりをする必要もない。二度とこんなに目には遭わせないから安心してくれ」
恐怖から解放された安心感でユーリイは大声を上げて泣き喚いた。やがて涙も落ち着くと、傍で様子を見守っていたアレクが小さく嘆息を漏らす。
「どうやら、三人の間では協定が結ばれていたらしいな。もう我々に秘密を打ち明けてくれても良いのではないか?」
紗綾姫の着物を着た志音を、イサークとルカも不思議そうに見ている。まだアレクたちには何の説明もしていなかったのだ。煌は慌てて向き直り、頭を下げた。
「実は……今まで紅宮殿にいた紗綾姫は、僕だったのです。僕の本名は春暁宮煌。紗綾の実の兄です。身重の妹の身代わりとしてロマンシアへ参りました。昨夜は僕が侍従になったため、志音に紗綾姫のふりをさせていたのです。始めから、ロマンシアに本物の紗綾姫はいなかったのです。皆様を謀り、申し訳ございませんでした!」
長い沈黙を持って迎えられる。アレクは得心したように頷いた。
「なるほど。もしや双子かと訝ったが、同一人物とはな。不可思議なこともすべて納得がいった。よくぞ打ち明けてくれたな、キラ」
率直に受け止めてくれたアレクの後ろで、ルカは長い睫毛を瞬かせると柳眉を跳ね上げた。
「そういうことだったの? じゃあ姫と侍従のかけもち生活ってわけ? 何でそんなややこしいことしてるの」
「それは俺たちが騎士団に勧誘したからだろ。まさか瑠璃国の王子とはな。逸材だと思ったよ」
ようやく住居の秘密と身の上を明かせたわけだが、煌は申し訳なさでいっぱいだった。イサークやルカはもちろん、騎士団にも多大な迷惑をかけてしまった。
寛大なアレクとイサークが平静であるのに対し、怒り出したルカの文句は止まらない。
「イサークが勝手に声かけたんでしょ。どこが逸材なの。迷惑な王子だよ。キラは凡庸だから侍従のほうが似合ってるよね」
「ルカのほうがよほど王子っぽいよな。気位の高さは皇族だもんな」
イサークの余計な指摘に、眇めた紫色の双眸でルカは冷淡に睨み据えた。
「よく分かってるじゃない。ヴァルナフスキー男爵家が没落したらイサークは私の奴隷にするから安心していいよ」
「そりゃあいい。食いっぱぐれがないな」
「キラ! 無事か」
燦然と現れたロマンシア皇帝の姿に驚嘆する。騎士団を率いたアレクは剣を掲げて先頭を切り、傭兵をなぎ倒しながら駆けつけてきた。
「アレク⁉ どうしてここに」
騎士団と傭兵が入り乱れ、混戦になる。
交差する剣と怒号。剛力から繰り出される一撃を放ったのはイサークだ。背中合わせにしたルカの華麗な剣が弧を描く。
「イサーク、ルカ!」
ふたりも来てくれたことに感激して、煌の声が輝く。
「キラだけじゃ心配だからな。偵察ご苦労」
「勘違いしないでよ。助けに来たわけじゃないんだから。これが私の仕事なんでね」
騎士団の剣が傭兵たちの剣を弾き飛ばしていく。地に伏せ、降参した傭兵は次々に引き立てられていった。
煌の眼前に、真紅のマントが翻る。煌を背に庇うようにして剣を構えたアレクは、襲いかかる剣先を薙いだ。
「君をひとりにはしておけない。我々は騎士団を纏めて、キラの後から駆けつけたのだ」
「アレク……」
ひとりじゃなかった。アレクは煌を信頼し、援護するつもりでいてくれたのだ。自分ひとりで解決しようなんて思っていたことを、煌は恥じた。
やがて大勢いた傭兵は掃討された。残るは部屋の隅に避難していたカザロフ大公と侍従のみになる。丸腰の大公は侍従を前に押し出すようにして喚いた。
「私は唆されただけだ! 手紙は此奴が書いたのだ。私は何も知らぬ」
悠然とした足取りで剣を携えたアレクが近づく。悪党たちの足は震えていた。
「皇帝として命じる。ヨセフ・カザロフは蟄居とする。大公の地位を剥奪されたくなければ、生涯大人しくしていてもらおうか」
厳しい皇帝の眼差しに敗北を悟ったカザロフ大公は、悄然として肩を落とした。侍従と共に騎士団に連行されていく。
勝敗は決した。
煌はユーリイと志音の元に駆けつけた。ふたりが縛られていた縄を解く。
「キラ! きっと助けにきてくれるってボクは信じてたんだぞ」
気丈なことを言いながらも、涙を零してしがみついてくるユーリイは恐怖と戦っていたのだろう。煌は小さな体を思いきり抱きしめる。
「わたくしはもはや諦めていました。煌さまの侍従として最期までお勤めを果たそうと念じておりました」
眸に涙を浮かべる志音はしゃくり上げている。煌は志音の肩も抱いた。
「無事で良かった。ふたりに怖い思いをさせたのは僕のせいだ。もう紗綾姫の身代わりをする必要もない。二度とこんなに目には遭わせないから安心してくれ」
恐怖から解放された安心感でユーリイは大声を上げて泣き喚いた。やがて涙も落ち着くと、傍で様子を見守っていたアレクが小さく嘆息を漏らす。
「どうやら、三人の間では協定が結ばれていたらしいな。もう我々に秘密を打ち明けてくれても良いのではないか?」
紗綾姫の着物を着た志音を、イサークとルカも不思議そうに見ている。まだアレクたちには何の説明もしていなかったのだ。煌は慌てて向き直り、頭を下げた。
「実は……今まで紅宮殿にいた紗綾姫は、僕だったのです。僕の本名は春暁宮煌。紗綾の実の兄です。身重の妹の身代わりとしてロマンシアへ参りました。昨夜は僕が侍従になったため、志音に紗綾姫のふりをさせていたのです。始めから、ロマンシアに本物の紗綾姫はいなかったのです。皆様を謀り、申し訳ございませんでした!」
長い沈黙を持って迎えられる。アレクは得心したように頷いた。
「なるほど。もしや双子かと訝ったが、同一人物とはな。不可思議なこともすべて納得がいった。よくぞ打ち明けてくれたな、キラ」
率直に受け止めてくれたアレクの後ろで、ルカは長い睫毛を瞬かせると柳眉を跳ね上げた。
「そういうことだったの? じゃあ姫と侍従のかけもち生活ってわけ? 何でそんなややこしいことしてるの」
「それは俺たちが騎士団に勧誘したからだろ。まさか瑠璃国の王子とはな。逸材だと思ったよ」
ようやく住居の秘密と身の上を明かせたわけだが、煌は申し訳なさでいっぱいだった。イサークやルカはもちろん、騎士団にも多大な迷惑をかけてしまった。
寛大なアレクとイサークが平静であるのに対し、怒り出したルカの文句は止まらない。
「イサークが勝手に声かけたんでしょ。どこが逸材なの。迷惑な王子だよ。キラは凡庸だから侍従のほうが似合ってるよね」
「ルカのほうがよほど王子っぽいよな。気位の高さは皇族だもんな」
イサークの余計な指摘に、眇めた紫色の双眸でルカは冷淡に睨み据えた。
「よく分かってるじゃない。ヴァルナフスキー男爵家が没落したらイサークは私の奴隷にするから安心していいよ」
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