乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

深夜、地下室へ 2

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 話しているうちにうっかり厨房まで来てしまったが、地下に幽霊が現れる妄想に取り憑かれてしまい、ノエルは足を竦ませる。アランは無情に言い放った。

「嫌なら、ここからひとりで部屋に戻るんだな。明かりなしで」
「ええええええ、むりいいいい」

 これ見よがしに角灯を振るアランに追い縋る。灯火を頼りに迷路のような城の廊下を怖々と進んだ。ノエルはアランの背に張り付くようにして、彼の上着の裾を命綱のごとく掴む。

「地下への入口って、どこなの?」
「それを今、捜している」
「この通路、さっき通らなかった?」
「そうか? 似たような景色だから判別できないな」
「そんないい加減な! ちゃんと捜してよ」
「目を瞑りながら歩いているような奴に言われたくないな」
「目は開けてるから!」

 突然アランが立ち止まるので、勢い余ったノエルは広い背中に、ばふんと顔を付けてしまった。

「な、なに?」

 掲げられた角灯の先を窺うと、何者かが廊下を横切る姿が見えた。尖った猫耳が奥へと消える。メイだ。

「あのメイド、どこへ行く気だ?」

 後を追うと、メイは屋敷の奥にある細い廊下へ入っていった。後ろにいるノエルとアランには気づかないらしい。廊下から、ふいと曲がったかと思うと、彼女の姿は見えなくなる。

「あれ……消えた?」
「いや、見ろ。あそこに階段があるんだ。地下への入口らしいな」

 人ひとりが通れるような隙間があり、入口は開け放たれていた。下へ続く階段が、角灯の明かりにぼんやりと映し出されている。
 メイはもう下りていったのだろうか。暗闇が広がる階段は、下の方は何も見えない。

「行くぞ」

 この下に水場があるのかもしれない。ノエルは勇気を振り絞って……アランの上着の裾を抓んだ。

「目を閉じるなよ。ここで足を踏み外したら角灯まで巻き添えになる」

 怪我より角灯の心配ですか。
 明かりがなくなっては困るので、一歩一歩足元を確認しながら階段を下りていった。
 永遠と思われるような螺旋階段の円をいくつも回り、ようやく開けた場所に辿り着く。
 地下は庭園のような敷地が広がっていた。足元を優しい青白い光が照らしている。

「なんだろう、この光。すごく綺麗」

 点々と連なる仄かな光の路は奥まで続いていた。まるで現世ではないような幻想的な雰囲気に包まれている。

「ヒカリゴケだ。苔が光っているんだ。正確には明かりを反射して光るんだが……通常は緑色をしている。青いものは初めて見たな」

 青く光る植物を踏まないよう気をつけながら、導かれるように地下を進んでいく。やがて、ひんやりとした空気の中に水の香りを嗅ぎとった。

「あ……見て! 井戸があるよ」

 古井戸を見つけて駆け寄る。井戸は苔に覆われて、青く光り輝いていた。角灯を翳して覗いてみれば、たゆたう水面が見える。

「よし。水を汲もう」

 アランは腰に提げていた皮袋を解き始めた。水を持っていくには入れ物が必要なわけで。手ぶらで来てしまったノエルは赤面しながらロープをたぐり寄せて釣瓶を引き上げた。
 掌で掬い、少しだけ水を口に含んでみる。
 冷たい水が体に浸透して、生き返った心地がした。
 アランも同じように飲んでから、皮袋いっぱいに水を満たす。ふたりの間に、一仕事終えた安堵が広がった。

「これくらいあれば三日は持つだろう」
「三日も居たくないんだけど。メイはどこに行ったのかな?」

 ここを訪れたはずだが、井戸端にはいない。ノエルが首を巡らせると、空間に石碑のような黒ずんだ影を発見した。

「あれ、なにかな? こんなところに石像?」

 近づいてみれば、それはお墓だった。整然と並べられた墓石が区画に分けられて、数多く鎮座している。
 お墓まで城内にあるとは驚きだ。歴代のラ・ファイエット侯爵や、城に住んでいた人々の墓だろう。
 メイは、ひとつの墓石の前に佇んでいた。
 何をするでもなく、ただぼんやりと立っている。
 ふたりがすぐ傍まで来ていることをわかっているはずなのに、まったく気に留めていない。ノエルはそっとメイの隣に立ち、墓石を眺めた。刻まれた文字は掠れて読めない。

「ねえ、メイ。誰のお墓なのかな?」

 メイは薄らと唇を開いた。消え入りそうな声が絞り出される。

「……お父さま……にゃん」
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