乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

類い希なる料理人

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 慌てたノエルはもっともらしい言い分を付け足した。

「だって、だってさ、あんな小さな女の子が横取りなんてできる? 五人の中でいちばん非力だよね」

 これには思わぬ効果があったらしく、フランソワは考え込んだ。

「確かにそうですね……。あの細い手足は鍛えているようには到底見えません。しかし、もやしのふりして屋根の上で格闘を繰り広げる女性も世の中には存在しますからね」

 あーあ、耳が痛いよ。
 天を仰いだノエルに、フランソワは指示を出した。

「あのメイドに探りを入れてきてください。情報が必要です。わたくしは石版の解読を続けます」
「了解」

 手をひらりと振って、ノエルは部屋を出た。



 探りを入れるといっても、まさか「偽の乙女怪盗はあなたですか?」とは聞けないわけで。
 どう切り出せばいいかな……。考えながらノエルはメイの姿を捜して城を散策した。
 血の滴るような赤い夕陽が、まったりとした残照を窓に零している。
 今の時間はディナーの用意に忙しいことだろう。
 蜘蛛の巣を掻き分けて厨房を覗いてみると、メイはぼんやりと竈の前に佇んでいた。火の気はなく、穴の開いた鍋や欠けた皿がそこらに転がっている。
 調理の気配はどこにもない。

「あのう……メイ」

 問いかけると、ゆっくりと首を巡らせて無表情にこちらを見た。彼女の手には何も握られていない。床に散らばる埃の被ったナイフやフォークを避けながら、傍に近づく。

「さっきのヒントなんだけど、どういう意味なのかな?」

 もしかして、ノエルが乙女怪盗だと知っているのだろうか。メイにしてみれば、ノエル・アラン・フランソワの三人を見れば、背が高いアランとフランソワは除外され、もっとも女性らしい体格のノエルこそ乙女怪盗だという消去法になるだろう。
 メイは、ぱちくりと瞳を瞬かせた。

「忘れたにゃん」
「ええー……」

 あっさりと言い放たれて、項垂れてしまう。
 メイは竈に向き直り、だらりと垂らしていた手を挙げて鍋を掻き混ぜるような仕草をした。

「それよりディナーの準備を手伝え。オーブンで焼いてるパイを取り出すにゃん」
「あ、はい」

 なんと客に命令。
 フランソワやアランに負けず劣らずの不遜さだ。脊髄反射で慣れてしまっているノエルはすぐさまオーブンを覗こうとして、あることに気づき、素手で取っ手を掴んだ。
 冷たい。
 火は入っておらず、オーブンの中には崩れかけの皿がぽつんと置いてあるだけだ。中身は空である。パイどころか、厨房には食材のひとつも見当たらない。

「ねえ、メイ。これって……」
「熱いから気をつけるにゃん。次はカトラリーを揃えろ」

 指示しながら、何かを盛り付けるような真似をしている。
 一心不乱に架空の料理を創っている彼女の脳内では、美味しそうなディナーが着々と出来上がっているのだろう。ノエルは仕方なく言われたとおりにナイフとフォークを掻き集め、汚れを落とそうと水道のポンプを押した。
 出ない。
 ポンプをいくら押しても、空気が擦れているような音しか出てこないのだ。水は通っていないらしい。

「あのー……」
「出来たにゃん。豪華なディナーの完成」

 調理台をどう眺めても、何も乗っていない。
 ノエルは口端を引き攣らせながら「美味しそうだね……」と褒めてみた。



 燭台の蝋燭にぽつりと灯された寂しげな灯が、ダイニングテーブルを不気味に浮かび上がらせている。夕食の時刻になり、ノエルとアラン、フランソワの三人は城に招かれた客として蝋燭の周りに腰掛けていた。

「我が城のディナーを存分に堪能していただきたい……」

 長大なテーブルに反して明かりが少ないので、一番奥に座るラ・ファイエット侯爵の姿は闇に沈みかけている。
 では、と立ち上がったノエルは厨房に赴き、銀盆に乗せた料理を運んできた。メイに料理を運べと指示されていたのである。
 何やってんのというフランソワとアランの視線が痛いが、引き攣った笑顔で躱す。命令されるの、好きなんです。
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