乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第一章 引きこもり伯爵の受難

特別国王憲兵隊への任命

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 色々と紅茶で飲み下し、無難な返事を絞り出す。

「期待しています。ところで、私に何か御用でしょうか」

 またもや身を乗り出しかけたバルスバストルをアラン警部は手を挙げて遮る。探るようなその眸は、真っ直ぐにノエルを見据えている。

「伯爵家には『天空の星』という名の宝石があったそうですね。一三年前に盗難届が出されていますが」
「ええ、そうです。今も行方知れずなんです」
「それは、乙女怪盗の仕業ですか?」
「いえ、違いますよ。賊の正体はわかっていません」

 アラン警部は双眸を眇めた。すべてを見透かすようなダークグリーンの眸に、落ち着かない心地になる。

「賊の正体がわからないのに、何故乙女怪盗ではないと言い切れる」

 急に尊大な物言いになったアラン警部に若干の反発を覚えながら、ノエルは努めて平静さを装った。指摘されたとおり、今の発言は矛盾していた。だが、焦るようなことは何もない。

「だって乙女怪盗が現れたのは三年前くらいじゃないですか。彼女が一三年前から活動していたのなら、乙女とは名乗れないのでは?」

 バルスバストルとフランソワが同時に吹き出した。
 そこ、笑うとこじゃないんですけど。
 アラン警部はといえばにこりともせず、「なるほど」とだけ呟いた。
 この男、苦手だ。早く帰ってほしいな。
 ノエルは溜息を吐いて諦めたように肩を竦めた。

「警察の方はお忙しいでしょうから、一三年前の事件なんて今更解決できないでしょう。天空の星は私が捜しますよ」
「ほう。それは興味深いな」

 え、なに。
 私、今何かまずいこと言ったかな。
 眸をぱちりと瞬く。
 フランソワに助けを求めるような視線だけは送らないように、空になったカップに目線を据えた。もっともフランソワは助けるどころか窮地の沼に嵌めるようなことをしでかしてくれるので問題ない。ないのか?
 アラン警部は懐から、書状を取り出してばさりと掲げた。一同が注目する中、フランソワは微笑を浮かべて流麗な声を発する。

「おやまあ。逮捕令状でしょうか」

 うるさいな、黙ってろ。
 真っ先に眼に飛び込んだサインは、国王陛下のものだ。つまり警察が発行した令状ではない。
 朗々と、アラン警部は内容を読み上げた。

「ノエル・コレット伯爵を特別国王憲兵隊に任命する。乙女怪盗捕獲のため国家警察に協力し、功績を上げるべく尽力せよ。シャンポリオン国王、シャルル・ド・シャンポリオン」

 呆然として書状を見つめる。
 どうやら国王命令で乙女怪盗を逮捕せよという任務を負ったらしい。
 シャンポリオン国は王族・貴族・平民という身分階級が存在するので、司法や行政も身分別の機関が稼働している。貴族で構成されているのが国王憲兵隊だが、ノエルは天涯孤独の引きこもり伯爵なので無縁だった。

「俺の部下として、捜査に参加してもらう。よろしくな、コレット伯爵」
「はあ……」
「良かったですね、坊ちゃま。これで坊ちゃまの引きこもりが昼も解消できますね」

 だから余計なことを言うなっつうの。
 天涯孤独は撤回しよう。フランソワという極めて有能なお荷物を抱えながら引きこもり伯爵と乙女怪盗というふたつの顔を使い分け、今後は特別国王憲兵隊とやらに参加してこの不遜な男にこき使われるというのだろうか。
 無理。色々無理じゃないかな。
 とどめにバルスバストルが満面の笑みで追従する。

「心配いりませんですよ、伯爵。私もお手伝いさせていただきます。わからないことがあったら、どんどんお訊ねくださいね、まってま~すンフッフ」
「それはありがたい……ですね……」

 頼もしい仲間たちに囲まれて幸せです、はい。
 ノエルは空になったカップを持ちながら、口元を引き攣らせた。
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