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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗
フランソワの提案
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地獄のランチがようやく終わり、食後の紅茶が提供される。案の定、疑心暗鬼になったアランはカップを傾けて、真っ当な紅茶かどうか吟味している。
「安心してください。ティーバッグです。節約しようと私が提案しました」
「……あまり聞きたくはないが、ティーバッグを提案する前の紅茶はどういった形態だったんだ?」
聞かないほうがいいと思う。
ノエルとアランの視線がカップ越しに交錯する。
「カップにこんもり茶葉を詰めて、そこにお湯をかけまして……」
「もういい。俺が悪かった。今度ショコラフラペチーノを奢ってやろう」
同情されてしまった。
カップいっぱいの茶葉にお湯をかけると膨らんだ茶葉が盛大に溢れてしまい、まさに茶畑になるのは壮観だ。
ノエルの胃は逞しく鍛えられているが、初体験だったバルスバストルはおかわりまで完食させられてしまい、留守番を言いつけられたよりもっと青ざめている。
フランソワは恭しく銀盆にのせたコップの水を、倒れる寸前のバルスバストルに差し出した。
「どうぞ、バルス刑事。お水です。夏バテでしょうか。何か精のつくものをお作りしましょうか?」
「いえいえいえいえいえいえ……軽い陣痛です。少し休めば治りますからウフッフ……」
何か産まれちゃうのかな?
遠慮して水を飲もうとしないバルスバストルは豪勢な料理を堪能してお腹いっぱい胸いっぱいなので水も喉を通らないらしい。
フランソワは改まった表情でアランに向き直った。
「アラン警部。実は、お願いがございます」
「何だ? 料理教室の紹介なら喜んでさせてもらおう」
「そうではございません。先ほどのラ・ファイエット城へ赴くお話しですが、わたくしも同行させてはいただけないでしょうか」
皆の視線がフランソワに集まる。彼は乙女怪盗捜索に関わらない平凡な執事、ということになっているので、ラ・ファイエット城への同行の申し出は意外なことだった。
「ラ・ファイエット城にも使用人はいるだろう。ノエルの身の回りの世話は必要ないと思うぞ。それに過保護にしないほうがいい、特に胃を」
言いますねえ。さすがアランは怖いもの知らずだ。
フランソワは慇懃に頭を下げた。
「わたくしが心配なのは、夜中に坊ちゃまが起きたとき城の暗い幽霊が出るトイレットにひとりで行けませんから手を引いて連れていかねば……」
「わあああああ! アラン、私からもお願いします! ぜひ、フランソワも連れていってください!」
トイレット問題をすっかり忘れていた。屋敷以外のところで宿泊するなら重要な事柄である。
あまり人に知られたくないプライベートな問題なので慌てて遮ったが、どうやらほぼ暴かれてしまったようだ。アランの蔑みを込めた半眼が心地良いほどに突き刺さる。ああ、居たたまれない。
アランは面倒そうに溜息を吐いた。
「許可する。出立は明後日だ」
恭しく謝辞を述べるフランソワの機転に、ノエルは感謝した。
執事特製の豪華料理が功を奏したんですね、きっと。
アランとバルスバストルが帰ると、厨房で後片付けをしていたフランソワにノエルは早速声をかける。
「フランソワ、いつの間に予告状出してたの? 天空の星が見つかったなら言ってくれれば良かったのに」
フランソワは洗いかけの皿を置くと、神妙な顔つきで振り返った。
「わたくしではございません。わたくしが坊ちゃまに相談もなく予告状を出すはずがありませんよ」
「そうだよね……。じゃあ、乙女怪盗の偽物が天空の星を狙ってるってこと?」
ふたりで首を捻る。
一体、何者だろう。本当に欲しかった宝石が偽物の乙女怪盗に奪われてしまうだなんて、皮肉すぎて到底受け入れられない結末だ。
「まず、やるべきことは、旅支度と情報収集です。わたくしは出立に向けての準備をいたします。入念な下準備こそ、成功のためには不可欠でございますから」
完璧執事らしい言葉を述べたフランソワは手際よく厨房を片付けて、ラ・ファイエット城へ旅立つための荷造りを始めた。
ノエルも自室へ戻り、乙女怪盗の衣装を仕舞っている秘密のクローゼットを開ける。
漆黒の装束一式は静かに出番を待っている。
何者だろうが、負けられない。
乙女怪盗ジョゼフィーヌの真の力を見せて差し上げよう。
ノエルは決意を込めて、黒い仮面を手にした。
「安心してください。ティーバッグです。節約しようと私が提案しました」
「……あまり聞きたくはないが、ティーバッグを提案する前の紅茶はどういった形態だったんだ?」
聞かないほうがいいと思う。
ノエルとアランの視線がカップ越しに交錯する。
「カップにこんもり茶葉を詰めて、そこにお湯をかけまして……」
「もういい。俺が悪かった。今度ショコラフラペチーノを奢ってやろう」
同情されてしまった。
カップいっぱいの茶葉にお湯をかけると膨らんだ茶葉が盛大に溢れてしまい、まさに茶畑になるのは壮観だ。
ノエルの胃は逞しく鍛えられているが、初体験だったバルスバストルはおかわりまで完食させられてしまい、留守番を言いつけられたよりもっと青ざめている。
フランソワは恭しく銀盆にのせたコップの水を、倒れる寸前のバルスバストルに差し出した。
「どうぞ、バルス刑事。お水です。夏バテでしょうか。何か精のつくものをお作りしましょうか?」
「いえいえいえいえいえいえ……軽い陣痛です。少し休めば治りますからウフッフ……」
何か産まれちゃうのかな?
遠慮して水を飲もうとしないバルスバストルは豪勢な料理を堪能してお腹いっぱい胸いっぱいなので水も喉を通らないらしい。
フランソワは改まった表情でアランに向き直った。
「アラン警部。実は、お願いがございます」
「何だ? 料理教室の紹介なら喜んでさせてもらおう」
「そうではございません。先ほどのラ・ファイエット城へ赴くお話しですが、わたくしも同行させてはいただけないでしょうか」
皆の視線がフランソワに集まる。彼は乙女怪盗捜索に関わらない平凡な執事、ということになっているので、ラ・ファイエット城への同行の申し出は意外なことだった。
「ラ・ファイエット城にも使用人はいるだろう。ノエルの身の回りの世話は必要ないと思うぞ。それに過保護にしないほうがいい、特に胃を」
言いますねえ。さすがアランは怖いもの知らずだ。
フランソワは慇懃に頭を下げた。
「わたくしが心配なのは、夜中に坊ちゃまが起きたとき城の暗い幽霊が出るトイレットにひとりで行けませんから手を引いて連れていかねば……」
「わあああああ! アラン、私からもお願いします! ぜひ、フランソワも連れていってください!」
トイレット問題をすっかり忘れていた。屋敷以外のところで宿泊するなら重要な事柄である。
あまり人に知られたくないプライベートな問題なので慌てて遮ったが、どうやらほぼ暴かれてしまったようだ。アランの蔑みを込めた半眼が心地良いほどに突き刺さる。ああ、居たたまれない。
アランは面倒そうに溜息を吐いた。
「許可する。出立は明後日だ」
恭しく謝辞を述べるフランソワの機転に、ノエルは感謝した。
執事特製の豪華料理が功を奏したんですね、きっと。
アランとバルスバストルが帰ると、厨房で後片付けをしていたフランソワにノエルは早速声をかける。
「フランソワ、いつの間に予告状出してたの? 天空の星が見つかったなら言ってくれれば良かったのに」
フランソワは洗いかけの皿を置くと、神妙な顔つきで振り返った。
「わたくしではございません。わたくしが坊ちゃまに相談もなく予告状を出すはずがありませんよ」
「そうだよね……。じゃあ、乙女怪盗の偽物が天空の星を狙ってるってこと?」
ふたりで首を捻る。
一体、何者だろう。本当に欲しかった宝石が偽物の乙女怪盗に奪われてしまうだなんて、皮肉すぎて到底受け入れられない結末だ。
「まず、やるべきことは、旅支度と情報収集です。わたくしは出立に向けての準備をいたします。入念な下準備こそ、成功のためには不可欠でございますから」
完璧執事らしい言葉を述べたフランソワは手際よく厨房を片付けて、ラ・ファイエット城へ旅立つための荷造りを始めた。
ノエルも自室へ戻り、乙女怪盗の衣装を仕舞っている秘密のクローゼットを開ける。
漆黒の装束一式は静かに出番を待っている。
何者だろうが、負けられない。
乙女怪盗ジョゼフィーヌの真の力を見せて差し上げよう。
ノエルは決意を込めて、黒い仮面を手にした。
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