乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

深夜、地下室へ 1

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「馬鹿なことを言うな。村から食糧を運ばせているんだろう。ただ、往復すれば丸一日かかるがな」

 城から出て麓の村へ行けば食糧にはありつけるだろうが、偽の乙女怪盗の存在を考えれば宝石から目の届くところにいるべきだ。というより、そんなに長居したくない。フランソワの言うとおり、今夜か明日の夜には決着をつけたいところだ。それにはまず、石版の暗号を解読しなければならない。

「早く終わらせて帰ろうよ。フランソワ、暗号解けた?」
「ですから、ラ・ファイエットという語句しか判明しておりませんので、メイドから情報を引き出していただきたいと坊ちゃまにお願いいたしましたが?」

 全然進んでいないらしい。
 結局、メイはフランソワに劣らぬ名料理人とわかっただけだ。後は目の前のふたりに並ぶほどの傲岸不遜な素質があること。
 人形のように口を閉ざしたノエルを見て、ふたりは察してくれたらしい。同時に重い溜息を吐かれた。アランはずらりと座ってこちらを見据えている狂気人形を、眉をひそめて眺める。

「暗号を考えたのがノエルなら、狂気人形という語句を入れるだろうな。他人だったら思いつかない単語だ」
「そうかも。『狂気人形よ、永遠なれ。ノエル・コレット』なんてね」

 フランソワは、はっとした表情で石版の配置をメモした紙を取り出した。顎に手を宛てながら文字を追っている。

「なるほど。メッセージというわけですか。とすると……愛、私の……」

 ヒントになったようだ。ヒントといえばメイから告げられたひと言があるが、アランの前では言いにくいので黙っていよう。

『偽りの名を被っていると永遠に答えは出ない』

 どうもしっくりこない。
 偽りの名といっても、ノエル・コレットと乙女怪盗ジョゼフィーヌは、どちらも実在するわけで、偽っているのはむしろ性別のほうなのである。
 それをメイは知らないからとも考えられるが、永遠にと強調されると何だか不安が煽られる。

「ねえ、フランソワ」

 もはや返事も返ってこない。彼はメモに視線を落として黙している。完全に思考モードに入ったようだ。

「ひとりで考えさせてやろう。俺たちは水を捜しに行くぞ」

 アランに促されて部屋を出た。水を飲まなければ明日には干物になってしまうので、水の確保は急務だ。アランは向かいの部屋に寄って明かりの点いた角灯を持参してきた。各部屋には燭台が置かれているが、廊下はランプなど皆無で真っ暗闇である。

「ホントに行くんですか? 明るくなってから捜しましょうよ」

 深淵のような廊下に腰が引けたノエルが震え声で訴えると、アランにじろりと睨まれる。亡霊よりも凄みのある眼差しに、小さな体を更に縮こませた。

「気になったんだがな。ノエルは俺と話すときと執事殿がいるときでは、声色が違うんだな」
「えっ。そうですか?」

 男装しているときは常に声音を低く抑えるのが自然と身についているのだが、フランソワとの会話では乙女怪盗で素の声を出すときとの中間くらいなのだろう。
 何か違和感があったのだろうか。乙女怪盗と同じ声だ、とか……。
 角灯を掲げながら廊下を渡るアランの背を、ノエルは息を殺して窺う。

「俺にも敬語でなくていい。直接の部下というわけじゃないんだからな」
「そうですか……。あ、いえ、そっか」

 アランは世間話をするような、ゆるりとした口調だったので安心する。敬語で、と意固地になるほうが不自然だろう。歌うように朗々と喋るジョゼフィーヌとではまったく印象が異なるだろうから、多少声質が似ているくらいではわからないはずだ。
 ふたりは階段を下りて、一階にある厨房へ足を運んだ。
 先ほど見たとおり、わずかな食器が散乱している程度でひっそりと静まり返っている。水道のポンプを押しても、やはり水は出ない。

「あのメイドは、とんでもなく物ぐさだな」
「いつもはどうしてるんでしょうね。顔を洗うにも水がないと困りますし」
「敬語」
「あ。喉渇いたから水飲みたいなー」

 砕けすぎてしまったが、アランは面白そうに吹き出した。

「その調子でいい。どこかに井戸があるんだろう。ロランヌ地方は水資源が豊富なんだ。この辺りの地域は地下水が流れている。ラ・ファイエット城も井戸から水を汲み上げて使っているはずだ」

 井戸さえ見つかれば、飲料水は確保できる。

「外にあったかな?」

 崖の上に建造された城の周りには、庭や水場などは一切なかったと思う。

「地下だろうな。昔の王族は敵に攻め込まれた際に籠城できるよう、地下に井戸や居住区を造っていたんだ」
「へえ……。で、今から暗闇のなか、地下に行くの……?」
「何か問題があるか」
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