乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

文字の大きさ
37 / 54
第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

偽の乙女怪盗

しおりを挟む
 通常は城のメイドが運んでくれるものだと思うのだが、メイは放ったらかしのようだ。少女ひとりで運べる量でもない。仕方ないのでノエルとフランソワは、荷物を担いで客間と玄関をひたすら往復した。

「坊ちゃま。どうぞ重い方のお荷物を持ってください」
「ふつう逆だと思うんだけど……ねっ」

 掛け声と共に重量のある荷物を担ぎ上げる。
 もやし伯爵の名が泣くわ。
 衣装の入った鞄はともかく、もっとも重いものは人間がふたりほど入りそうな籠、発火装置や巨大な袋にロープなどがある。
 汗だくになりながら、ようやくすべてを宛がわれた客間に放り込んだ。

「ああ、疲れた……」

 古びた天蓋付きのベッドに腰掛けて休憩すると、憎たらしくも汗ひとつ掻いていないフランソワがにこやかな笑みをむける。

「休憩には早いですよ? さあ、荷解きをいたしましょう。そちらのケースからお願いします」
「はいはい……」

 全員連れてきた狂気人形を一体ずつ棚に並べる。
 ずらりと勢揃いした百体の人形たちが恐ろしい形相で睨んでいる。今夜は安眠できそうだ。
 部屋はオンスイートで扉のむこうにトイレットが設置されている……が、覗いてみたノエルは頬を引き攣らせてドアを閉めた。何かが這い出てきそうな気配がするので、昼間でも行きたくない。
 ノエルの隣の部屋はフランソワが使用するので、彼はそちらにも荷物を運んで荷解きを行っていた。アランの部屋は向かいだ。ノックしてちらりと覗いてみたが、まだ戻っていないらしい。彼の鞄がひとつだけ無造作に置かれていた。
 今後旅行に行く機会があれば、荷物は最小限に留めよう。
 固く心に誓いながら荷解きを終える。
 一息ついたノエルの傍らで、フランソワは羽根ペンを走らせて何事かを紙に書き留めていた。
 先ほどの石版の文字と配置図だ。

「どう? 解けそうかな?」
「最終的には解きますが、むしろ解かないほうがよろしいかもしれませんね」
「どういうこと?」

 フランソワは石版のメモを眺めると、紙を机に置いてくるりと向き直った。

「いくつかの疑問点があります。偽の乙女怪盗は、何故予告状を出したのでしょう」
「宝石を盗むためでしょ? それを乙女怪盗の仕業にするため」
「このような僻地では記者もいなければ警官隊も来ません。それに乙女怪盗は今まで首都近郊にしか現れませんでしたから、ロランヌ地方での知名度は低いでしょう。罪を被せる意義が薄いのです。むしろ予告状を出さないほうが我々すら来ませんから、邪魔が入りませんよ」

 言われてみればその通りだ。予告状が出されなければ、ラ・ファイエット城を訪れることはなかっただろう。
 フランソワは指先で眼鏡を押し上げた。

「つまり、偽物は我々をおびき寄せたのです。石版の謎を解き、宝石を盗んでもらうために。乙女怪盗ジョゼフィーヌが盗めなかった宝石はない。解錠して宝石を取り出したところを横取りするのが、もっとも簡単に盗む方法です」
「なるほど。でもさ……ここ、来るの大変じゃない?」

 ノエルは格子の付いた窓の外を眺めた。
 城の周りは切り立った崖で、辺りに民家はない。城を訪れるには一本しかない路を、馬車で半日ほどかけて来なければならないのだ。誰かが来れば一目瞭然で、雑多な街場と違い誤魔化しが利かない。

「横取りするとなったら、いつでも宝石部屋の様子を見てないといけないよね?」
「ですから、ここにいる誰かが、偽の乙女怪盗なのです」
「えっ……」

 ノエルは戦慄した。
 すでに偽の乙女怪盗に会っているというのか。

「我々とアラン警部、それに宝石の持ち主であるラ・ファイエット侯爵を除けば、残るはひとりしかいません」
「メイが⁉ そんなはずないと思うけどなぁ」
「根拠をどうぞ」

 フランソワは完全に消去法で決めてかかっているようで、納得のいく根拠を聞かなければ引き下がらないと云わんばかりに双眸を光らせている。
 確かにメイは怪しい雰囲気満載だが、たったひとりしかいない城のメイドが、年老いた侯爵から宝石を盗んだりするだろうか。乙女怪盗に罪を着せたとしても、宝石を盗めばメイは高飛びしてしまうだろう。侯爵が何も思わないわけがない。

「だってさ、メイがいなくなったら侯爵ひとりになっちゃうじゃない。そんなの寂しいよ」

 フランソワは双眸を眇めて軽蔑の眼差しをむけてきた。
 うわあ、そんな目で見られたら気持ちい……くないけど、それは根拠ではありませんと言いたいんですね、わかります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

処理中です...