乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第三章 パーティーでシャンパンを

デュヴィヴィエ男爵との面談 1

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 フランソワが手綱を取る馬車に一同は乗り込んだ。デュヴィヴィエ男爵の屋敷はコレット伯爵家から、そう遠くない区域にある。貴族の屋敷は王宮を囲むように建てられているので、ご近所さんのようなものだ。
 車窓から覗く景色は夕暮れの茜色に染められている。街路の所々に警官が立っていた。

「今日の警備はいっそう厳重ですね」
「規模が大きいからな。宝石店一件を守るのとは、わけが違う。乙女怪盗捕獲要員、道路封鎖要員、来客の安全も確保しなければならない。総勢数百名が警戒に当たる。警察本部長の期待は多大なものだ。今夜、乙女怪盗を捕まえられなければ、俺の首は飛ぶだろう」
「えっ……」

 思わず見上げたアランの横顔には、真剣さと緊張が入り交じった表情が窺えた。バルスバストルも珍しく神妙な顔をして唇を引き結んでいる。

「アラン警部がクビになったら、僕もお伴しますのでご安心くださいイフウ」
「たとえばの話だ。今夜こそ捕まえる。勝算はある」

 決意の込められた強い眼差しが、仄暗い空間に光を灯す。
 ジョゼフィーヌが盗みを成功させれば、アランが警察を辞めさせられる。一瞬心が揺らいだが、本気で立ち向かってこその勝負なのだと思い直す。
 今宵は決して、一瞬の油断も許されない。
 ノエルはごくりと息を呑んだ。
 やがて馬車は警察の警備する屋敷の門を通り抜け、馬車寄せで停まる。

「お待たせいたしました」

 フランソワに手を取られ、ドレスの裾を捌きながら苦労して降りた。辺りを見回せば警官の姿ばかりで、来客の馬車は見当たらない。パーティーの始まる時間はまだ先なのだ。
 警備の警官に敬礼を返したアランは、バルスバストルとノエルに顎をしゃくる。

「行くぞ。パーティーの前にデュヴィヴィエ男爵に面会するんだ。男爵に話は通してある」

 いってらっしゃいませ、と慇懃に礼をするフランソワを馬車と共に残して、豪勢な屋敷の玄関を潜った。
 パーティー会場は驚くような広さで、豪華なシャンデリアの輝きが紗の絨毯をいっそう鮮やかに引き立てていた。純白のクロスが掛けられたテーブルには、いくつもの銀食器が並べられている。これから料理が運ばれるのだろう。召使たちが優雅な所作で準備に励んでいる脇を、ノエルたちは足早に横切る。
 執事に取り次いでもらい、奥の一室に通された。

「ようこそいらっしゃいました。私がデュヴ・ド・デュヴィヴィエです」

 舌を噛みそうな名前の恰幅の良い紳士がデブ……ではなく、デュヴィヴィエ男爵だ。パーティー好きなので社交界では有名な男爵で、引きこもりのノエルでも顔見知りである。

「警察本部のアランです。こちらは本日捜査に協力してくださるコレット伯爵です」

 紹介されて慌ててドレスを摘まみ、即興の貴婦人らしい礼をする。

「お久しぶりです、デブ……ヴィエ男爵。捜査のため女装していますが、ノエル・コレットです」
「おお、ノエル君か! 大きくなったね。御父上がご存命の頃はよく会っていたが、いつの間に美しいお嬢さん……ではなく、ご子息になられたものだ」

 男爵はもちろんコレット家の内情を知らないので、素で間違えたのである。デブの返礼、ありがとうございます。
 隣で長椅子に腰掛けている女性が男爵夫人だ。たおやかそうな御婦人で、その指には今夜の標的であるエメラルドの指輪が嵌められている。
 素晴らしい輝きだ。今すぐにでも手を伸ばしてしまいたくなる。
 ノエルが微笑みかけると、男爵夫人は優しげな笑みを浮かべてくれた。
 これまでとは状況の異なる、もっとも重要な点がある。
 それは、宝石が『指輪』というアクセサリーであることだ。
 物言わぬショーケースに置いてあるのではなく、生きた人間が身につけているわけで、宝石を盗むには男爵夫人の指から外すほかない。
 椅子を勧める男爵にアランは丁重に断り、ノエルだけを座らせてくれた。
 さて、と本題に入る。

「それでは今夜のパーティーの手筈ですが……」
「アラン警部~、ひどいですよお。僕もデブ男爵に紹介してくださいよ~ンフフゥ」
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