乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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プロローグ

乙女怪盗、参上

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 幾多の角灯から零れる明かりが闇夜に蠢く。
 深夜の邸宅周辺を、制服を纏う警官隊が角灯をかざしては警邏していく。
 その間を縫い、躍る影は屋根へ飛び移る。木々が微かにざわめいた。
 ひとときの静寂。
 突如、怒号が響き渡る。

「出たぞ! 乙女怪盗ジョゼフィーヌだ!」

 現場は俄に慌ただしくなる。一斉に角灯が向けられた先には、尖塔に佇み漆黒のマントを翻す乙女の姿があった。
 銀色の長い髪が風にたなびく。弦月を映す銀灰色の眸は宝石のごとく輝きを放つ。
 体にぴたりと沿う黒のドレスは幾重にもかさねられたシフォンの裾が、麗しい腿を飾っている。すらりと伸びた脚は黒のロングブーツに包まれて、顔には舞踏会で使用するような仮面を被り、大ぶりな羽根飾りの付いた帽子を着用していた。すべてが黒で覆われた彼女の、マントの裏地だけが、燃えるような情熱の赤に染められている。
 押し寄せる警官隊を嘲笑うかのように、涼やかな声音が流れた。

「月よ、華よ、きらめく星の、乙女怪盗ジョゼフィーヌ参上。警察のみなさま、ご苦労さま。ナイルの星は頂いていきますわ」

 華奢なその手には、一粒の宝石が摘ままれている。月明かりに、きらりと煌めきを落とした。
 捕まえろ、と屋根に登り出す警官に流し目をくれてやり、艶やかな出で立ちの乙女は華麗に跳躍した。満月を背に、真紅のマントが夜を彩る。瞬く間に木々に飛び移り、姿は見えなくなった。
 予告状が出された宝石は、必ず盗まれる。
 世間を騒がす、乙女怪盗ジョゼフィーヌ。
 今宵も参上。その正体は、月だけが知っている。
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