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第三章 パーティーでシャンパンを
疑惑
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アランの叫び声と発砲が重なる。咄嗟に身を伏せたジョゼフィーヌの体が、ぐらりと傾いだ。
弾は当たっていない。危ないところだった。
息もつかずに体勢を整えれば、シャンデリア自体が傾いている。吊り下げている金具に弾が命中したのだ。ぶつり、と音を立てて鎖が次々に切れている。
もはや一刻の猶予もない。
ジョゼフィーヌは渾身の力を込めて、シャンデリアを振り子のように揺らした。
「危ない、落ちるぞ‼」
真下にいた警官たちが散っていく。
限界まで振れたシャンデリアは、最後の鎖が切れた。勢いをつけ、窓硝子めがけて放り出される。
破壊音が轟く。
窓硝子が叩き割られ、崩れたシャンデリアと共にバルコニーに落下していく。無数の破片が降り注ぐなか、着地したジョゼフィーヌは漆黒のマントを翻して夜の庭園に溶け込もうとしていた。
「追え、逃がすな! 門を封鎖しろ。バルス、いるか!」
「はい~アラン警部、ご馳走美味しかったですかウフゥ」
「おまえは他に言うことはないのか⁉」
「硝子の破片が危ないから気をつけましょうウフ」
「もういい! 乙女怪盗は庭園に逃げ込んだ。捜索しろ」
お腹ペコペコで走れないというバルスバストルの泣き言とアランの怒号が聞こえてくる。
庭園に逃げると見せかけて、回り込んだジョゼフィーヌは角を曲がったすぐ傍の茂みに潜んでいた。
多くの警官が広大な庭園へと駆り出されたようだ。いくつもの角灯の明かりが輝いている。その様子を見届けてから、近くにある壁の上部に据え付けられた小さな窓を開けて体を滑り込ませた。
「ふう」
警官は乙女怪盗の捜索に忙しく、来客は避難しているので、会場近くのトイレットには誰もいない。
用具入れを開けて、先ほど脱いでおいた菫色のドレスを取り出す。露出の多い漆黒のドレスの上から着込み、わからないよう馴染ませる。羽根飾りの付いた帽子を脱いで畳み、仮面も一緒にドレスの内側にある隠しポケットに突っ込んだ。ブーツに見立てたハイヒールの黒い外面を剥がして、これもポケットへ。
「あ、そうそう」
懐から取り出した指輪を、所定の位置に隠す。
最後に化粧が崩れていないかコンパクトで見る余裕まで持って、ノエルは悠々とトイレットの扉を開けた。ドレスを翻し、慌てた様子で会場へ戻る。
アランが部下に指示を出しながら、目ざとくノエルを見つけた。気が立っているらしく、怒りの表情を露骨に表し、大股で歩み寄ってくる。
「どこへ行っていた」
静かに問い質す声音に首を竦める。
乙女怪盗に変身してシャンデリアに登ってました。大変だったんですよ?
「お腹を壊しまして、トイレットにこもってました」
用意していた台詞を述べると、アランは疑わしげに双眸を眇めた。
「おまえが体調を崩したときに限って乙女怪盗が現れるんだな」
「くるくると思ってると、プレッシャーに押し潰されてしまうんです。予告しないで来てほしいですよね」
何か言い返そうとしたアランは、ふとノエルの前髪から何かを摘まんだ。
硝子の破片だ。
ほんの小さな欠片は、明かりにきらりと煌めいた。
ぐっと息が詰まる。
険しい眸をむけるアランに、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。
しまった。庭園ですべて払ったはずだったのに。
「これはどういうことだ」
きょとんとして瞬きながら、逃げ道を必死に考える。
言い訳してはいけない。口数が多くなればボロが出る。
「何ですか、それ?」
「硝子の破片だ」
「それが何か」
「そこの窓硝子を突き破って乙女怪盗は逃走した。大量の飛散した硝子を被ったことだろう」
「はあ。でも私はトイレットにこもっていたんですが」
「では何故おまえの髪に硝子の破片が付いている」
「さあ」
痺れを切らしたアランは、指先をくいと曲げて何かの合図を出した。
「何でしょう?」
「ドレスを捲れ」
「……はい?」
弾は当たっていない。危ないところだった。
息もつかずに体勢を整えれば、シャンデリア自体が傾いている。吊り下げている金具に弾が命中したのだ。ぶつり、と音を立てて鎖が次々に切れている。
もはや一刻の猶予もない。
ジョゼフィーヌは渾身の力を込めて、シャンデリアを振り子のように揺らした。
「危ない、落ちるぞ‼」
真下にいた警官たちが散っていく。
限界まで振れたシャンデリアは、最後の鎖が切れた。勢いをつけ、窓硝子めがけて放り出される。
破壊音が轟く。
窓硝子が叩き割られ、崩れたシャンデリアと共にバルコニーに落下していく。無数の破片が降り注ぐなか、着地したジョゼフィーヌは漆黒のマントを翻して夜の庭園に溶け込もうとしていた。
「追え、逃がすな! 門を封鎖しろ。バルス、いるか!」
「はい~アラン警部、ご馳走美味しかったですかウフゥ」
「おまえは他に言うことはないのか⁉」
「硝子の破片が危ないから気をつけましょうウフ」
「もういい! 乙女怪盗は庭園に逃げ込んだ。捜索しろ」
お腹ペコペコで走れないというバルスバストルの泣き言とアランの怒号が聞こえてくる。
庭園に逃げると見せかけて、回り込んだジョゼフィーヌは角を曲がったすぐ傍の茂みに潜んでいた。
多くの警官が広大な庭園へと駆り出されたようだ。いくつもの角灯の明かりが輝いている。その様子を見届けてから、近くにある壁の上部に据え付けられた小さな窓を開けて体を滑り込ませた。
「ふう」
警官は乙女怪盗の捜索に忙しく、来客は避難しているので、会場近くのトイレットには誰もいない。
用具入れを開けて、先ほど脱いでおいた菫色のドレスを取り出す。露出の多い漆黒のドレスの上から着込み、わからないよう馴染ませる。羽根飾りの付いた帽子を脱いで畳み、仮面も一緒にドレスの内側にある隠しポケットに突っ込んだ。ブーツに見立てたハイヒールの黒い外面を剥がして、これもポケットへ。
「あ、そうそう」
懐から取り出した指輪を、所定の位置に隠す。
最後に化粧が崩れていないかコンパクトで見る余裕まで持って、ノエルは悠々とトイレットの扉を開けた。ドレスを翻し、慌てた様子で会場へ戻る。
アランが部下に指示を出しながら、目ざとくノエルを見つけた。気が立っているらしく、怒りの表情を露骨に表し、大股で歩み寄ってくる。
「どこへ行っていた」
静かに問い質す声音に首を竦める。
乙女怪盗に変身してシャンデリアに登ってました。大変だったんですよ?
「お腹を壊しまして、トイレットにこもってました」
用意していた台詞を述べると、アランは疑わしげに双眸を眇めた。
「おまえが体調を崩したときに限って乙女怪盗が現れるんだな」
「くるくると思ってると、プレッシャーに押し潰されてしまうんです。予告しないで来てほしいですよね」
何か言い返そうとしたアランは、ふとノエルの前髪から何かを摘まんだ。
硝子の破片だ。
ほんの小さな欠片は、明かりにきらりと煌めいた。
ぐっと息が詰まる。
険しい眸をむけるアランに、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。
しまった。庭園ですべて払ったはずだったのに。
「これはどういうことだ」
きょとんとして瞬きながら、逃げ道を必死に考える。
言い訳してはいけない。口数が多くなればボロが出る。
「何ですか、それ?」
「硝子の破片だ」
「それが何か」
「そこの窓硝子を突き破って乙女怪盗は逃走した。大量の飛散した硝子を被ったことだろう」
「はあ。でも私はトイレットにこもっていたんですが」
「では何故おまえの髪に硝子の破片が付いている」
「さあ」
痺れを切らしたアランは、指先をくいと曲げて何かの合図を出した。
「何でしょう?」
「ドレスを捲れ」
「……はい?」
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